課税所得・当期法人税・繰延税金を、順番に組み立てる
Day 1 で作った ASTRA Manufacturing の損益計算書は、税引前利益840・法人税等340・純利益500でした。あのとき1行で置いていた「法人税等 340」を、今日は中身まで分解します。
この回で使う前提
税務のルールは国ごとに違うので、この回では次の条件が与えられているものとして計算します。実務では自社に適用される税制を確認してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法定税率 | 40%(当期・将来とも変わらないものとする) |
| 期中の予定納付 | なし。当期法人税=未払法人税とする |
| 期首のDTA・DTL残高 | この回では増減額だけを扱う |
| 評価性引当額 | ASTRAでは設定しない(Nexus Digital の例で後述) |
ASTRAの当期データ
| 項目 | 金額 | 種類 |
|---|---|---|
| 税引前会計利益Pretax Book Income | 840 | Day 1 の多段階損益計算書より |
| 交際費・罰金のうち損金不算入額Non-deductible Expenses | 50 | 永久差異(加算) |
| 非課税の受取配当金Tax-exempt Dividend Income | 40 | 永久差異(減算) |
| 保証引当金の否認額Warranty Accrual | 100 | 一時差異(加算) |
| 税務の減価償却が会計を上回る額Excess Tax Depreciation | 150 | 一時差異(減算) |
| 法定税率Statutory Rate | 40% | 与件 |
単位: 千USD(法定税率のみ %)
損金不算入額50は管理費300の中に、受取配当金40は Day 1 の営業外収益に、それぞれ含まれていたものです。表面には出ていませんでしたが、税務の側から見ると別の扱いになります。
Step 1 4つの差を、加算と減算に振り分ける
課税所得は、税引前会計利益を出発点に、差の分だけ足し引きして求めます。符号の決め方はひとつです。
- 加算 会計は費用にしたが税務は認めない/税務のほうが先に課税する
- 減算 会計は収益にしたが税務は課税しない/税務のほうが先に費用を認める
| 項目 | 永久/一時 | 調整 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 損金不算入の費用 | 永久 | +50 | 会計では費用だが税務は認めない。将来も認めない |
| 非課税の受取配当金 | 永久 | −40 | 会計では収益だが税務は課税しない。将来も課税しない |
| 保証引当金の否認 | 一時 | +100 | 税務が費用と認めるのは実際に支払った年。いずれ認められる |
| 減価償却の超過 | 一時 | −150 | 税務が先に多く償却する。いずれ会計が追いつく |
Step 2 課税所得を出す
- 永久差異の調整 840 + 50 − 40 = 850
- 一時差異の調整 850 + 100 − 150 = 800
課税所得は800です。会計の840より40小さくなりました。ケンが冒頭で「40はどこへ消えたのか」と言ったのは、この差です。
途中の850には意味があります。永久差異だけを調整した金額で、あとで法人税費用合計を検算するときに使います。
Step 3 当期法人税(未払法人税)を出す
税務署に払うのは、課税所得に法定税率を掛けた金額です。
当期法人税 = 課税所得 800 × 法定税率 40% = 320
これが当期税金費用(Current Tax Expense)であり、同額が未払法人税(Income Taxes Payable)として流動負債に載ります。会計上の利益840に税率を掛けた336ではない、というところが最初のつまずきどころです。
Step 4 繰延税金資産・繰延税金負債の増減を出す
一時差異にだけ、法定税率を掛けます。永久差異には掛けません。
| 一時差異 | 差異額 | ×税率40% | 生まれるもの |
|---|---|---|---|
| 保証引当金の否認(将来減算) | 100 | 40 | 繰延税金資産(DTA)の増加 |
| 減価償却の超過(将来加算) | 150 | 60 | 繰延税金負債(DTL)の増加 |
損益計算書に載る繰延税金費用は、この2つの差し引きです。
繰延税金費用 = DTLの増加 60 − DTAの増加 40 = 20
DTLの増加は費用を増やし、DTAの増加は費用を減らします。方向を言葉で確認しておくと、今年は税務上の所得を150ぶん先送りできたので税金を後で払う義務が増え(費用+60)、逆に引当金100は税金を先払いしている形なので将来の軽減が増える(費用−40)、という理屈です。
Step 5 法人税費用合計と純利益
法人税費用合計 = 当期320 + 繰延20 = 340
| 科目 | 金額 |
|---|---|
| 税引前利益Income Before Tax | 840 |
| 法人税費用Income Tax Expense | |
| 当期分Current | (320) |
| 繰延分Deferred | (20) |
| 法人税費用 合計Total Income Tax Expense | (340) |
| 純利益Net Income | 500 |
Day 1 で1行だった「法人税等 340」は、当期分320と繰延分20に分かれていました。純利益500も一致します。
検算 ── 永久差異だけで合計が決まる
(税引前会計利益 840 + 永久差異の純額 10)× 40% = 850 × 40% = 340
Step 2 で途中に出た850を使うと、一時差異を一切通らずに法人税費用合計へ届きます。長い計算の答え合わせに使える式です。逆に言えば、法人税費用合計に一時差異は効いていないということでもあります。
Step 6 仕訳にする
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 法人税費用Income Tax Expense | 340 | 未払法人税Income Taxes Payable | 320 |
| 繰延税金資産Deferred Tax Asset | 40 | 繰延税金負債Deferred Tax Liability | 60 |
| 借方合計 | 380 | 貸方合計 | 380 |
未払法人税320は流動負債、繰延税金資産40と繰延税金負債60は非流動に置きます。Day 2 で扱った分類ルールが、ここで使われています。
Step 7 実効税率を出す
- 実効税率 = 法人税費用合計 340 ÷ 税引前会計利益 840 = 40.5%
- 法定税率 = 40.0%
- 差 = 0.5ポイント
