「ベトナム発アパレルブランド、外国人に人気」。というVetterのニュースを見た。気になって調べた。

なぜベトナムブランドは外国人観光客を惹きつけるのか?

ベトナムのローカルブランドが、なぜこれほどまでに国境を越えて人々を魅了するのか。その答えは、単一の理由に集約されるものではなく、まるで美しい織物のように、いくつもの要素が絡み合って形成されている。

A. 「旬」を捉える感度:トレンドへの迅速な反応

現代の消費者は、常に新しい刺激と「今」を映し出すスタイルを求めている。ベトナムのファッションブランドは、この期待に見事に応えている。多くの海外旅行者が指摘するように、ベトナムのファッションは世界のトレンドを驚くほど迅速に取り入れているのだ 。この機敏さは、特に変化の早い現代において、大きな魅力となる。

例えば、LSoulのようなブランドは、月ごとのコレクション発表を通じて、常に新鮮なデザインを市場に供給し続けている 。特に、新型コロナウイルスのパンデミック後には、LSoulを含むいくつかのブランドで爆発的な成長が見られたとの指摘もあり 3、これは抑圧された創造エネルギーの開花や、世界的なベトナムへの関心の高まりを示唆しているのかもしれない。この「旬」を逃さない姿勢が、流行に敏感な若い世代の心を掴んで離さないのだろう。

B. 「賢い」選択:コストパフォーマンスの魅力

旅先でのショッピングの醍醐味の一つは、掘り出し物を見つける喜びだ。ベトナムのファッションは、まさにその期待に応えてくれる。「コストパフォーマンスが良い」という評価は、多くの旅行者から聞かれる共通の声である。

シンガポールから訪れたクレア・リムさんは、「ベトナムのファッション製品はトレンディで多様なスタイルだけでなく、ほとんどの店主が持続可能な衣料デザイン、柔軟なコーディネート、そして良質なものを作ろうとしている」と語り、その上で価格の手頃さを魅力として挙げている 1。また、ノルウェーから来たニュー・ルオンさんも、「同じ価格であれば、ベトナムで購入したファッション製品の方が、これまで訪れた多くの国よりもはるかに品質が良い」と証言している 。

この背景には、ベトナムの製造業の強みがある。もともと衣料品の生産拠点として高い技術力を有しており、高品質な製品を比較的安価に提供できる土壌があるのだ 。ホーチミン市繊維・刺繍・編物協会のファム・ヴァン・ヴィエット副会長によれば、国内製品のコストは先進国の同様製品と比較して約45%であり、期待を超える価値を持つリーズナブルな価格が実現されているという 。これは、旅行者にとって「賢い」選択肢であることは間違いない。

C. 「多彩」な表情:豊富なデザインと幅広いターゲット層

ベトナムブランドの魅力は、その多様性にもある。ミニマルで洗練されたデザインから、個性的でエッジの効いたスタイルまで、まるで万華鏡のように多彩な表情を見せてくれる 。

例えば、「Catci」は、そのミニマルなデザイン、コーディネートのしやすさ、手頃な価格、そして特に持続可能性と長期使用が可能な点から、多くの海外顧客に選ばれている 1。一方で、「FANCì Club」のようなブランドは、若々しく大胆なファッションを愛する層に向けて、ユニークでエッジの効いたストリートウェアを提供している 。

Catciの創設者であるグエン・トゥイ・リン・カット氏は、「今日の若者は他とは違う自分を表現し、個人のスタイルを形成したいと考えており、これは『マス』ブランドでは完全には対応できない」と述べている 。この言葉は、ベトナムのローカルブランドが、画一的なものではなく、個々の「らしさ」を求める人々の受け皿となっていることを示している。デザインの豊富さとターゲット層の広さが、多くの人々に「自分だけの一着」を見つける喜びを提供しているのだ。

D. 「自分らしさ」の探求:ローカルブランドが提供するユニークな価値

グローバル化が進み、世界中どこでも同じような商品が手に入る時代にあって、人々はますます「そこでしか出会えないもの」「自分だけの物語を語るもの」を求めるようになっている。ベトナムのローカルブランドは、まさにこの渇望に応える存在だ。

ノルウェーから来たニュー・ルオンさんが「ここにはノルウェーや他の場所では見つけられない製品がたくさんあり、それが私のスタイルをよりユニークにしてくれる」と語るように、ベトナムブランドは、他では得られない独自性を提供してくれる。それは、単に目新しいデザインというだけでなく、その土地の空気感や文化、作り手の想いが込められた「何か」なのだろう。

