はじめに

ベトナムの子会社から日本の親会社にお金を払う。ロイヤルティ、技術サービス料、管理費、借入利子、配当 ― どれも海外子会社を持てば向き合うことになる支払いだ。

日本では、これらの支払いに対して所得税の源泉徴収が行われる。税率は支払いの種類と租税条約の有無で決まり、仕組みはシンプルだ。

ベトナムは違う。

ベトナムでは、親会社への支払いに対して外国請負業者税(Foreign Contractor Tax / FCT)が課される。そしてFCTは「VAT部分」と「CIT部分」という2つの税目の合算で構成されている。日本の源泉徴収税が「所得税」という単一の税目であるのに対し、ベトナムのFCTは二階建て構造なのだ。

さらに、所得の種類によってVAT率とCIT率の組み合わせが異なる。ロイヤルティのFCT率は10%(VATは不課税、CITが10%)、サービス料は10%(VAT 5%+CIT 5%)。同じ10%でも内訳が異なる。配当は0%。利子は5%。そしてデジタルサービスは2025年7月から合計15%になった。

この記事では、FCTの仕組み、所得種類別の税率、日越租税条約の活用方法、そして実務上の落とし穴を解説する。


第1章 FCTとは何か ― 二階建ての源泉税

対象

FCTは、ベトナムに恒久的施設(PE)を持たない外国企業が、ベトナム国内の企業との契約に基づいて所得を得る場合に課される。

ベトナム子会社が親会社に支払うロイヤルティ、サービス料、利子、リース料 ― これらすべてがFCTの対象だ。

VAT部分+CIT部分

FCTは以下の2つで構成される。

VAT部分: 外国企業がベトナムで提供する役務に対して課されるVAT。所得の種類によっては、そもそもFCTのVATの適用対象に入らないもの、VAT法上の不課税に当たるものがある。

CIT部分: 外国企業がベトナムで得る所得に対して課されるCIT(法人税)。こちらは所得の種類にかかわらず課されるのが原則だ。

FCT = VAT部分 + CIT部分

3つの計算方法

FCTには3つの計算方法があるが、日本の親会社のようにベトナムにPEを持たない外国企業の場合は、ほぼ確実に**直接方式(みなし方式)**が適用される。

直接方式: 支払額に対して、所得の種類ごとに定められたみなしVAT率・みなしCIT率を掛ける。最もシンプルで、最も一般的。


第2章 FCT税率表 ― 所得の種類で税率が変わる

みなし率はどこに書かれているか

先に根拠の場所を押さえておきたい。FCTのみなし率は、VAT部分がVAT法48/2024/QH15第12条2項bとCircular 69/2025/TT-BTC附属書ICIT部分がDecree 320/2025/NĐ-CP第12条3項に定められている。

長く根拠とされてきたCircular 103/2014/TT-BTCの税率表は、VAT側の第12条が2025年7月に、CIT側の第13条が2026年3月に廃止された。手元の解説書がCircular 103を指していても、そこに現行の表はもう無い。

主要な所得種類とFCT率

所得の種類 VAT率 CIT率 合計FCT率
物品の販売 ※下記参照 1% ※下記参照
サービス・コンサルティング 5% 5% 10%
ロイヤルティ 不課税 10% 10%
利子 不課税 5% 5%
建設(資材込み) 3% 2% 5%
運輸 3% 2% 5%
デジタルサービス 10% 5% 15%
機械設備のリース 5% 5% 10%
配当 0%

物品の販売 ― VATは一律1%ではない

附属書Iには「物品の分配・供給 1%」という行があるので、物品の販売はVAT 1%+CIT 1%で合計2%だと読みたくなる。しかし日本の親会社がベトナム子会社に物を売る、という典型的な場面では、そのVAT 1%は立たないことが多い。

Circular 69/2025/TT-BTC第9条2項b・cは、ベトナム国内で行う役務を伴わずに、国外の港で引き渡す形、またはベトナムの港で引き渡す形で物品を供給する場合を、FCTのVATの適用対象外としている。保証条項が付いていても扱いは同じだ。

