想定読者と今日の位置づけ

Day 01 で商業簿記と工業簿記の違い(3ボックス・P/L構造)を、Day 02 で原価の3軸分類(形態別・直接/間接・変動/固定)を学びました。Day 03 はその 統合回 。11個の勘定をすべて繋げた「マスターモデル」を作り、以降の Day 04〜30 で学ぶ個別論点(予定価格・配賦・総合原価計算・差異分析…)が、この図のどこをズームアップしたものかを位置付けられるようにします。

本試験の第4・5問(工業簿記)は、この勘定連絡が頭に入っているかを問う出題が多い。1ヶ月の全体像を手で描けるようになると、どんな応用問題でも「今、自分はどの勘定を計算しているのか」が見えるようになります。


教材全体像

  • Excelファイル(Day03_Exercise.xlsx)― 4シート:11勘定演習(SUMIFで動的連動)/完成見本/マスターモデルBOX演習(4ボックス静的検証)/完成見本

場面

2026年4月30日、夕方。ASTRA Manufacturing ハノイ工場の経理室。Linh(CFO・ベトナム人・38歳)が、新任拠点長の Ken(32歳・本社で5年間生産管理を担当)に、ホワイトボードに描いた11個の長方形を矢印で結びながら説明している。

Linh「ケンさん、Day 01では3ボックス、Day 02では費用の3軸分類をやりましたね。今日はその2つを統合します。11個の勘定がすべて繋がる『マスターモデル』を描きます」

Ken「統合…つまり、分類した費用が3ボックスのどこに流れ込んでいくか、を全体図にするんですね」

Linh「その通り。材料・賃金・経費諸勘定・製造間接費・仕掛品・製品・売上原価・売上・販管費・現金/買掛金・損益の11勘定」


対話(抜粋)

Ken「11勘定ですか。名前だけ聞くと多そうですが、現場では『WIP → 完成品 → 出荷』の物の流れは毎日見ていたんです。だから感覚的にはイメージできそうです」

Linh「生産管理の経験が活きる部分です。物の流れと会計の勘定の流れはほぼ一致します。ただ勘定は『金額の入口と出口』を両方記録する点が、現場の数量管理と違います」

Ken「T字勘定の借方・貸方ですね。3級でやったけど、まだ体に染みていない感じがあります…」

Linh「今日でその感覚を定着させましょう。ASTRA 2026年4月の実績で、11勘定すべての借方と貸方に数字を入れて、矢印で繋げていきます」


今日の3ポイント

  1. 勘定連絡 ― 借方と貸方の川の流れ。11勘定が材料→仕掛品→製品→売上原価で繋がる
  2. T字勘定のルール ― 借方に入ったものは、必ず貸方から出ていく(ストックとフローを同時に見る道具)
  3. マスターモデルの使い方 ― Day 04〜30 は、この図のいずれかの勘定をズームアップして詳細論点を学ぶ

概念解説(圧縮版)

① 11勘定マスターモデルの全体像

工業簿記の1ヶ月は、11個の勘定が矢印で繋がった「川の流れ」です。

  • 入口側:現金/買掛金 → 材料/賃金/経費諸勘定
  • 真ん中:材料・賃金・経費から、直接費は仕掛品へ/間接費は製造間接費へ。製造間接費は配賦で仕掛品へ合流
  • 出口側:仕掛品 → 製品 → 売上原価 → 損益。売上・販管費も最後は損益に合流し、差額が営業利益

ASTRA 2026年4月 の数字で見ると:

勘定 借方(入口) 貸方(出口)
材料 月初250+仕入2,100=2,350 直接材料1,800+間接材料360+月末190=2,350
賃金 支払3,200 直接労務2,800+間接労務400=3,200
製造間接費 間接材料360+間接労務400+間接経費480=1,240 仕掛品へ配賦1,240
仕掛品 月初380+直接材料1,800+直接労務2,800+間接費配賦1,240=6,220 完成5,800+月末420=6,220
製品 月初520+完成5,800=6,320 売上原価5,680+月末640=6,320
売上原価 製品より5,680 損益へ5,680
売上 損益へ8,400 現金売上8,400
販管費 支払1,050 損益へ1,050
損益 売上原価5,680+販管費1,050+営業利益1,670=8,400 売上8,400

