半日しかもたなかった節約
先月、ひとつ決心をした。毎月100ドル払っていたClaude CodeのMaxプランを、20ドルのProプランに落としたのだ。他にもChat GPTとGeminiの20ドルプランを契約している。毎月合計140ドルは痛い。
月80ドルの節約。年間にすれば約1,000ドル。ベトナムで暮らす身としては、決して小さくない金額だ。「Proでも十分やれるはずだ」と自分に言い聞かせて、プラン変更のボタンを押した。
結果から言うと、半日もたなかった。
また100ドルのMaxプランを契約し直していた。あっと言う間に上限にぶち当たって、気づけば再契約の画面を開いていた。
節約の決意、半日で崩壊。我ながら情けない話だが、ここに大事な発見があると思っている。
私の仕事は、もう高度なAIがない状態には戻れなくなっている。
一方、勤務先で使えるのはCopilot Basicのみ
ここからが本題だ。
個人としてはClaudeやChatGPT、Claude Code、Cowork、Codexと、使えるものは何でも使う生活をしている。ところが勤務先の環境で公式に使えるAIは、Microsoft 365に付いてくるCopilotの無償枠(いわゆるCopilot Basic)だけだ。
数ページの文書の翻訳を頼んでも出力されるのは半ページの要約のみだったりする。ExcelのCopilotに至っては、3回ほど質問したところで「今日の利用上限に達しました」と出る。
「エージェント」という機能もある。名前だけ聞くと最先端だが、実際はChatGPTのGPTsやGeminiのGemの劣化版のような何かだ。自前の知識ファイルを読み込ませることができず、実際に入れられるのはネット上のURLだけ。社内の資料を覚えさせて業務を任せる、という一番やりたいことができない。
調べてみると、これは仕様らしい。無償枠のCopilotは組織内のデータ(SharePointの資料など)にアクセスできず、それをやるには1ユーザー月30ドルの有償ライセンスが必要になる。さらに2026年4月からは無償枠のアクセス範囲自体が絞られ、混雑時には制限がかかる設計に変わった。私が食らった「本日の上限」は、たぶんこれだ。
業務効率化に必ずしも高性能モデルは必要ではない
私は「最新・最強のモデルじゃないと業務効率化はできない」とは思っていない。
いまはFable 5だ、GPT-5.6だと最前線のモデルが話題になっているが、実際の業務を分解してみると、文章生成、翻訳、転記、フォーマット整形、定型文書の下書きなど、単純な仕事がかなりの割合を占める。この手の仕事は、正直、型落ちのモデルでも十分こなせる。だから「安いモデル・無料枠でもやれることはある」というのが私の持論だ。
ただし、
高性能なAIに慣れた身体で低性能な環境に降りると、何もできなくなる。
Claude Codeなら「このフォルダのファイル全部読んで、この形式でまとめて」で終わる仕事が、Copilot Basicでは成立しない。同じ発想、同じ頼み方が通用しないのだ。結果、私はいまのところ、勤務先の環境ではほとんど効率化を実現できていない。
これは「モデルの性能」の問題ではなく、「道具に合わせて自分の仕事のやり方を組み替えられるか」の問題なのだと思う。
昨日の小さな発見:Copilot Basicでも数十ページの翻訳はできる
そんな中、昨日ひとつ学んだことがある。
数十ページあるベトナム語の資料を日本語に翻訳する、という仕事だ。Claudeなら、ファイルを渡して一言頼めば、翻訳版のファイルが一発で生成される。Copilot Basicのチャットに同じことを頼むと、まず最初にできないと断られる。そこをなんとか、と頼むと必ず要約になる。冒頭で書いたように、数十ページが半ページだ。
ところが、やり方を変えると景色が変わった。WordでファイルをひらいてWord内のCopilotを立ち上げ、「少しずつ」翻訳を頼んでいくと、最後まで全文を翻訳してくれるのだ。ただ、これは結構手間がかかる。一回頼んで、しばらくして終わったかどうか確認しに行って、終わっていたら、次お願いみたいなプロンプトを入れる。これを数十回。
ポン出しではないし、手間はかかるが小さく刻んで、アプリの中で作業させれば、無償枠でも仕事になる。地味な発見だが、これはたぶん汎用的な原則だ。
高性能AIの世界では考えなくてよかった工夫を、制約のある環境では自分で設計する必要がある。これは面倒くさい。面倒くさいが、実はベトナムで働く日系企業のバックオフィスの大半は、こちら側の世界にいると思う。
「Copilot Basicしかない会社」は、たぶん多数派
ここまで書いて気づいたのだが、私の状況はおそらく特殊ではない。
セキュリティやコストの事情で、会社が公式に許可するAIはMicrosoftの無償枠だけ。社員は個人でChatGPTやClaudeを触って「AIすごい」と知っているのに、会社の中ではその力を使えない。このギャップに悩んでいる人は、日本でもベトナムでも、相当な数いるはずだ。
だとすれば、問いはこうなる。
「最強のAIを会社に導入する」前に、「いま手元にある一番弱いAIで、どこまでやれるか」を突き詰める価値があるのではないか。
月100ドルのMaxプランに半日で出戻った人間が言うことではないかもしれない。個人としては、私はもう高度なAIなしでは仕事ができない身体になってしまった。それでも、制約だらけのCopilot Basicと格闘する経験は、「AIの性能」ではなく「仕事の分解の仕方」を鍛えてくれている気がする。
無償枠でどこまでやれるか。もう少し粘って、また報告したい。



