はじめに

ベトナムの付加価値税(VAT)は、日本の消費税に相当する間接税だ。標準税率は10%。日本の消費税10%と同じ数字だが、その運用はまったく異なる。

日本では、消費税の還付は確定申告書に還付額を記載すれば、通常1〜2か月で自動的に処理される。特別な申請手続きも、税務調査も、原則として入らない。

ベトナムでは、VAT還付を受けるには別途の還付申請が必要で、税務調査が入ることが多く、処理に40営業日以上(約2か月)かかる。設備投資で数千万円分のVATを支払っても、還付金が入金されるまで2か月以上待たされる。資金繰りに直結する話だ。

さらに、2024年11月に国会で可決された新VAT法(Luật Thuế GTGT 2024)が2025年7月1日から施行され、複数の重要な変更が加わった。加えて、VAT 2%一時引下げ(10%→8%)が2026年12月31日まで延長されており、品目によって税率が8%なのか10%なのかの判定が必要になっている。

この記事では、ベトナムのVAT制度の全体像、電子インボイス(e-invoice)の義務、そしてVAT還付の実務を解説する。


第1章 3つの税率 ― 0%・5%・10%

税率体系

税率 主な対象
0% 輸出品・輸出サービス、ベトナム国外で消費される物品
5% 農産物(一次加工品)、清水、教育・医療サービス、農業資材
10% 上記以外のすべて(標準税率)

日本の消費税が10%と8%(飲食料品)の2段階であるのに対し、ベトナムは3段階。さらに一時引下げにより**8%**が加わり、実質4段階になっている。

VAT 2%一時引下げ ― 8%税率

2025年7月1日から2026年12月31日まで、Resolution 204/2025/QH15により、10%税率の物品・サービスの多くが**8%**に一時引下げされている。

ただし、以下の8つの品目グループは引下げ対象外(10%のまま)。

  1. 電気通信・IT・金融サービス
  2. 銀行・証券・保険業
  3. 不動産業
  4. 金属・プレハブ金属製品
  5. 採掘業
  6. コークス・石油精製品
  7. 化学製品
  8. 特別消費税の対象物品

製造業の場合、自社の製品が金属製品に該当するかどうかで、売上に課すVAT率が8%か10%かが変わる。仕入側でも、購入する原材料や設備がどの税率に該当するかを確認する必要がある。

輸出のゼロ税率(0%)

輸出品にはVAT 0%が適用される。これは「非課税」ではなく「税率ゼロ%での課税」だ。この違いは重要で、0%課税であれば、輸出に関連する仕入VATは全額控除・還付の対象になる。非課税の場合は仕入VAT控除ができない。

ゼロ税率適用の要件:

  • ベトナムから海外に販売し、海外で消費される物品
  • 通関申告書、パッキングリスト、船荷証券、貨物保険証書を保管

新VAT法での変更 ― 現地受渡し輸出(On-Spot Export):

2025年7月1日から、現地受渡し輸出の定義が更新された。「外国企業の指示に基づき、ベトナム国内で受け渡される物品」が0%適用の対象になった。つまり、ベトナム国内のA社がB社(外国企業が指定したベトナム企業)に物品を引き渡す場合でも、その取引が外国企業との売買契約に基づくものであれば、0%が適用される。


第2章 仕入VAT控除 ― 4つの要件を満たさなければ控除できない

VAT控除の4条件

ベトナムでVAT仕入控除を受けるためには、以下の4条件すべてを満たす必要がある。

条件①:適法な電子インボイス(e-invoice)を保有していること

仕入先から受領したe-invoiceが、税務当局のシステムで真正性を確認可能であること。紙のインボイスや、税務当局のシステムに登録されていないe-invoiceでは控除不可。

条件②:非現金払いの証拠があること(VND 500万以上)

VND 500万(約3万円)以上の取引は銀行振込等の非現金払い証拠が必要。No.08で解説したとおり、CIT(法人所得税)法2025年でこの閾値がVND 2,000万からVND 500万に引き下げられた。VATにも同じ閾値が適用される。

条件③:事業目的であること

当該仕入がVAT課税対象の事業活動に直接関連すること。個人的な支出や、VAT非課税事業に使用する仕入は控除不可。 表:仕入VAT控除の4要件 条件④:e-invoiceの記載が正確であること

e-invoiceに記載された会社名(ベトナム語)、税コード(Mã số thuế)、住所が正確に一致していること。一文字でも異なると、仕入控除が否認されるリスクがある。


第3章 VAT還付 ― 申請しなければ戻ってこない

還付は「自動」ではない

日本の消費税では、確定申告で還付額が生じれば自動的に還付される。ベトナムでは還付申請が別途必要だ。そして、税務当局は還付申請を審査する。審査の過程で税務調査が入ることもある。

還付が認められるケース

ケース1:輸出企業

輸出売上がある企業で、仕入VAT残高がVND 3億(約180万円)以上、かつ12か月連続または4四半期連続で未控除のまま蓄積している場合。

ケース2:5%税率のみの企業

5%税率の物品・サービスのみを生産・販売し、仕入VAT残高がVND 3億以上、12か月/4四半期連続の場合。

ケース3:投資プロジェクト

設備投資・工場建設の段階で仕入VATが蓄積。投資完了から1年以内に還付申請。設立初期の製造業に最も関連するケースだ。

処理期間

先行還付(形式審査のみ): 6営業日。中小企業・優良納税者向け。 通常の確認型(税務調査あり): 40営業日。 事後確認型(還付後に調査): 40営業日。 表:VAT還付の条件と処理期間 外資の新規投資プロジェクトに対しては、税務当局が慎重な姿勢を取ることが多い。40営業日(約2か月)の処理期間を前提に資金計画を立てておきたい。


