日商簿記2級の工業簿記を、AIと一緒にExcel連動型教材で作りながら勉強しています。毎日ASTRA Manufacturing(架空の製造業)の1ヶ月のオペレーションを追いかける物語形式で、手を動かして数字がつながる感覚を掴むスタイル。
想定読者
日商簿記3級相当の基礎(仕訳・勘定・P/L/B/Sの読み方)がある方向けです。 完全初心者の方は、この教材では少し難しく感じるかもしれません。同じシリーズの「さわる簿記3級」から入ると、つながりが見えやすいと思います。
この教材の全体像
日商簿記2級の工業簿記を、30日かけて順に組み立てていくExcel連動型教材です。特徴は3つ:
- 物語形式 — ASTRA Manufacturing ハノイ工場の新任拠点長ケンが、CFOのリンに一つずつ教わりながら1ヶ月のオペレーションを追いかける
- Excel連動 — 概念を読むだけで終わらせず、リンさんと一緒に画面を埋めていくウォークスルー形式
- 毎日、本試験大問レベルの総合問題 — 模試になって急に難しくなる現象を防ぐため、Day 1から本試験形式の連動問題に触れる
全体構成(30日)
- 序章(Day 1〜3): 工業簿記とは/原価の分類/勘定連絡図 ← 今ここ
- 第1部 月初に決めること(Day 4〜5): 予定価格・標準原価カード
- 第2部 月中のオペレーション(Day 6〜12): 材料・労務費・経費・指図書
- 第3部 月末の集計(Day 13〜22): 製造間接費配賦・部門別計算・個別/総合原価計算
- 第4部 決算と財務諸表(Day 23〜26): 標準原価差異・製造原価報告書・3表連動
- 第5部 経営判断(Day 27〜28): 直接原価計算・CVP分析
- 第6部 組織論点(Day 29): 本社工場会計
- 総合演習(Day 30): 模試レベルの複合問題

場面:4月1日、ASTRA Manufacturingハノイ工場
藤原ケン(32歳)は、東京本社から工場の新任拠点長として赴任してきた。ケンは本社で5年間、生産管理を担当してきた。生産計画や在庫管理の数字は毎日見ていたが、会計は新人研修でかじった程度。簿記3級の参考書を途中まで読んで止まっている。ハノイ工場は従業員100名、精密電子部品を製造している。朝9時、工場内のミーティングルームで、CFOの Linh(リン、ベトナム人)が出迎える。
Ken: リンさん、よろしくお願いします。正直、不安だらけです。生産管理は5年やっていましたが、会計の方はほとんど素人で…。簿記3級の参考書も途中で止まっていて。
Linh: 大丈夫です、ケンさん。生産管理をやっていたなら、むしろ工業簿記は入りやすいですよ。工場で何が起きているかを数字で追いかけるのが工業簿記ですから、基礎から一緒にやりましょう。
Ken: 助かります。実は「簿記」と聞くとまだ身構えてしまって。
Linh: 最初にお聞きします。「簿記」と聞いて、何を思い浮かべますか?
Ken: 新人研修でやった、仕入勘定と売上勘定ですね。商品を仕入れて、売る。
Linh: それが商業簿記です。これから学ぶのは工業簿記。別物と思ってください。
Ken: 別物…というと?
Linh: 商業簿記は「買ってきたものをそのまま売る」世界の簿記。でも、ここASTRAでは違います。材料を買って、工員さんが加工して、電子部品として完成させて、初めて売る。
Ken: それは現場で毎日見ています。生産計画を立てるときも、材料の入荷、仕掛品の滞留、完成品の在庫って区別して見ていました。
Linh: 完璧です。まさにその現場の区別が、工業簿記の棚卸資産の区別とそのまま一致します。
Ken: え、そうなんですか。
Linh: その「作る」にいくらかかったかを金額で把握するのが、工業簿記の仕事です。数量で管理してきたものを、金額に翻訳する作業と思ってください。
Ken: 数量から金額に翻訳…。確かに、今まで生産管理では金額はあまり意識していませんでした。
Linh: では、同じ数字を商業簿記と工業簿記で並べたシートを用意しました。これから一緒にパソコンで作っていきます。
(リンがラップトップを開く)
Linh: 2026年4月の数字です。左が商社のHorizon Trading、右がASTRA Manufacturing。両社とも売上6,000千円、営業利益700千円。結果は同じです。
Ken: …商業簿記側はシンプルですね。期首商品400、仕入3,800、期末商品400で売上原価3,800。1行で売上原価が出ている。
Linh: そうです。一方、ASTRA側は材料・仕掛品・製品と3段階に分かれています。
Ken: 仕掛品って、現場でよく使っていた「WIP」のことですよね?
