作成日: 2026年3月21日
1. はじめに -- グローバル最低税とは何か
OECD/G20が主導する「BEPS包摂的枠組み」の第2の柱(Pillar Two)として、グローバル・ミニマム課税(Global Minimum Tax, GMT)制度が各国で導入されている。大規模多国籍企業グループ(MNE)は、事業を行う各法域において最低 15% の実効税率で法人税を負担することが求められる。
ベトナムでは、国会決議 107/2023/QH15 を法的根拠として、政令 236/2025/ND-CP(2025年8月29日公布、同年10月15日施行)がGMTの施行細則を定めた。本稿では、日系製造業のベトナム子会社に対する実務影響を解説する。
2. 制度の概要
2.1 主要ルール
ベトナムは QDMTT と IIR の両方を導入した。OECDの「Transitional Qualified Status」リストにも 2025年8月 時点で登録済みである。
2.2 適用対象
直近 4 会計年度のうち少なくとも 2 年度において、最終親会社の連結財務諸表上の収益が 7億5,000万ユーロ(約 1,200億円)以上の多国籍企業グループが対象。
2.3 適用時期
政令 236 は2025年10月15日施行だが、2024年度 に遡及適用される点に注意が必要。
3. CIT優遇措置への影響
3.1 従来の優遇措置
ベトナムは外資誘致のため、以下のような法人所得税(CIT, thue thu nhap doanh nghiep)優遇措置を提供してきた。
- 標準税率 20% に対し、優遇税率 10% または 15%
- 2~4年間 の免税期間(tax holiday)
- その後 4~9年間 の 50% 減税
3.2 GMT導入による影響
GMT対象企業の場合、ベトナムでの実効税率が 15% を下回ると、QDMTTにより差額が追加課税される。
- 免税期間中でも実効税率は最低 15% となる
- 50% 減税期間でも 15% まで引き上げられる
- 税制優遇による節税効果が追加納税で相殺される
ただし、連結売上高が閾値未満の中堅企業グループは対象外であり、従来どおり優遇措置を享受できる。
4. 追加課税の計算と製造業への配慮
4.1 基本計算式
追加課税額 = (15% - ベトナムでの実効税率) x 超過利益
4.2 有形資産・給与控除(SBIE)
GloBEルールでは、有形資産の帳簿価額と従業員給与の一定割合がGloBE所得から控除される(Substance-based Income Exclusion)。工場設備を多く保有し、現地従業員を大規模に雇用する製造業子会社は、この控除により追加課税額が軽減される。
4.3 デミニマス除外
ベトナム国内の構成事業体の年間平均総収入が 1,000万ユーロ 未満かつ平均税引前利益が 100万ユーロ 未満の場合、追加課税額は ゼロ となる。
5. ベトナム政府の補填措置:投資支援基金
5.1 政令 182/2024(Investment Support Fund)
ベトナム政府はGMTによる優遇措置の実質的喪失を補填するため、政令 182/2024/ND-CP により投資支援基金(ISF)を設立した。
年間経費支援の対象:
- ハイテク企業(doanh nghiep cong nghe cao)
- ハイテク製品製造プロジェクトを有する企業
- ハイテク応用プロジェクトを有する企業
初期投資費用支援:
- 半導体・AI分野のR&Dセンターに対し、初期投資費用の最大 50%
重要ポイント: 基金からの支援金は法人所得税の課税対象外。申請期限は対象年度の翌年 7月10日 まで。
5.2 初期段階の特例
MNEグループの国際投資活動の初期段階で、構成事業体が 6 法域以下、かつ有形資産帳簿総額が 5,000万USドル 以下の場合、QDMTTの追加課税額は 5年間ゼロ となる特例がある。
6. 申告・納付スケジュール
7. 日系企業への実務的提言
7.1 まず確認すべきこと
- 閾値判定: グループ連結売上高が 7億5,000万ユーロ を超えるか確認
- 日本本社との連携: 日本側のPillar Two対応状況(「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」2024年4月施行)の確認
- 会計データ整備: GloBEルールに基づく実効税率計算のデータ収集体制構築
7.2 GMT対象となる場合の戦略

7.3 GMT対象外の場合
連結売上高が閾値未満であれば、従来どおりCIT優遇措置を活用可能。ただし、将来的にグループ規模が拡大する場合に備え、GMT対応の準備を進めておくことが望ましい。
8. まとめ
グローバル最低税は、ベトナムの投資環境を根本的に変える制度改正である。日系企業は自社グループの連結売上高と閾値の関係を速やかに確認し、該当する場合は税務戦略の見直しと投資支援基金の活用を検討すべきである。
本レポートは2026年3月21日時点の情報に基づく。施行細則や通達の追加発出により、運用の詳細が変更される可能性がある。具体的な税務判断については、現地の税務専門家への相談を推奨する。



