はじめに
ベトナムへの進出を検討するとき、最初にぶつかる問いがある。「どういう形で出るか」だ。
日本国内で事業を展開するとき、「支店を出す」「子会社を作る」「駐在員事務所を置く」の違いを深く意識することは少ない。支店でも子会社でも、製造も販売もできる。登記の仕方が違うだけ、くらいの感覚だろう。
ところがベトナムでは、この「器」の選択が事業の命運を分ける。なぜなら、進出形態によって「できること」と「できないこと」が法律で明確に線引きされているからだ。支店では製造ができない。駐在員事務所では契約が結べない。選択を間違えると、事業計画そのものをゼロからやり直すことになる。
この記事では、ベトナムにおける3つの進出形態 ― 子会社(現地法人)、支店(Branch Office)、駐在員事務所(Representative Office) ― を法的根拠から実務上の違いまで徹底的に比較する。
第1章 3つの「器」の基本構造
子会社(現地法人)
ベトナム法上、外国投資家が設立した現地法人はベトナム法人として扱われる。独立した法人格を持ち、自社名義で契約を結び、資産を保有し、訴訟の当事者にもなれる。
日系企業が最も多く選択するのは一人有限責任会社(LLC)で、外資100%の完全子会社である。出資者が1社(親会社のみ)で、親会社が全額出資し、完全な経営権を握る形態だ。将来的に株式公開や第三者資本を入れたい場合は株式会社(JSC)(出資者3名以上)を選択するが、製造業の進出では一般的ではない。
子会社は投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)の2つの証明書を取得して設立する。法的根拠は投資法2020年(改正投資法2025年)と企業法2020年である。
支店(Branch Office / Chi nhánh)
支店は親会社の従属組織であり、独立した法人格を持たない。ベトナムでの支店設立は、商法2005年とDecree 07/2016/ND-CPに基づく。
ここで最も重要なポイントがある。ベトナムにおける外国企業の支店設立は、WTO加盟時の約束に基づき、特定のサービス業種にしか認められていない。
認められている主な業種は、銀行業、保険業、証券業、法務サービス、監査・会計サービス、経営コンサルティング、フランチャイズサービスなどのサービス業の一部に限られる。
つまり、製造業は支店形態でベトナムに進出できない。
これは日本人が最も衝撃を受けるポイントだ。日本では支店を出して工場を建てることは日常的だが、ベトナムでは法的に不可能なのである。
駐在員事務所(Representative Office / Văn phòng đại diện)
駐在員事務所は、親会社の連絡窓口・市場調査拠点として機能する従属組織である。支店と同じく、商法2005年とDecree 07/2016/ND-CPに基づいて設立される。
最大の特徴は、営利活動が一切禁止されているということだ。契約の締結、商品の販売、インボイスの発行 ― これらすべてが法律で明確に禁止されている。
第2章 設立の手続き・コスト・時間を比較する
子会社の設立
設立には2段階の手続きが必要だ。
第1段階:投資登録証明書(IRC)の取得 省・市レベルの計画投資局(DPI)に投資プロジェクトを申請する。法定処理期間は15営業日。ただし、条件付き投資分野に該当する場合は、承認機関の審査を経るため長期化する。
第2段階:企業登録証明書(ERC)の取得 IRC取得後に企業登録を申請する。法定処理期間は3営業日。
2025年改正投資法による変更点: 2026年3月1日施行の改正投資法により、外国投資家はIRC取得前にERCを先行取得できるようになった。これにより、法人設立の準備と投資プロジェクトの申請を並行して進められる。
法定期間だけ見れば3〜4週間で終わりそうだが、実際には書類の準備、翻訳、公証、アポスティーユ(外務省認証)、現地での事前調整を含めると、2〜4か月かかるのが実態だ。費用も、政府手数料は軽微だが、法律事務所への委託、翻訳・公証、オフィス登録を含めると5,000〜15,000 USD程度が相場である。
支店の設立
支店の設立は、所在地の**商工局(Sở Công Thương)**に申請する。子会社とは申請先が異なる点に注意が必要だ。
設立要件として、親会社が5年以上の事業実績を持つことが求められる(Decree 07/2016 第8条)。残存営業期間が1年以上あること、支店の事業がベトナムのWTOコミットメントに合致することも条件だ。
