Day 17〜19 の予算が、決算書と同じ形になるまで
ASTRA Manufacturing の2027年度予算を、最後の1枚まで組み上げます。新しく決める数字はほとんどありません。使うのは Day 17〜19 で作った予算と、期首の貸借対照表だけです。金額の単位は千USD、数量は個とkgです。
受け取る数字を並べる
| 項目 | 数値 | 単位 | 出どころ |
|---|---|---|---|
| 販売数量Budgeted Unit Sales | 1,000 | 個 | Day 17 売上予算 |
| 販売単価Selling Price | 4.0 | 千USD/個 | Day 17 売上予算 |
| 必要生産量Units to be Produced | 1,040 | 個 | Day 17 生産予算 |
| 期首製品在庫/期末製品在庫の目標 | 80 / 120 | 個 | Day 17 生産予算 |
| 期首材料在庫/期末材料在庫の目標 | 200 / 300 | kg | Day 17 材料購入予算 |
| 材料単価Material Price | 0.5 | 千USD/kg | Day 17 材料購入予算 |
| 材料購入予算額Cost of Purchases | 1,090 | 千USD | Day 17 材料購入予算 |
| 製品1個あたり材料費 | 1.0 | 千USD/個 | Day 17(2kg × 0.5) |
| 製品1個あたり直接労務費 | 0.8 | 千USD/個 | Day 18 直接労務費予算 |
| 製品1個あたり製造間接費 | 0.6 | 千USD/個 | Day 18 製造間接費予算 |
| 販管費予算SG&A Budget | 800 | 千USD | Day 18 販管費予算 |
| 資金予算の期末現金 | 782 | 千USD | Day 19 資金予算 |
営業外の項目と、貸借対照表を組むための与件も先に置きます。
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 受取配当金Dividend Income | 40 | 保有する投資有価証券から |
| 設備売却益Gain on Sale of Equipment | 80 | 帳簿価額 50 の設備を 130 で売る計画 |
| 支払利息Interest Expense | 60 | 長期借入金にかかる利息 |
| 有価証券売却損Loss on Sale of Securities | 20 | 帳簿価額 60 の有価証券を 40 で売る計画 |
| 法人税等の見積額Estimated Income Tax | 340 | 税引前利益に対しておよそ40%の見込み |
| 設備投資予算Capital Expenditure | 450 | 来期に取得する設備 |
| 減価償却費Depreciation | 300 | うち製造分は製造間接費に、販売管理分は販管費に含まれている |
| 長期借入金の返済予定額 | 200 | 約定返済 |
| 配当予定額Budgeted Dividends | 150 | 取締役会で予定している支払額 |
Step 1 製品1個あたり製造原価を固める
Day 17 と Day 18 の予算は、kg・時間・配賦率と単位がばらばらでした。損益計算書に載せる前に、1個あたりいくらかに揃えます。
| 原価要素 | 1個あたり | 出どころ |
|---|---|---|
| 直接材料費Direct Materials | 1.0 | 原単位 2kg × 材料単価 0.5 |
| 直接労務費Direct Labor | 0.8 | Day 18 の直接労務費予算 |
| 製造間接費Manufacturing Overhead | 0.6 | Day 18 の予定配賦率から |
| 製品1個あたり製造原価Unit Product Cost | 2.4 | 3つの合計 |
1.0 + 0.8 + 0.6 = 2.4。販売単価 4.0 に対して 2.4 なので、1個売るごとに 1.6 が粗利として残る計算です。
つまずきポイント この 2.4 に販管費を混ぜないでください。販管費は製品にくっつく原価(製品原価)ではなく、期間で費用にする原価(期間費用)です。混ぜると、売れ残った製品の在庫にまで販管費が乗ってしまいます。
Step 2 作った分の原価と、売った分の原価を分ける
来期に作るのは 1,040個です。この 1,040個ぶんの製造原価が、当期製造原価Cost of Goods Manufacturedになります。
当期製造原価 = 1,040個 × 2.4 = 2,496
内訳でも確かめられます。材料 1,040個 × 1.0 = 1,040、労務費 1,040 × 0.8 = 832、製造間接費 1,040 × 0.6 = 624。合計 2,496 です。材料の 1,040 は、Day 17 で出した材料の使用額と一致します(購入額の 1,090 ではありません)。
売上原価になるのは、このうち売れた 1,000個ぶんだけです。2通りの道で出して、同じ答えになるかを見ます。
道その1 販売数量に単価を掛ける
売上原価予算 = 1,000個 × 2.4 = 2,400
道その2 在庫のブリッジで出す
