想定読者と今日の位置づけ

Day 01では「商業簿記 vs 工業簿記」の構造の違いと、3ボックス(材料→仕掛品→製品)の基本式を掴みました。Day 02は、その製造原価を構成する費用を 3つの切り口で分類する のがテーマです。

試験では「この費用は直接費か間接費か」「変動費か固定費か」を問う設問が頻出。Day 02を押さえると、以降の個別原価計算・総合原価計算・差異分析が一気に見通せるようになります。


教材全体像

  • Excelファイル(Day02_Exercise.xlsx)― 費用分類シート(演習/完成見本)。15項目をSUMIFSで小計→検証。

場面

2026年4月2日、朝。ASTRA Manufacturing ハノイ工場の経理室。Linh(CFO・ベトナム人・38歳)が、新任拠点長のKen(32歳・本社で5年間生産管理を担当)に、4月の費用15項目リストを映したExcel画面を見せている。

Ken「昨日のP/L比較で構造はなんとなく掴めました。でも、費用って種類が多くて、どれが製造原価でどれが販管費か、毎回迷いそうです」

Linh「それを解決するのが今日のテーマです。費用の分類には3つの切り口があります。この3つを使うと、どんな費用でも『どこに属するか』が整理できます」


対話(抜粋)

Linh「ケンさんは生産管理で、製品に使った材料を個別に追えていましたか?」

Ken「はい、主要材料は製造指図書ごとに使用量を記録していました。ただ、消耗品や軍手みたいなものは、まとめて管理していましたね」

Linh「完璧な例です。それが今日の『直接費と間接費』の区別につながります。製品ごとに追える費用が直接費、共通でまとめて管理するのが間接費です」

Ken「なるほど、現場での管理方法が会計の分類と一致するんですね」


今日の3ポイント

  1. 形態別分類 ― 材料費・労務費・経費(何を消費して発生したか)
  2. 製品関連分類 ― 直接費・間接費(特定製品に直接集計できるか)
  3. 操業度別分類 ― 変動費・固定費(生産量の増減で金額が変わるか)

この3軸は独立しています。同じ費用を3軸それぞれで分類する、のが今日の動作。


概念解説(圧縮版)

① 形態別分類 ― 材料費・労務費・経費

製造原価は「何を消費して発生したか」で3つに分けます。

  • 材料費:物品を消費したときの消費額(主要材料費・補助材料費・工場消耗品費)
  • 労務費:労働力を消費したときの消費額(直接工賃金・工場長給料・間接工賃金)
  • 経費:上記以外の製造原価すべて(水道光熱費・減価償却費・修繕費・外注加工費)

ポイント:材料費は「仕入額」ではなく「消費額」。Day 01の3ボックス計算(期首+仕入-期末=消費)で求めます。

② 製品関連分類 ― 直接費・間接費

  • 製造直接費(直接費):特定製品に直接集計できる。手続は「賦課」。
  • 製造間接費(間接費):複数製品に共通。手続は「配賦」(基準を使って按分)。

直接材料費・直接労務費・直接経費が直接費。間接材料費・間接労務費・間接経費が間接費。

③ 操業度別分類 ― 変動費・固定費

  • 変動費:生産量に比例して増減(例:直接工賃金・時間給、電力費の一部)
  • 固定費:生産量に関わらず一定(例:工場長給料・固定給、建物減価償却費、保険料)

この分類はCVP分析・損益分岐点・直接原価計算(Day 27〜28)で使います。

大分類:製造原価 vs 販管費 vs 非原価項目

大分類 内容
製造原価 工場で製品を作るための費用 材料費・労務費・経費
販管費 販売・本社管理のための費用 販売員給与・広告宣伝費・本社役員給料
非原価項目 財務活動・臨時損益 支払利息・有価証券評価損

典型ひっかけ:工場長給料は製造原価(間接労務費)、本社役員給料は一般管理費。「どこで・何のために発生したか」で見分ける。


ASTRA 2026年4月 費用15項目(今日のマスターデータ)

No 費用項目 金額(千円) 形態別 直接/間接 変動/固定 大分類
1 主要材料費(電子基板) 1,800 材料費 直接 変動 製造原価
2 補助材料費(はんだ・接着剤) 240 材料費 間接 変動 製造原価
3 工場消耗品費 120 材料費 間接 変動 製造原価
4 直接工賃金 2,800 労務費 直接 変動 製造原価
5 工場長・監督者給料 280 労務費 間接 固定 製造原価
6 保全・運搬工賃金 120 労務費 間接 変動 製造原価
7 工場水道光熱費 180 経費 間接 変動 製造原価
8 工場建物減価償却費 220 経費 間接 固定 製造原価
9 工場設備修繕費 80 経費 間接 変動 製造原価
10 販売員給与 600 労務費 固定 販管費
11 本社役員給料 270 労務費 固定 販管費
12 本社水道光熱費 80 経費 変動 販管費
13 広告宣伝費 100 経費 変動 販管費
14 支払利息 30 固定 非原価
15 有価証券評価損 20 非原価

小計:製造原価 5,840 / 販管費 1,050 / 非原価 50 / 合計 6,940 千円

製造原価の内訳:製造直接費 4,600(直接材料1,800 + 直接労務2,800)+ 製造間接費 1,240(間接材料360 + 間接労務400 + 間接経費480)= 5,840

