2023年6月、バクザン省のライチ産地がライブ販売を行った。栽培、収穫、箱詰めまでを見せながら売った結果、報道では4時間で約50トンのライチが売れたとされている。スーパーの棚でも、卸の商談でもない。スマホの画面の前で、4時間で、約50トンだ。(Brands Vietnam)

商売をやる人間にとって、これは「遊び」ではない。

売り場そのものが動いた音だ。

だからこの記事は、ベトナムで何かを売りたい人に向けて書く。
日本の商品を持ち込みたい人。
現地で小さく商売を始めたい人。
ベトナム人に向けて自分の商品を届けたい人。
そして、いまのベトナムの速さに少し気圧されながらも、「自分にもまだ何かできるのではないか」と思っている人に向けて書く。

チャンスはある。

ただし、昔の感覚のままでは難しい。
ベトナムの売り場は、もう10年前とは別物になっている。

まず、市場の大きさを数字で押さえる

ベトナムのEC市場は、いまShopeeとTikTok Shopの2強になっている。

2025年の主要ECプラットフォームの売上シェアを見ると、Shopeeは56.04%、TikTok Shopは41.31%まで伸びている。2024年にはShopeeが約64%、TikTok Shopが約29%だったので、わずか1年で差が一気に縮まったことになる。LazadaやTikiは、かなり存在感を落としている。(Brands Vietnam)

Shopeeの背中に、TikTok Shopがここまで迫っている。

これは単に「新しいECサイトが伸びている」という話ではない。
購買行動そのものが変わっている、ということだ。

以前の買い物は、検索から始まった。

欲しいものがある。
検索する。
価格を比べる。
レビューを見る。
買う。

しかしTikTokでは、順番が違う。

見ていたら、出会う。
面白いと思う。
欲しくなる。
その場で買う。

この違いは大きい。

売り手の言葉に翻訳すると、こうなる。

動画とライブは、もはや「広告」ではない。
それ自体が「店舗」になった。

あなたの商品が並ぶ棚は、いまスマホの中で猛烈に回転している。

なぜ、ここまで売れるのか

仕組みを分解すると、3つの歯車が噛み合っている。

1つ目は、衝動買いの導線だ。

娯楽として見ているフィードに、商品動画やライブが自然に混ざる。気になった瞬間、アプリの中で決済まで終わる。「見る」から「買う」までの距離が、限りなく短い。

これは、実店舗にも、従来型のECにもない強さだ。

2つ目は、人海戦術だ。

ベトナムにはKOCと呼ばれる、小さな発信者、販売者、紹介者が大量にいる。彼らは商品を紹介し、売れた分に応じてコミッションを受け取る。自分の取り分を増やすために、毎日動画を出し、ライブを流し、商品を紹介する。

昔なら、一つの会社が営業担当を何十人も雇うには大きな固定費が必要だった。
しかしTikTok Shopでは、成果報酬で何十人、何百人もの売り子を同時に動かせる。

3つ目は、運用の総力戦だ。

うまくいっているブランドの裏側は、決して「置いておいたら勝手に売れた」ではない。ライブの台本、配信頻度、出演者、コメント対応、クーポン、広告、KOC管理。地味な運用の積み重ねがある。

つまり、TikTokで売れる人は、単に動画がうまい人ではない。

売れる動画が量産される仕組みを作った人だ。

そもそもKOCとは何か

ここで一度、KOCという言葉を説明しておきたい。

KOCとは、Key Opinion Consumer の略だ。

よく似た言葉にKOLがある。
KOLは Key Opinion Leader。いわゆる有名インフルエンサー、専門家、芸能人、有名配信者に近い。

一方、KOCはもっと普通の消費者に近い。

フォロワーは数百人でも、数千人でもいい。
大スターである必要はない。

ただ、その人の投稿を見ている人からすると、広告塔というより、「実際に使っている人」に見える。少し詳しい友達。よく買い物している近所のお姉さん。子ども用品をよく紹介しているお母さん。コスメを実際に試している若い女性。そういう距離感の人だ。

