作成日: 2026年3月21日


1. はじめに

ベトナム国会は 2025年12月11日、新投資法(Luat Dau tu 2025、法律 143/2025/QH15)を可決した。同法は 2026年3月1日 に施行され(条件付き業種リスト関連は 2026年7月1日 施行)、外国投資家の設立手続きに大きな変更をもたらしている。

本稿では、2026年にベトナム進出を予定する日系企業が知っておくべき設立手続きの主要な変更点を解説する。


2. 最大の変更点:ERC先行取得の導入

2.1 従来の手続き

従来、外国投資家がベトナムで法人を設立する際は、以下の順序が必須であった。

投資プロジェクト審査 → IRC取得 → ERC取得
  • IRC(Giay chung nhan dang ky dau tu): 投資登録証明書
  • ERC(Giay chung nhan dang ky doanh nghiep): 企業登録証明書

IRCの取得には数週間から数ヶ月を要し、その間は法人格がないため銀行口座開設や契約締結ができなかった。

2.2 新制度:ERC先行取得

改正法では、手続き順序が根本的に変更された。

ERC取得(法人設立) → IRC取得(投資プロジェクト登録)

外国投資家は、市場アクセス条件(dieu kien tiep can thi truong)を満たす限り、先にERCを取得して法人を設立 できる。ERCは 3営業日 程度で取得可能であり、設立初期の事務作業を大幅に前倒しできる。

2.3 ERC先行取得のメリット

表:ERC先行取得のメリット

2.4 6ヶ月ルール:注意点

施行細則の政令案によれば、ERC取得後 6ヶ月 以内にIRC取得を完了しなければならない。期限内にIRCを取得できない場合、当該法人は 解散手続き を行う義務がある。

この期限は「IRC取得完了」を指す可能性があるため、当局との協議遅延リスクを考慮し、IRC申請準備はERC取得前に進めておくべきである。


3. 条件付き業種の大幅見直し

3.1 38業種の条件撤廃

改正法では、38 の条件付き業種(nganh nghe kinh doanh co dieu kien)が撤廃された。税務手続き代行サービス、通関手続き代行サービス、データセンターサービス等が含まれる。

3.2 条件付き業種の縮小

2026年7月1日 以降、条件付き業種は従来の 227 業種から 199 業種に縮小される。

3.3 規制方針の転換

改正法の基本方針は以下のとおり。

  • 事前許可制 から 事後監督制 への転換
  • 許認可 から 登録 または 届出 への移行
  • 重要分野では基準ベースの管理モデルへ移行

4. 特別投資手続き制度の新設

4.1 概要

改正投資法第 36a条 により、一定の要件を満たすプロジェクトについて、従来の投資手続きを大幅に簡略化する「特別投資手続き制度」(Thu tuc dau tu dac biet)が導入された。

4.2 対象エリア

  • 工業団地(Khu cong nghiep)
  • ハイテクゾーン
  • 自由貿易区
  • デジタル技術クラスター

4.3 免除・簡略化される手続き

対象プロジェクトは、以下の手続きが免除または簡略化される。

  • 投資政策承認(Chap thuan chu truong dau tu)
  • 技術審査
  • 環境影響評価
  • 建設許可

投資家は、法定条件・基準・技術規制への適合を誓約するのみで足りる。

4.4 日系企業への影響

工業団地内で工場建設を計画する日系企業にとって、本制度は許認可取得期間の大幅短縮につながる可能性がある。ただし、施行細則の政令が一部未公布であり、詳細な適用条件は今後明らかになる見込みである。


5. 投資政策承認の範囲縮小

改正投資法第 24条 は、投資政策承認が必要なプロジェクトを明確に 20 類型に限定した。従来よりも多くのプロジェクトが承認手続きを省略でき、設立手続きの迅速化が見込まれる。


6. その他の重要な変更点

6.1 年間事業許可手数料の廃止

2026年1月1日 から、年間事業許可手数料(le phi mon bai)が廃止された。2026年度以降は申告・納付不要。

6.2 投資プロジェクト譲渡の範囲拡大

改正投資法第 51条 により、投資政策決定またはIRCを取得した全プロジェクトが譲渡対象に拡大された。M&Aを通じたベトナム進出の選択肢が広がった。


7. 2026年設立を予定する日系企業への実務的提言

7.1 ERC先行取得の活用

改正法施行後(2026年3月1日 以降)に設立手続きを開始する場合、ERC先行取得を活用することで、全体スケジュールを 1~2ヶ月 短縮できる可能性がある。

7.2 推奨手続きフロー

表:推奨手続きフロー

7.3 確認すべき事項

表:確認すべき事項

7.4 リスク要因

表:リスク要因

8. まとめ

表:まとめ 改正投資法2025は、ベトナムへの外国投資の手続きを根本的に改善するものである。特にERC先行取得の導入は、設立初期段階の実務効率を大幅に向上させる。2026年に進出を予定する日系企業は、新制度のメリットを最大限に活用し、同時にリスク管理(特に6ヶ月ルール)にも十分な注意を払うべきである。


本レポートは2026年3月21日時点の情報に基づく。施行細則政令は一部未公布であり、運用の詳細が変更される可能性がある。設立手続きの具体的な進め方については、現地の法務アドバイザーとの協議を推奨する。