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 期首製品在庫Beginning Finished Goods | 192 | 80個 × 2.4 |
| + 当期製造原価Cost of Goods Manufactured | 2,496 | 1,040個 × 2.4 |
| 販売可能額Goods Available for Sale | 2,688 | 192 + 2,496 |
| − 期末製品在庫Ending Finished Goods | (288) | 120個 × 2.4 |
| 売上原価予算Budgeted COGS | 2,400 | 2,688 − 288 |
どちらも 2,400 です。期首在庫と期末在庫を同じ単価 2.4 で評価しているので、2つの道は一致します。ここで出した期末製品在庫 288 は、このあと予算貸借対照表にそのまま載ります。同じ 2.4 が、費用の行と資産の行の両方を作っているわけです。
つまずきポイント 売上原価に生産量の 1,040 を掛けると 2,496 になり、費用が 96 だけ多くなります。この 96 は、期末に積み増す 40個ぶん(40 × 2.4)の原価です。まだ売れていない製品の原価を費用にしてしまった、という誤りです。
Step 3 予算損益計算書を組む
ここまでの数字を、Day 1 で見た多段階の形に並べます。
| 科目 | 金額 | 出どころ |
|---|---|---|
| 売上高Sales | 4,000 | 1,000個 × 4.0(Day 17) |
| 売上原価Cost of Goods Sold | (2,400) | 1,000個 × 2.4 |
| 売上総利益Gross Profit | 1,600 | 4,000 − 2,400 |
| 営業費用Operating Expenses | ||
| 販売費及び一般管理費Selling and Administrative | (800) | Day 18 販管費予算 |
| 営業利益Operating Income | 800 | 1,600 − 800 |
| 営業外収益Other Income | ||
| 受取配当金Dividend Income | 40 | 投資有価証券から |
| 設備売却益Gain on Sale of Equipment | 80 | 130 − 帳簿価額 50 |
| 営業外費用Other Expenses | ||
| 支払利息Interest Expense | (60) | 長期借入金の利息 |
| 有価証券売却損Loss on Sale of Securities | (20) | 40 − 帳簿価額 60 |
| 税引前利益Income Before Tax | 840 | 800 + 120 − 80 |
| 法人税等Income Tax | (340) | 見積額 |
| 当期純利益Net Income | 500 | 840 − 340 |
比率も出しておきます。売上総利益率 1,600 ÷ 4,000 = 40%、営業利益率 800 ÷ 4,000 = 20%、純利益率 500 ÷ 4,000 = 12.5%。法人税等の 340 は税引前利益 840 に対しておよそ 40% です。
Step 4 Day 1 の損益計算書と突き合わせる
ここで手を止めて、Day 1 に戻ってください。第2部で読んだ ASTRA の多段階損益計算書と、いま組み上げた予算損益計算書を並べます。
| 科目 | Day 1 | Day 20(予算) | Day 20 での作られ方 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,000 | 4,000 | 販売数量 1,000個 × 販売単価 4.0 |
| 売上原価 | 2,400 | 2,400 | 販売数量 1,000個 × 1個あたり製造原価 2.4 |
| 売上総利益 | 1,600 | 1,600 | 差額 |
| 営業費用 | 800 | 800 | 変動販売費 + 固定販管費(Day 18) |
| 営業利益 | 800 | 800 | 差額 |
| 税引前利益 | 840 | 840 | 営業外収益 120 − 営業外費用 80 を加減 |
| 当期純利益 | 500 | 500 | 法人税等 340 を控除 |
Day 1 では、この表は「読むもの」でした。売上高 4,000 も売上原価 2,400 も、最初からそこに書かれている数字で、どこから来たのかは問いませんでした。
いま同じ表を、下から順にではなく、上流の予算から積み上げて作りました。2,400 は誰かが決めた数字ではなく、材料 1.0 + 労務費 0.8 + 製造間接費 0.6 に、売れる数 1,000 を掛けた結果です。800 は、Day 18 で変動販売費と固定販管費に分けて置いたものの合計です。Day 1 で読んだあの損益計算書は、こうやって組み上げられていた、ということになります。
Step 5 予算貸借対照表を組む
損益計算書が1年間の動きを見せるのに対して、貸借対照表は期末の一時点を見せます。期首の残高に、予算年度の増減を足していきます。まず期首(2026年度末の実績)を確認します。