Catciの創設者も、「今日の若者は他とは違う自分を表現し、個人のスタイルを形成したい」というニーズを指摘している 1。大量生産されるグローバルブランドの製品が、時に個性を埋没させてしまうと感じる人々にとって、ベトナムのローカルブランドは、自分自身のアイデンティティを表現するための貴重なツールとなる。旅行者がベトナムで服を選ぶという行為は、単なる購買ではなく、自分らしい物語を紡ぐための一片を探す旅なのかもしれない。それは、均質化した世界の中で、確かな手触りのある「本物」を求める心の表れとも言えるだろう。

E. 「サステナビリティ」への意識:一部ブランドの取り組み

近年、ファッション業界においても「サステナビリティ(持続可能性)」は重要なキーワードとなっている。環境への配慮や倫理的な生産プロセスを重視する消費者は、世界的に増加傾向にある。ベトナムの一部のローカルブランドは、こうした意識の高まりにも応えようとしている。

前述のクレア・リムさんが「ほとんどの店主が持続可能な衣料デザインを作ろうとしている」と述べたように 、またCatciがその持続可能性と長期使用可能な点を魅力として挙げられているように 、デザインの美しさや価格だけでなく、製品が持つ背景や思想に共感して購入を決める旅行者も少なくない。

さらに、ドン(Dong Dong)のようなブランドは、廃棄されたプラスチック製の防水シートを再利用してユニークで耐久性のある製品を生み出し、サーキュラーファッションの可能性を示している 。こうした取り組みは、まだ一部かもしれないが、環境意識の高い旅行者にとっては、そのブランドを選ぶ強い動機となり得る。それは、単に服を買うという行為を超えて、より良い未来への小さな一票を投じるような感覚に近いのかもしれない。

ホーチミン市、きらめくファッションストリートの誘惑

ベトナムファッションの熱気を肌で感じるなら、やはりホーチミン市だろう。この都市には、旅行者の心を躍らせるような魅力的なショッピングエリアが点在し、それぞれが独自の物語を紡いでいる。

A. ショッピングの聖地:グエンチャイ通りとリートゥチョン通り

シンガポール人女性が2日間を費やして巡ったというグエンチャイ通りやリートゥチョン通りは、まさにホーチミン市のファッションシーンを象徴する存在だ [ユーザーニュース]。グエンチャイ通りは、ヒップなファッションビジネスやストリートベンダーで知られ、シックなストリートウェアから手頃な価格のローカルデザイナーズブランドまでが軒を連ね、特に若い買い物客に人気が高い 7。この通りは、もともと市民のショッピングエリアとして自然発生的に発展し、衣料品店や靴店が増え、現在では週末や祝日には多くの人々で賑わう「ファッションストリート」として公式に位置づけられている 。

一方、リートゥチョン通りには、「The New Playground」のようなローカルブランドのコンセプトモールがあり、多くの個性的な店舗が集まっている 8。古いアパートメントを改装したスペースに、ユニークなショップやスリフトショップが入居していることもあり、探検するような楽しさがある 10。これらのストリートは、単に商品を売買する場所ではなく、街のエネルギーとクリエイティビティが交差する、刺激的な空間なのである。

B. 地元ブランドの旗艦店:CatciとLSoulの事例

こうした活気あるエリアで、特に注目を集めているのが、個々のローカルブランドだ。例えばホーチミン市3区に店舗を構える「Catci」は、そのミニマルなデザイン、コーディネートのしやすさ、手頃な価格、そして持続可能性と長期使用を重視した製品作りで、多くの海外顧客から支持を得ている 。ブランドの公式ウェブサイトには「Made by Woman's Power」という言葉が掲げられ、ミニマリストライフスタイルを広め、それをサポートするツールとしてのファッションを提案している 。製品の品質を優先し、多様なスタイリングを可能にすることで製品寿命を延ばし、ファッション廃棄物を削減するという「Living Green」の哲学は、現代の消費者の価値観と響き合うものがあるだろう 。

また、国内外で急速に存在感を増している「LSoul」は、バンコクや上海といった競争の激しい市場への進出も果たしている 。創設者のグエン・トロン・ラム氏は、現地の嗜好に合わせてデザインを微調整しつつも、ベトナムブランドとしての独自性を失わない戦略を語る 。IUやTWICE、BLACKPINKのジェニーといった世界のスターたちがLSoulのデザインを着用したことで、その知名度は飛躍的に高まった 。これらのブランドは、ベトナムファッションの質の高さと独自性を世界に発信する旗手と言えるだろう。

