日商簿記2級の工業簿記を、AIと一緒にExcel連動型教材で作りながら勉強しています。ASTRA Manufacturing(架空の製造業)の1ヶ月のオペレーションを追いかける物語形式で、手を動かして数字がつながる感覚を掴むスタイル。

想定読者

日商簿記3級相当の基礎(仕訳・勘定・P/L/B/Sの読み方)がある方向けです。 完全初心者の方は、この教材では少し難しく感じるかもしれません。同じシリーズの「さわる簿記3級」から入ると、つながりが見えやすいと思います。

この教材の全体像(再掲)

日商簿記2級の工業簿記を、30日かけて順に組み立てていくExcel連動型教材です。 Day 5は「第1部 月初に決めること」の最終日。Day 4で予定価格を決めたので、それを使って製品1個あたりの標準原価(原価標準)をカードに仕上げます。

  • 序章(Day 1〜3): 工業簿記の全体像
  • 第1部 月初に決めること(Day 4〜5): 予定価格・標準原価カード ← 今ここ(最終日)
  • 第2部 月中のオペレーション(Day 6〜12): 材料・労務費・経費・指図書
  • 第3部 月末の集計(Day 13〜22): 配賦・部門別・個別/総合原価計算
  • 第4部 決算と財務諸表(Day 23〜26): 標準原価差異・製造原価報告書・3表連動
  • 第5部 経営判断(Day 27〜28): 直接原価計算・CVP分析
  • 第6部 組織論点(Day 29): 本社工場会計
  • 総合演習(Day 30)

場面:5月1日、ASTRA Manufacturingハノイ工場

5月最初の営業日。ケンは前日までにDay 4で「予定価格」を決めた。材料 @1,080円/kg、直接工賃率 @1,250円/時間、製造間接費予定配賦率 @2,400円/時間。これらを使って、今日は製品1個あたりの目標原価を「カード」にまとめる

Ken: リンさん、昨日決めた予定価格は分かったんですが、「標準原価カード」って具体的にどんなものですか?生産管理で使っていたBOM(部品表)みたいなものでしょうか?

Linh: ほぼ、その通りです。BOMに金額を載せたもの、と思ってください。

Ken: 金額を載せたBOM…。BOMは「製品Aを1個作るのに、材料XとYが何kg、工程Zが何分」という構造を表したものですよね。

Linh: そう。そのBOMの各行に「単価」と「レート」を掛ければ、製品1個を作るのにいくらかかるべきかが出ます。それをまとめたのが標準原価カード、中身のことを原価標準と呼びます。

Ken: 「標準原価」と「原価標準」?また似た言葉…。

Linh: 大丈夫、こう覚えてください。原価標準=1個あたりの目標単価標準原価=原価標準×数量。だから「生産した個数分の合計金額」が標準原価です。

Ken: なるほど。1個あたりが原価標準、合計が標準原価。

Linh: 今日はASTRAの製品A・Bそれぞれの原価標準をExcelで組み立てます。まずはこの数字セットを見てください。

項目 製品A 製品B
標準直接材料費(2.0kg×@1,080 / 2.5kg×@1,080) 2,160 円/個 2,700 円/個
標準直接労務費(0.4h×@1,250 / 0.5h×@1,250) 500 円/個 625 円/個
標準製造間接費(0.4h×@2,400 / 0.5h×@2,400) 960 円/個 1,200 円/個
原価標準(1個あたり標準原価) 3,620 円/個 4,525 円/個

Ken: 製品Aは3,620円/個、製品Bは4,525円/個…。数字だけ見ると近いですが、構造を見ると製品Bのほうが材料も時間も多く必要なんですね。

Linh: そう。そして5月の生産計画はA=600個、B=400個。合計で原価標準×個数=3,982千円がASTRAの5月の標準原価になります。

Ken: 月初にこれが決まっていれば、5月が終わった時に「本当は3,982千円のはずだったのに、実際は何千円使った」と比べられますね。

Linh: まさにそれが標準原価計算のスタートラインです。差異の分析はDay 23でやります。今日はまずカードを作るところに集中しましょう。


今日の3ポイント

① 原価標準と標準原価の違い ― 原価標準は「1個あたり」、標準原価は「生産量分の合計」 ② 標準原価カードの3構成 ― 直接材料費・直接労務費・製造間接費を「原単位×標準単価」で積み上げる ③ 標準原価計算5ステージの出発点 ― カード作成は①、差異分析は④・⑤(Day 23)


概念解説

ポイント① 原価標準と標準原価

用語 意味 単位
原価標準 製品1個あたりの目標原価 円/個
標準原価 原価標準 × 実際生産量(または完成品換算量) または 千円

「同じ言葉の順序を入れ替えただけ」の似た用語ですが、混同すると問題が解けなくなります。1個あたり=原価標準、合計=標準原価

ポイント② 標準原価カードの3構成

どんな製造業でも、原価標準は以下の3要素の合計:

原価標準 = 直接材料費 + 直接労務費 + 製造間接費
         = Σ(原単位 × 標準単価)

原単位はBOMに載っている物量、標準単価はDay 4で決めた予定価格。この2つの掛け算を3行分積み上げれば、原価標準が完成します。

ポイント③ 標準原価計算5ステージ

① カード作成(Day 5・今日)        ← 月初
② 月次標準原価の計算(Day 5・今日) ← 月初
③ 実際原価の集計(Day 6〜22)      ← 月中〜月末
④ 差異分析(Day 23)               ← 月末
⑤ 勘定記入(Day 24)               ← 月末