| 資産 | 金額 | 負債・株主資本 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 800 | 買掛金 | 200 |
| 売掛金 | 400 | 未払費用 | 100 |
| 製品在庫(80個 × 2.4) | 192 | 長期借入金 | 1,200 |
| 材料在庫(200kg × 0.5) | 100 | 負債合計 | 1,500 |
| 流動資産合計 | 1,492 | 資本金 | 1,000 |
| 有形固定資産(純額) | 3,600 | 利益剰余金 | 2,892 |
| 投資有価証券 | 300 | 株主資本合計 | 3,892 |
| 資産合計 | 5,392 | 負債・株主資本合計 | 5,392 |
次に、行ごとに来期の増減を置きます。増減の根拠は、すべてここまでの予算です。
| 行 | 置き方 | 期末の値 |
|---|---|---|
| 現金 | Day 19 の資金予算の期末残高 | 782 |
| 売掛金 | 売上高予算 4,000 の10%が期末未回収。回収条件は据え置き | 400 |
| 製品在庫 | 期末製品在庫 120個 × 1個あたり製造原価 2.4 | 288 |
| 材料在庫 | 期末材料在庫 300kg × 材料単価 0.5 | 150 |
| 有形固定資産(純額) | 3,600 + 設備投資 450 − 減価償却 300 − 売却設備の帳簿価額 50 | 3,700 |
| 投資有価証券 | 300 − 売却する有価証券の帳簿価額 60 | 240 |
| 買掛金 | 材料購入予算 1,090 の20%が期末未払 | 218 |
| 未払費用 | 水準を据え置き | 100 |
| 長期借入金 | 1,200 − 約定返済 200 | 1,000 |
| 資本金 | 増資の予定なし | 1,000 |
| 利益剰余金 | 期首 2,892 + 予算純利益 500 − 配当予定額 150 | 3,242 |
| 資産 | 金額 | 負債・株主資本 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金Cash | 782 | 買掛金Accounts Payable | 218 |
| 売掛金Accounts Receivable | 400 | 未払費用Accrued Expenses | 100 |
| 製品在庫Finished Goods | 288 | 流動負債合計 | 318 |
| 材料在庫Raw Materials | 150 | 長期借入金Long-term Debt | 1,000 |
| 流動資産合計 | 1,620 | 負債合計 | 1,318 |
| 有形固定資産(純額)PP&E, net | 3,700 | 資本金Common Stock | 1,000 |
| 投資有価証券Investments | 240 | 利益剰余金Retained Earnings | 3,242 |
| 非流動資産合計 | 3,940 | 株主資本合計 | 4,242 |
| 資産合計Total Assets | 5,560 | 負債・株主資本合計 | 5,560 |
借方 5,560、貸方 5,560。一致しました。
Step 6 なぜ一致したのかを確かめる
一致は偶然ではありません。予算損益計算書の純利益 500 が利益剰余金へ流れ、資金予算の期末現金 782 が現金の行に入る。この2本が正しくつながっていれば、貸借は合います。逆側からも確かめられます。
| 区分 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|
| 営業 | 純利益 500 + 減価償却 300 − 設備売却益 80 + 有価証券売却損 20 − 棚卸資産の増加 146 + 買掛金の増加 18 | 612 |
| 投資 | 設備投資 (450) + 設備売却代金 130 + 有価証券売却代金 40 | (280) |
| 財務 | 借入金の返済 (200) + 配当の支払 (150) | (350) |
| 現金の増減 | 612 − 280 − 350 | (18) |
| 期末現金 | 800 − 18 | 782 |
棚卸資産の増加 146 は、製品在庫が 192 から 288 へ 96 増え、材料在庫が 100 から 150 へ 50 増えた合計です。在庫を積むという Day 17 の方針が、ここで現金を 146 だけ食べています。売上高予算 4,000 はその判断のあいだ 1 も動いていません。
つまずきポイント 貸借が合わないとき、差額を「その他資産」などに押し込んで一致させたくなります。それをやると、この表は検算の道具ではなくなります。差額が出たら、まず在庫の単価、次に売上原価に掛けた数量、最後に現金と純利益の二重計上を見てください。
Step 7 目標に届かなかったら、どの行を動かすか
積み上げた結果は純利益 500 でした。ここで本社の目標が 600 だったとします。足りないのは 100 です。予算が積み上げでできていれば、100 を作れる行を名指しできます。
| 動かす行 | どれだけ動かすか | 効き方 |