C. ブティックとコンセプトストア:隠れた宝物を探す喜び

ホーチミン市のショッピングの魅力は、有名なストリートやブランドだけにとどまらない。路地裏にひっそりと佇むブティックや、独自のセンスで選び抜かれた商品が並ぶコンセプトストアには、「隠れた宝物」を見つける喜びがある。

ドンコイ通り周辺の1区や3区には、個性的なブティックが点在し、ほぼあらゆるテイストと予算に合うものが見つかると言われている 。ある旅行者は、「サイゴンでは毎日新しいブランドや店が目に留まり、ブティック巡りや古着探しに夢中になった」と語り、地元のファッションブランドが数日おきに新作を発表する速さにも驚きを示している 。

特に、リートゥチョン通り26番地にあるような、古いアパートを改装したリテールスペースは、トレンディな婦人服を扱う地元経営のブティックが集まる「メッカ」となっている 。こうした場所での買い物は、単なる消費行動ではなく、その空間の雰囲気や歴史、店主のこだわりといったものに触れる文化体験でもある。MEAN BLVDのようなプラットフォームは、「ベトナムのファッションブランドを世界の舞台へ」という使命を掲げ、伝統技術とモダンデザインを融合させた「ベトナムの風合い(A Touch of Vietnam)」を発信している 。こうした店々を巡ることは、まるでアートギャラリーを散策するような、心豊かな時間をもたらしてくれるに違いない。そこでは、服との出会いだけでなく、新しい価値観や美意識との出会いが待っているのだ。

デジタル時代の追い風:#VietnamLocalBrand と #VietnamFashionTour

ベトナムのローカルブランドが国境を越えて注目を集める背景には、デジタル技術、特にソーシャルメディア(SNS)の力が大きく作用している。かつては地理的な制約や情報伝達の限界があったが、今やスマートフォン一つで世界と繋がり、瞬時にトレンドが共有される時代だ。

A. SNSが紡ぐ物語:TikTokとインスタグラムの影響力

ニュース記事が伝えるように、TikTokやインスタグラムでは「#VietnamLocalBrand」や「#VietnamFashionTour」といったハッシュタグを付けた動画が数十万回も再生されている [ユーザーニュース]。これは、単なる数字以上の意味を持つ。これらのハッシュタグは、ベトナムファッションに関心を持つ人々のコミュニティを形成し、情報を集約・拡散する強力なプラットフォームとなっているのだ。

特に若い世代にとって、SNSはファッションの情報を得る主要な手段であり、購買行動にも大きな影響を与えている 。TikTokは、その短い動画フォーマットとアルゴリズムによって、新たなトレンドを驚異的な速さで生み出し、拡散する力を持つ 。特定の美意識やライフスタイルを表現する「コア」トレンド(例:cottagecore)や、ユーザー自身がコンテンツを生成するUGC(User-Generated Content)は、TikTokが生んだ新しい潮流だ 。

ホーチミン市のファッションストリートやブティックでのユニークな買い物体験は、まさにSNS映えする格好の素材となる。旅行者が「The New Playground」のような刺激的な場所で見つけた一点ものの服や、個性的な店の雰囲気を撮影し、「#VietnamFashionTour」のハッシュタグと共に投稿する。すると、その投稿はアルゴリズムによって同じような興味を持つ他のユーザーのフィードに表示され、新たな関心を呼び起こす 17。こうして、物理的な体験がデジタルコンテンツとして増幅され、それがまた新たな物理的な訪問へと繋がるという、好循環が生まれているのだ。まさに「個人の体験がバイラルコンテンツとなり、#VietnamFashionTourを新たな消費者観光トレンドの『キーワード』に変えた」のである 。

さらに、SNSは、これまで潤沢な広告予算を持たなかった小規模なベトナムブランドにとっても、大きなチャンスをもたらしている。TikTokやインスタグラムのようなプラットフォームは、いわば「実力主義」の世界だ。創造的で共感を呼ぶコンテンツは、ブランドの規模に関わらず、多くの人々に届く可能性がある 17。インフルエンサーとの自然なコラボレーションや、一般ユーザーによるオーガニックなUGCは、時に大規模な広告キャンペーンよりも信頼性の高い情報として受け止められる。こうして、SNSはベトナムのローカルブランドが世界に向けてその魅力を発信し、ファンコミュニティを形成するための民主的なツールとして機能している。

そして、「#VietnamFashionTour」のようなハッシュタグの広がりは、単に個々のブランドが発見されるだけでなく、「ベトナムへのファッション旅行」という概念そのものを、旅行者とブランドがオンライン上で共同で創造し、強化していくプロセスとも言えるだろう。ユーザーニュースで触れられているように、これらのハッシュタグが数十万回再生されているという事実は、ベトナムがファッションデスティネーションとして認識されつつあることを示している。これは、個々のブランドの努力だけでなく、SNSを通じた集合的な物語構築の力なのである。