書類が揃えば、受理からライセンス発行まで7営業日。ただしこれは法定の処理期間で、書類の準備・翻訳・公証を含めた全体の実務所要は別にかかる。コストは3,000〜8,000 USD程度。ただしライセンスの有効期間は最長5年の更新制で、親会社の登記残存期間を超えることはできない。
駐在員事務所の設立
3つの形態の中で最も設立が簡単だ。
親会社の事業実績要件は1年以上(支店の5年よりはるかに低い)。申請先は支店と同じ商工局で、書類準備から開設までの全体の実務所要は2〜4週間程度、費用は1,000〜3,000 USD程度で完了する。ライセンスの有効期間は支店と同じく最長5年の更新制。
第3章 「何ができるか」が決定的に違う
進出形態の選択で最も重要なのは、「何ができるか」の違いだ。
子会社:フル機能
- 製造、販売、サービス提供、輸出入などあらゆる商業活動が可能
- 自社名義で契約を締結できる
- インボイスを発行できる
- 工場の建設・運営ができる
- 独立した資産を保有できる
- 訴訟の当事者になれる
支店:限定的な商業活動
- ライセンスの範囲内で契約締結・インボイス発行が可能
- 独自の印鑑、税コード、銀行口座を持てる
- ただし、製造業は設立自体が不可
- 親会社がすべての法的責任を直接負う
駐在員事務所:連絡・調査のみ
- 親会社との連絡業務
- 市場調査・情報収集
- 親会社が締結した契約の履行監督
それ以外はすべて禁止。契約締結、販売、インボイス発行、製造 ― いずれもできない。
この違いを一覧にすると、以下のとおりだ。
| 活動内容 | 子会社 | 支店 | 駐在員事務所 |
|---|---|---|---|
| 製造 | 可能 | 不可(製造業は設立不可) | 不可 |
| 販売・サービス提供 | 可能 | 可能(ライセンス範囲内) | 不可 |
| 契約締結 | 可能 | 可能 | 不可 |
| インボイス発行 | 可能 | 可能 | 不可 |
| 工場建設・運営 | 可能 | 不可 | 不可 |
| 市場調査・情報収集 | 可能 | 可能 | 可能 |
第4章 税務と利益送還 ― 「器」で変わるお金の流れ
子会社の税務
子会社はベトナム法人として、以下の税務義務を負う。
- 法人税(CIT):標準税率20%。業種・地域条件により**10〜17%**の優遇税率あり
- 付加価値税(VAT):標準10%。輸出は0%
- 個人所得税(PIT):雇用する従業員の給与に対する源泉徴収義務
- 外国請負業者税(FCT):親会社へのロイヤルティ・技術サービス料に対してVAT+CITの二重課税
子会社の最大のメリットの一つは、利益送還税が0%であること。会計年度の確定申告を完了し、累積損失がなければ、税引後利益を親会社に送金できる。実務では、送金の7営業日前までに税務当局へ通知するとされる。
支店の税務
支店もCIT**20%**が適用されるが、子会社との重要な違いがある。
- 税制優遇の適用範囲が子会社より限定的。業種・地域に基づくCIT優遇は、子会社に比べて認められにくい
- 会計処理は本店との共同会計が原則。本店にデータを転送し、本店が連結する
- **本店への資金配分(Head Office Allocation)**のルールが厳格。移転価格税制の対象にもなりうる
利益の送金自体は可能だが、「配当」ではなく「本店への資金送金」という扱いになる。
駐在員事務所の税務
駐在員事務所は営利活動を行わないため、CIT・VATは原則非課税。ただし注意点がある。
- 雇用する現地スタッフの給与に対するPIT源泉徴収義務は発生する
- 事業免許税は年間100万VNDとされるが、駐在員事務所が免除の対象になるかを含め、現行規定での確認が必要だ
- 運営費用はすべて親会社からの送金で賄い、親会社側で経費処理する
第5章 法的責任 ― 親会社はどこまで責任を負うか
ここが「器」選びで見落とされがちな、しかし極めて重要なポイントだ。
子会社の場合:責任は出資額の範囲内
子会社(LLC)は独立した法人格を持つ。親会社の責任は定款資本(出資額)の範囲内に限定される。ベトナムでの債務や訴訟が、出資額を超えて日本本社に波及することは原則としてない。
これは日本の株式会社と同じ「有限責任」の考え方だ。
支店の場合:親会社が無限責任を負う
支店は親会社の一部であり、独立した法人格を持たない。したがって、ベトナムでの支店の債務や法的責任は、親会社が全額負担する。
仮にベトナムの支店で大きな損害賠償事案が発生した場合、その責任は直接日本本社に及ぶ。これは日本国内で支店を出す場合と同じ構造だが、海外事業においては為替リスク、法制度の違い、訴訟対応の困難さが加わるため、リスクの深刻度が桁違いに大きくなる。
