発行価額から満期まで ── 帳簿価額を5年ぶん動かす
ASTRA Manufacturing の負債を、借換・社債・リース・保証の順に通します。今日のデータはこの1セットだけです。すべての計算がこの表から出発します。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 短期借入金(Day 2の貸借対照表より) | 1,000 |
| 流動資産 / 流動負債(同上) | 7,200 / 3,500 |
| 社債 額面 / 表面利率 / 期間 | 3,000 / 6% / 5年 |
| 社債 発行時の市場利率 | 8% |
| 現価係数(8%・5年) 5年後の1の現価 / 年金現価 | 0.6806 / 3.9927 |
| 現価係数(5%・5年) 5年後の1の現価 / 年金現価 | 0.7835 / 4.3295 |
| 配送センターのリース 年間リース料 / 期間 / 追加借入利子率 | 200 / 5年 / 8% |
| 製品保証 当期売上 / 保証費用の見積率 / 当期の実際修理支出 | 4,000 / 2% / 30 |
| 訴訟A 可能性が高く見積り可能 / 訴訟B ある程度ありうる | 150 / 90 |
単位: 千USD(利率・年数を除く)。利札とリース料は年1回、各年度末に支払うものとします。
Step 1 借換 ── 現金は動かないのに、比率が動く
短期借入金1,000は、そのままなら流動負債です。ここで決算日の後・財務諸表の公表前に、5年ローンへの借換契約が締結できたとします。長期化する意図があり、その能力も示せる状態です。金額はDay 2の貸借対照表(社債を発行する前の時点)をそのまま使います。
- 借換前 流動比率 = 流動資産 7,200 ÷ 流動負債 3,500 = 2.06倍
- 借換後 1,000が非流動へ移り、流動負債は 3,500 − 1,000 = 2,500
- 借換後の流動比率 7,200 ÷ 2,500 = 2.88倍
つまずきポイント ── 「意図」だけでは動かない
現金は1千USDも動いていません。借入の総額も変わりません。それでも短期の安全度を示す指標は2.06倍から2.88倍へ跳ね上がります。だからこそ、非流動へ移す条件は意図と能力の両方を求められています。「来年、長期に借り換えるつもりです」という説明だけでは足りず、実行済みの借入や締結済みの契約といった裏づけが要ります。分析する側から見れば、流動比率が急に良くなった会社は、注記で借換の有無を確かめる価値がある、ということでもあります。
Step 2 社債の発行価額 ── 2つの現在価値を足す
社債が将来生むキャッシュは2つです。5年後に返す元本3,000と、毎年払う利札です。
- 毎年の利札 額面 3,000 × 表面利率 6% = 180
- 元本の現在価値 3,000 × 0.6806 = 2,041.8
- 利札の現在価値 180 × 3.9927 = 718.7
- 発行価額 2,041.8 + 718.7 = 2,760.5 → 千USD未満を四捨五入して 2,760
- 社債発行差金(割引額) 額面 3,000 − 発行価額 2,760 = 240
貸借対照表には、社債3,000から割引額240を控除した帳簿価額2,760が載ります。「3,000の借入」という表示にはなりません。
つまずきポイント ── 割り引くのは市場利率
現価係数を選ぶときに表面利率6%の係数を使ってしまうミスがあります。試しに6%の係数(0.7473と4.2124)で計算すると、3,000 × 0.7473 + 180 × 4.2124 = 2,241.9 + 758.2 = 3,000.1 となり、額面そのものに戻ります。表面利率で割り引くと額面に戻る ── これは検算にも使えます。額面とずれた金額が出てくるのは、市場利率で割り引いたときだけです。
Step 3 実効金利法 ── 240を5年に配る
毎期の手順は3つです。利息費用は期首の帳簿価額に市場利率8%を掛ける。現金利払いは額面に表面利率6%を掛けた180で固定。差額が償却額で、割引発行なので帳簿価額に足していきます。
- 1年目の利息費用 期首簿価 2,760 × 8% = 220.8
- 1年目の現金利払い 額面 3,000 × 6% = 180
- 1年目の償却額 220.8 − 180 = 40.8
- 1年目末の帳簿価額 2,760 + 40.8 = 2,800.8
- 2年目の利息費用 期首簿価 2,800.8 × 8% = 224.1(簿価が増えた分だけ増える)
| 年 | 期首簿価 | 利息費用 8% | 現金利払い | 償却額 | 期末簿価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 2,760.0 | 220.8 | 180.0 | 40.8 | 2,800.8 |
| 2年目 | 2,800.8 | 224.1 | 180.0 | 44.1 | 2,844.9 |
| 3年目 | 2,844.9 | 227.6 | 180.0 | 47.6 | 2,892.5 |
| 4年目 | 2,892.5 | 231.4 | 180.0 | 51.4 | 2,943.9 |
| 5年目 | 2,943.9 | 235.5 | 180.0 | 55.5 | 3,000.0 ※ |
| 合計 | — | 1,140.0 | 900.0 | 240.0 | — |
※ 各行は小数第1位で表示しています。丸めの累積で5年目末は2,999.4になりますが、満期に返すのは額面3,000なので、端数は最終年の償却額で調整して帳簿価額を3,000にそろえます。
