作成日: 2026年3月21日


はじめに

No.36で解説したCircular 99/2025/TT-BTC(2026年1月1日施行)は、企業に会計処理の自律性を付与する一方、内部会計規程(Quy che ke toan noi bo)の策定を義務づけている。本稿では、製造業を営む日系企業が具体的にどのような内部会計規程を策定し、どのような勘定科目体系を設計すべきかを実務的に解説する。


1. 内部会計規程とは何か

1.1 法的根拠と位置づけ

Circular 99第3条に基づき、すべての企業は内部統治規程(Quy che quan tri noi bo)を策定し、内部統制の枠組みを構築する義務を負う。

従来のCircular 200では、財務省が定めた書式・手続に「従う」ことが法令遵守であった。Circular 99では、企業自身が会計ルールを設計し、その合理性について完全な法的責任を負う。内部会計規程は、この「自社ルール」を文書化したものであり、税務調査や監査の際に会計処理の根拠として提示する最重要文書となる。

1.2 策定すべき文書群

表:策定すべき文書群

2. 内部会計規程のテンプレート構造

製造業向けの内部会計規程には、以下の章立てを推奨する。

第1章: 総則 -- 適用範囲、法的根拠、会計年度、使用通貨、会計ソフトウェア

第2章: 組織体制と権限 -- 経理部門の組織構成、取引承認権限マトリクス、職務分掌

第3章: 勘定科目体系 -- 採用する勘定科目体系(標準体系 or 親会社体系)、科目一覧、マッピングテーブル

第4章: 証憑管理 -- 使用する証憑の種類と様式、電子証憑の取扱い、承認フローと保管期間

第5章: 帳簿体系 -- 会計帳簿の種類、記帳方法、補助簿

第6章: 原価計算制度 -- 原価計算方法、原価計算対象、配賦基準

第7章: 棚卸資産管理 -- 評価方法、実地棚卸手続、差異処理

第8章: 固定資産管理 -- 取得・除却・減価償却の処理方針

第9章: 財務諸表 -- 作成する財務諸表の種類と期限

第10章: 附則 -- 改定手続、施行日


3. 製造業の勘定科目設計

3.1 製造業で重要な勘定科目

製造業にとって特に重要な勘定科目グループを以下に示す。

棚卸資産グループ

表:主な原価計算方法

製造原価グループ

表:棚卸資産の評価方法

3.2 Circular 99での重要変更(製造業視点)

(1) 勘定科目611・631の廃止

Circular 200で使用されていた勘定科目611(購入物品)と631(生産原価)がCircular 99で廃止された。原価の流れが152→154→621/622/627→632の体系に一本化され、ERPのデータフローが簡素化される。

(2) 正常操業度超過コストの即時費用化

Circular 99では、正常操業度(cong suat binh thuong)を超える材料消費や固定製造間接費の未配賦額は、製品原価に算入せずTK 632(売上原価)に直接計上する。工場稼働初期の低操業度期間にこの処理が影響する。

(3) 少額購入費用の簡便処理

購入に伴う付随費用(chi phi thu mua)が少額で多品目に関連する場合、TK 632(売上原価)に直接計上することが認められた。


4. 原価計算方法の選択

4.1 主な原価計算方法

表:table6 製造業の日系企業には、受注生産品には個別原価計算、標準品には総合原価計算をベースとし、標準原価を管理会計の参考値として活用する方法が多く採用されている。

4.2 棚卸資産の評価方法

表:棚卸資産グループ 一般的な原材料には移動平均法、高額特殊部品には個別法を適用する方法が実務上は最も一般的である。

4.3 製造間接費の配賦基準

製造間接費(TK 627)の配賦基準は以下から選択する。 表:製造原価グループ

5. 日本本社勘定科目とのマッピング

Circular 99の選択肢2を採用し、親会社の勘定科目体系をベースとする場合、ベトナム法定科目との対応表(マッピングテーブル)が必要となる。

マッピングテーブルの作成ポイント:

  • 日本本社の一級科目とベトナム一級科目の1対1または1対多の対応関係を整理
  • ベトナム固有の科目(税金関連、社会保険関連など)のマッピング先を日本本社と協議
  • マッピングテーブルを内部会計規程の付録として正式に文書化
  • 会計ソフトウェアの補助フィールドにマッピングコードを登録し、連結パッケージの自動生成を可能にする

6. 内部統制の設計

6.1 製造業で特に重要な統制ポイント

(1) 職務分掌: 取引の承認者と記録者の分離、資産の保管者と記録者の分離

(2) 承認権限: 金額帯別に承認者を設定し、経理部長→副社長→社長の段階的承認フロー

(3) 棚卸管理: 月次の実地棚卸実施、差異の報告・調査・承認手続の明確化

(4) 固定資産管理: 取得時の稟議承認、資産台帳と実物の定期照合


7. 会計ソフトウェアでの実装

MISA AMISを含む主要ベトナム会計ソフトウェアは、Circular 99対応版を提供している。導入時の主な作業は以下のとおりである。

  1. Circular 99標準勘定科目体系をテンプレートとして選択
  2. 製造業向け補助科目(原材料の品目別、工程別など)を追加
  3. 日本本社勘定科目との対応コードを補助フィールドに登録
  4. 証憑・帳簿テンプレートのカスタマイズ
  5. 原価計算の自動仕訳パターンの設定
  6. テスト仕訳による財務諸表反映確認

8. 製造原価計算のフロー

製造業における原価の流れを勘定科目で表すと以下のようになる。

材料購入 → TK 152(原材料)
    ↓ 材料出庫
TK 621(直接材料費)
    ↓
TK 154(仕掛品) ← TK 622(直接労務費)
    ↓              ← TK 627(製造間接費)
TK 155(製品)
    ↓ 出荷・売上計上
TK 632(売上原価)

この一本化された原価フロー(611・631廃止による)は、ERPシステムでのデータ追跡を容易にし、月次決算の迅速化に寄与する。


まとめ

Circular 99の「自律と責任」の原則に基づき、製造業の日系企業は以下を設立時(または移行時)に整備する必要がある。

  • 製造業の事業特性を反映した内部会計規程
  • 日本本社との連結を考慮した勘定科目体系
  • 原価計算方法と棚卸資産評価方法の明文化
  • 承認権限と職務分掌を含む内部統制手続

これらは単なる書類作成ではなく、税務調査・監査で会計処理の合理性を説明する根拠文書となる。外部会計事務所の支援を受けながら、事業開始前に確実に整備することが重要である。


本稿は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。具体的な会計処理・勘定科目設計の確定にあたっては、専門家への相談を推奨します。