駐在員事務所の場合:やはり無限責任
駐在員事務所も親会社の従属組織であるため、法的責任は親会社が全額負担する。ただし、駐在員事務所は営利活動を行わないため、実務上、大きな責任が発生するリスクは相対的に低い。
第6章 撤退の難易度 ― 入るより出る方が難しい
ベトナムからの撤退を考えたとき、「器」の違いが如実に表れる。
子会社の清算:最も複雑
子会社の清算には、税務調査(最大過去5年分)、従業員の退職手続き(退職手当の支払い義務)、債権債務の整理、官報での公告、複数の省庁への届出が必要となる。実務上、6〜12か月、場合によってはそれ以上かかる。No.06で詳しく解説するが、「ベトナムは入るより出る方がはるかに難しい」というのは、まさにこの清算手続きのことだ。
支店の閉鎖:中程度
支店は子会社に比べると手続きが簡素だが、税務精算や従業員対応は必要。ライセンスが5年の更新制であるため、更新しないことで自然消滅させるという選択肢も理論上はある。ただし、適切な閉鎖手続きを経ずに放置すると、親会社の信用に影響しうる。
駐在員事務所の閉鎖:最も簡易
駐在員事務所は営利活動を行っていないため、税務調査も簡素で、閉鎖手続きは比較的スムーズだ。商工局への届出とスタッフの退職手続きが主な作業となる。
第7章 「経営拠点」という第4の選択肢
実はベトナムには、上記3形態に加えて**経営拠点(Địa điểm kinh doanh / Business Location)**という形態がある。これは子会社や支店の「分室」のようなもので、すでにベトナムに法人や支店を持っている企業が、追加の拠点を設置する場合に使う。
経営拠点は法人格がなく、独立した契約や税務申告はできない。本店(またはベトナム法人)の管理下で運営される。設立手続きは所在地の計画投資局への通知だけで済むため、最も簡素だ。かつては設置場所に制限があったが、現在は本店と同じ省・市内にも設置できるとされる。
進出の初期段階で選択する形態ではないが、事業拡大時に知っておくと役立つ。
日本との違い ―「日本の常識が通じない」ポイント
「支店」の意味がまったく違う
日本で「支店を出す」と言えば、本社と同じ事業ができる拠点を増やすことを意味する。製造業が支店の近くに工場を建てることも当然ある。しかしベトナムでは、外国企業の支店はWTOコミットメントで許可された特定のサービス業種にしか認められない。この違いを知らないまま「まずは支店を出して様子を見よう」と計画すると、そもそも設立できないという事態に陥る。
駐在員事務所の「グレーゾーン」が危険
日本企業の海外駐在員事務所は、現地のお客様との商談、見積もりの提示、サプライヤーとの価格交渉など、実質的な営業活動を行っていることが少なくない。しかしベトナムの法律は、駐在員事務所の活動範囲を極めて厳格に制限している。
もし駐在員事務所が契約当事者として契約書に記名していた場合、その契約自体の法的有効性が問われるリスクがある。さらに、実質的に営利活動を行っていると税務当局に認定された場合、恒久的施設(PE)として課税される可能性もある。
ライセンスに「有効期限」がある
日本の法人登記には有効期限がない。一度設立すれば、解散手続きをしない限り存続する。ベトナムの子会社もIRCに基づくプロジェクト期間(最長50年、延長可)が設定されるが、支店と駐在員事務所のライセンスは最長5年の更新制だ。更新手続きを怠るとライセンスが失効し、事業を継続できなくなる。
5年ごとの更新手続き自体は複雑ではないが、「忘れていた」では済まされない。事業継続に直結するリスクだ。
出資額で責任が変わる
日本の100%子会社では、親会社の責任は出資額の範囲内に限定される。これはベトナムの子会社(LLC)でも同じだ。しかし支店を選んだ場合、親会社は無限責任を負う。海外事業のリスクが日本本社にストレートに波及する構造になる。日本国内の支店では意識しにくいリスクだが、海外事業では致命的な違いになりうる。
第8章 子会社の「会社形態」― 5つの選択肢と現実解
企業法2020が定める5つの企業形態
子会社(現地法人)を設立すると決めた場合、次に選ぶのが「どの会社形態にするか」だ。ベトナム企業法2020(法律第59/2020/QH14号)は、以下の5つの企業形態を規定している。
| 企業形態 | ベトナム語名 | 出資者数 | 法人格 | 外資設立 |
|---|---|---|---|---|
