さわる管理会計 DAY 17 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

ASTRAの来期予算 ── 販売1,000個から購入額1,090まで

ASTRA Manufacturing の来期の年度予算を、実際に組み立てます。使う数字はここに並べたものだけです。金額の単位は千USD、製品の単位は個、材料の単位はkgです。

来期予算の与件(ASTRA Manufacturing)
項目数値単位備考
販売予定数量Budgeted Unit Sales1,000需要予測から確定した数量
販売単価Selling Price4.0千USD/個来期は据え置き
期末製品在庫の目標Target Ending FG Inventory120納期短縮のため積み増す
期首製品在庫Beginning FG Inventory80期首の実在庫
製品1個あたり材料使用量Material per Unit2kg/個原単位。歩留りは織り込み済み
材料単価Material Price0.5千USD/kg年間を通じて一定と仮定
期末材料在庫の目標Target Ending RM Inventory300kg調達リードタイム対策
期首材料在庫Beginning RM Inventory200kg期首の実在庫

Step 1 売上予算をつくる

売上予算は、数量と単価の掛け算だけです。

売上予算(Sales Budget)
項目金額・数量
販売予定数量(個)1,000
販売単価(千USD/個)4.0
売上高予算Budgeted Sales(千USD)4,000

1,000 × 4.0 = 4,000。ここから先で使うのは、金額の 4,000 ではなく数量の 1,000 のほうです。金額は見積損益計算書(Day 20)でもう一度出てきます。

Step 2 生産予算 ── 何個作るか

在庫の箱を1つ描いてから式を起こします。期首に 80個あり、1,000個売り、期末に 120個残したい。足りない分が生産です。

生産予算(Production Budget)単位: 個
項目数量
販売予定数量Budgeted Unit Sales1,000
+ 期末製品在庫の目標Target Ending Inventory120
必要な製品の総数1,120
− 期首製品在庫Beginning Inventory(80)
必要生産量Units to be Produced1,040

1,000 + 120 − 80 = 1,040。売る数より 40個多く作ることになります。この 40個は、期末に棚へ積み増す分です。

検算のしかた

出した答えを在庫の箱に戻します。期首 80 + 生産 1,040 − 販売 1,000 = 120。期末在庫の目標と一致しました。符号を逆にして 1,000 + 80 − 120 = 960 としてしまった場合、この検算では 80 + 960 − 1,000 = 40 となり、目標の 120 に届かないことがその場で分かります。

Step 3 材料の必要量を出す

材料は、販売量ではなく必要生産量にぶら下がります。ここを販売量から計算すると、以降の数字がすべてずれます。

必要材料量 = 必要生産量 1,040個 × 原単位 2kg/個 = 2,080 kg

販売量 1,000個から計算してしまうと 2,000kg で、80kg 足りません。作るのは 1,040個だからです。

Step 4 直接材料購入予算 ── 何kg買って、いくら払うか

Step 2 とまったく同じ形の引き算を、今度は材料の箱でやります。

直接材料購入予算(Direct Materials Purchases Budget)
項目数量・金額
必要生産量(個)1,040
× 原単位(kg/個)2
必要材料量Materials Required for Production(kg)2,080
+ 期末材料在庫の目標(kg)300
− 期首材料在庫(kg)(200)
必要購入量Materials to be Purchased(kg)2,180
× 材料単価(千USD/kg)0.5
材料購入予算額Cost of Materials Purchases(千USD)1,090

2,080 + 300 − 200 = 2,180 kg。これに単価 0.5 を掛けて、1,090 千USD が来期に材料へ払う予定の金額です。

使う額と、買う額を並べる

同じ材料の話が、2つの数字に分かれます。

材料の使用額と購入額(単位: 千USD)
項目数量(kg)金額どこへ行く数字か
生産で使う材料Materials Used2,0801,040製造原価 → 見積損益計算書の売上原価
期中に買う材料Materials Purchased2,1801,090買掛金と支払 → 資金予算
Increase in RM Inventory10050期末の材料在庫 → 見積貸借対照表