差の中身は永久差異です。永久差異の純額10に税率40%を掛けた4が、税額を押し上げています。4 ÷ 840 = 約0.5%。もし損金不算入の費用がゼロで、非課税の配当だけがあったなら、実効税率は法定税率より下がります。
一時差異を動かしても、実効税率は動かない
第1部で言葉にした結論を、数字で確かめます。減価償却の超過額を150から250に増やし、ほかは同じにしてみます。
| 項目 | 元の計算 | 変更後 |
|---|---|---|
| 課税所得 | 800 | 700 |
| 当期法人税 | 320 | 280 |
| DTLの増加 | 60 | 100 |
| DTAの増加 | 40 | 40 |
| 繰延税金費用 | 20 | 60 |
| 法人税費用合計 | 340 | 340 |
| 実効税率 | 40.5% | 40.5% |
当期の納税額は40減りました。ところが繰延税金費用が40増えて、合計は動きません。税金の支払いを後ろへずらしただけで、負担の総量は変わっていないからです。
これは実務でも効いてくる話です。加速償却を採れば手元の資金は楽になりますが、損益計算書の税金費用は変わらないので、利益は良く見えません。キャッシュの話と利益の話を別々に置けるのが、税効果会計を入れる目的のひとつです。
一方、損金不算入の費用を50から130に増やすと、法人税費用合計は372、実効税率は44.3%へ跳ね上がります。永久差異は打ち消す相手がいないので、そのまま税負担になります。
つまずきポイント
- 会計の利益に税率を掛けてしまう。840 × 40% = 336は、当期法人税でも法人税費用合計でもありません。税率を掛ける相手は課税所得800です。合計340のほうは、永久差異を調整した850に税率を掛けると出ます
- 永久差異に税率を掛けて繰延税金を作る。永久差異からはDTAもDTLも生まれません。将来ひっくり返らないものに、将来のぶんの資産・負債は立ちません
- DTAとDTLの向きを逆にする。今年多めに払ったなら資産、今年少なくすんだなら負債です。ASTRAは償却で今年の所得を150減らしているので負債(DTL 60)、引当金で今年の所得を100増やしているので資産(DTA 40)です
- 繰延税金の純額を課税所得から引く。繰延税金費用20は税額であって所得ではありません。所得の調整(+100、−150)と、税額の計算(40、60)を混ぜないことです
- 実効税率の分母。分母は税引前会計利益840です。課税所得800を分母にすると 340 ÷ 800 = 42.5%になり、比較できない数字が出ます
評価性引当額が入るとどうなるか ── Nexus Digital の例
Nexus Digital は、税務上の繰越欠損金から繰延税金資産200を認識しました。ところが黒字化の時期が読めず、全額を将来の課税所得から差し引けるとまでは言えません。そこで150に評価性引当額を設定したとします。
- 貸借対照表に載る繰延税金資産の純額 = 200 − 150 = 50
- 当期の法人税費用 = 評価性引当額の設定額150だけ増える
繰延税金資産を減らす処理なので、相手科目は法人税費用です。一時差異から生まれた項目でありながら、この処理は実効税率を押し上げます。第1部で「例外的な要因」と書いたのはこのことです。見込みが変わって評価性引当額を戻す年には、逆に法人税費用が減ります。
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| book-tax reconciliation | 会計利益と課税所得の調整表 | 840から800までの調整を説明するとき |
| add back | 加算して戻す | 損金不算入の費用を課税所得に足すとき |
| reverse in future periods | 将来の期に解消する | 一時差異と永久差異を見分けるとき |
| defer taxes | 税金を繰り延べる | 加速償却の資金面の効果を話すとき |
| effective tax rate reconciliation | 法定税率と実効税率の差の説明 | 注記や決算説明で0.5%の中身を問われたとき |
| more likely than not | 可能性のほうが高い | 評価性引当額を設定するかの判断を述べるとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| 税引前会計利益 | Pretax Book Income | 会計基準にしたがって計算した、法人税を引く前の利益 |
| 課税所得 | Taxable Income | 税法にしたがって計算した、税率を掛ける対象となる所得 |
| 永久差異 | Permanent Difference | 将来にわたって解消しないズレ。非課税収益や損金不算入費用など |
| 一時差異 | Temporary Difference | 認識の時期だけがずれ、将来解消するズレ |
| 将来加算一時差異 | Taxable Temporary Difference | 将来の課税所得を増やす一時差異。DTLを生む |
| 将来減算一時差異 | Deductible Temporary Difference | 将来の課税所得を減らす一時差異。DTAを生む |
| 繰延税金資産 | DTA: Deferred Tax Asset | 将来の税金の軽減を表す資産。一時差異 × 法定税率 |
| 繰延税金負債 | DTL: Deferred Tax Liability | 将来の税金の支払義務を表す負債。一時差異 × 法定税率 |
| 税効果会計 | Interperiod Tax Allocation | 税金費用を、対応する会計上の利益と同じ期に配分する考え方 |
| 評価性引当額 | Valuation Allowance | 繰延税金資産のうち、実現の見込みが高いといえない部分を減額する調整 |
| 当期税金費用 | Current Tax Expense | 課税所得 × 法定税率。同額が未払法人税になる |
| 繰延税金費用 | Deferred Tax Expense | DTLの増加 − DTAの増加。損益計算書の繰延分 |
| 未払法人税 | Income Taxes Payable | 税務署に納める債務。流動負債に表示 |
| 法定税率 | Statutory Rate | 税法が定める税率 |
| 実効税率 | Effective Tax Rate | 法人税費用合計 ÷ 税引前会計利益 |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Nexus Digital ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)