前回の記事の最後に「次はGoogle Mapの画像を使って生成できないか試したい」と書いた。これはその顛末だ。
結論から言うと、Google Mapは使えなかった。代わりに使ったのは、無料の地図データOpenStreetMap。そして開けてみたら、一度も走られないまま消えたこのコースそのものが、地図に描き込まれていた。
「Google Mapから取れないの?」——3つ調べて、2つ捨てた
公開後に走り直して、気になり始めた。道の形は合っているのに、建物の並びが、私が毎週バイクで通るミーディンのあの道ではない。Google Mapには全部写っているのだから、あそこから取れないのか。調べた結果はこうだった。
① GoogleのPhotorealistic 3D Tiles → ハノイには存在しなかった。Google Earthと同じ3D都市データをAPIで配れる仕組みがある。ただし対応都市の一覧は公開されておらず、確かめる方法は「実際に見る」しかない。Google Earthでミーディン周辺を3D表示にしたら、建物が1棟も立っていなかった。336mのランドマーク72ですら、屋上の写真が地面に貼ってあるだけ。同じ操作でバンコクを見ると建物の側面まで立体で出るから、操作ミスではなくデータが無い。
② ストリートビューの画像を貼る → 規約的に危ないのでやめた。Google Maps Platformの規約は画像の複製やキャッシュを制限している。公開物に画素をそのまま使うのは分が悪い。「見て確認して、言葉にしてAIに渡す」用途に限定した。
③ OpenStreetMap → 本命どころか、想像以上だった。道路の中心線、建物の輪郭と階数、木の1本1本まで、有志が描き込んだ地図が無料で取れる。ハノイのこの地区は特に詳しく、路地(ngõ)の名前まで入っている。条件は出典表示だけ。
幻のコースが、地図に描き込まれていた
OpenStreetMapには「サーキット」を表すデータ型がある。試しに検索したら、Trường đua đường phố Hà Nội(ハノイ市街地サーキット)が実在した。一度もレースが開催されないまま消えたコースを、世界のどこかの誰かが、走る順番どおり15本の道路データとして登録してくれていた。
常設区間の2,341mはそのまま。公道区間はレ・クアン・ダオとレ・ドゥック・トの車線データが紐づけてある。欠けは3か所だけで、実在の道路をたどるプログラムと曲線で補ったら、1周5,528m。公式の5.607kmに対して誤差1.4%で閉じた。
建物も実測になった。コース沿い120m以内に789棟あり、その89.6%に階数、85.9%には実際の高さがメートルで入っていた。AIが乱数で建てていた箱を、全部これに置き換えた。
面白かったのは、コース北側にほとんど建物データが無かったことだ。最初は地図の抜けを疑った。違った。あそこはミーディンのスポーツ団地で、実際に建物が無い。あるのは国立競技場、水泳場、運動場5面、芝19面、そして1本ずつ座標が登録された並木48本。データの「無い」も情報だった。ここに商店街を建てたら、それこそ嘘の街になるところだった。
データを信じて、3回痛い目を見た
きれいな話だけではない。実測データに差し替えた直後、走ると数秒おきに吹っ飛ぶようになった。原因は3つあった。
罠1: 「位置が合っている」と「走れる」は別物。コースの線を賢く圧縮したら、位置のずれは2.5m以内なのに、進行方向が4mで168度回転する箇所ができていた。位置の検査では見つからず、曲率だけが暴れていた。点は「少なく賢く」より「等間隔」が正しい。
罠2: 実測の道は狭い。手作りコースを前提にした「壁は中心から14m」という決め打ちが残っていて、実測の往復区間(対向車線まで20.8m)では壁が対向車線のど真ん中に立っていた。
罠3: チェックの漏れは、前提が変わると噴き出す。木を植えるコードの1分岐だけ距離の検査が抜けていて、実測コースでは路面のど真ん中に木が生えた。
「4月でも、運よく晴れる日はある」
最後は空気の話。ハノイの4月は湿度80%超で、視程数kmの霞が普通だ。事実に忠実なら遠くのビルは白く溶けるべきで、実際そう作ってあった。
でも走ってみると、せっかく置いた実在の高層ビル161棟が霞んで見えない。そこで「このレースは、4月には珍しく乾いて晴れた日に開催された」という設定にした。霞を710mから3.4kmに延ばし、遠方をわずかに青く。事実(普段のハノイ)と演出(その日の天気)を分けて、演出側を選んだ。おかげでランドマーク72も、環状3号線の高架も、実際の方角に立つようになった。
今回も、私はコードを書いていない
地図データの取得も、コースの組み立ても、バグ調べも、全部Claudeにやらせた。私がやったのは前回と同じで、違和感の言語化だけだ。「知っている街と違う」「壁にぶつかる」「コースに木が生えている」「ランドマークがどれか分からない」。そのたびに原因が特定されて、直っていった。
ハノイに住んでいる方は、ぜひ晴れた日のミーディンを走ってみてほしい。南東の折り返しでランドマーク72が見えたら、それは実際の方角だ。
※コース形状・沿道の建物・樹木・遠景の高層ビルは OpenStreetMap の実測データを使用しています(© OpenStreetMap contributors, ODbL)。遠景のランドマーク72は Vuong Tri Binh 氏の写真を切り抜いて使用(CC BY-SA 4.0)。天候は「乾いて晴れた日」の演出で、4月のハノイの平均的な視程とは異なります。前回の経緯はこちらの記事へ。


