※本稿は2026年7月時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供であり、個別の法的助言を構成するものではない。具体的な対応にあたっては専門家への相談を推奨する。
はじめに
「ベトナムで会社を作ろう」と決めたとき、最初に確認すべきことは何か。事業計画でも、オフィスの場所でもない。「そもそもその事業は、外資100%でベトナムに参入できるのか」という根本的な問いだ。
日本では、会社を設立すれば原則としてどんな事業でも営むことができる。定款の目的に書けばよいだけだ。ところがベトナムでは、外国投資家の事業参入を「ネガティブリスト」で管理している。リストに載っている分野は、参入禁止か、条件付き(外資比率上限あり等)となる。リストに載っていなければ、国内企業と同じ条件で100%外資で参入できる。
この記事では、ベトナムの外資規制の全体像と、自分の事業が「外資100%でOKなのか、ダメなのか」を確認する具体的な方法を解説する。
第1章 ベトナムの外資規制は「三層構造」になっている
第一層:投資禁止分野 ―「絶対にダメ」な11分野
ベトナムの投資法(Luật Đầu tư、現行は法律第143/2025/QH15号。従来の法律第61/2020/QH14号を置き換えた)第6条は、内資・外資を問わず一切の投資が禁止される分野を定めている。麻薬取引、人身売買、爆竹製造、債権回収サービスなど、11分野がリストアップされている。
これに加え、外国投資家のみに適用される追加の禁止分野がある。報道・ニュース収集活動、捜査サービス、公共郵便サービス、国内旅行サービス(インバウンド観光を除く)などだ。
一般的なビジネスでこれらに該当することはまずないが、例えば「ベトナム国内向けの旅行代理店をやりたい」と考えている場合、外資100%では認められない。知らずに事業計画を進めてしまうと、IRC申請の段階で門前払いを食らうことになる。
第二層:条件付き市場アクセス分野 ― 「やれるけど条件がある」62分野
投資法の施行政令(現行は政令 96/2026/NĐ-CP。従来の政令 31/2021/NĐ-CP を置き換えた)は、外国投資家にのみ適用される市場アクセス条件を定めた「ネガティブリスト」を規定している。ここには62分野が記載されており、外資比率の上限、合弁パートナーの要件、投資形態の制限などが課されている。
代表的な分野と外資比率上限は以下のとおりだ:

ここで重要なのは、一般的な製造業の多くはこのリストに含まれていないという点だ。機械製造、電子部品、食品加工、繊維・アパレル、家具製造などの一般的な製造業は、外資100%での参入が認められている。
第三層:開放分野 ―「制限なし」
上記の2つのリストに載っていない分野は、外国投資家も国内投資家と同等の条件で参入可能だ。これが「ネガティブリスト方式」の原則であり、「リストに載っていなければ外資100%OK」ということになる。
ただし、「開放分野だから何の手続きも不要」というわけではない。事業の種類によっては、食品衛生証明、防火証明(PCCC)、環境許可など、業種固有のライセンスが別途必要になることがある。これが次に説明する「条件付き投資分野(附録IV)」の問題だ。
第2章 「条件付き投資分野」と「条件付き市場アクセス分野」は別物
混同すると痛い目を見る
ベトナムの法令には、紛らわしい2つの概念が併存している:
(A)条件付き投資分野(Ngành nghề đầu tư kinh doanh có điều kiện)
投資法の附録IVに記載されている。内資・外資を問わず、事業を行うためにライセンスの取得や特定の基準充足が必要な分野。2025年改正前は234分野が存在した。
例えば、食品加工業は「食品安全衛生証明」が必要、建設業は「建設許可」が必要、廃棄物処理は「環境許可」が必要――こうした業種固有のライセンス要件を定めたリストだ。
(B)条件付き市場アクセス分野(Ngành nghề hạn chế tiếp cận thị trường đối với nhà đầu tư nước ngoài)
投資法の施行政令(現行は政令96/2026/NĐ-CP。従来の政令31/2021/NĐ-CPを置き換えた)に規定されている。外国投資家にのみ適用される追加的な規制(外資比率上限、合弁要件等)がある62分野のリストだ。
外資企業は、(A)と(B)の両方を確認する必要がある。 例えば、ある事業が(B)のリストに載っていなくても(=外資100%OK)、(A)のリストに載っている場合(=業種ライセンスが必要)がある。逆に、(A)には載っていなくても(B)に載っている(=外資比率制限がある)こともある。
