さわる管理会計 DAY 17 さわるベトナム のトレーニング教材

売る数と、作る数は一致しない ── 売上予算から生産予算・材料購入予算へ

全3部 / 前提知識: Day 13〜16(予算編成の考え方と需要予測) / 最終更新 2026-08-23

この回で分かること

  • 年度利益計画の中で、売上予算がすべての出発点になる理由を説明できる
  • 必要生産量=販売量+期末製品在庫−期首製品在庫の式を、自分で組み立てられる
  • 必要購入量と材料の使用額を区別し、両者がずれる理由を在庫の言葉で言える
PART 1 / 3

年度利益計画の背骨 ── 売上・生産・材料購入の3本をつなぐ

来期の販売計画は 1,000個。それなのに、工場に出す生産の指示は 1,040個。数字を打ち間違えたわけではありません。この 40個の差が、年度利益計画のいちばん最初に出てくる関門です。

会議室で起きたこと

本社の経理部から来期の年度予算フォーマットが届いた朝。ケンが、CFOのリンに空欄だらけのシートを持ってきた場面です。

ケン: リンさん、本社の中島部長から来期の年度予算のフォーマットが来ました。シートが何枚もあって、どこから埋めればいいのか分かりません。

リン: 順番は決まっているの。最初の1枚は売上予算。ここが決まらないと、残りの何枚も埋まらない。

ケン: 売上予算というのは、金額の目標ですよね。来期は 4,000 でいこう、という。

リン: 金額だけを置くと、そこで止まってしまうわ。売上予算は「販売予定数量 × 販売単価」で作るの。金額の裏に、数量が入っている。

ケン: 数量が要るのは、工場に何個作れと言うためですか。

リン: そう。ただし、売る数をそのまま作る数にはしないの。ケンさん、来期の期末に製品を何個持っておきたいの?

ケン: 今期は納期でお客さんを待たせたので、120個くらいは棚に置いておきたいです。いまは 80個です。

リン: なら作る数は 1,000 ではないわね。1,000 売って、期末に 120 残すには、いまある 80 に足りない分を作らないといけない。

ケン: 1,000 + 120 − 80 で、1,040個。……売上予算は動いていないのに、工場の負荷だけ増えるんですね。

リン: そこが今日の要よ。しかも同じ形の引き算が、材料の発注量でもう一度出てくるの。作る数が決まったら材料の必要量が決まる。でも発注する量は、その必要量とも一致しない。

ケン: 材料にも在庫があるからですね。

リン: その通り。売上予算 → 生産予算 → 材料購入予算。この3枚は1本の線でつながっていて、後ろの何枚もここにぶら下がっているの。

この場面で出てくる英語

Key Words & Expressions
English意味
sales budget売上予算。数量と単価から作る、年度計画の出発点
production budget生産予算。作るべき数量を決める予算
direct materials purchases budget直接材料購入予算。発注量と発注金額を決める予算
budgeted unit sales販売予定数量
target ending inventory期末在庫の目標水準
beginning inventory期首在庫
units to be produced必要生産量
master budgetマスターバジェット。個々の予算を束ねた全体計画

今日おさえる3つ

  1. 売上予算は「数量 × 単価」で作る。数量が、あとに続く予算すべての入力になる
  2. 必要生産量 = 販売量 + 期末製品在庫 − 期首製品在庫。在庫の差の分だけ、売る数と作る数はずれる
  3. 必要購入量 = 必要材料量 + 期末材料在庫 − 期首材料在庫。使う量と買う量も、同じ理由でずれる

年度利益計画は、売上予算から始まる

売上予算 → 生産予算 → 材料購入予算 ASTRA Manufacturing 来期予算 ── 前の予算の答えが、次の予算の入力になる ① 売上予算 Sales Budget販売予定数量 1,000個 × 単価 4.0 = 売上高 4,000 販売数量 1,000個 を渡す ② 生産予算 Production Budget1,000 + 期末120 − 期首80 = 必要生産量 1,040個 必要生産量 1,040個 を渡す ③ 直接材料購入予算 Direct Materials Purchases Budget1,040個 × 2kg = 2,080kg2,080 + 期末300 − 期首200 = 2,180kg × 0.5 = 1,090金額 4,000 は 見積損益計算書へ 数量 1,040個 は労務費・ 製造間接費の予算へも 金額 1,090 は 支払の予定として資金予算へ売上予算が 1割ずれると、下の2枚も同じ向きにずれる
図1 売上予算 → 生産予算 → 材料購入予算の連鎖

年度利益計画(Annual Profit Plan)は、何枚もの予算表の集まりです。並べる順番には理由があります。先に作った予算の数字が、次の予算の入力になるからです。その先頭に置かれるのが売上予算です。

先頭の3枚がつながる順番
予算決めるもの入力になる数字
1売上予算Sales Budget販売予定数量と売上高需要予測・販売価格の方針
2生産予算Production Budget必要生産量(数量)販売予定数量・製品在庫の方針
3直接材料購入予算Direct Materials Purchases Budget材料の発注量と発注金額必要生産量・原単位・材料在庫の方針

なぜ売上予算が先なのか

工場の稼働も、材料の発注も、人の配置も、「いくつ売るつもりか」が決まらないと量が決まりません。売上予算はその量を最初に置く場所です。ここが 1割ずれると、生産量も材料費も、そのあとの資金繰りも、同じ向きにずれていきます。予算編成でいちばん時間をかけるのがこの1枚なのは、そのためです。

金額ではなく、数量から作る

売上予算を「来期は 4,000」という金額だけで置くと、次の生産予算につながりません。売上高 = 販売予定数量 × 販売単価 と分解しておくと、数量が次の予算の入力として取り出せます。

