さわる管理会計 DAY 8 さわるベトナム のトレーニング教材

額面3,000の社債を出したのに、入ってきたのは2,760 ── 負債は「借りた金額」では載らない

全3部 / 前提知識: Day 2(貸借対照表の構造と流動/非流動)・Day 6(資産の測定) / 最終更新 2026-08-23

この回で分かること

  • 短期借入金の借換・製品保証・訴訟について、負債として計上するか注記に留めるかを判断できる
  • 社債の発行価額が額面とずれる理由を説明し、実効金利法で利息費用・償却額・帳簿価額を計算できる
  • リースをファイナンスとオペレーティングに分ける5つの基準を挙げ、使用権資産とリース負債の当初計上額を求められる
PART 1 / 3

社債・保証・リース ── 負債はいつ、いくらで貸借対照表に載るか

資産の側は、Day 5とDay 6で「いくらで載せるか」を決めてきました。負債の側は一見もっと簡単に見えます。借りた金額を書けばいい、と。ところが社債もリースも、貸借対照表に載る金額は「借りた金額」ではありません。

会議室で起きたこと

ASTRA Manufacturing の会議室。社債の発行が済んだ翌日、拠点長のケンが入金額の内訳をCFOのリンに聞いている場面です。

ケン: リンさん、社債の件で確認させてください。額面3,000で発行したのに、入金は2,760でした。240はどこかに取られたんですか。

リン: 誰にも取られていないわ。2,760が、この社債に市場がつけた値段なの。

ケン: 値段、ですか。3,000借りて3,000入ってくるものだと思っていました。

リン: うちの社債は表面利率6%。毎年180の利札を払って、5年後に3,000を返す約束ね。でも、いまこの市場でお金を貸す人は8%を求めている。6%しか払わない紙を、3,000では買ってくれないの。

ケン: だから安くなる、と。

リン: そう。差の240は、うちが5年かけて余分に負担する利息よ。だから毎年の利息費用も、現金で払う180ではなくて、もう少し大きくなるの。

ケン: 払うのは180なのに、費用は180ではない……。

リン: 1年目の利息費用は220.8。期首の帳簿価額2,760に、市場利率8%を掛けた金額。実効金利法という計算の仕方よ。差額の40.8は社債の帳簿価額に足していく。5年かけて、2,760が3,000に育つの。

ケン: 負債が、放っておいても増えるんですか。

リン: 満期に返すのは3,000だから、そこへ向かって近づいていく、と考えて。──それと今日はもうひとつ。Pacific Logistics の Raj から聞いた話をしておきたいの。配送トラックを全部リースで持っている物流会社ね。

ケン: 借りているだけなら、資産には載らないですよね。

リン: 昔はそういう扱いのものが多かったの。でも今は、借手は「使う権利」を資産に、「払う義務」を負債に載せる。Raj は「1台も買っていないのに、貸借対照表が重くなった」と言っていたわ。

ケン: ……うちも来月、その Pacific Logistics の配送センターを5年契約で借ります。あれも載る、ということですか。

リン: そう。だから今日は、負債が「いつ」「いくらで」載るのかを通しでやりましょう。持ち帰るのは3つ。

この場面で出てくる英語

Key Words & Expressions
English意味
face value / par value額面。満期に返す元本の金額
proceeds手取額。社債の発行で実際に入ってくる現金
discount on bonds payable社債発行差金(割引額)。額面が発行価額を上回る部分
coupon rate / stated rate表面利率。券面に書かれた、現金で払う利率
market rate / effective rate市場利率・実効利率。発行時に投資家が求める利回り
effective interest method実効金利法。期首の帳簿価額に実効利率を掛けて利息費用を出す方法
carrying amount帳簿価額。貸借対照表に載っている金額
refinance借り換える
lessee / lessor借手/貸手
right-of-use asset使用権資産。リースで「使う権利」を資産として載せたもの

今日おさえる3つ

  1. 負債はいつ載るか ── 流動と非流動の線引き、借換、保証、偶発事象
  2. 社債はいくらで載るか ── 発行価額を決めるのは市場利率、そこから実効金利法で額面へ近づく
  3. リースはどう載るか ── 使う権利を資産に、払う義務を負債に。分類で費用の出方が変わる

負債はいつ載るか ── 定義と置き場所

負債(Liabilities)は、過去の取引や事象の結果として生じた、将来において経済的資源を引き渡す現在の義務です。3つの条件がそろって初めて負債になります。義務であること、その義務が過去の出来事から生じていること、そして将来の資源の流出につながることです。

Day 2 では、その負債を流動と非流動に分けました。1年(または営業循環のうち長い方)以内に決済されるものが流動負債、それより先が非流動負債です。買掛金・未払給与・短期借入金は流動、社債やリース負債の長期部分は非流動に置かれます。長期借入金でも、12か月以内に返す分だけは「長期借入金の流動部分」として流動へ引っ越すのでした。

