さわる管理会計 DAY 9 さわるベトナム のトレーニング教材

利益は840、なのに税金の計算は800から始まっていた ── 会計の利益と、税務の所得

全3部 / 前提知識: Day 1(損益計算書)・Day 2(流動/非流動の分類) / 最終更新 2026-08-23

この回で分かること

  • 会計上の利益と課税所得のズレを、永久差異と一時差異に仕分けできる
  • 一時差異から繰延税金資産・繰延税金負債のどちらが生まれるかを、方向を間違えずに判定できる
  • 実効税率が法定税率からずれる理由を、永久差異という言葉を使って説明できる
PART 1 / 3

永久差異と一時差異、そして繰延税金資産・負債

法定税率は40%と聞いている。ところが決算書を見ると、税引前利益840に対して法人税等が340。割り算をすると40.5%です。0.5%はどこから来たのか。この差を説明できるようになるのが、今日のゴールです。

会議室で起きたこと

ASTRA Manufacturing の決算作業中。拠点長のケンが、税務申告書の下書きを持ってCFOのリンのところに来た場面です。

ケン: リンさん、税務申告書の下書きを見て混乱しています。損益計算書の税引前利益は840なのに、申告書は800から税金を計算しています。40はどこへ消えたんですか。

リン: 消えていないわ。会社は同じ1年について、帳簿を2冊つけているの。ひとつは会計基準で作る帳簿、もうひとつは税法で作る帳簿。目的が違うから、答えも違う。

ケン: 2冊……。二重帳簿みたいで、聞こえが悪いですが。

リン: 隠すための2冊ではないの。会計の帳簿は投資家に「この1年でいくら稼いだか」を伝えるためのもの。税務の帳簿は国に「いくら税金を払うか」を計算するためのもの。ものさしが違えば、答えが違って当たり前でしょう。

ケン: なるほど。では、その差はどう説明すればいいんですか。

リン: 差の正体は2種類しかない。ここが今日いちばん大事なところ。ひとつが永久差異、もうひとつが一時差異。

ケン: 永久と一時。名前からすると、戻るか戻らないか、ですか。

リン: そのとおり。うちの交際費と罰金のうち50は、税務では費用として認めてもらえない。これは来年になっても認められない。永久に埋まらないから永久差異。

ケン: 一方の一時差異は。

リン: たとえば保証引当金の100。会計では今期の費用にするけれど、税務が費用と認めるのは実際に修理代を払った年。認める年が違うだけで、いずれ同じ額が費用になる。順番のズレだから一時差異。

ケン: 順番がずれるだけなら、放っておいてもいい気がします。

リン: それをやると、今年の損益計算書に載る税金費用が、今年の利益と対応しなくなるの。だから将来のぶんを繰延税金資産・繰延税金負債として先に貸借対照表へ置く。Day 2 でルールだけ覚えてもらった繰延税金負債、あれの正体が今日のこれよ。

ケン: あのとき「理由は法人税会計の回で」と言われたやつですね。もうひとつ気になっていることがあります。法定税率は40%と聞いていたのに、340を840で割ると40.5%になります。

リン: Day 2 のルールを覚えていてくれたのね。その0.5%も、今日の話につながっているわ。差を作っているのは、2種類のうち片方だけなの。

ケン: 永久差異のほうですか。戻ってこないから、そのまま負担になると。

リン: そう。一時差異のほうは、今年の納税が減っても繰延の費用が増えて、合計では元に戻る。だから税率の見え方は動かない。ここが今日いちばん試験に出るところ。持ち帰るのは3つよ。

この場面で出てくる英語

Key Words & Expressions
English意味
book income会計上の利益。book は「会計帳簿の」の意味で使う
taxable income課税所得。税務申告書の上で税率を掛ける対象
book-tax difference会計と税務のズレの総称
permanent difference永久差異。将来にわたって解消しないズレ
temporary difference一時差異。認識の時期だけがずれ、将来解消するズレ
reverse(差異が)ひっくり返る、解消する
statutory rate / effective tax rate法定税率/実効税率
non-deductible損金不算入の。税務上、費用として引けない
valuation allowance評価性引当額。繰延税金資産のうち回収が見込みにくい部分を落とす調整

