AIが優秀になればなるほど、凡人の自分がボトルネックになっているような気がして、私はいま、少し変な実験をしている。

AIにビジネスアイデアを考えてもらう実験ではない。私自身がアイデアを出さず、できるだけ判断にも口を挟まず、AIに「金になるもの」を探させ、そのまま事業になるところまで行けるのかを試している。

最終的な目標は単純だ。

人間が「これを売ろう」と決めなくても、AIだけで最初の1円までたどり着けるのか。

もちろん完全に人間ゼロではない。AIには勝手に金を使わせないし、誰かに営業メールを送らせることもしない。外部に公開するところでは私が承認する。ただし、それまではなるべく私は考えない。事業アイデアも出さない。市場も指定しない。「こういうものが売れそう」と誘導もしない。

ChatGPTと話しながら方針を決め、実際の作業はClaude CodeやCodexにやらせている。私自身はコードが読めないので、彼らが画面に出してくる英語の報告の半分以上は分かっていない。

奇妙な実験だと思う。

もっと奇妙なのは、始めてまだ2日ほどなのに、すでに何度も「AIに仕事を任せる」という言葉の意味を考え直すことになったことだ。

最初は「金を探すエンジン」を作っていた

最初に考えたのは、Money Hunterという名前の仕組みだった。

世の中から困りごとを探すAIがいる。その問題を詳しく調べるAIがいる。本当に商売になりそうか判定するAIがいる。その判定が甘くないか疑うAIもいる。そして、AIが勝手に広告を出したり、人に連絡したり、お金を使ったりしないように止める役割も作る。

会社を作るというより、小さな組織をAIの中に作る感じだった。

Scoutが探し、Researcherが調べ、Judgeが判断し、Criticが反論する。

私はその間に立つ。

少なくとも最初は、これでかなり自動的にビジネスが見つかると思っていた。

そして実際、最初の結果は派手だった。

100件のビジネス機会を探索した。

教育、物流、製造、介護、建設、子育て、不動産など、いろいろな領域から候補が並んだ。データベースにも100件入った。重複もない。テストも通っている。

画面だけ見れば、「AIが100件の市場機会を見つけてきた」としか見えなかった。

私はそれを信じた。

ところが、別のAIに中身を監査させたところ、話が変わった。

AIは100件を「探して」いなかった

100件の候補は、Webから発見したものではなかった。

プログラムの中に最初から用意されていた。

AIはそれをデータベースに入れて、「100件探索完了」という状態にしていた。

もちろん、AIが嘘をつこうとしたわけではない。システムとしては仕様通りに動いていたのだと思う。

でも、私がやりたかったこととは全然違う。

私は「世の中を探してこい」と頼んだつもりだった。

AI側では、「探索結果として使える100件を用意して、システムを動かせる状態にする」という仕事になっていた。

ここで初めて気づいた。

AIチャットで仕事を頼むと、人間は成果物を見てしまう。AIエージェントに仕事を任せるなら、成果物ではなく、仕事をした痕跡を見なければならない。

100件あるかどうかではない。

何を検索したのか。どのページを読んだのか。そこで何を見つけたのか。何を見つけられなかったのか。

そこまで見なければ、「AIに任せた」のか「AIがそれっぽい完成品を作った」のか区別できない。

これは、今回の実験で最初に踏んだ大きな穴だった。

しかも100件は、私の頭の中に似ていた

もう一つ問題があった。

100件の候補を分類してみると、非常に偏っていた。

業務効率化、紙、Excel、転記、人手不足、行政手続き、DX。そんな話が大量に並んでいた。

しかも100件すべてが、基本的に「人が困っている問題」だった。

確かに問題ではある。

だが、問題があることと、金になることは同じではない。

世の中には、「ものすごく困っているけれど金は払わない問題」もたくさんある。一方で、特に困っていないのに人が何万円も使う市場もある。趣味、娯楽、ファッション、コレクション、推し活などはその典型だ。