Day 01では「製造間接費880」と簡略化していましたが、正確な製造間接費は1,240です(Day 01の880は「間接労務費400+経費480」の合計で、間接材料費360を別に扱っていた)。合計の5,840は一致します。


Excel演習の雰囲気(ウォークスルー抜粋)

配布Excelの「費用分類(演習)」シートは15行の費用リスト。D〜G列(大分類・形態別・直接/間接・変動/固定)が黄色セル。入力するとSUMIFSで下の集計欄が自動計算されます。

Linh「まずE列(大分類)だけ全部入力しましょう。①〜⑨は製造原価、⑩〜⑬は販管費、⑭⑮は非原価です」

Ken「入れました。下の集計欄で『製造原価合計5,840』『販管費合計1,050』『非原価50』と出ました。検証欄が全部OKです」

Linh「次にG列(直接・間接)。製造原価の中で、特定製品に直接追える費用が直接、共通が間接です」

Ken「G列を入力すると、集計欄に『製造直接費4,600』『製造間接費1,240』と出ました。4,600は直接材料1,800+直接労務2,800ですね」

What-ifチャレンジでは「工場長給料を280→400に変えたら製造間接費はどう動くか」「販売員給与を600→800に変えても製造原価は変わるか(変わらないはず)」などで、3軸が独立していることを体感します。


問題演習(抜粋+総合問題の全文)

基礎編(例)

問4. 本社役員給料の正しい分類はどれか。 A. 製造原価(間接労務費) B. 製造原価(直接労務費) C. 販売費及び一般管理費(一般管理費) D. 非原価項目

解答:C 本社役員は工場での製造活動に直接従事していないため一般管理費。工場長・監督者は製造原価(間接労務費)だが、本社役員は企業管理の費用として販管費。「どこで・何のために働くか」で判断する。

計算編(例)

問9. 4月の製造間接費の合計はいくらか。 A. 880 B. 1,100 C. 1,240 D. 1,580

解答:C(1,240千円) 間接材料費(240+120=360) + 間接労務費(280+120=400) + 間接経費(180+220+80=480) = 1,240。

仕訳編(例)

問12. 補助材料費240千円と工場消耗品費120千円を消費した(間接材料費として処理)。

借方 金額 貸方 金額
製造間接費 360 材料 360

間接材料費は「製造間接費」勘定の借方へ(仕掛品ではない)。後で配賦計算により仕掛品に振り替えられる(Day 13〜15)。

総合問題(問15・本試験大問レベル)― 全文

問15. 以下はNEXUS Electronics(精密機器製造)の2026年9月に関する資料である。設問1〜5に答えなさい。原価計算期間は1ヶ月(9月1日〜30日)とする。(単位:千円)

【資料】

  1. 売上高:12,600
  2. 月初棚卸高:材料 320 / 仕掛品 540 / 製品 680
  3. 月末棚卸高:材料 280 / 仕掛品 480 / 製品 760
  4. 当月材料仕入高:3,200
  5. 直接工賃金(当月消費):3,600
  6. 工場長・品質管理責任者 給料:360
  7. 間接工賃金(工場内の運搬・保全担当):180
  8. 工場電力費(当月消費):240
  9. 工場建物 減価償却費:280
  10. 工場設備 修繕費:120
  11. 本社ビル 減価償却費:160
  12. 販売員給与:720
  13. 本社水道光熱費:90
  14. 広告宣伝費:130
  15. 支払利息(社債利息):50

注意:資料の中に製造原価に含めてはいけない項目が混ざっています。(11)〜(15)の中から、製造原価ではない費用を正しく除外してください。

設問

  1. 当月の材料費(消費額)を計算しなさい。
  2. 当月の製造間接費の合計を計算しなさい。
  3. 当月製造費用を計算しなさい。
  4. 当月完成品原価を計算しなさい。
  5. 当月の営業利益を計算しなさい。

解答

  1. 3,240 千円(月初320+仕入3,200−月末280)
  2. 1,180 千円(工場長360+間接工180+電力240+建物減価償却280+修繕120) ※(11)本社ビル減価償却費は一般管理費、(15)支払利息は非原価として除外
  3. 8,020 千円(材料費3,240+直接労務3,600+製造間接費1,180)
  4. 8,080 千円(月初仕掛品540+製造費用8,020−月末仕掛品480)
  5. 3,500 千円
    • 売上原価=月初製品680+完成8,080−月末製品760=8,000
    • 売上総利益=12,600−8,000=4,600
    • 販管費=販売員720+本社建物160+本社水道90+広告130=1,100
    • 営業利益=4,600−1,100=3,500(支払利息50は営業外費用なので含めない)

特に押さえる罠:工場長給料 → 製造原価(間接労務費)/ 本社ビル減価償却費 → 一般管理費(販管費)。同じ「減価償却費」「給料」でも場所で分類が変わる。


次回予告:Day 03 勘定連絡図マスターモデル

Day 03では、Day 01の3ボックスとDay 02の費用分類を組み合わせて、ASTRAの4月の数字を全部ひとつの勘定連絡図に落とします。Day 04〜30で使い続けるマスターモデルの完成回です。

演習Excel

この回の演習シートと完成見本が入った Excel です。手元に落として、数字を入れ替えながら読んでください。

Day02_Exercise_v2.xlsx(18 KB)をダウンロード