「メイド・イン・ベトナム」のルネサンス:世界への飛躍

ベトナムのファッションシーンが今、新たな局面を迎えている。かつて世界の工場として知られたこの国は、その確かな製造技術を土台に、独自のクリエイティビティを開花させようとしている。それは、「メイド・イン・ベトナム」の単なる品質表示から、独自のブランド価値を伴う物語への進化である。

A. 「製造拠点」から「創造拠点」へ:進化する物語

ベトナムは長年にわたり、世界の衣料品生産を支える重要な拠点であり続けてきた。国のGDPの約3分の1を製造業が占め 、衣料品・繊維製品は2020年に350億米ドルに達する主要輸出品目である 。この事実は、ベトナムが高度な生産能力、熟練した労働力、そして品質管理のノウハウを蓄積してきたことを物語っている 。

しかし、今起きている変化は、この「製造DNA」を新たな形で活かそうとする動きだ。LSoulのようなブランドが、コスト削減のためだけでなく、「ベトナムのアイデンティティと『ユニークな色彩』を維持するため」に、あえて国内生産を選択している事実は象徴的である。これは、他国のブランドの下請けとしてではなく、自国の創造性を前面に出したブランドを育成しようという意志の表れだ。ホーチミン市繊維・刺繍・編物協会のファム・ヴァン・ヴィエット副会長が指摘するように、国内製品のコストは先進国の同様製品と比較して約45%であり、これは「期待を超える価値を持つリーズナブルな価格」を実現している 。

この「製造DNA」は、ベトナムファッションにとって諸刃の剣とも言える。確かな品質と生産効率は大きな強みだが、「世界の工場」というイメージから脱却し、独創的なデザインと魅力的なブランドを発信する「創造拠点」としての認知を確立するには、相当な努力と物語の転換が必要となる。LSoulの国際的な成功や、MEAN BLVDが「ベトナムの風合い(A Touch of Vietnam)」を世界に発信しようとする試みは、まさにこの認識を変えようとする動きであり、製造業の強みを創造性の土台として活用しようとする賢明な戦略と言えるだろう。

B. 活気あふれる国内市場:成長と競争

ベトナム国内のファッション小売市場は、目覚ましい成長を遂げている。2020年には市場価値が53億4000万米ドルに達し、2015年から2020年の間に倍増した。また、別の調査によれば、2025年までに35億米ドル規模に達すると予測されており、年平均9-10%の成長が見込まれている(これらの数値の違いは、調査機関や対象範囲によるものと考えられる)。この成長を牽引しているのは、可処分所得の増加、若く向上心のある人口、そしてファッションへの関心の高まりである。

特筆すべきは、ブランド製品への関心の高まりだ。2020年時点では、市場の大部分(76%)をノーブランド製品が占めていたものの、ブランド製品カテゴリーは2015年から2020年にかけて年平均24%という驚異的な成長率を記録しており、ノーブランド製品の11%を大きく上回っている。これは、消費者が単に安いものから、品質やデザイン、ブランドが持つ物語性を重視するようになっていることの表れだろう。

国際的な大手ブランド(Zara、H&M、Uniqloなど)は、一店舗あたりの収益性では依然として優位に立っているが、店舗数の拡大という点では、ベトナムのローカルブランドがリードしている。これは、草の根レベルでの成長と、国内ブランドの市場浸透が進んでいることを示唆している。

しかし、その一方で、国内ブランドはこれらのグローバル企業や、価格と多様性で圧倒する安価な中国製品との厳しい競争に晒されている 。外国人旅行者からの熱狂的な支持は、こうした国内市場の競争環境の中で、ローカルブランドにとって重要な収入源となり、ブランド価値を高める起爆剤となっているのかもしれない。外国人観光客によるローカルファッション製品の購入増加は、ベトナム市場にとって大きな利点であるとファム・ヴァン・ヴィエット氏も指摘している 。この「国内市場の国際化」 が、ローカルブランドの成長を後押しする好循環を生み出している可能性がある。

C. 未来への課題:「スタートライン」という現実

目覚ましい成長を見せるベトナムのファッション業界だが、専門家は「グローバル化への道のりにおいては、まだスタートラインに立ったばかりだ」と指摘する 。多くのブランドは依然として小規模であり、OBM(Original Brand Manufacturer:独自ブランド製造)モデルを追求するためのリソースが不足している 2。また、国内の素材供給は限られており、関連産業も十分に発展しているとは言えない状況だ 。