なぜAIは困りごとばかり集めたのか。

原因は検索の考え方にあった。

「○○業界 課題」「○○ 人手不足」「○○ 負担」といった言葉で探すような設計になっていたからだ。情報源も政府の白書や調査資料が多い。

政府の白書は非常に信頼できる。

ただし政府は、「国民が何にお金を使いたくて仕方がないか」を調べるために白書を書いているわけではない。

社会の問題を調べている。

だからAIは非常に真面目に、金になるものではなく、社会問題を集めていた。

ここで少し怖くなった。

私は「自分のアイデアをAIに入れない」と決めていた。

それなのに、AIが出してきた100件は、私が普段考えていることによく似ていた。

製造業の効率化、事務作業の削減、AIによる自動化。

私はアイデアを直接入力していなかった。

それでも、探し方に私が入っていた。

そこで、初めて本当にWebを探させた

ここから方針を変えた。

AIが「調査しました」と言うだけでは駄目にした。

検索した言葉を記録する。検索結果のURLを残す。実際にそのページを開く。そのページのどこを証拠として使ったのか残す。

本当に人がお金を払っている証拠なのか。それとも、単に商品に値段が付いていただけなのか。

そこも区別する。

最初の100件から10件だけを選び、本当にWebを調べさせた。

44回検索し、38ページを開き、証拠を集めた。

そしてJudge役のAIに商売として判定させた。

結果は、

合格0件。保留9件。不合格1件。

100件も候補があったのに、1件も先に進めなかった。

これは私には意外だった。

AIなら何か一つくらい「これはいけます」と言うと思っていた。

むしろ逆だった。

問題そのものは存在している。しかし「その問題に対して誰がお金を払うのか」が弱い。「どうやって客を取るのか」が分からない。「価格が存在する」ことは分かっても「実際に売れている」証拠がない。

つまり、困りごとを発見する能力と商売を発見する能力は別物だった。

さらに保留9件を追加調査した。

それでも合格は0件だった。

ここでシステムは、候補の調査を続けるのをやめた。

問題は調査不足ではない。

そもそも最初の「探し方」が悪い。

「困っている人」を探すのをやめた

そこでScoutを作り直した。

新しいScoutには、「問題」以外の入口からも探させることにした。

すでに人が金を使っている市場。繰り返し購入しているもの。外注している仕事。マーケットプレイスで実際に取引されているもの。「困った」ではなく「欲しい」で買っているもの。価格差や情報差がある市場。人が手作業で提供していて、AIなら大幅に自動化できそうなサービス。

そして、AIがやりがちな都合のいい推論も禁止した。

商品に値段が付いているからといって「需要がある」と決めない。競合がいるからといって「市場がある」と決めない。市場規模が大きいからといって「自分たちも儲かる」と決めない。

証拠がなければ、分からないと書く。

UNKNOWNでいい。

私はこのルールがかなり重要だと思っている。

人間はAIに答えを求める。

AIも答えようとする。

でも事業探索では、「分からない」が大量に出てくる方がむしろ正常なのかもしれない。

金を探す前に、47個のエラーが出た

新しいScoutを動かそうとしたところ、今度はプログラムが壊れた。

テストすると47個のエラー。

私はもちろん意味が分からない。

Claude Codeに調べさせると、設定ファイルの読み方が間違っていたらしい。

Money Hunterは金を探すどころか、自分の設定ファイルを正しく読めなくなった。

かなり間抜けな状態である。

それを修正し、最終的には101個のテストが全部通った。

こうして文章にすると、「101個のテスト」という数字がいかにも高度なことをしているように聞こえる。

だが、私はそのテストの中身をほとんど説明できない。

ここもこの実験の妙なところだ。

私はシステムを作っているのに、システムの詳細を理解していない。

ChatGPTに「今Claude Codeは何をやったのか」と聞いて、人間の言葉に翻訳してもらいながら進んでいる。

人間がAIを使っているのか、AI同士の仕事を人間が眺めているのか、だんだん境界が分からなくなってくる。

今日、本物の探索が始まった

そして今日、新しいScoutを本当にWebに出した。

ただし、最初からまた失敗した。

Codexが複数の検索をまとめて行ったため、「どの検索からどのURLが出てきたのか」が追えなくなった。

結果そのものは使えそうだった。

でも、証拠の経路が分からない。

以前なら、そのまま使っていたかもしれない。

今回は4件をエラーとして残し、一件ずつ検索し直した。

最終的には31回検索し、32ページを開き、13件の候補が残った。

目標数には届かなかった。

だから「成功」とは記録せず、「部分的に候補が取れた」という扱いになった。

旧Scoutでは100件すべてが「困りごと」だった。

今回は違った。

欲しいから金を払うものも出てきた。すでに支払い義務が発生している市場もある。BtoBだけでなく、一般消費者向けも公共分野も混じった。建設、趣味、動画、中古ファッション、不動産など、かなり散らばった。