検算:製造原価 = 直接材料1,800 + 直接労務2,800 + 製造間接費1,240 = 5,840。仕掛品:380+5,840-420=5,800(完成)。製品:520+5,800-640=5,680(売上原価)。営業利益:8,400-5,680-1,050=1,670

② T字勘定の借方・貸方ルール(3級の復習)

  • 資産・費用:増加が借方(左)、減少が貸方(右)。例:仕掛品は借方に投入・貸方に完成/月末
  • 負債・純資産・収益:増加が貸方(右)、減少が借方(左)。例:売上は貸方に計上・借方で損益へ振替

特殊なのが製造間接費。「一時的な集合勘定」として、借方に間接費を集めて貸方で仕掛品へ配賦。借=貸でバランスして 残高ゼロ になるのが特徴(実際配賦の場合)。Day 14以降で予定配賦を学ぶと、このゼロが差異として残るようになります。

③ 月次4段階タイムライン

工業簿記の1ヶ月は、時系列で4段階に分かれます。

段階 時期 何が起きるか 関連Day
① 月初 4/1 棚卸資産の繰越(材料250/仕掛品380/製品520) Day 04(予定価格)
② 月中 4/2〜4/30 材料仕入・消費、賃金支払・消費、経費発生 Day 06〜12
③ 月末 4/30 製造間接費配賦、完成品振替、売上原価振替 Day 13〜22
④ 月次決算 4/30 売上・売上原価・販管費を損益へ振替 → 営業利益 Day 25〜28

「Day 07 材料消費」は②、「Day 15 シュラッター図」は③、「Day 26 年次決算」は④…というように、各Day の論点がどの段階に位置付けられるかが一目で分かります。


Excel演習の雰囲気(ウォークスルー抜粋)

配布Excelの「11勘定演習」シートは2つのエリアに分かれています。左が 取引伝票入力表(14件)、右が 11勘定残高集計 。左で取引を入力すると、右がSUMIFで自動集計される仕組みです。

Linh「まずB7(No.1)から順番に。取引1『材料を仕入れ現金支払(2,100千円)』。借方勘定は何?」

Ken「仕入れた材料を増やすから、資産の増加→借方。E7に『材料』、F7に2,100。貸方はG7『現金』、H7=2,100」

Linh「その通り。取引3『補助材料・消耗品を消費(360千円)』は?」

Ken「これは間接材料費だから、仕掛品ではなく製造間接費へ。E9=製造間接費、F9=360、G9=材料、H9=360」

14件すべて入力すると、右側の集計欄で材料の借方合計2,350/貸方合計2,160/差額190(月末)/検証OK、のように全勘定が一気に揃います。

下部の「検算セクション」では、(1) 借方合計=貸方合計(複式簿記の大原則)、(2) 製造原価5,840、(3) 完成品5,800、(4) 売上原価5,680、(5) 営業利益1,670 が IF関数で判定。すべてOKになる瞬間が、マスターモデルの完成です。

What-ifチャレンジでは「直接労務費を2,800→3,000に増やすと仕掛品の借方合計はどう動く?」「製造間接費配賦を1,240→1,400に変えると検証はOK?NG?」を体験。11勘定が連動していることが体で理解できます。

もう一つのシート「マスターモデルBOX演習」では、4ボックス(材料・製造間接費・仕掛品・製品)の借方・貸方を入力して連動検証。「材料の貸方・直接材料費1,800」と「仕掛品の借方・直接材料1,800」が同じ金額になっていることを確認する設計です。


問題演習(抜粋+総合問題の全文)

基礎編(例)

問3. 製造間接費勘定の借方に集まる項目として正しくないのはどれか。 A. 間接材料費 B. 間接労務費 C. 間接経費 D. 直接材料費

解答:D 製造間接費=間接材料費+間接労務費+間接経費の集合勘定。借方に3種類の間接費が集まり、貸方で仕掛品へ配賦される。直接材料費は仕掛品勘定へ直接入るため、製造間接費勘定は経由しない。

問5. 次のうち、ある勘定の月末残高がゼロになるのはどれか。 A. 材料 B. 仕掛品 C. 製造間接費(実際配賦) D. 製品

解答:C 製造間接費は「一時的な集合勘定」。実際配賦では、借方の集計額=貸方の配賦額となり月末残高ゼロ。材料・仕掛品・製品は棚卸資産なので月末残が残る(190/420/640)。