こうした課題に対応するため、ホーチミン市繊維・刺繍・編物協会は、新興ブランドに対して、小ロット生産、迅速な製品投入、そしてニッチ市場への集中といった戦略を推奨している 。これは、限られたリソースの中でリスクを最小限に抑え、着実に成長を目指すための現実的なアプローチと言えるだろう。

OBMモデルへの移行は、ベトナムファッション産業にとって大きな成長の可能性を秘めている。現在、ベトナムは年間350億米ドルもの繊維製品を輸出しているが、その多くは他国ブランドの製造委託である 18。もし、この一部でも自国ブランドの輸出に転換できれば、その経済的価値は計り知れない。これは、現在の成功の先にある、長期的な目標と言えるだろう。

服以上の何か:このファッションの旅が私たちに語りかけるもの

ベトナムのローカルブランドを巡る旅は、単に新しい衣服を手に入れる以上の、深い意味合いを私たちに投げかけている。それは、自己表現の探求であり、文化との出会いであり、そして変化し続ける世界の縮図でもある。

A. 自己表現と発見の言語としてのファッション

服を選ぶという行為は、私たちが何者であり、どうありたいかを表現する最も身近な手段の一つだ。特に旅先で出会うユニークな一点物は、その土地の記憶や感情と結びつき、特別な意味を持つようになる 。シンガポールから来た女性や他の旅行者たちがベトナムの服に惹かれるのは、それが単なる布製品ではなく、自分自身の物語を豊かに彩る「言葉」となるからだろう。

ファッション心理学が示唆するように、服装は私たちの気分や自己認識に影響を与える 。ホーチミン市の喧騒の中で見つけたドレス、個性的なブティックの片隅で出会ったシャツは、そのデザインの美しさだけでなく、発見の喜びや旅の思い出といった無形の価値をまとい、「自信を与えてくれる一枚(confidence piece)」となるのかもしれない 。それは、均質化されたグローバルブランドが溢れる現代において、多くの人々が渇望する「本物」の物語性や、自分だけの特別な繋がりを求める心の表れとも言えるだろう。

B. 糸で紡がれる文化交流

外国人旅行者がベトナムのローカルブランドを手に取ることは、経済的な取引を超えた、ささやかだが確かな文化交流の形だ。彼らは、MEAN BLVDが掲げる「ベトナムの風合い(A Touch of Vietnam)」に触れ、ベトナムのクリエイティビティや職人技を評価し、その一部を自らの日常に取り入れる。

これは、しばしば一方通行になりがちなグローバルファッションの流れ(例えば、欧米ブランドが世界市場を席巻する構図)とは異なる、より双方向的な関わり合いを示唆している。旅行者がベトナムのファッションに魅了され、その体験をSNSで発信することは 、ベトナム文化への理解と共感を広げる「ソフトパワー」として機能している。それは、服という身近な媒体を通して、異なる文化間の橋渡しをする試みとも言えるだろう。

C. 世界におけるベトナムの新たな物語

ローカルファッションブランドの台頭は、ベトナムという国が世界に向けて発信する物語を、より豊かで現代的なものへと進化させている。それは、かつての戦争や貧困といったイメージを乗り越え、創造性、起業家精神 6、現代性、そして独自の文化アイデンティティを前面に出した、新しいベトナム像の構築に貢献している。

特にLSoulのようなブランドが新型コロナウイルスのパンデミック後に「爆発的な成長」を遂げたという事実は 3、世界がベトナムの持つ新しいエネルギーや可能性に注目し始めていることの証左かもしれない。それは、若々しく、ダイナミックで、未来志向の国の姿を映し出している。

D. 結論に代えて:

一枚の服を求めて異国の街を歩く。それは、なんと人間的な営みだろうか。ベトナムの路地裏で見つけた一着のドレスは、単なる物質ではない。そこには、作り手の想い、その土地の空気、そして何よりも、それを見つけ出した旅人の心のときめきが織り込まれている。

この小さな発見の積み重ねが、私たちに何を教えてくれるのだろうか。それは、予期せぬ場所にこそ、自分を輝かせる美しさや、自分らしい物語の断片が隠されているということかもしれない。そして、心を込めて作られたもの、独自のビジョンを持つものへの静かな共感が、国境や文化の違いを超えて人々を結びつける力を持つということではないだろうか。

ベトナムのファッションを巡る旅は、結局のところ、その国の文化の深層に触れる旅であり、ひいては自分自身の内面を見つめ直す旅でもあるのだ。一枚の布が、これほどまでに豊かな物語を私たちに語りかけてくれる。その事実に、私たちはもう少し耳を澄ませてみるべきなのかもしれない。