価格の決め方は市場や競合の話ですが、予算表の上では単価は与件として1つの行に置き、数量と掛け合わせるだけです。単価を動かせば売上高は動きますが、生産量は動きません。逆に数量を動かせば、売上高も生産量も同時に動きます。この非対称は、右の演習パネルで数字を触ると手で分かります。

生産予算 ── 売る数に、在庫の差を足す

在庫ブリッジは2回出てくる ── 製品でも、材料でも、形は同じ 出ていく分 + 期末に残したい分 − すでにある分 = 用意する分 製品の箱 ── 生産予算 Finished Goods(単位: 個)売る分(販売予定数量) 1,000+ 期末に残したい分(目標) 120− すでにある分(期首在庫) 80= 作る分(必要生産量) 1,040検算: 80 + 1,040 − 1,000 = 120(目標と一致) 材料の箱 ── 材料購入予算 Raw Materials(単位: kg)使う分(必要材料量) 2,080+ 期末に残したい分(目標) 300− すでにある分(期首在庫) 200= 買う分(必要購入量) 2,180検算: 200 + 2,180 − 2,080 = 300(目標と一致) 同じ形違うのは箱の中身だけ。符号の向きは変わらない使う 2,080kg と 買う 2,180kg の差 100kg は、期末に棚へ残る
図2 在庫ブリッジは2回出てくる ── 製品の箱と材料の箱

生産予算が答えるのは1つだけです。「工場は何個作ればよいか」。式はこうなります。

必要生産量 = 販売予定数量 + 期末製品在庫の目標 − 期首製品在庫

Units to be produced = Budgeted unit sales + Target ending FG inventory − Beginning FG inventory

言葉にすると、期中に用意しなければならない製品の総数は「売る分」と「期末に棚へ残す分」の合計です。そのうち期首にすでに持っている分は作らなくて済むので、差し引きます。残りが工場の仕事になります。

符号の向きを、覚えずに出す

この式は暗記しなくても、在庫の箱を1つ描けば毎回その場で作れます。箱に入ってくるのは期首在庫と当期の生産。箱から出ていくのは販売。残るのが期末在庫です。

期首在庫 + 生産 − 販売 = 期末在庫

この式を生産について解くと、生産 = 販売 + 期末在庫 − 期首在庫 になります。

試験でよく落とすのは符号です。期末在庫を引いて期首在庫を足す、と逆に置いてしまう。上の箱の式から起こせば、向きを取り違えても自分で気づけます。

販売量と生産量が一致するのは、どんなときか

期首在庫と期末在庫が同じ数のときだけです。在庫を積み増す期は生産量が販売量より多くなり、在庫を取り崩す期は生産量のほうが少なくなります。ASTRAの来期は納期を短くするために製品在庫を 80個から 120個へ積み増す方針なので、生産量は販売量を 40個上回ります。

在庫を積むと工場は忙しくなり、材料の発注も増え、その分の現金が先に出ていきます。売上予算は1行も動いていないのにです。「在庫方針は、損益ではなく先に資金と工場の負荷に効く」というのが、この式が教えてくれることです。

直接材料購入予算 ── 同じ形の引き算が、もう一度

必要生産量が決まると、材料は2段階で決まります。

  1. 必要材料量 必要生産量 × 製品1個あたりの材料使用量(原単位)
  2. 必要購入量 必要材料量 + 期末材料在庫の目標 − 期首材料在庫

2段目は、生産予算とまったく同じ形をしています。違うのは、箱の中身が製品ではなく材料であることだけです。

2つの在庫ブリッジは同じ形
製品の箱(生産予算)材料の箱(材料購入予算)
出ていくもの販売units sold生産での使用units used
入ってくるもの生産units produced購入units purchased
求めたいもの生産量購入量
販売 + 期末 − 期首使用 + 期末 − 期首

買う量と、使う量は違う

材料購入予算でつまずくのは、購入額と使用額を同じものだと思ってしまうときです。

材料の使用額は、生産に投入する量に単価を掛けたものです。原価計算に乗っていくのはこちらです。一方で購入額は、発注する量に単価を掛けたもので、支払いの元になるのはこちらです。材料在庫を積み増す期は、購入額のほうが使用額より大きくなります。差額は棚に残ります。

この区別は、Day 19の資金予算で効いてきます。現金がいつ出ていくかを見るときに必要なのは購入額のほうで、見積損益計算書に売上原価として乗るのは使用額のほうだからです。同じ材料の話が、行き先の違う2つの数字になって出ていきます。

つまずきやすいところ

この3枚でよくある取り違え
よくある間違い正しい見方
販売予定数量をそのまま生産量にする在庫方針の差だけずれる。期首と期末が同数のときだけ一致する
期末在庫を引き、期首在庫を足す符号が逆。在庫の箱の式(期首+生産−販売=期末)から起こす
必要材料量に単価を掛けて「材料購入予算額」とするそれは使用額。購入額は、在庫調整をしたあとの購入量に単価を掛ける
販売数量から直接、材料の必要量を計算する材料は生産量にぶら下がる。販売量ではなく必要生産量に原単位を掛ける
期末在庫の目標を増やしたら売上予算も増えると考える売上予算は動かない。動くのは生産量・材料の購入量・購入額

第2部では、ASTRAの来期の数字で、販売 1,000個から材料の発注金額までを一本で通します。右の演習パネルにも同じ3枚が入っているので、期末在庫の目標を書き換えて、どの行が動いてどの行が動かないかを見てください。

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)