KOCの強さは、知名度ではない。

生活感と信用感だ。

化粧品なら、「この人が実際に使っている感じがする」。
子ども服なら、「この人の子どもが着ているなら分かりやすい」。
食品なら、「この家で本当に食べている感じがする」。

ベトナムのTikTok Shopでは、こうしたクリエイターが商品を紹介し、売れた分に応じてコミッションを受け取る仕組みがある。TikTok Shopの公式説明でも、販売者はクリエイターの力を借りて商品を売り、クリエイターは販売によってコミッションを得ると説明されている。(TikTok Shop Vietnam)

ここが、いまのベトナムECを理解するうえでかなり大事なところだ。

売り手は、昔のように自分だけで売る必要がない。
小さな売り子を、成果報酬で何人も動かせる。

ただし、これは魔法ではない。
使い方を間違えると、まったく売れない。
あるいは、売れても利益が残らない。

KOCは勝手に売ってくれるのか。こちらから選べるのか

ここで、よくある疑問が出てくる。

KOCは、こちらからお願いするのか。
それともAmazonアフィリエイトのように、向こうが勝手に見つけて売ってくれるのか。
こちらで選べるのか。
それとも選べないのか。

答えは、両方ある。

TikTok Shopのアフィリエイト機能には、大きく分けて2つの考え方がある。

ひとつは、オープン型だ。
売り手が商品を登録し、コミッション率を設定する。すると、条件に合うクリエイターがその商品を見つけ、自分の動画やライブで紹介できる。

これは、かなりAmazonアフィリエイトに近い。

こちらが商品と報酬条件を置いておく。
KOCが見つける。
KOCが紹介する。
売れたらコミッションが発生する。

つまり、「あちらが勝手に売ってくれる」面はたしかにある。

もうひとつは、ターゲット型だ。

これは、売り手が特定のクリエイターを選んで招待する方法である。
この人に売ってほしい。
このジャンルに強い人に紹介してほしい。
この地域のママ系KOCに試してほしい。
そういう形で、こちらから選ぶ。

つまり、KOC活用には2つの入口がある。

勝手に見つけてもらう入口。
こちらから選んで声をかける入口。

たしかに、オープン型なら勝手に見つけてもらえる可能性はある。
だが、本当に売れるKOCを増やしたいなら、こちらから探し、選び、サンプルを送り、素材を渡し、数字を見て育てる必要がある。

つまり、Amazonアフィリエイトに似ている部分はある。
でも、TikTokの場合は動画、ライブ、サンプル、コミッション、台本、クーポンが絡む。

だから、より「販売部隊を作る」感覚に近い。

「丸投げで売れ続ける」は本当か

商品を倉庫に送るだけ。
あとは数十万人のセラーが勝手に売ってくれる。
広告費ゼロ。
現地スタッフ不要。
24時間365日、売れ続ける。

この仕組み自体は本物だ。
セラーネットワークやアフィリエイト、KOCを使った販売は、実在する。

しかし、商売の責任は外注できない。

広告費ゼロではない。
成果報酬だ。

在庫リスクは自分持ちだ。
品質責任も自分持ちだ。
クレームも、返品も、価格設計も、最終的には自分に返ってくる。

でも、「成果報酬の販売部隊を、自分の設計図で動かす」と考えれば、これは強力な武器になる。

ただし、日本にいる人が全部自分でやる必要はない

丸投げを捨てるとは、全部を自分でやるという意味ではない。

特に日本にいる人にとって、ベトナムでいきなり現地法人を作り、TikTok Shopを開き、輸入し、在庫を持ち、配送し、返品対応までするのは現実的ではない。むしろ、最初からそこまでやる方が危ない。

使えるものは使えばいい。

現地パートナーを使う。
販売代行を使う。
すでにTikTok Shopを運営しているベトナム企業と組む。
KOCネットワークを使う。
小さな代理店にテスト販売してもらう。