Linh: その通り。Work In Progress、製造途中の未完成品。月末時点で工程の途中にあるものを「仕掛品」、完成してまだ売れていないものを「製品」として区別します。
Ken: 同じ営業利益700でも、裏の世界が別物ですね。
Linh: そうです。だから工業簿記では原価計算という手続が加わります。これを理解しないと、ASTRAの利益の中身がわかりません。
Ken: 原価計算、具体的には初めてです。
Linh: 大丈夫、これから30日かけて一つずつやります。今日はまず、この「構造の違い」だけ掴んでおきましょう。
今日の3ポイント
① 商業簿記と工業簿記の違い ― 「仕入れて売る」 vs 「作って売る」 ② 製造業の棚卸資産 ― 材料・仕掛品・製品の3段階 ③ 原価計算の役割 ― 財務諸表の金額を決めるため
概念解説
ポイント① 商業簿記と工業簿記の違い
商業簿記は商品売買業で使われ、「仕入れて売る」の2ステップ。工業簿記は製造業で使われ、「仕入れて、作って、売る」の3ステップ。
この「作る」ステップで製品の原価がいくらかかったかを計算する手続を原価計算といい、工業簿記では必須です。
ポイント② 製造業の棚卸資産 ― 3段階
商業簿記の棚卸資産は「商品」の1種類だけですが、製造業の棚卸資産は3種類あります。
| 棚卸資産 | 意味 | B/S区分 |
|---|---|---|
| 材料 | まだ加工に投入していない原材料 | 流動資産 |
| 仕掛品 | 製造途中の未完成品(WIP) | 流動資産 |
| 製品 | 完成品でまだ販売していないもの | 流動資産 |
生産管理で追いかけていた在庫の区別(材料庫/ライン仕掛/完成品倉庫)と完全に一致します。

ポイント③ 原価計算の役割
製品を販売した際、その製品を作るのにいくらかかったかが分からなければ、損益計算書の売上原価も、貸借対照表の材料・仕掛品・製品の金額も決まりません。原価計算はこの金額を決める手続です。


Excel演習:商業簿記 vs 工業簿記のP/L
この教材の特徴は、リンさんと一緒にExcel画面を埋めていく対話式ウォークスルーです。「C11セルに =C8+C9-C10 を入れてください」という具体的な操作指示に、「なぜ期末商品を引くのか?」という理由の問いかけが織り込まれます。
ウォークスルーの雰囲気(抜粋)
Linh: F19(当月完成品原価)に =F16+F17-F18 を入れてください。
Ken: 3,700 です。期首仕掛品300+当月製造費用3,800-期末仕掛品400。
Linh: ケンさん、なぜここでも同じ「期首+流入-期末」の形になるか、わかりますか?
Ken: …仕掛品も、期首+今月投入したもの-期末残=完成したもの、ですか?