Day 5では①と②だけをやります。差異分析(④)は直接材料費=価格差異+数量差異直接労務費=賃率差異+時間差異製造間接費=予算差異+能率差異+操業度差異と分解する手続で、Day 23で3分法・4分法とともに学びます。


Excel演習:標準原価カードを3シートで体感する

リンさんと一緒にExcel画面を埋めていく対話式ウォークスルー。Day 5では6シートを使います。

  1. 製品A原価標準カード(演習・完成見本)
  2. 製品B原価標準カード(演習・完成見本)
  3. 月次標準原価合計(演習・完成見本)

ウォークスルーの雰囲気(抜粋)

Linh: では製品Aから。E7セルに =C7*D7 を入れてください。

Ken: 2.0 × 1,080 = 2,160。これが直接材料費ですね。

Linh: なぜ「kg × 円/kg」で「円」になるのか、単位で確認できますか?

Ken: kg × 円/kg = 円。単位の分母と分子でkgが消える。中学の比例式と同じですね。

Linh: そうです。E8に労務費、E9に間接費、E10に =SUM(E7:E9) で合計。最後に E11 で原価標準が 3,620 になっているか検証します。

Excel演習の完成イメージ(製品A)

原価要素 原単位 標準単価 合計(円/個)
直接材料費 2.0 kg @1,080 円 2,160
直接労務費 0.4 h @1,250 円 500
製造間接費 0.4 h @2,400 円 960
原価標準 3,620

What-ifチャレンジ(Excel演習に含まれます)

  • ① 製品Aの材料原単位を2.0kg→2.2kgに増やすと、原価標準はいくら増える?
  • ② 製造間接費の予定配賦率が@2,400→@2,500に変わると、製品Aと製品Bでどちらが影響が大きい?
  • ③ 5月生産量が計画(A=600, B=400)から(A=500, B=500)に変わると、標準原価合計はどう動く?

③の挙動は「製品ミックスが標準原価合計を左右する」という経営判断に直結します。BOMが同じでも、作る製品の組み合わせを変えただけで月次の原価は動く ― これはDay 27以降の直接原価計算・CVP分析への布石です。


問題演習

4段階構成:基礎編 → 計算編 → 仕訳編 → 総合問題(本試験大問レベル)

基礎編(抜粋)

問1. 製品1個あたりの目標原価を表す用語はどれか。 A. 標準原価  B. 原価標準  C. 予定価格  D. 実際原価

問3. 標準原価カードに含まれない項目はどれか。 A. 標準直接材料費  B. 標準直接労務費  C. 標準製造間接費  D. 販売費

計算編(抜粋)

問9. 標準直接材料費が原単位 1.8kg・標準単価 @1,100 円/kg のとき、1個あたりの直接材料費はいくらか。 A. 1,800 円  B. 1,980 円  C. 2,100 円  D. 2,200 円

仕訳編(抜粋)

問12. 製品Aを500個、製品Bを300個、当月投入した。標準原価(標準配賦)により仕掛品勘定に振り替える仕訳を示せ。

総合問題(本試験大問レベル)

問13. EASTREAM Industries(同業他社・架空)の製品Cについて、2026年5月の標準原価カードと月次投入データから、6つの設問に答えよ。

【資料】(抜粋)

  • 製品C:直接材料 1.8kg×@950円、直接労務 0.3h×@1,400円、製造間接費 0.3h×@2,200円
  • 5月の完成品換算量:800個
  • その他:試作品開発費 120,000円、販売手数料 200,000円、検査員給料(既に@2,200のレートに含む)150,000円

設問1. 製品Cの原価標準 設問2. 5月の標準原価合計 設問3〜5. 個別要素別の標準原価 設問6. 資料のうち製品Cの標準原価カードに含めてはならない項目はどれか、理由とともに説明せよ

ひっかけは最後の3項目:

  • 試作品開発費:特定製品Cの原価ではなく、研究開発費(期間費用)
  • 販売手数料:販売費(製造原価外)
  • 検査員給料:製造間接費ではあるが、既に@2,200の予定配賦率に含まれているので重複加算してはいけない

正解(抜粋):原価標準 = 1,710 + 420 + 660 = 2,790 円/個 → 5月標準原価合計 2,232千円

この「既にレートに含まれているものを重複して足さないか」という罠は、本試験第4問・第5問でも頻出パターンです。


Word教材には、全13問(基礎6・計算4・仕訳2・総合1)の問題と詳しい解説、リンの口調で書かれた重複加算の罠の解説を全て収録。Excelファイルには6シート(製品A・B・月次の各演習/完成見本)が含まれます。


Next: Day 6 → 材料仕入(購入原価・副費・返品値引)

Day 5では「カードを作る」ところまで。Day 6からはいよいよ第2部 月中のオペレーション。まず材料の仕入から始まります。Day 4の予定価格・Day 5の原価標準は「あるべき姿」。Day 6からは実際の取引が入ってきます。購入時に運賃や保険料(副費)がついたり、検品で不良が出て返品したり ― 現場の生々しい数字の扱いが始まります。


日商簿記2級 工業簿記マスター ― Day 5 / 30 第1部 月初に決めること(Day 4〜5)― 最終日

演習Excel

この回の演習シートと完成見本が入った Excel です。手元に落として、数字を入れ替えながら読んでください。

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