満期が近くても非流動になることがある ── 短期借入金の借換

例外がもうひとつあります。期限が1年以内に来る短期の借入金でも、それを長期の借入に置き換える意図があり、かつ実際にそうできる能力を示せる場合には、非流動に分類できます。これが短期借入金の借換(Refinancing of Short-term Debt)です。

能力の裏づけになるのは、たとえば決算日の後・財務諸表の公表前に長期の借入を実行したことや、借換の契約を締結済みであることです。意図だけでは足りず、能力だけでも足りません。両方そろってはじめて置き場所が変わります。ASTRAの短期借入金1,000も、5年ローンへの借換契約が締結できていれば非流動へ移り、流動比率の見え方が大きく変わります。実際の金額での確認は第2部で行います。

なお、IFRSでは決算日時点で返済を繰り延べる権利を持っているかどうかで判定するなど、扱いに違いがあります。基準間の差はDay 11でまとめて扱います。

金額が確定していない負債 ── 保証と偶発事象

買掛金なら請求書に金額が書いてあります。ところが「これから起きるかもしれないこと」に対する義務は、金額も、そもそも支払うかどうかも確定していません。それでも負債に載せる場面があります。

製品保証は2種類ある

製品保証(Warranty)は、性格の違う2つに分かれます。

2種類の製品保証
種類中身会計処理
保証型Assurance-type「約束した仕様どおりに動くこと」の保証。製品を買えば自動的に付いてくる販売した期に、見積った保証費用を費用と保証負債(引当)に計上する
サービス型Service-type別料金で買う延長保証など、仕様の保証を超えるサービス製品とは別個の履行義務として取引価格を配分し、保証期間にわたって収益を認識する

分かれ道は「顧客が別に買えるサービスかどうか」です。保証型は費用と負債の話、サービス型は収益の話になります。同じ「保証」でも、損益計算書のどこに現れるかが違います。サービス型の収益認識はDay 10の5ステップモデルにつながります。

偶発事象は3段階で仕分ける

訴訟や補償請求のように、結果が将来の出来事しだいで決まるものを偶発事象(Contingency)と呼びます。発生可能性と見積り可能性の2つで扱いが変わります。

偶発負債(Contingent Liability)の扱い
発生可能性金額が合理的に見積れる見積れない
可能性が高いProbable負債と損失を計上する注記で開示する
ある程度ありうるReasonably possible計上せず、注記で開示する
ほとんどないRemote原則として開示も不要

計上まで進むのは、左上の1マスだけです。可能性が高く、かつ金額が合理的に見積れる場合に限られます。

反対側の偶発利益(Gain Contingency)は、勝ちそうな訴訟であっても、原則として実現するまで利益に計上しません。損失は早めに、利益は遅めに ── 損と得で扱いが違うのは、保守主義(Conservatism)の考え方が働いているからです。

社債 ── 値段を決めるのは表面利率ではなく市場利率

社債(Bonds Payable)は、多数の投資家からまとまった資金を長期で借りる手段です。券面には額面と表面利率が印刷されていますが、いくらで売れるかを決めるのは、その紙に書かれた利率ではなく、発行の瞬間に市場が求めている利回りです。

額面3,000の社債が、2,760でしか売れない理由 ASTRA Manufacturing・表面利率6% と 市場利率8% ── 単位: 千USD 満期に返す元本 Principal 3,000(5年後)3,000 × 0.6806= 現在価値 2,041.8 毎年払う利札 Coupon 180 × 5年180 × 3.9927= 現在価値 718.7 発行価額 Issue Price 2,760割り引くのに使うのは市場利率8%。表面利率6%で割り引くと、額面3,000に戻ってしまう。額面 3,000 − 発行価額 2,760 = 割引額 240この240も、5年かけて利息費用になる。表面利率 < 市場利率 → 割引発行 / 表面利率 = 市場利率 → 額面発行 / 表面利率 > 市場利率 → プレミアム発行券面に書かれた利率ではなく、発行の瞬間に市場が求める利回りが値段を決める
図1 発行価額を決めるのは、券面の利率ではなく市場の利回り

発行価額は、この社債が将来生む2つのキャッシュ ── 満期に返す元本と、毎年払う利札 ── を、市場利率で割り引いた現在価値の合計です。だから表面利率と市場利率の大小関係が、そのまま発行価額を決めます。

3つの発行パターン
関係発行価額呼び方利息費用と現金利払いの関係
表面利率 = 市場利率額面と同じ額面発行at Par一致する
表面利率 < 市場利率額面を下回る割引発行at a Discount利息費用 > 現金利払い
表面利率 > 市場利率額面を上回るプレミアム発行at a Premium利息費用 < 現金利払い

ASTRAの社債は表面利率6%に対して市場利率8%なので、割引発行です。額面3,000に対して入ってきたのは2,760。差の240が社債発行差金で、貸借対照表では社債から控除する形で表示され、帳簿価額は2,760になります。「3,000を借りた」という表示にはなりません。