今日おさえる3つ

  1. 会計の利益と課税所得は別物で、差は永久差異と一時差異の2種類しかない
  2. 一時差異からは繰延税金資産・繰延税金負債が生まれ、いずれ解消する
  3. 実効税率を法定税率から動かすのは永久差異だけ。一時差異は動かさない

同じ1年を、2冊の帳簿が別々に数えている

同じ1年を、2冊の帳簿が別々に数えている 会計の利益 ≠ 税務の所得 ── 差の正体は「永久」か「一時」の2種類だけ(単位: 千USD) 会計の帳簿 Financial Reportingルール: 会計基準・発生主義答え: 税引前会計利益 840 税務の帳簿 Tax Returnルール: 税法答え: 課税所得 800 差 40この差は、2種類しかない 永久差異 Permanent Difference損金不算入の費用 +50非課税の受取配当 −40将来ひっくり返らない → 繰延なし 一時差異 Temporary Difference引当金の否認 +100減価償却の超過 −150将来ひっくり返る → DTA・DTL が出る実効税率を動かすのは永久差異だけ。一時差異は動かさない
図1 会計の帳簿と税務の帳簿 ── 差は永久差異と一時差異の2種類だけ

会計上の利益は、Day 1 で組み立てた損益計算書の税引前利益(Pretax Book Income)です。ASTRAは840でした。これは会計基準にしたがって、発生主義で収益と費用を並べた結果です。

一方の課税所得(Taxable Income)は、税法にしたがって計算します。税法には税法の目的があり、たとえば「私的な支出に近い費用は認めない」「回収の見込みで先に費用を立てるのは認めない」といった判断が入ります。同じ1年を数えても、出てくる金額は違います。

ここで大事なのは、どちらかが正しくてどちらかが間違い、ではないという点です。ものさしが2本あるだけです。そして企業が損益計算書に載せる法人税費用は、税務の帳簿の金額をそのまま持ってくるのではなく、会計の利益に対応する形に組み直します。この組み直しを税効果会計(Interperiod Tax Allocation)と呼びます。

差の正体は、2種類しかない

永久差異(Permanent Difference)

税務が今年も来年も、ずっと認めない(あるいは、ずっと課税しない)項目です。将来にわたって埋まりません。

永久差異の代表例
項目会計の扱い税務の扱い課税所得への調整
罰金・過料Fines and Penalties費用損金不算入加算
交際費の一部Entertainment Expenses費用一部または全部が損金不算入加算
役員を被保険者とする生命保険料Officers' Life Insurance Premiums費用損金不算入とされることがある加算
非課税の受取利息・受取配当Tax-exempt Interest / Dividend Income収益課税されない、または一部が益金不算入減算

永久差異には、繰延税金資産も繰延税金負債も出てきません。将来ひっくり返る予定がないので、将来のぶんを先に置く必要がないからです。ここが一時差異との決定的な違いです。

一時差異(Temporary Difference)

同じ金額を、会計と税務が違う年に認識する項目です。合計は一致し、順番だけがずれます。

一時差異の代表例
項目ズレの中身当期の課税所得への調整生まれるもの
減価償却の差Accelerated Tax Depreciation税務のほうが先に多く償却する減算繰延税金負債(DTL)
引当金の否認Warranty / Bad Debt Accrual会計は見積りで先に費用、税務は支払時に費用加算繰延税金資産(DTA)
前受収益Unearned Revenue税務は入金時に先に課税、会計は履行時に収益加算繰延税金資産(DTA)
税務上の繰越欠損金NOL Carryforward過去の損失を将来の所得から控除できる(将来の減算)繰延税金資産(DTA)

