「売上規模に対して従業員が多いのに、なぜか皆『忙しい』と言う…」
「レストランから大企業まで、なぜこんなに『縦割り』で協力しないんだろう…」
「最新ツールを導入したいのに、現場はなぜかExcelとZalo(ザロ)から離れない…」
ベトナムでビジネスを展開する多くの外国人マネージャーが、一度はこのような壁に突き当たると思います。ただ、それは本当なのか、私の偏見ではないのかなどを含めて、AIやDeep Resarchに聞いてみました。
その結果、その感覚は、決して私の会社やチームだけの特殊な問題ではないとのことで、そうした日々のフラストレーションの裏にある「なぜ」を、ベトナム特有の文化、社会、そして制度的な背景から体系的に解き明かしてくれました。
批判ではなく、根本構造の理解です。
Google Workspaceはベトナムの職場文化と、いわば「哲学レベルで対立」します。
という名言まで出ました。Google Workspaceで資料を共有して編集権限も与えているのに、成果物はワードやエクセルでZaloやメールで送られてくるのはなぜなのかというのも理解できました。
AIやDeep Reserch機能に出力していただいた理解に基づき、文化的な壁を乗り越え、高いパフォーマンスを発揮する効率的な組織を築くための、実践的なロードマップを考えていきたいです。
第1章:行動の根源にある「文化的DNA」
職場で観察される行動を理解するには、まず社会の「OS」ともいえる文化的価値観を知る必要があります。
1.1. 「社会の細胞」としての家族
ベトナム文化において、家族は社会を形成する根源的な単位です。2013年の憲法第64条に「家族は社会の細胞である」と明記されているほど、その価値観は人々の核となっています。
仕事は、自己実現である前に「家族を支える手段」。そのため、家族の重要なイベント(病気、冠婚葬祭など)が仕事より優先されるのは、彼らにとって極めて論理的な選択です。「仕事を失っても次は見つかるが、家族を失ったら次はいない」という言葉に、その価値観が集約されています。
これを「忠誠心が低い」と解釈するのは早計です。むしろ、会社の目標が従業員の「家族への貢献」と両立することを伝え、職場を第二の家族のような相互扶助のコミュニティとして育むことが、定着率向上の鍵となります。
1.2. 階層、敬意、そして「面子(メンツ)」
儒教の影響が色濃いベトナムでは、年長者や上位者への敬意が社会秩序の根幹をなします。そして、これと密接に結びつくのが「面子を保つ」という強い意識です。人前で恥をかかされることは、極めて深刻な侮辱と受け取られます。
このため、部下は公の場で上司に反論したり、間違いを指摘したりすることに強い抵抗を感じます。問題の発生や自らのミスを報告することも、無能さの露呈、すなわち「面子を失う」リスクを伴うため、ギリギリまで遅れがちです。
これは、日本の「報・連・相」文化に慣れた管理者から見ると、透明性の欠如や当事者意識の欠如に映るかもしれません。しかし、その背景には、個人の尊厳を守ろうとする自己防衛メカニズムがあるのです。
1.3. プロセスではなく「結果」を重視する姿勢
ベトナム人の働き方は、しばしば「結果重視」と評されます。日本の文化で重視されがちな、構造化された段階的なプロセスよりも、最終的な成果を優先する傾向があります。
例えば、2週間の期限が与えられたタスクに対し、期限間際に集中して帳尻を合わせるスタイルは、怠惰なのではなく、プロセスよりも「期限内に完了させる」という結果が重要だという価値観の表れです。
この価値観は、業務ツールの選択にも影響します。詳細なプロセス管理を求めるGoogle Workspaceのようなツールは、窮屈な制約と感じられがちです。一方で、個人の裁量で自由に結果を管理できるExcelは、この「結果重視」の文化に完璧にフィットするのです。
第2章:「縦割り」の正体と組織の力学
観察される「縦割り」は、文化だけでなく、歴史的な組織モデルにその根を持っています。
2.1. なぜ「人が多くて、みんな忙しい」のか?