実効金利法 ── 帳簿価額が額面へ近づいていく

割引の240は、発行した期の費用にはしません。満期までの各期に配り、利息費用の一部として計上していきます。その配り方が実効金利法(Effective Interest Method)です。手順は毎期3つだけです。

  1. 利息費用 期首の帳簿価額 × 発行時の市場利率
  2. 現金利払い 額面 × 表面利率(毎年同額。ここは契約で決まっている)
  3. 償却額 1と2の差。割引発行なら帳簿価額に加算し、プレミアム発行なら減算する

掛ける相手が2つとも違うことに注意してください。利息費用は帳簿価額市場利率、現金利払いは額面表面利率です。割引発行では帳簿価額が毎期少しずつ増えるので、利息費用も毎期少しずつ増えます。そして満期には帳簿価額がちょうど額面に一致します。

5年間の利息費用の合計は、現金で払う利札の合計に割引額を足した金額になります。ASTRAなら 180 × 5年 = 900 に 240 を足した1,140です。240は「割り引かれた分だけ得をした」のではなく、5年かけて負担する利息そのものだった、ということです。

リース ── 使う権利を資産に、払う義務を負債に

リース(Lease)は、貸手(Lessor)が持っている資産を、借手(Lessee)が一定期間使う契約です。かつては多くのリースが借手の貸借対照表に載らず、負債が見えないまま設備を使える手段になっていました。現在の考え方では、借手は原則として、使う権利を使用権資産(ROU Asset: Right-of-Use Asset)として、支払う義務をリース負債(Lease Liability)として計上します。金額はどちらも、残りのリース料を割り引いた現在価値が出発点です。

借りているのに、資産に載る ── リースの当初計上と費用の出方 年間リース料200・5年・割引率8% ── 単位: 千USD リース契約 5年 × 年200支払総額 1,000現在価値 200 × 3.9927 = 799 使用権資産 ROU Asset799 を資産に計上5年で償却 → 年 159.8 リース負債 Lease Liability799 を負債に計上1年目 利息63.9/元本136.15つの基準(所有権の移転/購入選択権/期間が主要な部分/現在価値がほぼ全部/特別仕様)のどれか1つでも当てはまればファイナンスリース。当てはまらなければオペレーティングリース。 損益計算書に出る費用(1年ぶん) ファイナンス 1年目 償却 159.8 + 利息 63.9 = 223.7 ファイナンス 5年目 償却 159.8 + 利息 14.9 = 174.7 オペレーティング 各年 200.0(毎年おなじ)5年の合計はどちらも1,000。違うのはタイミングと、営業利益に入るかどうか。
図3 リースの当初計上と、分類による費用の出方の違い

割引率には、契約から読み取れる利率がある場合はそれを、読み取れない場合は借手の追加借入利子率(Incremental Borrowing Rate)を使います。なお、期間の短いリースなどには簡便な扱いが認められる場合があります。

5つの基準 ── どれか1つでも当てはまればファイナンス

計上したうえで、リースはファイナンスリースとオペレーティングリースに分けられます。判定は次の5つで行い、どれか1つでも当てはまればファイナンスリースです。

ファイナンスリースの5つの基準
#基準考え方
1所有権の移転Transfer of Ownershipリース期間の終わりに所有権が借手へ移る
2購入選択権Purchase Option行使することがほぼ確実といえる購入選択権が付いている
3期間Lease Termリース期間が資産の経済的耐用年数の主要な部分を占める
4現在価値Present Valueリース料などの現在価値が、資産の公正価値のほぼ全部に相当する
5特別仕様Specialized Nature借手専用の特別仕様で、他へ転用する見込みがない

5つを貫いているのは「実質的に買ったのと同じか」という1本の問いです。かつての基準にあった「耐用年数の75%」「公正価値の90%」という数値は、現在は「主要な部分」「ほぼ全部」という表現に置き換わっていますが、実務では目安として参照されることがあります。数字そのものより、5つの基準が同じ問いを角度を変えて聞いている点をおさえてください。

分類で変わるのは、費用の出方

どちらの分類でも、貸借対照表には使用権資産とリース負債が載ります。変わるのは損益計算書での費用の見え方です。

2つの分類の違い(借手側)
ファイナンスリースオペレーティングリース
貸借対照表使用権資産とリース負債を計上(同じ)
損益計算書使用権資産の償却費 + 利息費用の2本立て単一のリース費用(原則として期間にわたり定額)
費用の出方初期に厚く、後年に薄い(前倒し)毎期ほぼ同額
利息費用営業外費用として表示されるリース費用に含めて営業費用に表示される

ファイナンスリースで費用が前倒しになる理由は、Day 6の加速償却と同じ形をしています。利息費用は残高に率を掛けるので、残高が大きい初期ほど大きくなるからです。同じ契約でも、分類が違えば1年目の営業利益が違って見える ── ここが管理会計側から見た、このテーマの実務的な意味です。具体的な金額の差は第2部で確かめます。

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Pacific Logistics ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)