第4章 e-invoice ― ベトナムの会計インフラ

全企業義務化

2022年7月1日から、ベトナムの全企業に電子インボイス(e-invoice)が義務化された。紙のインボイスは原則廃止。すべてのインボイスはXML形式の電子データで発行・保管する。電子署名(Digital Signature)が必須(POSレシートを除く)。

2つのタイプ

税務当局コード付き: 発行時にリアルタイムで税務当局のコードが付与される。発行した瞬間に税務当局のシステムに記録される。中小企業向け。

税務当局コードなし: 大企業向け。発行日と同日中に税務総局に報告する義務がある。

e-invoiceと会計ソフトの連携

e-invoiceは単独で機能するものではない。会計ソフトとe-invoiceプロバイダー(Viettel S-Invoice、VNPT Invoice、FPT Invoice等)がシステム連携し、以下のフローが自動化される。

売上計上(会計ソフト)→ e-invoice発行(プロバイダー)→ 税務当局に送信 → 顧客に配信

仕入側でも、取引先から受領したe-invoiceの真正性を税務当局のシステムで検証し、会計ソフトに自動取り込みする仕組みが重要。

Decree 70/2025/ND-CP(2025年6月1日施行)の改正

  • e-invoiceの発行タイミングに関する規定の更新
  • 記載内容の要件強化
  • 修正・取消手続きの改善
  • POS e-invoiceの義務化(小売・飲食・宿泊業で年間売上VND 10億超)

第5章 月次申告か四半期申告か

選択基準

申告頻度 基準 申告期限
月次 前年の年間売上高VND 500億超(約3億円) 翌月20日まで
四半期 前年の年間売上高VND 500億以下 翌四半期の30日まで
設立初年度 売上実績なし 四半期申告

設立初年度は四半期申告。売上が成長してVND 500億を超えた時点で、翌年から月次申告に切り替わる。

月次申告の方が事務負担は大きいが、VAT還付を早く受けられるメリットがある(月次で仕入超過を確認できるため)。


日本との違い ―「日本の常識が通じない」ポイント

還付の仕組み

日本:確定申告で還付額を記載すれば自動処理。 ベトナム:還付は別途申請。税務調査あり。処理に40営業日以上。

税率の複雑さ

日本:10%と8%の2段階。 ベトナム:0%・5%・10%(一時引下げ8%)の実質4段階。品目ごとの判定が必要。

e-invoiceの記載精度

日本:適格請求書の記載事項はあるが、軽微な表記揺れで即座に否認されることは少ない。 ベトナム:e-invoiceの会社名・税コード・住所が完全一致でなければ控除否認リスク。


ここが変わった(2025〜2026年)

新VAT法2024年(2025年7月1日施行)

  • 現地受渡し輸出(On-Spot Export)の定義更新
  • 外国デジタルサービスのVAT率5%→10%
  • VAT免税閾値について、VND 3億から5億への引上げ(2026年1月から)という改正が伝えられている(詳細は原文で確認を)

VAT 2%一時引下げの延長

  • 2026年12月31日まで延長(Resolution 204/2025/QH15)
  • 8つの品目グループは引下げ対象外

Decree 70/2025/ND-CP

  • e-invoiceの発行・修正・取消手続きの更新
  • POS e-invoiceの義務化範囲拡大

まとめ:やっておくべきこと

  1. 自社製品のVAT税率を確認する。 10%か8%か。金属製品は8%引下げの対象外

  2. 仕入VATの控除要件を社内で徹底する。 e-invoiceの保管、非現金払い(VND 500万以上)、e-invoiceの記載内容確認を習慣化

  3. VAT還付の処理期間(40営業日)を資金計画に織り込む。 特に設立初期の設備投資段階では、仕入VATが大量に蓄積する

  4. e-invoiceプロバイダーを設立時に選定し、会計ソフトと連携させる。 Excelの手作業では対応が難しい

  5. 仕入先から受領するe-invoiceの会社名・税コードを毎回確認する。 間違いがあればその場で修正を依頼する

  6. 輸出ゼロ税率の適用には証明書類を完備する。 通関申告書、パッキングリスト、船荷証券、保険証書

  7. VAT申告頻度(月次 vs 四半期)の切替タイミングを管理する。 売上がVND 500億を超えたら翌年から月次

  8. VND 500万以上の現金払いは避ける。 VAT控除もCIT損金も両方失う


参照時点と主要根拠法令

本記事は2026年3月時点の調査に基づいています。法令は改正されるため、実務の判断は現行の一次資料で確認してください。

主要根拠法令: 新VAT法(Luật Thuế GTGT 2024、2025年7月1日施行)、Resolution 204/2025/QH15(VAT 2%一時引下げの延長)、Decree 70/2025/ND-CP(e-invoiceの発行・修正・取消手続き)、CIT法2025(非現金払い閾値VND 500万)