| 一人有限責任会社 | Công ty TNHH một thành viên | 1名(個人または法人) | あり | 可能 |
| 二人以上有限責任会社 | Công ty TNHH hai thành viên trở lên | 2〜50名 | あり | 可能 |
| 株式会社 | Công ty cổ phần | 3名以上(上限なし) | あり | 可能 |
| 合名会社 | Công ty hợp danh | 2名以上の無限責任社員 | あり | 不可 |
| 私営企業 | Doanh nghiệp tư nhân | 1名(個人のみ) | なし | 不可 |
合名会社の無限責任社員はベトナム国籍の個人に限られ、私営企業はベトナム国籍の個人のみが設立できる。つまり、外資企業が選べるのは上の3つ ― 有限責任会社(一人型・二人以上型)と株式会社に限られる。
一人有限責任会社(Single-Member LLC)
出資者が1名の有限責任会社だ(企業法2020 第74条〜第87条)。日系企業がベトナムに100%子会社を設立する場合、日本の親会社が唯一の出資者となるため、この形態を選択する。
出資者の責任は定款資本の範囲内に限定される。株式の発行はできないが、社債の発行は可能だ。出資持分の第三者への一部譲渡を行えば、二人以上有限会社または株式会社への形態変更が必要になる。
二人以上有限責任会社(Multi-Member LLC)
出資者が2名以上50名以下の有限責任会社だ(企業法2020 第46条〜第73条)。日越合弁(ジョイントベンチャー)でよく使われる形態である。社員総会(Hội đồng thành viên)が最高意思決定機関で、出資者全員で構成される。
株式会社(JSC)は何が違うか
株式会社(企業法2020 第111条〜第176条)は最低3名以上の株主が必要で、株式を発行でき、株主が持分を自由に譲渡できる。将来的にベトナム証券取引所への上場も可能だ。
ただし、日系製造業が株式会社を選ばない理由は明確だ。親会社1社で100%子会社を作る場合、最低3名の株主要件を満たすために名目株主を立てなければならない。取締役会の設置(3〜11名)が義務で、株主総会の招集手続き等のコーポレートガバナンスも重い。親会社1社が100%支配する子会社にとって、この複雑さは純粋なコストだ。
株式会社の機関構造は以下のとおりだ。
| 機関 | 役割 | 必須/任意 |
|---|---|---|
| 株主総会(Đại hội đồng cổ đông) | 最高意思決定機関 | 必須 |
| 取締役会(Hội đồng quản trị) | 経営の意思決定・監督 | 必須(3〜11名) |
| 社長(Giám đốc / Tổng giám đốc) | 日常業務の執行 | 必須 |
| 監査役会(Ban kiểm soát) | 経営の適法性監査 | 条件付き必須 |
第9章 一人有限会社の機関設計
2つのモデル
一人有限会社の出資者が法人(日本の親会社)である場合、企業法2020第79条に基づき、2つの機関設計モデルから選択できる。
| 機関設計モデル | 構成 | 適している場合 |
|---|---|---|
| モデル1:社員総会型 | 社員総会(3〜7名)+ 社長 | 親会社が複数の委任代表者を派遣する場合 |
| モデル2:会長型 | 会長(1名)+ 社長 | 親会社が1名の代表者で経営する場合(最も一般的) |
モデル2(会長型)が圧倒的に多い理由
日系企業の多くは、モデル2(会長+社長)を選択する。親会社が1名の委任代表者を指名し、その人物が会長(Chủ tịch công ty)を務める。社長は会長が兼任することも、別の人物を任命することも可能だ。
実務上最も多いのは、日本人駐在員が会長兼社長兼法定代表者を務めるパターンだ。意思決定がシンプルで、親会社のコントロールが効きやすい。
ただし、法定代表者はベトナムに常駐する義務があり、30日以上ベトナム国外に滞在する場合は、書面で他の人物に権限を委任しなければならない(企業法2020 第12条第3項)。一時帰国や出張が多い場合は、法定代表者を現地のベトナム人マネージャーに委任し、会長は日本人が務めるという分離パターンも検討に値する。
監査役の設置
企業法2020では、法人が出資者である一人有限会社の監査役(Kiểm soát viên)設置義務が緩和された。旧企業法では1〜3名の監査役が必須だったが、現行法では定款で定める場合に設置すればよい。日系企業の場合、親会社の内部監査部門が実質的な監査機能を果たすため、現地法人に監査役を置かないケースが多い。