それは丸投げではない。

丸投げとは、商品を渡したあと、何が起きているか見ないことだ。
誰が売っているのか知らない。
どんな言葉で売っているのか知らない。
いくらで売っているのか知らない。
どの動画が当たったのか知らない。
なぜ返品されたのか知らない。
なぜ売れなかったのか知らない。

これが丸投げだ。

一方で、良い外注は違う。

現地の実務は任せる。
でも、商品説明は一緒に作る。
価格と粗利は自分で見る。
KOCに渡す素材は用意する。
毎週数字を見る。
コメントを読む。
売れた理由、売れなかった理由を次に反映する。

つまり、現地の手足は借りる。
しかし、商売の頭は手放さない。

日本にいる人がベトナムで挑戦するなら、この考え方が一番現実的だと思う。

最初から法人を作らなくていい。
最初から大きな在庫を持たなくていい。
最初から完璧なチームを作らなくていい。

まずは、現地パートナーと小さく試す。
10人のKOCにサンプルを出す。
3本の動画を作る。
1回のライブをする。
100個ではなく、まず10個売ってみる。
そこで得た反応を見て、次の一手を決める。

ベトナムで挑戦するというのは、いきなり大きな旗を立てることではない。

小さく市場に触れることだ。
そして、この国はいま、その小さな入口がたくさんある。

日本から入るなら、依頼先は3種類ある

では、日本にいる人がベトナムで売りたい場合、誰に頼めばいいのか。

大きく分けると、依頼先は3種類ある。

1つ目は、現地の輸入販売会社や販売代理店だ。
これは一番分かりやすい。商品を卸す、代理店契約を結ぶ、委託販売してもらう。輸入、在庫、配送、返品、税務など、現地実務を相手に持ってもらえる可能性がある。

ただし、弱点もある。
相手が本気で売ってくれるとは限らない。
商品を置いただけで終わることもある。
売れなかった理由が分からないまま終わることもある。

2つ目は、TikTok Shop PartnerやEC運営代行会社だ。
TikTok Shopの店舗運営、広告、ライブ、商品ページ、キャンペーン設計まで手伝う会社である。TikTokのPartner Directoryにも、TikTok Shop運営、アフィリエイト管理、広告運用を支援するパートナーが掲載されている。(TikTok For Business)

このタイプは、売り場の運営に強い。
ただし、輸入や在庫まで見てくれるとは限らない。商品登録や広告はできても、現地で商品を合法的に流通させる部分は別のパートナーが必要になることもある。

3つ目は、MCNやKOCネットワークを持つ会社だ。

MCNとは、Multi-Channel Network の略で、クリエイターを束ねたり、育成したり、ブランドや販売者とつないだりする会社である。TikTok Shop Partner Centerでも、MCNはTikTok Shopのエコシステム内でクリエイターを支援するパートナーとして説明されている。(TikTok Shop)

このタイプは、KOCやライブ販売に強い。
誰に売ってもらうか。
どんな動画を作るか。
どんなライブをするか。
どのクリエイターが商品に合うか。

そこを一緒に考えられる。

日本企業がベトナムでTikTok販売を試すなら、この3つを組み合わせることになる。

輸入販売会社。
TikTok Shop運営代行。
KOC/MCN会社。

一社ですべてできる場合もある。
しかし、実際には分けて考えた方がいい。

「輸入できる会社」と「売れる動画を作れる会社」は、同じとは限らない。
「TikTok広告が回せる会社」と「良いKOCを管理できる会社」も、同じとは限らない。

だから、日本から入る人は、最初にこう聞くべきだ。

輸入は誰がやるのか。
在庫は誰が持つのか。
TikTok Shopの販売者は誰の名義か。
KOCは何人使えるのか。
サンプルは誰が送るのか。
動画は何本作るのか。
ライブは誰が出るのか。
広告費はいくらか。
売れなかった場合、何をレポートしてくれるのか。