引渡地点がベトナム領域内にある場合や、据付・試運転・保証・保守などの付随役務がベトナムで行われる場合は、同第9条3項cにより、物品の価額は輸入段階のVATだけを負担し、FCTのVATがかかるのは役務部分になる。付随役務が無償であっても同じだ。ただし契約で物品と役務の価額を分離できていない場合は、契約全体がFCTのVATの対象になる。機械設備の供給に役務が付く契約で価額を分離できないときは3%が適用される(同第9条6項c)。

みなし率1%が実際に立つのは、外国企業がベトナム国内で分配・販売を行い、かつ輸入段階のVATを負担していない類型(現地輸出入、保税倉庫からの販売など)に限られる。「物品だから2%」と暗記していると外す論点だ。

ロイヤルティとサービス料 ― 同じ10%でも内訳が違う

ロイヤルティ(技術ライセンス料)のFCT率は10%。内訳はVATが不課税で、CITが10%。 サービス料(技術サービス、コンサルティング)のFCT率も10%。内訳はVAT 5%+CIT 5%。

同じ10%だが、VAT部分の有無が異なる。これが効いてくるのは、ベトナム子会社がVAT控除方式を適用している場合だ。サービス料のVAT 5%は、条件を満たせばベトナム子会社が仕入VATとして控除できる余地がある。ロイヤルティのVATはそもそも発生しない。

ここで言う「不課税」は「税率0%」とは別物だ。ベトナムのVAT法は、FCTのVATの土俵にそもそも乗らない「適用対象外」(không áp dụng)、VAT法上の非課税品目である「不課税」(đối tượng không chịu thuế)、課税はされるが税率がゼロの「税率0%」(thuế suất 0%)を書き分けている。技術移転・知的財産権の譲渡・ソフトウェア製品およびソフトウェアサービスは不課税とされており(Decree 181/2025/NĐ-CP第4条13項)、ロイヤルティはここに入る。利子は信用供与サービスとして不課税。いずれも税率0%ではないので、仕入VATの還付という話にはつながらない。

同じ第4条13項は、技術移転や知的財産権の譲渡に機械設備の移転が伴う場合、技術・知財の価額を分離しなければ契約全額が課税対象になるとも定めている。ライセンス契約に設備の供給が抱き合わせになっているなら、契約書で金額の内訳を割っておきたい。

契約の分類が税率を決める

親会社への支払いが「ロイヤルティ」として分類されるか「サービス料」として分類されるかで、実質的な税負担が変わる。契約書で曖昧に記載すると、税務当局がより高い税率を適用するリスクがある。

契約書のベストプラクティス:

  • ロイヤルティ部分とサービス料部分を明確に分離して記載
  • 物品販売と据付サービスが混在する場合も、物品部分とサービス部分を分離
  • 分離できていないと、契約全体がFCTのVATの対象になる

第3章 配当 ― 0%だが手続きは必要

配当送金に源泉税はかからない

ベトナム国内法上、配当に対する源泉税は**0%**だ。ベトナム子会社から日本の親会社への配当送金は非課税。

日本では、外国法人への配当に対して原則20.42%の源泉徴収が行われるとされ、日越租税条約による上限は10%だ(同条約第10条2項)。ベトナムの0%は、日本人にとっては驚くほど優遇的に見える。

ただし、条件がある

配当送金には以下の条件がある。

  1. すべての税務義務が完了していること: CIT・VAT・PIT等のすべての納税義務を履行し、未納がないこと
  2. 配当送金の前に税務当局へ通知すること: 実務では送金の7営業日前までとされる
  3. 監査済み財務諸表で配当可能利益が確認されていること
  4. 利益剰余金がマイナスでないこと

「配当は0%だから簡単に送金できる」わけではない。税務義務の完了確認が前提であり、未納税金があると配当送金がブロックされる。


第4章 日越租税条約の活用 ― 手続きしなければ使えない

租税条約で軽減できるケース

日越租税条約は1995年10月24日にハノイで署名され、同年12月31日に発効した。源泉徴収税については、1996年1月1日以後に支払われる所得から適用されている。この条約に基づき、一部の所得についてFCTの軽減が可能だ。

所得の種類 国内法FCT率 条約上の上限 実務上の適用
配当 0% 10% 0%(国内法が低い)
利子 5% 10% 5%(国内法が低い)
ロイヤルティ 10% 10% 10%(同率)
機械設備のリース 10% 10%(使用料として) 10%(同率)
サービス料 10% PEがなければ非課税 6か月要件の確認が要る