第10章 会社形態の変更(転換)
ベトナムでは、事業の成長や資本構成の変化に応じて会社形態を変更(転換)することが企業法で認められている(第202条〜第205条)。
| 転換元 | 転換先 | 典型的なケース |
|---|---|---|
| 一人有限会社 | 二人以上有限会社 | 出資持分の一部を第三者に譲渡した場合 |
| 一人有限会社 | 株式会社 | 出資者が3名以上に増えた場合、IPO準備 |
| 二人以上有限会社 | 一人有限会社 | 出資者が1名に減った場合 |
| 二人以上有限会社 | 株式会社 | 出資者を拡大する場合 |
| 株式会社 | 有限会社 | 株主が減少し要件を満たさなくなった場合 |
形態変更の手続きは、出資者の決議を経て企業登記機関に変更登録を申請する。処理期間は法定で3〜5営業日だが、外資企業はIRCの変更も必要になるため、実務上は2〜4週間を見込む。形態変更後も旧法人の権利義務は新法人にすべて承継され、税番号(企業コード)も変わらない。
ここが変わった(2025〜2026年)
改正投資法2025年(2026年3月1日施行)
最も大きな変更は、子会社設立手続きの柔軟化だ。
従来は「IRC(投資登録証明書)→ ERC(企業登録証明書)」の順序が厳格に求められていた。改正投資法では、ERCの先行取得が可能になった。つまり、投資プロジェクトの承認を待たずに先に法人を設立し、並行して投資手続きを進められるようになった。
これにより、子会社設立のスピードが向上する。従来は「IRCが出るまで何もできない」という待ち時間が長かったが、その間に法人設立の準備を進められるようになった。
また、条件付き投資分野の一部が緩和され、外資の参入がより容易になった分野もある。さらに「特別投資手続き(Thủ tục đầu tư đặc biệt)」が新設され、戦略的分野・地域での投資手続きを大幅に簡素化する仕組みが導入された。
CIT法2025年(2025年10月1日施行)
子会社の税務に直接影響する。No.04で詳述したとおり、工業団地の立地のみを理由とする税制優遇(2免4減)は廃止された。子会社であっても、工業団地に所在するだけではCIT優遇を受けられない。「何に投資するか」が優遇の基準となった。
支店の税務も同様に影響を受けるが、もともと支店への税制優遇の適用は限定的であったため、実質的な影響は子会社ほど大きくない。
省庁再編(Resolution 176/2025)
2025年2月の大規模な省庁再編により、一部の許認可の所管省庁が変更されている。支店・駐在員事務所の直接の申請先(商工局)に変更はないが、関連する業界固有の許認可(例:食品安全、環境許可など)の窓口は最新情報の確認が必要だ。
まとめ:やっておくべきこと
進出形態は事業内容から逆算して決める。 製造業なら子会社(LLC)一択。「支店で様子を見てから」は不可能
駐在員事務所を「とりあえず出す」場合は、活動範囲の制限を厳格に守る。 契約締結や営業活動を行った場合、ライセンス取消しや課税リスクに直面する
子会社設立には2〜4か月を見込む。 法定期間は3〜4週間でも、書類準備を含めた実務上の所要時間は大幅に長い
改正投資法2025年のERC先行取得を活用する。 2026年3月1日以降は、設立手続きの並行処理が可能になり、スピードアップが見込める
支店・駐在員事務所のライセンスは5年更新。 更新時期を管理カレンダーに入れ、失効を防ぐ
支店形態では親会社が無限責任を負う。 法的リスクの観点からも、子会社(LLC)の有限責任は大きなメリット
撤退の難易度まで考えて形態を選ぶ。 子会社の清算は6〜12か月かかる。駐在員事務所は比較的簡易
税制優遇は進出形態で変わる。 子会社は業種・地域条件による優遇を受けやすいが、支店は限定的
親会社への支払い(ロイヤルティ・サービス料)にはFCTがかかる。 子会社からの支払いでも支店からの支払いでも、外国請負業者税の検討が必要
現地の法律事務所と早期に連携する。 進出形態の選択は、投資法・企業法・商法・税法にまたがる複合的な判断。専門家のアドバイスなしに進めるのはリスクが高い
参照時点と主要根拠法令
本記事は2026年3月時点の調査に基づいています。法令は改正されるため、実務の判断は現行の一次資料で確認してください。
主要根拠法令: 投資法2020年(改正投資法2025年)/企業法2020年(法律第59/2020/QH14号)/商法2005年/Decree 07/2016/ND-CP/CIT法2025年/Resolution 176/2025(省庁再編)