この根源的な問いの答えは、「システムの非効率性を、人の数で補っているから」 です。その背景には、複合的な要因があります。
中央集権構造の遺産: ベトナムの行政は、中央集権的で階層的なトップダウン構造を特徴とします。多くの民間企業もこの「青写真」を無意識に模倣し、部門間の水平連携が乏しい「縦割り」組織を形成しがちです。政府自身もこの非効率性を認識し、省庁再編などの改革を進めているほど、これは国家レベルの課題です。
職務という「領土」: 縦割り構造は、個々の従業員に「自分の仕事の範囲はここまで」という強い意識(属人化)を生みます。レストランで料理を運ぶ人は片付けをせず、片付ける人は会計をしない、という光景はこの現れです。協力の欠如ではなく、自らの職務を正確に遂行しているという意識なのです。
低い労働生産性と高い残業コスト: 客観的なデータが、この構造をさらに強固にします。
労働生産性: ILO(国際労働機関)の2022年のデータによると、ベトナムの労働生産性は日本の約4分の1、シンガポールの約5分の1に留まります。同じ成果を出すためにより多くのマンパワーが必要な構造があります。
残業コスト: ベトナムの労働法が定める残業代の割増率は、平日150%、週末200%、祝日300% と、日本の基準(25%〜)を遥かに上回ります。
これらの要因が組み合わさることで、企業にとっては「少数の多能工に残業させる」よりも「厳密に定義された狭い職務を持つ多数の従業員を雇用する」方が、経済的に合理的という結論に至るのです。
彼らは遊んでいるわけではありません。部門間の調整、承認の待機、書類のやり取りといった、組織構造が生み出す「摩擦」を処理する業務に忙殺されているのです。
2.2 他の国では成功しているはずの外資系の効率的なシステムが、なぜベトナムではうまく機能せず、結果として人の数で補うことになるのか
この問いに対する答えは、「システムが機能不全に陥るのではなく、システムの背景にある『思想』や『文化的前提』が、ベトナムの現場と衝突を起こすから」 です。そして、その衝突によって生まれる「業務上の摩擦」を解消するために、「人」が介在せざるを得なくなるのです。
具体的に、外資のシステムとベトナムの現場で何が起こっているのかを解説します。
1. 「暗黙の前提」の不一致:システムの思想 vs 現場の文化
外資系企業が導入するERPやCRMといったシステムは、多くの場合、以下のような「暗黙の前提」の上に設計されています。
前提A:情報は透明に共有されるべきだ
前提B:従業員は自律的に判断し、水平的に協力する
前提C:定められたプロセスに従うことが品質を担保する
しかし、これらはベトナムの職場文化と、ことごとく衝突します。
衝突A(透明性 vs 面子): システム上でミスや遅延を報告することは、公の場で「面子を失う」ことにつながります。そのため、問題が手遅れになるまで情報が入力されず、システムのデータが実態を反映しなくなります。
衝突B(自律・水平 vs 階層・縦割り): システムが部門間の協力を求めても、「それは自分の仕事ではない(領土外だ)」という意識や、「上司の指示が絶対」という階層意識が、システム上のタスク実行を妨げます。
衝突C(プロセス重視 vs 結果重視): システムが求める段階的なプロセスは、最終的な結果を重視する文化の中では「面倒な手続き」と見なされがちです。結果、プロセスが飛ばされたり、後からまとめて入力されたりして、システムは形骸化します。
2. 「シャドーシステム」の発生:公式システム vs 現場のExcel/Zalo
グローバルで統一された公式システムが、上記のような理由で「使いにくい」「文化に合わない」と現場に判断されると、何が起こるでしょうか。
多くの場合、現場は自分たちが使い慣れたExcelやZaloを使い、非公式な管理台帳や連絡網、いわゆる「シャドーシステム」を作り上げます。
こうなると、事態はさらに悪化します。
従業員は、公式システムとシャドーシステムへの二重入力を強いられる。
どちらのデータが正しいのか分からなくなり、確認と調整のためのコミュニケーションコストが増大する。
結果として、効率化のために導入したはずのシステムが、逆に現場をさらに忙しくさせるという皮肉な状況が生まれます。
3. 「外部環境」という変えられない壁
社内の問題だけでなく、ベトナム特有の外部環境も、外資のシステムを機能不全に陥らせます。
典型的な例が「レッドインボイス(公的領収書)」です。 多くの外資系企業は、グローバルで統一されたペーパーレスの経費精算システムを持っています。しかし、ベトナムの税務上、依然として物理的な「レッドインボイス」の原本保管が極めて重要視されます。
そのため、システム上で経費を申請した後、別途、経理部門が物理的な請求書を回収し、ファイリングするという二重の業務が発生します。効率的なグローバルシステムが、現地の制度によってその効果を半減させられてしまうのです。
結論:なぜ「人の数」が必要になるのか