条約上の上限は、配当(第10条2項)・利子(第11条2項)・使用料(第12条2項)のいずれも一律10%だ。持株比率に応じて7%まで下がるといった軽減枠は、日越租税条約には無い。持株比率で段階的に下がる形の条約もあるので、他国の条約の数字と取り違えないようにしたい。

機械設備の賃貸料は、第12条3項が「産業上、商業上または学術上の設備の使用または使用の権利の対価」を使用料に含めているため、条約上は使用料として上限10%になる。国内法のFCT率と同じ10%なので、この所得については条約を使う実益が小さい。

注目すべきはサービス料だ。ただし「PEが無ければ非課税」を単独で読むと危ない。日越租税条約第5条4項は、コンサルティングを含む役務を、従業員その他の者を通じて同一または関連するプロジェクトについて継続する12か月のうち6か月を超えて提供した場合、その企業はPEを有するものとみなすと定めている(サービスPE)。親会社の技術者が長期に出張して支援するような形は、この6か月要件に触れる可能性がある。加えて、ベトナムの税務当局は実務上サービス料にFCTを課すことが多く、条約の適用を通すには手続きが要る。

適用手続き

ステップ1: 日本の税務居住者証明書(Certificate of Tax Residency)を取得。日本の親会社の所轄税務署で申請する。処理には10〜15日程度かかるとされる。

ステップ2: Form 01/HTQTをベトナム子会社の所轄税務当局に提出。実務では支払いの60日前までに出しておくのが目安と言われる。

ステップ3: 税務当局の審査。実務では15〜40営業日程度を見込むとされる。

重要: 手続きが完了するまでは、国内法の税率でFCTを源泉徴収しなければならない。条約適用が確認された後に差額の還付を受ける形になる。


第5章 利子 ― 5%だが上限が複数ある

親会社からの借入に対する利子支払いのFCT率は5%(VATは不課税、CITが5%)。

ただし、利子費用にはFCT以外にも複数の制約がある(No.08で詳述)。

  1. EBITDA 30%ルール: 関連者間の借入利子費用は、EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)の30%が損金算入の上限
  2. SBV基準金利の150%: 借入金利は国家銀行基準金利の150%が上限。超過分は損金不算入
  3. FCT 5%: 利子支払額の5%がFCTとして源泉徴収

つまり、利子費用は「EBITDA制限」「金利上限」「FCT」の三重の制約を受ける。


第6章 申告・納付 ― 支払いのつど短い期限が来る

基本フロー

  1. 支払額からFCTを控除
  2. FCT申告書を税務当局に提出し、FCTを納付する。実務では支払日から10営業日以内とされる
  3. 月次または四半期の集約申告も可能

Gross-up問題

親会社との契約で「Net of Tax」(税引後金額)で合意している場合、FCTはベトナム子会社が負担する。この場合、Gross-up計算が必要になる。

例:親会社に100万円を支払いたい場合(FCT 10%)

  • 100万円 ÷ (1 - 10%) = 111.1万円が契約金額
  • FCT = 111.1万円 × 10% = 11.1万円
  • 親会社受取額 = 111.1万円 - 11.1万円 = 100万円

Gross-upにより、実質的なコストが約11%増加する。


日本との違い ―「日本の常識が通じない」ポイント

源泉税の構造

日本:所得税の源泉徴収(単一税目)。 ベトナム:VAT+CITの二階建て(FCT)。所得種類ごとにVAT率とCIT率の組み合わせが異なる。

配当の税率

日本:外国法人への配当に原則20.42%の源泉徴収とされる(条約で軽減)。 ベトナム:配当の源泉税は0%。ただし送金手続きに条件あり。

租税条約の適用

日本:届出書の提出で比較的スムーズに適用。 ベトナム:税務居住者証明書の取得、Form提出、当局の審査。手続きが完了するまでは国内法の税率で源泉徴収する。


ここが変わった(2025〜2026年)