|---|---|---|
| 販売単価 | 4.0 → 4.1 | 売上高が 100 増える。値上げが通るかは営業の判断 |
| 販売数量 | 1,000個 → 1,063個 | 1個あたりの粗利 1.6 × 63個 ≒ 100。生産量と変動販売費も増えるので、実際はもう少し要る |
| 1個あたり製造原価 | 2.4 → 2.3 | 売上原価が 100 減る。材料・労務・間接費のどれで下げるかを言う必要がある |
| 販管費予算 | 800 → 700 | 営業利益が 100 増える。どの費目を落とすかを決める話になる |
どの案にも、実行する部門と、副作用があります。販売数量を増やせば生産量と材料の発注が動き、資金予算も組み直しになります。販管費を削れば、削った活動が来期に効かなくなります。
一方、目標の 600 を先に置いて逆算した表では、この議論そのものが起きません。600 に合うように売上原価か販管費のどこかが書き換えられて終わり、来期に誰が何をするのかは決まらないままです。「予算は積み上げた結果であって、目標を先に置いたものではない」というのは、この差のことを指しています。
実績が並んだあとの話
1年後、同じ形で実績が出てきます。売上高 4,050、売上原価 2,530、販管費 790、純利益 460 といった具合です。このとき見るのは、純利益が 40 足りなかったという1行ではありません。売上高は 50 上回ったのに売上総利益は 80 下回っている、つまり原因は 1個あたり製造原価の側にある、という読み方をします。
行ごとに差を分解し、それが数量の差なのか単価の差なのかまで割る作業が差異分析Variance Analysisです。Day 25 以降で扱います。今日組み上げた1枚が、そのときの比較の基準になります。
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| pro forma | 見積りの、予定の | 予算ベースの財務諸表を指すとき |
| unit product cost | 製品1個あたりの製造原価 | 売上原価と在庫評価の両方に使う単価を言うとき |
| goods available for sale | 販売可能額(期首在庫+当期製造原価) | 在庫ブリッジで売上原価を出すとき |
| the balance sheet balances | 貸借対照表の借方と貸方が一致する | 検算が通ったことを報告するとき |
| plug the difference | 差額を辻褄合わせで押し込む | やってはいけない操作を指摘するとき |
| bridge | 2つの数字の間をつなぐ内訳 | 期首から期末への増減を説明するとき |
| flow through to | (数字が)〜へ流れ込む | 純利益が利益剰余金へ入ることを言うとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| 見積財務諸表 | Pro Forma Financial Statements | 予算をもとに、決算書と同じ形で先に作る財務諸表 |
| 予算損益計算書 | Budgeted Income Statement | 各部門の予算を積み上げて作る、予算年度の損益計算書 |
| 予算貸借対照表 | Budgeted Balance Sheet | 期首残高に予算年度の増減を加えて作る期末の貸借対照表 |
| 製品1個あたり製造原価 | Unit Product Cost | 材料費・直接労務費・製造間接費を1個あたりに揃えた単価 |
| 当期製造原価 | Cost of Goods Manufactured | その期に完成させた製品の製造原価の合計 |
| 売上原価予算 | Budgeted Cost of Goods Sold | 1個あたり製造原価 × 販売数量。生産量ではない |
| 販売可能額 | Goods Available for Sale | 期首製品在庫 + 当期製造原価 |
| 期末製品在庫 | Ending Finished Goods Inventory | 期末に残る製品。1個あたり製造原価で評価して資産に載せる |
| 製品原価 | Product Cost | 製品にくっつき、売れるまで在庫として資産に残る原価 |
| 期間費用 | Period Cost | 製品にくっつかず、発生した期に費用になる原価。販管費など |
| 販管費予算 | Selling and Administrative Expense Budget | 販売費と一般管理費を変動・固定に分けて組む予算 |
| 利益剰余金 | Retained Earnings | 期首残高 + 純利益 − 配当。予算でも同じ式で動く |
| 配当予定額 | Budgeted Dividends | 予算年度に支払う予定の配当。利益剰余金と現金の両方を減らす |
| プラグ | Plug | 差額を辻褄合わせで押し込んだ数字。検算の機能を壊す |
| 差異分析 | Variance Analysis | 予算と実績の差を行ごと・要因ごとに分解する作業。Day 25 以降 |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)