このように、外資の効率的なシステムは、ベトナムの①文化的価値観、②現場の慣習(シャドーシステム)、そして③外部の法制度という三重の壁にぶつかります。
この壁によって発生する「システムの目詰まり」や「業務上の摩擦」を解消し、日々のオペレーションをなんとか回していくために、どうしても「人」の介入が必要になります。
システムに入力されない情報を、人が電話やZaloで確認して回る。
部門間で進まないタスクを、マネージャーが間に入って調整する。
デジタルと紙の二重管理を、経理担当者が手作業で突き合わせる。
これが、たとえ効率的なシステムを持つ外資系企業であっても、ベトナムでは「人の数で補う」という構造に落ち着きがちになる、本当の理由なのです。それはシステムの失敗というより、**グローバルスタンダードとローカルの現実との間の「ギャップを埋めるコスト」**が、「人の数」として現れていると言えるでしょう。
第3章:制度という名の迷宮
企業の行動は、外部の法制度や行政の現実にも大きく左右されます。
3.1. 書類の山は「合理的な鎧」
「経理部門の机が常に書類で山積み」という光景。
ジェトロの「2023年度海外進出日系企業実態調査」では、在ベトナム日系企業の46.7%が「行政手続きの煩雑さ」を経営上のリスクとして挙げています。頻繁に変わる法律、不透明な運用、そして担当者による解釈の違いといった不確実性が高い環境では、物理的な署名・捺印のある「紙の書類」こそが、将来の税務調査や紛争から会社を守る最も強力な証拠となります。
経理部門の書類の山は、非効率を承知の上で会社を守るための、極めて合理的なリスク回避戦略なのです。
第4章:なぜ「ExcelとZalo」だけが使われるのか
最新のコラボレーションツールが根付かない理由も、これまでの分析から見えてきます。
Zalo(ザロ)の絶対的支配: Zaloは、7,500万人以上のアクティブユーザー(人口の約75%) を抱える、もはや社会インフラです。単なるメッセージアプリではなく、決済や行政手続きも可能な「スーパーアプリ」として、ベトナムの文化に完璧に適合しています。関係性に基づくトップダウンの指示や、非公式で迅速な問題解決を円滑にし、既存の働き方をデジタル上で強化するツールなのです。Zaloは、関係性に基づくトップダウンの指示や、非公式で迅速な問題解決を円滑にします。これは現場レベルのタスク遂行を加速させますが、組織全体の視点で見ると、既存の働き方が持つ課題(情報の属人化や縦割り構造)までも、デジタル技術でかえって強化してしまう側面があるのです。
Google Workspaceが拒絶される本当の理由: Google Workspaceが体現するのは「透明性」「水平的な協力」「プロセスの標準化」という哲学です。これは、これまで見てきた「階層意識」「面子」「縦割り」「属人化」「結果重視」といったベトナムの職場文化と、いわば「哲学レベルで対立」します。強制的な透明性は、個人の「領土」への脅威と見なされかねません。
従業員がZaloとExcelの組み合わせに固執するのは、このツールセットが既存の文化的・組織的パラダイムに完璧に適合しているからです。経営者がGoogle Workspaceの導入を求めることは、単なるツールの変更依頼ではなく、根本的な文化変革の要求に他ならないのです。
第5章:文化の壁を乗り越える実践的行動計画
特定の国のやり方を一方的に導入するのではなく、現地の文化を尊重しつつ、グローバルなビジネス環境で求められる効率性と透明性を両立させるための、具体的なステップを提案します。
5.1. コミュニケーションの再設計:暗黙の期待から明確な合意へ
西洋文化に多い「ローコンテクスト(文脈に頼らず、言葉で直接的に表現する)」なコミュニケーションと、ベトナムのような「ハイコンテクスト(文脈や関係性を重視し、間接的に表現する)」な文化との間には、根本的なギャップが存在します。「言わなくても理解してくれるはず」という暗黙の期待は、誤解や業務遅延の最大の原因です。
重要なのは、誰もが理解し、実行できる**「明確なコミュニケーション・プロトコル(手順)」**を意図的に設計し、それを組織の公式なルールとして定着させることです。以下に、その具体的なルール作りの例を挙げます。
1. 進捗の可視化とアカウンタビリティ(Accountability)の確立
文化的課題: プロセスよりも最終結果を重視する傾向から、明確な指示がなければ定期的な進捗報告が行われないことがあります。
具体的な対策: 「毎週金曜日の午後4時に、担当プロジェクトの進捗状況を箇条書き3つで、指定のチャネルに投稿してください。これは業務評価の一部です」のように、いつ・何を・どのように報告するかを具体的に定義します。これにより、個々のタスクに対する**アカウンタビリティ(自分が担当する業務に対する説明責任)**が明確になります。
2. 心理的安全性(Psychological Safety)の確保とエスカレーションルール
文化的課題: 人前で失敗を認めることは「面子(メンツ)を失う」ことと捉えられ、問題の報告が遅れる傾向があります。
