これは、AIに事業アイデアを与えずに「金になる問題」を探させ、知らない誰かから最初の1円を稼げるかを試す実験の実況連載だ。今回はその第0回。実験を始めた理由と、最初の探索がどうなったかを書く。

なぜ、私がアイデアを出さないのか

ここ最近、AIを使っていろいろなものを作っている。noteの記事、Excelで会計を学ぶ教材、ベトナム人向けのAI教材、ベトナムビジネスの仕組みスクール等。きっかけは自分が学ぶために都合の良い教材を作ろうと思ったことと、Claude CodeやClaude Coworkを使ってみたいと思ったから。

一方で、別の疑問もある。で、これは金になるのか。

作ることは簡単になった。でも、売れるかどうかは別だった。そして考えてみれば、「これを作ろう」と決めているのは私だ。ベトナムに長く住んでいるからベトナム関連を考える。会計を勉強しているから会計教材を考える。それ自体は悪くない。でもあるとき思った。

商売を始める場合、私が商売を考えない方がいいのではないか。

AIは、私よりはるかに広い範囲を調べられる。なのに「私に何ができるでしょうか」と相談した瞬間、私の経歴、得意分野、興味、知っている業界という狭い枠の中から商売を探すことになる。AIにはもっと広い世界が見えているはずなのに、人間が最初から探索範囲を狭めている。

だったら逆にする。私が何をしたいかではなく、世の中のどこに「金になる問題」があるかをAI自身に探させる。業界も決めない。BtoBかBtoCかも決めない。商品の形も決めない。私が詳しいかどうかも考えない。「困っている人がいる」「面倒なことに時間を使っている」「すでに何かに金を払っている」「今ある解決策に不満がある」場所を、公開情報からAIに探させて、本当に問題があるのか、誰かが金を払うのか、小さく試せるのかを順番に検証していく。

この実験に、AI Money Hunterという名前をつけた。いや、AIがつけた。

私はこれをChat GPTでやることにした。メインで使っているClaudeではなくChat GPTなのは、商人魂みたいなものを感じるからだ。

ルール:私の好みを、選考基準に入れない

ただし、AIに「儲かるビジネスを100個考えて」と聞くプロジェクトではない。多分、そういうのはいろいろな人がやっていると思う。AIコンサル、高齢者向けサービス、中小企業DX、教育、サブスク。それらしいものはいくらでも出てくる。問題は、それが本当に金になるのか分からないことだ。

しかも、AIが出した100案を最後に私が眺めて「これは面白そう」「これは自分には無理」と選んだら、結局また私がボトルネックになる。前の記事に書いたとおり、AIは増幅装置で、最後に判断する人間の能力がシステム全体の上限になるからだ。

だからAI Money Hunterでは、できるだけ創業者である私の好みを選考基準に入れないことにした。私が好きだから残す、知らない業界だから落とす、売れない気がするから却下する——そういうことをしない。私が止めるのは、法律的に危ない、倫理的に問題がある、個人情報を危険な形で扱う、大きな金を使う、取り返しのつかない外部行動をする、という場合だけ。それ以外は、外部の証拠と実測値で決める。

このルールを自分でFounder Non-Interference Principle(創業者非干渉原則)と呼んでいる。大げさな名前だが、要するに「自分の好みでAIの探索結果を潰さない」ためのルールだ。

【8月10日】最初の探索を走らせた

まず作ったのが、Scoutという役割だ。仕事は、日本市場の中から金になる可能性のある問題を探してくること。最初のテストとして、100件探させた。

Codexの画面には、見慣れないファイルがずらりと並んだ。Markdown。JSON。SQLite。設定ファイル。監査レポート。方法論の調査結果。

100件すべてがデータベースに保存され、探索範囲が偏らないよう25のレーンに分かれ、それぞれ4件ずつ。見つかった問題のパターンは33種類。テストもすべて通っている。

正直な話し、CodexやClaude Codeのできました報告は何が書いてあるのかわからない。しかし、この時点の私は「よし、できた」と思っていた。

しかし私は、何ができたのか分かっていなかった

Claude CodeやCodexを使ってファイルが大量にできていると、何となくすごいことをやったように見える。でも私は、このファイルが何のためにあるのか、中に何が書かれているのか、この結果から何が分かるのか、本当に調査できているのか、どこが怪しいのか——自分だけでは判断できなかった。

そもそもCodexが「manifestを生成しました」と言ってきたとき、私の最初の反応は、

manifestって何だ?