この質問に具体的に答えられない相手には、大きなお金を預けない方がいい。

代表的な相談先の例

ここで、いくつか名前を挙げておく。

これは「ここに頼めば必ず売れる」という意味ではない。
あくまで、ベトナムでTikTok Shop、MCN、KOC、EC運営支援を調べるときの入口である。

たとえば、UpBaseはShopee、Lazada、TikTokと関係するEC支援企業として紹介されており、MCNやクリエイター支援にも触れられている。(Brands Vietnam)

ACCESSTRADEは、ベトナムのアフィリエイトマーケティング領域で知られ、2022年にTikTok Shopと提携してACCESSTRADE MCNを立ち上げたと報じられている。KOCや動画クリエイターを使った販売を考えるなら、名前を知っておいて損はない。(Advertising Vietnam)

Dinos MCN、Melive Network、Vulaci Network、Daily Media、Box Studio、DC Mediaなども、ベトナムのTikTok MCNとして紹介されている。特にMelive Networkは、YouTube領域でも知られるMETUB系のネットワークとして説明されている。(Brands Vietnam)

Singo Agencyは、TikTokのMarketing Partners Directoryに掲載されており、ベトナムでTikTok Shop向けの総合支援を提供するパートナーとして紹介されている。(TikTok For Business)

UpTikは、韓国中小企業向けに、現地法人なしでベトナムTikTok Shopへ入るための商品許認可、物流、ライブコマース、マーケティング支援を行うプログラムを掲げている。日本企業にも同じ形が可能かは確認が必要だが、「現地法人なしで入る」モデルを考えるうえでは参考になる。(UpTik)

Zafagoのように、TikTok Shop PartnerとしてSME向け支援を打ち出している会社もある。(Zafago JSC - Digital Marketing Agency)

もちろん、名前を知っていることと、良いパートナーを選べることは別だ。

実際に組むなら、必ず小さく試した方がいい。

最初から年間契約を結ばない。
大きな在庫を渡さない。
「売上保証」に飛びつかない。
KOC人数だけで判断しない。
過去実績の画面を見せてもらう。
自社商品に近いジャンルでの実績を見る。
テスト販売のKPIを決める。

日本企業にとって、ローカルのKOC管理会社やMCNと組むのは、かなり現実的な選択肢だと思う。

ただし、依頼先を「魔法の箱」と見てはいけない。

彼らは現地の手足であり、売り場への入口であり、KOCとの橋渡し役である。
しかし、商品が誰のどんな悩みを解決するのか。
価格はいくらが妥当なのか。
どの訴求で売るのか。
ブランドをどう守るのか。

そこは、売り手自身が考えなければならない。

攻略の本質は、TikTokを「販路」ではなく「販売システム」として見ること

TikTokで売るとは、動画を作ることではない。
ライブをすることでもない。
KOCに紹介してもらうことでもない。

それらを全部つなげて、ひとつの販売システムにすることだ。

商品をTikTok用に作り変える。
KOCを販売パートナーとして集める。
動画を実験として量産する。
当たった動画に広告費を乗せる。
ライブで熱量を作る。
買った人をZaloや自社リストに流す。
リピートで利益を残す。

ここまでつながって、初めて「TikTokで売る」と言える。

1|まず商品をTikTok用に作り変える

最初にやるべきは、アカウント開設ではない。
商品設計だ。

TikTokで売れる商品には、かなりはっきりした条件がある。

画面で変化が見える。
使う前と後が分かる。
説明が短い。
価格が衝動買いの範囲に入る。
常温で送れる。
返品されても致命傷にならない。
KOCにコミッションを払っても粗利が残る。

逆に、高額で説明が長い商品、比較検討が必要な商品、配送が難しい商品、鮮度管理が必要な商品は、そのままではTikTok向きではない。

だから最初に考えるべきは、

うちの商品をTikTokで売るには?