仕訳編(例)

問13. 月末に製造間接費1,240千円を仕掛品へ配賦した(実際配賦)。

借方 金額 貸方 金額
仕掛品 1,240 製造間接費 1,240

製造間接費に集まった1,240千円を仕掛品へ振替える『配賦仕訳』。これにより製造間接費勘定は借方1,240=貸方1,240で残高ゼロに。仕掛品の借方に直接材料1,800・直接労務2,800に加えてこの配賦1,240が入り、合計5,840が当月製造費用。

総合問題(問15・本試験大問レベル)― 全文

問15. 以下はCRESTA Precision(精密部品製造業)の2026年7月の資料である。設問1〜5に答えなさい。原価計算期間は1ヶ月(7月1日〜31日)とする。(単位:千円)

【資料】

  1. 売上高:14,800
  2. 月初棚卸高:材料 340 / 仕掛品 460 / 製品 710
  3. 月末棚卸高:材料 410 / 仕掛品 520 / 製品 620
  4. 当月材料仕入高:3,800
  5. 直接工賃金(当月消費):3,200
  6. 間接工賃金(工場内の運搬・工場長給料を含む):520
  7. 補助材料(当月消費・間接材料費):280
  8. 工場電力費(当月消費):260
  9. 工場建物 減価償却費:310
  10. 工場設備 修繕費(現金支払):150
  11. 本社役員給料:300
  12. 製品出荷費用(倉庫から販売先への運送費):40
  13. 販売員給与:640
  14. 広告宣伝費:180
  15. 支払利息(社債利息):50

注意:資料の中に『製造原価に含めてはいけない項目』が混ざっている。(11)〜(15) のうちどれが製造原価で、どれが販管費、どれが非原価かを自分で判断すること。なお(7)補助材料は当月消費額として直接与えられている(材料BOX計算は(2)(3)(4)の主要材料のみ)。

設問

  1. 当月の直接材料費(主要材料の消費額)を計算しなさい。
  2. 当月の製造間接費の合計を計算しなさい。
  3. 当月製造費用の合計を計算しなさい。
  4. 当月完成品原価を計算しなさい。
  5. 当月の営業利益を計算しなさい。

解答

  1. 3,730 千円(月初340+仕入3,800-月末410)
  2. 1,520 千円(間接工賃金520+補助材料280+工場電力260+建物減価償却310+修繕150)※(11)本社役員給料は販管費、(12)製品出荷費用は販管費、(15)支払利息は非原価項目として除外
  3. 8,450 千円(直接材料3,730+直接労務3,200+製造間接費1,520)
  4. 8,390 千円(月初仕掛品460+当月製造費用8,450-月末仕掛品520)
  5. 5,160 千円
    • 売上原価=月初製品710+完成8,390-月末製品620=8,480
    • 売上総利益=14,800-8,480=6,320
    • 販管費=本社役員給料300+製品出荷費用40+販売員給与640+広告宣伝費180=1,160
    • 営業利益=6,320-1,160=5,160(支払利息50は営業外費用なので含めない)

特に押さえるひっかけ3つ

  • (11)本社役員給料300 → 販管費(「本社」の人は製造原価に入れない)
  • (12)製品出荷費用40 → 販管費(「出荷後」は販売活動)
  • (15)支払利息50 → 非原価項目(営業外費用)

連動確認:材料BOX(4,140=3,730+410)、仕掛品BOX(8,910=8,390+520)、製品BOX(9,100=8,480+620) のすべてで借方合計=貸方合計が成立。マスターモデルが繋がっている証拠です。


次回予告:Day 04 予定価格を使う理由

Day 03でマスターモデルが固定化されました。ここまでは『実際発生額』だけを使っていましたが、実務では『予定価格』を事前に決めて、材料費・賃率・配賦率に使います。Day 04ではその理由(原価計算のスピード化・予算統制)を学び、Day 05で標準原価カードの作成に進みます。マスターモデル内の「製造間接費勘定」に、実際vs予定のズレ(差異)が出始めるのは、ここからです。

演習Excel

この回の演習シートと完成見本が入った Excel です。手元に落として、数字を入れ替えながら読んでください。

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