見分け方はひとつだけです。将来ひっくり返るかを問えば足ります。ひっくり返るなら一時差異、ひっくり返らないなら永久差異です。

繰延税金資産と繰延税金負債の向き

一時差異が見つかったら、次はどちらが生まれるかを決めます。向きを取り違えると符号が全部逆になるので、ここは丁寧に押さえます。

一時差異の2つの向き
将来加算一時差異Taxable Temporary Difference将来減算一時差異Deductible Temporary Difference
当期に起きること税務の所得が会計の利益より小さい税務の所得が会計の利益より大きい
今年の税金少なくてすむ(先送り)多めに払う(前払い)
将来所得が増え、税金を多く払う所得が減り、税金が軽くなる
計上するもの繰延税金負債DTL=将来の支払義務繰延税金資産DTA=将来の税金の軽減
ASTRAの例減価償却の超過 150 → DTL 60引当金の否認 100 → DTA 40

金額はどちらも「一時差異 × 法定税率」で出します。ASTRAの法定税率は40%なので、150 × 40% = 60、100 × 40% = 40 です。

覚え方としては、今年たくさん払ったなら資産、今年少なく払ったなら負債と考えると向きを間違えにくくなります。前払いした税金は将来の軽減として返ってくるので資産、先送りした税金は将来払うので負債です。

繰延税金資産には、回収の見込みという条件がつく

繰延税金資産は「将来の課税所得から差し引ける権利」です。将来に十分な課税所得が出なければ、差し引く相手がいないので、価値が実現しません。そこで、実現の見込みが高いといえない部分については評価性引当額(Valuation Allowance)を設定し、繰延税金資産をその分だけ減らして表示します。

たとえば、リンの知り合いのCarlosがいる Nexus Digital のように赤字の期が続いた会社では、税務上の繰越欠損金から大きな繰延税金資産が立ちます。ただし黒字化の時期が読めなければ、その一部に評価性引当額を設定することになります。評価性引当額を積むとその期の法人税費用が増えるので、これは一時差異から出た項目でありながら実効税率を動かす、例外的な要因になります。

なぜ繰延税金負債は「非流動」なのか

一時差異は、いつか逆向きに戻る だから繰延税金負債が積まれる ── ただし「いつ戻るか」は資産ごとに違う 当期 税務の償却が会計より 150 多い 課税所得が 150 小さくなる → 繰延税金負債 60 を積む 将来のどこか 税務の償却が先に尽きる 課税所得が大きくなる → 繰延税金負債 60 が戻る 戻るのが2年後か5年後かは、資産の残りの年数と、その後の設備投資しだい解消時期を見積もる手間に見合わないため、非流動に一本化する ── Day 2 のルールの中身
図3 一時差異は将来ひっくり返る ── 繰延税金負債が非流動である理由

Day 2 で、繰延税金負債は解消時期にかかわらず非流動負債に分類する、というルールだけを持ち帰ってもらいました。理由はここで説明できます。

繰延税金負債が解消するのは、一時差異がひっくり返るときです。ASTRAの例なら、税務の償却が先に尽きて、会計の償却だけが残る年からです。それが2年後なのか5年後なのかは、その資産の残りの耐用年数や、その後の設備投資の計画に左右されます。しかも会社全体では多数の資産・引当金の差異が同時に動いています。

つまり「1年以内に解消する部分」を切り出そうとすると、見積りの手間が大きいわりに、読み手の判断はさほど変わりません。そこで現在は、繰延税金資産も繰延税金負債も一律に非流動として表示する取り扱いになっています。Day 2 のルールは、この判断の結果だけを先に渡していたことになります。

実効税率という物差し

最後に、冒頭の0.5%に戻ります。

2つがずれる原因が永久差異です。ASTRAの永久差異は、加算50と減算40で差し引き+10。これに法定税率40%を掛けた4が、法定税率で計算した336に上乗せされて340になります。この4を税引前利益840で割ると約0.5%。冒頭の差はこれでした。

一方、一時差異は実効税率を動かしません。今年の税金が減れば、その分だけ繰延税金費用が増えて、合計は元に戻るからです。この打ち消し合いは言葉で聞くより数字を動かすほうが早いので、第2部と右の演習パネルで実際に確かめます。

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Nexus Digital ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)