具体的な対策: 「タスクの期限の半分が過ぎた時点で進捗が50%未満の場合、必ずマネージャーに1対1で報告する義務があります。早期の報告は問題解決への貢献であり、高く評価されます」というルールを設けます。重要なのは、問題を報告することが罰ではなく、チームへの貢献であるという文化を醸成することです。これにより、失敗を恐れず発言できる**「心理的安全性」が確保されます。同時に、どのような問題を、誰に、いつまでに報告すべきかという「エスカレーションルール(緊急時の上申ルール)」**を明確に定めます。
3. オーナーシップ(Ownership)とエンゲージメントの促進
文化的課題: 階層意識が強く、上位者の意見に異を唱えることは敬意を欠く行為と見なされがちなため、部下からの提案や改善案が出にくいことがあります。
具体的な対策: 「この計画について、何か懸念点や、もっと良い方法のアイデアはありますか?次のミーティングまでに意見をまとめてください。どんな意見でも歓迎します」と、**意見を求める姿勢を明確に示し、考える時間を与えます。これにより、従業員は単なる指示の受け手ではなく、業務に対して当事者意識(オーナーシップ)**を持つようになり、仕事へのエンゲージメント向上につながります。
4. 期待値の明確化(Clarifying Expectations)
文化的課題: 無能だと思われることを恐れ、指示内容を完全に理解していなくても「分かりました」と答えてしまうことがあります。
具体的な対策: 「指示内容について、あなたの言葉で要約してくれますか?また、このタスクを完了するために、最初の3つのステップが何になるか教えてください」のように、理解度を相互確認するプロセスを組み込みます。これは部下の能力を試しているのではなく、指示者と受け手の間で期待値にズレがないかを確認するための、双方にとって重要なプロセスであることを強調します。
5.2. 協業をエンジニアリングする:サイロを壊し「共有の領土」を創る
業務プロセスを見える化する: 受注から請求まで、関連部門の全員で業務フローを書き出し、自分の仕事が他部署にどう影響するかを理解させます。
部門横断プロジェクトチームを組成する: 明確な共有目標とチーム単位のインセンティブを設定し、「外集団」を新しい「内集団」に変えます。チームランチなどを企画し、信頼の基盤となる個人的な関係構築を促進します。
評価制度に「協力」を組み込む: 職務記述書やKPIに「部門間協力」を明確に位置づけ、評価します。
5.3. テクノロジーを導入する:トップダウンから「現場の課題解決」へ
新しいツールをトップダウンで「命令」するのではなく、現場が「欲しい」と思う状況を創り出す、段階的なアプローチが有効です。
フェーズ1:パイロット導入
対象: 小規模で意欲の高いチーム(例:プロジェクトチーム3〜5名)
解決すべき課題(ペインポイント): 営業からの不正確な注文情報が原因で、出荷ミスや遅延が頻発している。
導入するツール: Googleフォーム(注文入力の標準化)、共有スプレッドシート(リアルタイムでの注文状況追跡)
成功の鍵: パイロットチームの成功を全社朝礼などで公に称賛し、彼らの「面子」を立てる。
フェーズ2:拡大
対象: 経理部門や他のプロジェクトチーム
解決すべき課題(ペインポイント): 月末の経費精算がExcelと紙の領収書で行われ、膨大な手作業と確認時間を要している。
導入するツール: Googleフォームとスプレッドシート(経費精算申請フローのデジタル化)、Googleドライブ(領収書のアップロード)
成功の鍵: パイロットチームのメンバーが、新しいチームへの「伝道師」兼トレーナー役を担う。ツールのメリットを数字で明確に示す。
フェーズ3:統合
対象: 全社
解決すべき課題(ペインポイント): 部門間の情報共有がZaloや口頭で行われ、バージョン管理が混乱。公式な議事録や文書が属人化している。
導入するツール: 共有ドライブ(全社的なファイル管理)、Googleドキュメント(会議議事録の共同編集・保管)、Googleカレンダー(全社スケジュールの共有)
成功の鍵: 各部門長を巻き込み、新しい業務フローを公式な社内ルールとして制定する。ツールの利用を業績評価項目に含める。
結論:最強の「ハイブリッド型職場」を目指して
ベトナムの職場で観察される一見「非効率」な現象は、個人の資質ではなく、文化、歴史、制度が絡み合った体系的な帰結です。この「なぜ」を理解することこそが、すべての第一歩です。
目指すべきは、日本のやり方を押し付けることではありません。グローバルスタンダードの持つ透明性や協調性と、ベトナム人従業員が本来持つ勤勉さ、家族のようなチームへの忠誠心、そして明確なリーダーシップへの敬意といった強みを融合させる「ハイブリッドモデル」を創造することです。
あなたが感じていた日々のフラストレーションは、この構造を理解することで、もはや単なる障害ではなくなります。それは、ベトナムというユニークな環境で、他社にはない強靭な組織を構築するための、またとない機会なのです。