ではない。

うちの商品をTikTokで売れる形に変えるには?

だ。

大容量なら小分けにする。
単品ならセットにする。
普段使いの商品ならギフト化する。
分かりにくい商品なら、ビフォーアフターを見せる。
食品なら、開封、調理、食べる瞬間までを見せ場にする。
日用品なら、「なぜ今までこれなしで生活していたのか」と思わせる場面を作る。

TikTokで売るというのは、商品を動画の中で再発明することに近い。

2|入口商品、利益商品、リピート商品を分ける

TikTokでいきなり一番売りたい商品を売ろうとすると、価格が合わないことがある。

だから商品を3つに分ける。

入口商品。
利益商品。
リピート商品。

入口商品は、買いやすさ優先だ。
利益は薄くてもいい。目的は、初回購入、レビュー、販売実績を作ること。

利益商品は、本命商品だ。
KOCにも広告にもお金を払って、それでも粗利が残る価格にする。

リピート商品は、TikTokの外で継続購入してもらう商品だ。
Zalo、LINE、会員リスト、定期便、店舗受け取り。
そういう導線に流す。

この設計がないと、TikTokで売れても儲からない。

売上は立つ。
注文も入る。
配達員も来る。
でも、手元にお金が残らない。

それでは商売ではない。

TikTokは新規客を連れてくる力が強い。
しかし、利益を残すには、入口から出口まで自分で設計しなければならない。

3|KOCは「お願いする相手」ではなく、成果報酬の販売パートナーとして設計する

KOCに商品を紹介してもらう。

KOCは、成果報酬の販売パートナーだ。

社員として雇うわけではない。
固定給を払うわけでもない。
だが、商品を売ってくれる小さな営業パートナーとして見る。

具体的には、まずオープン型で商品を出す。
コミッション率を設定する。
誰が商品を見つけるかを見る。
誰が動画を出すかを見る。
誰が売るかを見る。

TikTok Shopでは、無料サンプルの仕組みもある。販売者は商品サンプルを設定でき、クリエイターからのサンプル申請を確認し、承認または却下できる。(TikTok Shop Vietnam)

つまり、商品をばらまくのではない。

小さな営業マンに試供品を持たせる感覚に近い。

最初は10人にサンプルを渡す。
投稿してもらう。
数字を見る。
売れた2〜3人だけを残す。
残った人には、高いコミッション、専用クーポン、優先サンプルを渡す。
伸びない人は静かに切る。

これは冷たく聞こえるかもしれない。

だが、商売としては自然なことだ。
固定給の社員ではない。
成果報酬の販売パートナーなのだ。

ただし、丸投げはしない。

KOCには素材を渡す。

最初の3秒の言葉。
商品の見せ方。
言っていいこと。
言ってはいけないこと。
よくある質問への答え。
価格やクーポンの説明。
クレームになりやすい注意点。
比較してよい競合、比較してはいけない競合。

これを渡さないと、KOCは勝手に盛る。
勝手に安売りする。
勝手に間違ったことを言う。

そしてこれからは、それが法的リスクになる。

KOC管理とは、売上管理であると同時に、信用管理でもある。

4|KOCの選び方は、フォロワー数ではなく「相性」で見る

KOCを選ぶとき、フォロワー数だけを見ると失敗する。

大事なのは、フォロワー数ではなく相性だ。

自分の商品と、その人の生活がつながっているか。
過去に似た商品を売っているか。
コメント欄に信頼感があるか。
話し方が大げさすぎないか。
安売りばかりしていないか。
自分のブランドを壊さないか。

たとえば食品なら、普段から家族の食事を投稿している人がいい。
子ども用品なら、子育て中のお母さんがいい。
化粧品なら、実際に顔を出して使い方を見せている人がいい。
日用品なら、生活改善や便利グッズをよく紹介している人がいい。