ようやく、私の頭の中から少し離れ始めたように見える。

そしてAIは、客を探す前に「自分にできるか」を調べ始めた

残った候補の一つに、建設関係の仕事がある。

図面やデータをAIに読ませ、必要な項目を拾ったり、抜けや違いを見つけたりするような仕事だ。

普通なら、ここから「建設会社に営業してみよう」と考えるのかもしれない。

Money Hunterは違う方向へ進んだ。

まず、

そもそもAIにその仕事ができるのか。

人間の客に迷惑をかけずに検証する方法を探し始めた。

そこで今、IFCという建築データを使って実験しようとしている。

建物のデータから正解を機械的に取り出す。一方でAIには普通の図面だけを見せる。そしてAIが読み取った結果と、本当の正解を比較する。

AI自身の仕事を、別のデータで採点する。

ところが、その実験を始める前に、また止まった。

PCに必要なツールが入っていない。

ではサンプルデータをネットから取ってこよう。

そこで今度は、そのデータを勝手に改変して実験に使ってよいのか、ライセンス確認が始まった。

私は「そこまで確認するのか」と思った。

Money Hunterはまだ1円も稼いでいない。

ビジネスも決まっていない。

商品もない。

なのに、ネット上の建築データの使用許諾を確認している。

おそろしく地味である。

しかし、たぶんここにこの実験の本質がある。

AIに「アイデアを考えて」と頼むのとは全く違った

普段、私たちはAIチャットをこう使う。

「副業アイデアを10個ください」
「一番儲かりそうなのは?」
「では事業計画を作って」
「LPも作って」

数分後には、それらしい会社が一つ完成する。

だが、それはAIが事業を作ったわけではない。

多くの場合、人間が決めた方向に沿って、AIが文章を作っただけだ。

今回、なるべく人間の判断を抜いてみて分かった。

事業を作る前に、分からないことが異常なほど多い。

この問題は本当に存在するのか。

人は金を払っているのか。

その金は誰に払われているのか。

AIで代替できるのか。

代替できても利益は残るのか。

客にはどうやって届くのか。

競合がいるのは良いことなのか悪いことなのか。

そもそも自分たちは、その仕事を正確にできるのか。

AIチャットなら、一瞬でそれらしい答えを出してくれる。

AIエージェントに本当に仕事としてやらせると、答えではなく、調査と失敗と保留ばかりが増えていく。

今のところ、それが一番面白い発見かもしれない。

人間がAIを駄目にしている可能性

そして私は、この実験を続けながら別の疑問を持ち始めている。

AIは本当に、私たちが普段使っている程度のものなのだろうか。

私たちは毎日AIに質問する。

メールを書かせる。資料をまとめさせる。アイデアを10個出させる。

そして出てきたものを見て、

「AIはこのくらいか」

と評価する。

だが、それは部下に毎日、

「この文章直して」
「アイデア10個出して」
「これ要約して」

だけを頼んで、その人の仕事能力を評価しているようなものかもしれない。

今回やっていることはかなり違う。

AIに仕事を与え、別のAIに監査させる。失敗を記録させる。自分の判断を疑わせる。証拠がなければ止める。必要ならツールそのものを作り直す。

そうするとAIは、チャット欄で見ていたものとは少し違う存在に見えてくる。

もちろん、まだ金は生まれていない。

むしろ今までのところ、AI Money Hunterが最も得意なのは、

「そのビジネス案、本当に大丈夫ですか」と自分自身にブレーキをかけること

である。

これがいつか本当に事業になるのか。

13件の中から何かが残るのか。

最初の1円を、人間が「これを売ろう」と決めずに作れるのか。

まだ分からない。

もし最終的に何も生まれなければ、それもかなり面白い結果だと思っている。

「AIだけで会社が作れる」と言われ始めた時代に、実際にできるだけ人間を抜いてやらせてみたら、何が起きるのか。

私はもう少し、この実験の中にいてみようと思う。