読み方は2つあります。縦に見ると、利息費用が220.8から235.5へ毎年増えていきます。現金で払う180は5年とも変わらないのに、です。横に見ると、期首簿価に利息費用を足して現金利払いを引けば期末簿価になります。この1行の関係が、全期間の骨格です。
そして合計行が検算になります。5年間の利息費用1,140は、現金で払った利札900に割引額240を足した金額と一致します。240は値引きではなく、5年かけて負担する利息そのものでした。
Step 4 もし市場利率が5%だったら ── プレミアム発行
同じ社債(額面3,000・表面利率6%・5年)を、市場利率が5%のときに発行したとします。表面利率のほうが高いので、投資家は額面より高い値段を払います。
- 元本の現在価値 3,000 × 0.7835 = 2,350.5
- 利札の現在価値 180 × 4.3295 = 779.3
- 発行価額 合計 3,129.8 → 四捨五入して 3,130。プレミアムは 130
- 1年目の利息費用 3,130 × 5% = 156.5
- 1年目の償却額 現金利払い 180 − 利息費用 156.5 = 23.5(帳簿価額から減算)
- 1年目末の帳簿価額 3,130 − 23.5 = 3,106.5
割引発行では帳簿価額が下から額面へ上がっていき、プレミアム発行では上から額面へ下りていきます。向きは逆ですが、やっていることは同じ ── 期首簿価に実効利率を掛け、現金利払いとの差を簿価に反映させる、それだけです。
Step 5 リース ── 799を5年で返す
Pacific Logistics の配送センターを5年契約で借ります。年間リース料200、追加借入利子率8%。この契約が5つの基準のどれかに当てはまればファイナンスリース、どれにも当てはまらなければオペレーティングリースです。まず、分類によらず共通の当初計上額を出します。
- リース負債 年間リース料 200 × 年金現価係数 3.9927 = 798.5 → 四捨五入して 799
- 使用権資産 当初は同額の 799(前払リース料や当初直接費用があれば、その分だけ資産側に加算する)
支払総額は 200 × 5年 = 1,000 ですが、負債に載るのは799です。差の201は、まだ発生していない利息だからです。
リース負債の減り方は、社債とまったく同じ骨格です。期首残高に8%を掛けたものが利息費用、リース料との差が元本の返済分になります。
- 1年目の利息費用 799 × 8% = 63.9
- 1年目の元本返済分 リース料 200 − 63.9 = 136.1
- 1年目末のリース負債 799 − 136.1 = 662.9
| 年 | 期首残高 | リース料 | 利息 8% | 元本返済 | 期末残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 799.0 | 200.0 | 63.9 | 136.1 | 662.9 |
| 2年目 | 662.9 | 200.0 | 53.0 | 147.0 | 515.9 |
| 3年目 | 515.9 | 200.0 | 41.3 | 158.7 | 357.2 |
| 4年目 | 357.2 | 200.0 | 28.6 | 171.4 | 185.8 |
| 5年目 | 185.8 | 200.0 | 14.9 | 185.1 | 0.0 ※ |
| 合計 | — | 1,000.0 | 201.0 | 799.0 | — |
※ 5年目も端数を最終年で調整しています。利息の合計201は、支払総額 1,000 − 当初の負債 799 と一致します。
利息が63.9から14.9へ細っていくのに対して、元本返済分は136.1から185.1へ太っていきます。住宅ローンの返済表と同じ形です。
分類で、1年目の費用がいくら違うか
| 年 | ファイナンス:償却費 | ファイナンス:利息 | ファイナンス:合計 | オペレーティング |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 159.8 | 63.9 | 223.7 | 200.0 |
| 3年目 | 159.8 | 41.3 | 201.1 | 200.0 |
| 5年目 | 159.8 | 14.9 | 174.7 | 200.0 |
| 5年合計 | 799.0 | 201.0 | 1,000.0 | 1,000.0 |
ファイナンスリースの償却費は、使用権資産 799 ÷ 5年 = 159.8。ここに逓減する利息を足すので、1年目223.7・5年目174.7と前倒しの形になります。オペレーティングリースは毎年200.0で一定です。5年の合計はどちらも1,000で、支払ったリース料の総額に一致します。
差が出るのはタイミングだけ ── Day 6の減価償却で見た構図と同じです。ただしもうひとつ違いがあります。ファイナンスリースでは利息費用が営業外費用に区分されるため、営業利益から外れます。オペレーティングリースの200は全額が営業費用です。1年目の営業利益で比べると、ファイナンスリースのほうが 200 − 159.8 = 40.2 だけ大きく見える計算になります。
Step 6 保証負債と偶発負債
保証型の製品保証は、製品を売った期に費用を見積って計上します。売ってから修理するまでの時間差があっても、原因は売った期にあるからです。
- 当期の保証費用 売上 4,000 × 2% = 80(費用計上と同時に保証負債を80計上)