みなし率の表が2回引っ越した

FCTのみなし率は、長らくCircular 103/2014/TT-BTCの表を見れば済んだ。その表はもう同じ場所にない。

  • VAT側: Circular 103/2014の第12条(みなしVAT率表)は、Circular 69/2025/TT-BTC第10条3項cにより2025年7月1日から廃止された。現行の表はVAT法48/2024/QH15第12条2項bとCircular 69/2025/TT-BTC附属書Iにある
  • CIT側: Circular 103/2014の第13条(みなしCIT率表)は、Circular 20/2026/TT-BTC第10条7項aにより2026年3月12日から廃止された(2025年度分から適用)。現行の表はDecree 320/2025/NĐ-CP第12条3項にある。Circular 20/2026/TT-BTC第7条5項aが「320号政令第12条3項による」と指している

率の数字そのものは大きく動いていないが、根拠として社内資料や税務当局への説明に書くなら、現行の条文に貼り替えておきたい。

デジタルサービスは「みなし率表から外れた」

デジタルサービスの合計15%は、みなしVAT率が5%から10%に引き上げられた結果ではない。順序が逆だ。

VAT法48/2024/QH15第9条3項が、ベトナムに恒久的施設を持たない外国供給者が電子商取引チャネル・デジタルプラットフォームを通じてベトナムの組織・個人に提供する役務を、**本則税率10%**の対象と定めた。あわせてCircular 69/2025/TT-BTC第9条6項aが、みなし率表の適用対象から「電子商取引チャネル・デジタルプラットフォームを通じて提供される役務」を除いている。みなし率の世界から出て、本則の10%が直接かかる形になったということだ。CIT側は役務5%のままなので、結果として合計15%になる。

プラットフォームがPEの一類型になった

Decree 320/2025/NĐ-CP第2条3項eは、外国企業が物品・役務をベトナムで提供する経路となる電子商取引プラットフォーム・デジタルプラットフォームを、恒久的施設の一類型として明記した。「PEを持たない外国企業への支払いだからFCT」という整理が、デジタル領域では前提から崩れる。自社のオンライン取引がどちらの箱に入るかは、個別に確認しておきたい。


まとめ:やっておくべきこと

  1. 親会社との契約で、ロイヤルティとサービス料を明確に分離する。 分類が曖昧だと、税務当局がより高い税率を適用するリスク

  2. FCTの負担条項(Gross-up or Net)を契約で明確にする。 Gross-upの場合、約11%のコスト増加を予算に織り込む

  3. 日本の税務居住者証明書の取得フローを確立する。 毎年取得が必要。処理に10〜15日程度かかるとされる

  4. 租税条約の適用手続きは余裕をもって開始する。 実務では支払いの60日前が目安と言われる。手続きが間に合わなければ国内法の税率でFCTが源泉徴収される

  5. 配当送金の手続き(事前通知、税務義務完了確認)を忘れない。 税率は0%でも、手続きは要る

  6. FCTの申告・納付の期限をカレンダーに載せる。 実務では支払日から10営業日以内とされる

  7. 機械設備の輸入契約は、物品部分とサービス部分を分離して記載する。 分離できていないと、契約全体がFCTのVATの対象になる

  8. デジタルサービスの合計15%と、プラットフォームがPEの一類型になった点を確認する。 本社のITサービスや自社のオンライン取引が該当するかを見る

  9. みなし率の根拠がCircular 103/2014から移った点を、社内資料に反映する。 VAT側はCircular 69/2025附属書I、CIT側はDecree 320/2025第12条3項


参照時点と主要根拠法令

本記事は2026年3月時点の調査に基づいていますが、みなし率の根拠法令・日越租税条約の適用関係・FCTのVATの扱いについては2026年8月に一次資料で再確認し、2026年7月時点で有効な法令に合わせて書き直しています。法令は改正されるため、実務の判断は現行の一次資料で確認してください。

主要根拠法令: VAT法48/2024/QH15(第9条3項、第12条2項b)、Circular 69/2025/TT-BTC(第9条、第10条3項c、附属書I)、Decree 320/2025/NĐ-CP(第2条3項e、第12条3項)、Circular 20/2026/TT-BTC(第7条5項a、第10条7項a)、Decree 181/2025/NĐ-CP(第4条13項)、Circular 103/2014/TT-BTC(第12条・第13条はいずれも廃止済み)、日越租税条約(1995年10月24日署名・同年12月31日発効。第5条4項、第10条2項、第11条2項、第12条2項・3項)