Linh: 完璧です。前のボックスの出口が、次のボックスの入口になる。材料→仕掛品→製品。この連鎖を掴めば、工業簿記の半分は理解したようなものです。
完成イメージ
A社 Horizon Trading(商業簿記)
| 項目 | 金額(千円) |
|---|---|
| 売上高 | 6,000 |
| 売上原価(期首商品400+仕入3,800−期末商品400) | 3,800 |
| 売上総利益 | 2,200 |
| 販売費及び一般管理費 | 1,500 |
| 営業利益 | 700 |
B社 ASTRA Manufacturing(工業簿記・3ボックス)
[材料ボックス] [仕掛品ボックス] [製品ボックス]
期首材料 200 期首仕掛品 300 期首製品 250
+ 仕入 1,500 → + 当月製造費用 3,800 → + 当月完成品 3,700
− 期末材料 300 − 期末仕掛品 400 − 期末製品 150
= 材料費 1,400 = 当月完成品 3,700 = 売上原価 3,800
+ 労務費 1,800
+ 製造間接費 600
= 当月製造費用 3,800
両社とも売上6,000・営業利益700。結果は同じなのに、裏では3つのボックス計算が連動している ― これが工業簿記の世界です。
What-ifチャレンジ(Excel演習に含まれます)
- ① 期末仕掛品を400→600に増やすと、営業利益は増える(なぜ?)
- ② 直接労務費を1,800→2,100に増やすと、どこまで影響する?
- ③ 期首製品を250→0にすると、売上原価はどう動く?
①の挙動は、実は粉飾決算の典型パターンと同じ理屈。だから原価計算のルールは厳密に決められている ― そんな実務の裏話までリンさんが話してくれます。
問題演習
4段階構成:基礎編 → 計算編 → 仕訳編 → 総合問題(本試験大問レベル)
この教材の最大の特徴は毎Day末の総合問題。Day 1から本試験の大問(問4)と同じ形式・同じ難易度の連動問題を出します。模試になって急に難しくなるギャップを、毎日少しずつ埋めていきます。
基礎編(抜粋)
問1. 工業簿記が用いられる業種として最も適切なのはどれか。 A. 百貨店 B. 証券会社 C. 自動車製造会社 D. コンサルティングファーム
問4. 製造途中の未完成品を表す勘定科目はどれか。 A. 材料 B. 仕掛品 C. 製品 D. 商品
計算編(抜粋)
問7. 材料費1,400、直接労務費1,800、製造間接費600のとき、当月製造費用はいくらか。 A. 3,700 B. 3,800 C. 3,900 D. 4,000
仕訳編(抜粋)
問10. 当月の完成品原価3,700千円を、仕掛品勘定から製品勘定へ振り替えた。
総合問題(本試験大問レベル)
問12. 以下はASTRA Manufacturingの2026年4月に関する資料である。設問1〜6に答えなさい。
【資料】(抜粋) 売上高 8,400、月初・月末の3棚卸資産の残高、材料仕入2,100、直接労務費2,800、間接労務費400、工場水道光熱費180、建物減価償却費220、設備修繕費80、販売員給与600、本社一般管理費450、支払利息30
設問1. 当月の材料費 設問2. 当月の製造間接費 設問3. 当月製造費用 設問4. 当月完成品原価 設問5. 売上原価 設問6. 営業利益
ひっかけは最後の3項目。販売員給与・本社一般管理費・支払利息は、製造原価には入れない。資料から「工場関連の費用だけ」を選別する目が問われます。これが本試験の問4でよく問われる典型パターン。
正解:材料費 2,160 → 製造間接費 880 → 当月製造費用 5,840 → 当月完成品 5,800 → 売上原価 5,680 → 営業利益 1,670
Word教材には、全12問(基礎5・計算3・仕訳3・総合1)の問題と詳しい解説、Linhの口調で書かれたひっかけパターンの説明を全て収録しています。
Next: Day 2 → 原価の分類(形態別・製品との関連・操業度別)
Day 1では工業簿記と商業簿記の構造の違いを見ました。Day 2では、製造業で発生する費用をどう分類するかを学びます。「材料費・労務費・経費」の形態別分類、「直接費・間接費」の製品関連分類、「変動費・固定費」の操業度関連分類の3つです。Day 1の総合問題で「販売員給与はなぜ製造原価に入れないのか」と疑問に思った方は、Day 2でその答えが明確になります。
日商簿記2級 工業簿記マスター ― Day 1 / 30 序章:工業簿記の全体像(Day 1〜3)
演習Excel
この回の演習シートと完成見本が入った Excel です。手元に落として、数字を入れ替えながら読んでください。