- 当期の実際の修理支出 30(保証負債を取り崩す。費用にはしない)
- 期末の保証負債 80 − 30 = 50
つまずきポイント ── 実際に修理した30は費用ではない
損益計算書に載る保証費用は80です。実際に使った30を費用にすると、費用の二重計上になります。30はすでに見積り計上した負債の取り崩しにすぎません。同じ理屈で、修理が想定より少なくて済んだ場合も、その期に費用が減るのではなく見積りの見直しとして扱います。
偶発事象は3段階の仕分けをそのまま当てはめます。
| 案件 | 発生可能性 | 見積り | 処理 |
|---|---|---|---|
| 訴訟A | 可能性が高い(Probable) | 150で見積れる | 負債150と損失150を計上する |
| 訴訟B | ある程度ありうる(Reasonably possible) | 90で見積れる | 計上せず、注記で開示する |
見積れる金額があるかどうかではなく、まず発生可能性で分かれます。訴訟Bは90という数字が出ていても貸借対照表には載りません。この期に負債として増えるのは、保証負債50と訴訟A分の150、合わせて200です。
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| issued at a discount | 額面を下回る価額で発行された | 社債の発行条件を報告するとき |
| amortize the discount | 割引額を各期に配分する | 実効金利法の処理を説明するとき |
| carrying amount accretes to par | 帳簿価額が額面へ近づいていく | 割引発行の社債の推移を説明するとき |
| present value of lease payments | リース料の現在価値 | リース負債の当初計上額を求めるとき |
| front-loaded expense | 初期に厚く出る費用 | ファイナンスリースの費用の形を説明するとき |
| accrue a liability | 負債を見積り計上する | 保証や訴訟の処理を判断するとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| 短期借入金の借換 | Refinancing of Short-term Debt | 1年以内に満期が来る借入を長期へ置き換えること。意図と能力の両方を示せる場合に非流動へ分類できる |
| 社債 | Bonds Payable | 多数の投資家から長期の資金を借りるために発行する債券 |
| 額面 | Face Value / Par Value | 満期に返す元本の金額。券面に印刷されている |
| 表面利率 | Coupon Rate / Stated Rate | 券面に書かれた利率。現金で払う利札の計算に使う |
| 市場利率 | Market Rate / Effective Rate | 発行時に投資家が求める利回り。発行価額を決める |
| 額面発行 | Issued at Par | 表面利率=市場利率で、発行価額が額面と一致する発行 |
| 割引発行 | Issued at a Discount | 表面利率<市場利率で、発行価額が額面を下回る発行 |
| プレミアム発行 | Issued at a Premium | 表面利率>市場利率で、発行価額が額面を上回る発行 |
| 社債発行差金 | Discount on Bonds Payable | 額面と発行価額の差。社債から控除して表示し、満期までに償却する |
| 実効金利法 | Effective Interest Method | 期首の帳簿価額に実効利率を掛けて利息費用を求め、現金利払いとの差を簿価に反映する方法 |
| 保証負債 | Warranty Liability | 保証型の製品保証について、販売時に見積り計上する負債 |
| 保証型の保証 | Assurance-type Warranty | 仕様どおりに動くことの保証。費用と負債として処理する |
| サービス型の保証 | Service-type Warranty | 別料金の延長保証など。別個の履行義務として収益を配分する |
| 偶発負債 | Contingent Liability | 将来の出来事しだいで確定する義務。可能性が高く見積り可能なときに計上する |
| リース | Lease | 貸手の資産を借手が一定期間使用する契約 |
| 使用権資産 | ROU Asset (Right-of-Use Asset) | リースで得た「使う権利」を資産計上したもの |
| リース負債 | Lease Liability | 将来のリース料の現在価値として計上する負債 |
| ファイナンスリース | Finance Lease | 5つの基準のいずれかに該当するリース。償却費と利息費用の2本立てで費用計上する |
| オペレーティングリース | Operating Lease | 5つの基準のいずれにも該当しないリース。単一のリース費用を原則定額で計上する |
| 追加借入利子率 | Incremental Borrowing Rate | 契約から利率が読み取れない場合に、借手が割引率として使う利率 |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Pacific Logistics ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)