この2つのリストを「条件付き」という同じ日本語で訳してしまうため、混同が生じやすい。英語では(A)を "Conditional Business Lines"、(B)を "Restricted Market Access for Foreign Investors" と区別しているが、日本語の資料ではしばしば区別が曖昧になっている。
第3章 自分の事業が「外資100%でOK」か確認する5ステップ
ステップ1:WTO約束表を確認する
まず、ベトナムのWTOサービス分野約束表(Schedule of Specific Commitments in Services)で、事業のCPCコード(中央生産物分類コード)を確認する。
Committed(約束済み):外資100%が認められている
Restricted(制限あり):出資比率に上限あり
Unspecified(未約束):省庁の個別承認が必要(実務上、最もリスクが高い)
ステップ2:ネガティブリスト(政令96/2026、旧・政令31/2021)を確認する
政令96/2026/NĐ-CP(従来の政令31/2021/NĐ-CPを置き換えた)の附録に記載されたアクセス不可23分野と条件付き62分野に該当しないか確認する。
ステップ3:条件付き投資分野リスト(附録IV)を確認する
投資法附録IVの条件付き投資分野リストに該当するか確認。該当する場合は、その業種で必要なライセンスを特定する。
ステップ4:National Business Registration Portalで確認する
dangkykinhdoanh.gov.vn にアクセスし、ベトナムの産業分類コード(VSIC: Vietnam Standard Industrial Classification)を使って事業分野の登録可否を確認できる。ただし注意点がある:
ポータルの情報は「この分野は条件付き」という名称にとどまり、具体的な条件(外資比率上限等)は別途法令を確認する必要がある
ベトナム語のインターフェースが基本であり、日本語・英語対応は限定的
情報の更新にタイムラグがある場合がある
ステップ5:省の計画投資局(DPI)に事前相談する
上記の確認で判断がつかない場合、投資先の省のDPIまたは工業団地管理委員会に事前相談する。ベトナムでは法令の解釈が地方によって異なることがあり、書面での回答(công văn / 公文書)を取得しておくことが極めて重要だ。口頭での回答は後から「そんなことは言っていない」と覆されるリスクがある。
第4章 2026年の大改革 ― 38業種のライセンス撤廃と規制のパラダイムシフト
条件付き分野が234から199に縮減
2025年改正投資法により、附録IVの条件付き投資分野が大幅に再整理された。
38業種のライセンス要件が撤廃
6業種が新規追加
27業種が内容修正
結果、条件付き分野の総数は234 → 199に縮減
撤廃された38業種の主なもの:

新規追加された6業種:
無人航空機(ドローン)の輸入・販売・運用
データ仲介製品・サービス
データ分析・統合サービス
データプラットフォーム運営
発電・送電・配電・電気の卸売小売
古美術品・文化財の取引・保護
「事前許可」から「事後検査」へ
この改革の本質は、単なる業種数の削減ではなく、規制のパラダイムシフトにある。
撤廃された38業種では、従来の「ライセンスを取ってから操業」という事前許可制が廃止され、「政府が公表する事業条件を満たして操業を開始し、当局が事後的に検査する」方式に変わった。
これは日本人にとっては理解しやすい変化だ。日本ではもともと多くの事業が「事後チェック型」であり、事業開始後に税務調査や立入検査で法令遵守を確認される。ベトナムもこの方向に近づきつつあるが、「事後検査」がどの程度厳格に運用されるかは未知数であり、事業条件の充足を書面で証明できる体制を整えておくことが重要だ。
施行スケジュール
2026年3月1日:改正投資法の主要部分が施行
2026年7月1日:条件付き投資分野リスト(附録IV)の改正が施行
つまり、2026年3月から6月までの間は「旧リスト」が適用され、7月以降に「新リスト」に切り替わるという移行期間が存在した。この間に設立した企業は、新旧どちらの規定が適用されるかを法律事務所に確認すべきだ。
第5章 製造業の外資規制 ― 大半は外資100%でOK、でも落とし穴がある
一般的な製造業は開放分野
機械製造、電子部品、食品加工、繊維・アパレル、家具製造といった一般的な製造業の大半は、外資100%での参入が認められている。ネガティブリストにも条件付きリストにも載っていないため、国内企業と同等の条件で事業を展開できる。