だった。私はコードを書けない。SQLiteの中身を自由に確認できるわけでもない。以前の私なら、「全部成功しました」という表示を見て「よし」としていたと思う。

でも、それでは前の記事に書いた、会計資料を作れた気になっていたあの日と同じだ。何が見えていないのかが、見えていない。

そこで今回は、CodexやClaude Codeが作った成果物を、そのままChatGPTに入れた。

つまり私は、Codexの結果を自分で監査したわけではない。「私はこれを十分理解できないので、何が起きたのか説明して、問題があれば探してほしい」と、別のAIに頼んだ。

「支払意思のEvidenceが、0件です」

返ってきた指摘で、初めて大きな問題が見えた。

100件の候補が、悩み系、企業の業務課題、制度上の面倒、といった方向にかなり寄っている。本当にそこに金がある可能性もある。でも、「AIが世の中を自由に探索した結果こうなった」とは限らない。

「困っている人を探せ」と強く指示すれば、当然、悩みのような問題が増える。公的統計を重視すれば、政府が調査しやすい社会問題が多くなる。企業の不効率を探しやすい設計なら、BtoBが増える。一見AIが自律的に探しているようでも、探索方法を作った人間の考え方が、そのまま結果に入っている。

創業者の私を候補選びから外したつもりでも、私の偏りが探索アルゴリズムの中に入り込んでいたら、結局同じではないか。

分かったこと:AI同士の間に立つ

この一連の流れは、少し不思議な体験だった。

AIエージェントが仕事をする。その成果物を、私は完全には理解できない。だからチャットAIに読ませる。そのAIが「ここがおかしい」と言う。するとまた作った側のAIへ戻して、調べ直させる。

私はAIを使っているというより、AI同士の間に立っている。

前の記事で、「複数のAIに聞くのは多数決ではない。違う角度から壊しにいく」という検証の考え方を書いた。あのときは頭の中の理屈だった。実際にやってみると、こういう形になる。

役割を分ける。Claude Codeにはシステムを実際に動かさせる。Codexには方法論や外部Evidenceを調べさせる。ChatGPTには成果物を渡して、「そもそもこれは何を意味しているのか」「どこに穴があるのか」を疑わせる。作るAI、調べるAI、疑うAI。結果がおかしければ、もう一度作る側へ戻す。

一つのAIの答えを信じるのではなく、**間違っていたら、別の工程で見つかるようにする。**AI Money Hunterそのものが、少しずつそういう構造になってきた。

今やっていること:探すのをやめて、探し方を監査する

普通なら、「100件で足りないなら、次は1000件」となるところだと思う。でも、それは一度やめた。探し方が間違っていたら、1000件に増やしても間違いを1000件に増やすだけだからだ。

今やっているのは、Scoutそのものの監査だ。どんな種類の問題が過剰に見つかっているのか。どの市場が探索されていないのか。「困っている人が多い」と「金になる」を混同していないか。支払意思を予測するには、どんなEvidenceを見るべきなのか。

そしてここでも、方法を私の思いつきで決めないようにしている。Codexに外部の研究や実例を調べさせ、その結果をChatGPTに入れて「これは何が分かったのか」「この方法論は十分なのか」と読ませる。

だんだん、AIに金を探させる前に、AIに「金の探し方」を研究させ、その研究を別のAIに監査させている状態になってきた。かなり遠回りに見える。でも今は、この遠回りの方が面白い。

なぜ、成功する前から公開するのか

最初は、成功してから記事にした方がいいと思っていた。「AIに全部やらせたら月10万円稼げました」と書いた方が、当然見栄えがいい。

でも、それだと一番面白い部分が消える。実際に起きたのは、AIに100件探させて、うまくいったと思って、でも自分では成果物の意味が分からなくて、別のAIに入れたら「金のEvidenceが0件」と言われ、さらに「探し方自体が偏っているのでは」となって、今は探し方を作り直している——というぐちゃぐちゃした過程だ。

このぐちゃぐちゃの方が、後から整理された成功談より面白いのではないか。

だからこの連載では、Scoutが何を見つけたか、どこで失敗したか、私には何が分からなかったか、どのAIが何を指摘したか、実際に市場へ出したらどうなったか、誰かが本当に金を払ったのか——そこまで、できるだけ実況していく。各回の冒頭には、今回と同じ定点観測を置く。数字が動いたかどうかは、そこを見れば分かる。