KOCは、商品を売るだけではない。
商品の見え方を作る。

だから、誰に売ってもらうかで、商品そのものの印象が変わる。

ここを雑にすると、売れてもブランドが傷つく。
逆に、相性のいいKOCと組めば、小さな商品でも急に顔が見える。

「あ、この人が使っているなら分かる」
「あ、この家なら本当に使っていそう」
「あ、この説明なら信用できる」

そう思ってもらえる。

そこにKOCの力がある。

5|動画は「作品」ではなく「実験」として量産する

TikTokで一番やってはいけないのは、1本の動画を丁寧に作り込んで、祈ることだ。

やるべきことは、仮説を分けて量産すること。

同じ商品でも、切り口はいくらでもある。

安さで見せる。
便利さで見せる。
驚きで見せる。
失敗あるあるで見せる。
子どもで見せる。
母親目線で見せる。
夫婦の会話で見せる。
開封で見せる。
比較で見せる。
レビューで見せる。
ライブの切り抜きで見せる。

1商品につき、最低でも20本、30本の切り口を作る。

そして見る数字は、再生数だけではない。

最初の3秒で止まったか。
商品ページまで飛んだか。
カートに入ったか。
買ったか。
返品されたか。
レビューは荒れていないか。

ここまで見て、初めて「売れる動画」が分かる。

TikTokの攻略は、クリエイティブ勝負ではある。
だが、芸術ではない。

実験だ。

小さく試せる。
失敗が見える。
当たりも見える。
だから、資本のない人にもチャンスがある。

ここに、いまのベトナムの面白さがある。

6|ライブは「長く話す場所」ではなく「販売劇を回す場所」

ライブも、ただ配信すればいいわけではない。

売れているライブは、だいたい同じ構造を繰り返している。

人が入ってくる。
問題を言う。
商品を見せる。
実演する。
レビューや販売実績を見せる。
今日だけの条件を出す。
コメントに答える。
もう一度、最初に戻る。

つまりライブは、2時間だらだら話すものではない。

15分の販売劇を、何度も回すものだ。

役割もある。

話す人。
コメントを拾う人。
在庫とクーポンを見る人。
注文後のチャットを見る人。
切り抜き動画を作る人。

最初は一人で全部やってもいい。
小さな商売なら、それで十分だ。

だが、設計としてはこの役割を意識した方がいい。

ライブは根性ではない。
台本と分業で強くなる。

7|当たった動画だけに広告費を乗せる

広告費を最初から大きく使う必要はない。

まず自然投稿とKOC投稿で当たりを探す。
反応の良い動画だけを広告に回す。
ライブで反応が良かった説明を短尺動画にする。
短尺動画で反応が良かった切り口をライブの台本に戻す。

この循環を作る。

広告は、最初から答えを作る道具ではない。
当たりを見つけたあとに、火を大きくする道具だ。

ここを間違えると、広告費だけが溶ける。

日本でも、ベトナムでも、広告で失敗する人の多くは、まだ当たっていないものにお金をかけてしまう。
逆に、すでに小さく当たっているものにお金を乗せれば、失敗の確率は下がる。

TikTokは、その小さな当たりを見つける速度が速い。

だから小さな売り手に向いている。

8|TikTokで獲って、TikTokの外で利益を残す

最後に、一番大事なことを言う。

TikTokは、新規客を獲る場所としては強い。
だが、利益を残す場所とは限らない。

なぜなら、TikTok内では常に、クーポン、送料無料、KOCコミッション、広告費、返品、レビュー対応がついて回るからだ。

だから、本当に強い売り手は、TikTokだけで完結させない。

初回購入はTikTokで取る。
同梱カードでZaloに誘導する。
購入後に使い方を送る。
レビューを依頼する。
次回セットを案内する。
常連客にはTikTok外で先行案内する。