例外:規制のある製造分野
ただし、以下の特殊な製造分野には規制が存在する:
📊 【ここに表画像を挿入】
ファイル名: No02_table3.png
複数事業を1法人で展開する場合の罠
ここに、日本人が最も陥りやすい落とし穴がある。
日本では、1つの法人で複数の事業を自由に展開できる。製造業をやりながら物流サービスも手がけ、小売もやる――定款の目的に書けばよいだけだ。
ところがベトナムでは、複数の事業分野を登録する場合、最も厳しい外資比率制限に全社が引きずられることがある。例えば:
製造業(外資100%OK)+ 物流サービス(49%上限の可能性)→ 全体が49%制限
製造業(外資100%OK)+ 広告業(合弁必須)→ 合弁パートナーが必要
つまり、将来の事業拡大を見越して「とりあえず色々な事業目的を定款に書いておこう」という日本的な発想が、ベトナムでは自ら参入条件を厳しくする結果になりかねない。
定款の事業目的は、実際に行う事業に絞って記載し、事業拡大時には都度変更申請する方が安全だ。
日本との違い ― 「日本の常識が通じない」ポイント
「何でもできる」vs「リストにないことだけできる」
日本の株式会社は、定款の目的を広く書けば原則としてどんな事業でもできる。政府が「この商売はダメ」と列挙するネガティブリストの発想は、多くの日本人ビジネスパーソンにとって馴染みがない。
ベトナムの外資規制は「許可されていないことは禁止」ではなく「禁止されていないことは許可」(ネガティブリスト方式)だが、リストの存在自体を知らずに事業計画を進めてしまう日本企業が後を絶たない。IRC申請の段階で「この事業分野は外資100%では認められません」と告げられ、事業計画の根本的な見直しを迫られるケースがある。
「地方ルール」の恐怖
日本では法務局の対応は全国でほぼ統一されている。東京で登記できるなら大阪でもできる。しかしベトナムでは、同じ法令でも省ごとに解釈が異なることが珍しくない。
ある省のDPIでは問題なく登録できたVSICコードが、別の省では「この分野は外資に開放されていない」と拒否されることがある。特に「未約束(Unspecified)」の分野では、担当官の裁量の幅が大きく、対応が予測しにくい。
対策は明確だ。書面での回答(公文書)を取得しておくこと。口頭での確認は法的な証拠にならない。
FTA特典を知らない日本企業が多い
日本はCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定) と 日越EPA(経済連携協定) の当事国であり、WTO約束表よりもさらに有利な条件が適用される分野がある。例えば、特定のサービス分野で外資比率の上限が引き上げられたり、市場アクセス条件が緩和されたりしている。
しかし、多くの日本企業はこれらのFTA特典を活用していない。現地法律事務所に「CPTPPの特典は使えるか」と一言聞くだけで、参入のハードルが下がる可能性がある。
ここが変わった(2025〜2026年)

まとめ:やっておくべきこと
事業の「外資適格性」を最初に確認する:事業計画を詰める前に、WTO約束表、政令96/2026(従来の政令31/2021を置き換えた)のネガティブリスト、投資法附録IVの3つのリストで自社の事業分野をチェックする
VSICコードを正確に特定する:ERC申請時に登録する産業分類コードの選択を誤ると、後から変更手続きが必要になる。コンサルタントまたは法律事務所に正確なコード選定を依頼する
定款の事業目的を「欲張らない」:複数の事業分野を登録すると、最も厳しい外資比率制限に全社が縛られるリスクがある。実際に行う事業に絞って記載する
CPTPP・日越EPAの特典適用を確認する:WTO約束表の条件よりも有利な条件が使える場合がある。法律事務所に「FTA特典は適用できるか」と確認する
投資先の省のDPIに書面で事前相談する:地方ごとに法令解釈が異なるベトナムでは、投資先の省の回答を書面(公文書)で取得しておくことが最大のリスクヘッジになる
附録IVの新リスト(2026年7月1日施行)で自社事業を確認する:38業種撤廃の恩恵を受けられる事業があるか、新たに条件が加わったデータ関連事業に該当しないか、現行の附録IVで確認する
「外資100%OK」でも業種ライセンスが必要な場合がある:外資比率に制限がなくても、食品衛生、消防(PCCC)、環境許可など業種固有のライセンスが別途必要になることがある。条件付き市場アクセス分野と条件付き投資分野を混同しないこと



