作成日: 2026年3月21日
1. はじめに
2025年12月10日、ベトナム国会は個人所得税法の改正法(Luat Thue thu nhap ca nhan、法律第 109/2025/QH15 号)を可決した。主な施行日は 2026年7月1日 だが、給与・賃金所得(thu nhap tu tien luong, tien cong)に関する規定は 2026年 課税年度(2026年1月1日)から前倒し適用される。累進課税の簡素化と基礎控除の引き上げにより、外資系企業の日本人駐在員にとっては実効税率の低下が見込まれる。
2. 改正PIT法の主要変更点
2.1 累進税率の簡素化(7段階→5段階)
旧法(~2025年):
新法(2026年~):
最高税率 35% の適用開始が月額 8,000万VND から 1億VND に引き上げられ、中・高所得者層の税負担が軽減された。
2.2 基礎控除の引き上げ

2.3 施行時期の二段構え
3. 日本人駐在員の課税の基本
3.1 税務居住者の判定
税務居住者に該当する場合、日本で支払われる給与を含む全世界所得がベトナムでの課税対象となる。
3.2 全世界所得課税の実務的影響
ベトナムでは、日本人駐在員に対して日本の銀行口座に振り込まれる日本支給分の給与についてもベトナムPITの申告義務がある。これは多くの日系企業にとって見落としやすいポイントであり、近年、ベトナム税務当局による執行が強化されている。
4. 給与スプリット(日越間の給与分割)
4.1 構造
日系企業の駐在員は通常、以下のような給与構造を持つ:
- ベトナム支給分: 現地法人から支給(VND建て)→ ベトナムPITの源泉徴収対象
- 日本支給分: 日本本社から支給(JPY建て)→ ベトナムPIT確定申告で申告義務あり
4.2 申告方法
現地法人が毎月のPIT暫定申告で日本支給分を含めて申告する。年末の確定申告では、日本支給分とベトナム支給分を合算して最終税額を算出する。
4.3 日越租税条約による二重課税回避
ベトナムで納付したPITは、日越租税条約に基づき日本の所得税から外国税額控除(がいこくぜいがくこうじょ)として控除できる。ただし、以下が必要:
- 控除限度額の計算
- 日本側での確定申告
- ベトナムのPIT納税証明書(chung tu khau tru thue)の取得
5. 駐在員の非課税手当
以下の手当は条件を満たせばベトナムPITの非課税となる:
住居費の 15% ルールが特に重要で、例えば月額総支給額が 5,000万VND の場合、住居費の課税所得算入額は最大 750万VND/月となる。実際の家賃がこれを超えていても、課税されるのは 750万VND まで。
6. 新PIT法による日本人駐在員への実効税率の変化
6.1 シミュレーション例
月額総所得 8,750万VND(ベトナム支給 + 日本支給 + 住居費課税分)、本人控除 1,550万VND、扶養者控除(配偶者+子 1 人)1,240万VND の場合:
- 月額課税所得: 約 5,960万VND
- 旧法での月額PIT: 約 1,016万VND
- 新法での月額PIT: 約 872万VND
- 年間減税効果: 約 1,728万VND(約 10万 円)
中・高所得の駐在員ほど減税効果は大きい。
7. 外資系企業の実務対応チェックリスト
7.1 駐在員派遣前
- 給与パッケージの決定(日本支給分・ベトナム支給分の配分)
- ベトナムPIT申告を担当する税務コンサルタント/会計事務所の選定
- 日本本社の経理部門にベトナムPIT申告情報の提供体制を整備
- 扶養者登録に必要な書類の準備(戸籍謄本等の公証・領事認証)
7.2 着任後
- 税務コード(ma so thue ca nhan)の取得
- 扶養者登録の実施
- 毎月のPIT暫定申告体制の構築(日本支給分を含む)
- 出入国記録の管理(税務居住者判定のため)
7.3 年末確定申告
- 全世界所得のベトナムPIT確定申告
- PIT納税証明書の取得
- 日本本社と連携し、日本側の外国税額控除を含む確定申告を実施
8. 主なリスクポイント
9. 参考法令
本レポートは公開情報に基づく調査結果であり、法的助言を構成するものではありません。駐在員の個別の税務状況については、現地の税務専門家にご確認ください。