TikTokは入口。
Zaloや自社リストが資産。
リピート購入が利益。

この発想がないと、いつまでもプラットフォームに手数料を払い続けることになる。

逆に、この導線ができれば、小さな商売でも戦える。

最初は1本の動画でいい。
1回のライブでいい。
10人のKOCでいい。
100個売れなくてもいい。
まず10個売る。
そこから、誰が買ったのか、なぜ買ったのか、なぜ買わなかったのかを見る。

ベトナムの市場は大きい。
しかし、最初から大きく始める必要はない。

小さく始めて、速く学ぶ。
この国は、その速度を許してくれる。

それでも、ベトナムには希望がある

ここまで読むと、難しく感じるかもしれない。

税金がある。
規制がある。
KOC管理がある。
動画を作らなければいけない。
ライブもしなければいけない。
返品もある。
詐欺もある。
競争も激しい。

たしかに、簡単ではない。

でも、私はそれでも、ベトナムには希望があると思っている。

なぜなら、この国ではまだ、新しい売り場が生まれているからだ。

日本では、すでに多くの市場が成熟している。
棚は埋まっている。
大手が強い。
広告費も高い。
新しい人が入る隙間は、どんどん狭くなっている。

しかしベトナムでは、生活の形そのものが変わっている。

10年前にはなかった中間層がいる。
スマホで買うことに慣れた母親たちがいる。
ライブで商品を買うことに抵抗のない若い世代がいる。
小さなKOCが毎日商品を紹介している。
Zaloで店と客が直接つながっている。
そして、ルールが整い始めている。

これは、外から見ると混沌に見える。

でも、商売を始める人間にとっては、混沌の中にこそ隙間がある。

完璧な会社でなくてもいい。
大きな資本がなくてもいい。
最初から有名ブランドでなくてもいい。

商品があり、伝え方があり、誠実に売る覚悟があるなら、まだ入り込める場所がある。

もちろん、甘くはない。
「ベトナムなら簡単に儲かる」という話ではない。
そんな時代は、たぶんもう終わっている。

でも、「ベトナムでは、まだ挑戦できる」という感覚はある。

少なくとも、私はそう感じている。

外から眺めている時間は、もう残っていない

4時間で約50トンのライチが売れる国に、私は住んでいる。

日本では、いまだに「TikTokは若者の遊び」「ベトナムはまだこれから」と語られることがある。
だが、現場の温度は、その認識のはるか先を走っている。

売り場が動画に移り、売り子が分散化し、税が自動で抜かれ、本人確認が制度になっていく。

これは、「遊び」が「商売」になり、さらに「制度」になっていく過程だ。

熱狂を煽る人にも、熱狂を見下す人にも、私はなりたくない。

仕組みを冷静に分解する。
光とコストと規制を天秤にかける。
そして、自分の頭で「どう売るか」を決める。

TikTok攻略とは、バズる動画を作ることではない。

商品をTikTok用に作り変え、KOCを販売パートナーとして集め、動画を実験として量産し、当たったものに広告費を乗せ、買った人をTikTokの外に連れていくことだ。

勝つのは、動画がうまい人だけではない。
勝つのは、商品、動画、ライブ、KOC、広告、リピートを一つの販売システムとして設計した人だ。

丸投げではない。
しかし、全部を自分でやる必要もない。

現地の手足は借りればいい。
ローカルの会社と組めばいい。
KOCネットワークを使えばいい。
販売代行を使えばいい。

大事なのは、何を任せ、何を自分で握るかを決めることだ。

ベトナム2.0の売り場は、もう棚の上だけにない。
検索窓の奥だけにもない。

人が笑い、しゃべり、試し、値引きし、コメントが流れる縦長の画面の中で、今日も猛烈に物が売れている。

乗るかどうかは別として、売る人間なら、この売り場を見ないふりはできない。

ベトナムで挑戦しようとしている人に、私はこう言いたい。

まだ間に合う。
ただし、昔のベトナムを見ていては間に合わない。

今のベトナムを見よう。
スマホの中で、もう次の売り場は始まっている。