差の 50 は、材料在庫が 200kg から 300kg へ 100kg 増える分(100 × 0.5 = 50)です。消えたわけでも余計に使ったわけでもなく、棚に残っています。使用額 1,040 と購入額 1,090 のどちらを問われているのかは、問題文の「used/purchased」で読み分けます。

製品1個あたりの材料費

原単位 2kg × 単価 0.5 = 1個あたり 1.0 千USD。販売単価 4.0 に対して、材料費は売価の 25% を占めます。この1個あたりの材料費は、Day 18 以降で労務費や製造間接費と足し合わせるときの土台になります。

期末在庫の目標を動かすと、何が動くか

期末製品在庫の目標だけを 120個 → 200個 に上げると 売上高予算は動かない。動くのは工場と調達の側だけ(横幅は行ごとに正規化) 売上高予算(千USD)(目標 120個) 4,000 売上高予算(千USD)(目標 200個) 4,000変化なし 必要生産量(個)(目標 120個) 1,040 必要生産量(個)(目標 200個) 1,120+80個 材料購入予算額(千USD)(目標 120個) 1,090 材料購入予算額(千USD)(目標 200個) 1,170+80増えた 80個 × 1個あたり材料費 1.0 = 80 が、そのまま購入予算額の増加になる
図3 期末在庫の目標を上げたとき、動く行と動かない行

在庫方針だけを変えて、他の与件はそのままにします。期末製品在庫の目標を 120個から 200個へ引き上げた場合です。

期末製品在庫の目標を 120 → 200 に変えると
項目目標 120目標 200
販売予定数量(個)1,0001,0000
売上高予算(千USD)4,0004,0000
必要生産量(個)1,0401,120+80
必要材料量(kg)2,0802,240+160
必要購入量(kg)2,1802,340+160
材料購入予算額(千USD)1,0901,170+80

売上は 1 も動きません。動いたのは工場と調達の側だけです。増えた 80個 ×1個あたり材料費 1.0 = 80 が、そのまま購入予算額の増加になっています。

在庫を積むという判断は、損益計算書の上ではおとなしく見えます。実際に先に効くのは、工場の負荷と、材料の支払いに要る現金です。右の演習パネルの「実験:数字を動かす」タブで、期末在庫の目標だけを書き換えてみてください。売上高の行が固まったまま、下の3行だけが動きます。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
units to be produced必要生産量生産予算の答えの行
materials used生産に投入した材料(使用)製造原価の話をするとき
materials purchased購入した材料(発注)支払と資金繰りの話をするとき
target ending inventory期末在庫の目標水準在庫方針を数字で置くとき
build up inventory在庫を積み増す生産量が販売量を上回る理由を言うとき
drive(ある数字が別の数字を)決める、動かす「販売数量が生産量を決める」と言うとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
年度利益計画Annual Profit Plan1年分の各予算を束ねた利益の計画。マスターバジェットの中心
売上予算Sales Budget販売予定数量と販売単価から売上高を計画する予算。予算編成の出発点
販売予定数量Budgeted Unit Sales予算上の販売数量。後続の予算すべての量的な入力になる
生産予算Production Budget必要生産量を数量で決める予算。金額ではなく個数で表す
必要生産量Units to be Produced販売量 + 期末製品在庫 − 期首製品在庫
期末在庫の目標Target Ending Inventory期末に持っておきたい在庫水準。方針として先に置く数字
直接材料購入予算Direct Materials Purchases Budget材料の必要量・購入量・購入金額を決める予算
必要材料量Materials Required for Production必要生産量 × 製品1個あたりの材料使用量
原単位Material per Unit製品1個を作るのに要する材料の量
必要購入量Materials to be Purchased必要材料量 + 期末材料在庫 − 期首材料在庫
製品在庫Finished Goods Inventory完成した製品の在庫。生産予算の在庫ブリッジで使う
材料在庫Raw Materials Inventory未使用の材料の在庫。購入予算の在庫ブリッジで使う
マスターバジェットMaster Budget売上から資金・見積財務諸表までを連動させた全体予算

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)