さわる管理会計 DAY 20 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

Day 17〜19 の予算が、決算書と同じ形になるまで

ASTRA Manufacturing の2027年度予算を、最後の1枚まで組み上げます。新しく決める数字はほとんどありません。使うのは Day 17〜19 で作った予算と、期首の貸借対照表だけです。金額の単位は千USD、数量は個とkgです。

受け取る数字を並べる

Day 17〜19 から受け取る予算(ASTRA Manufacturing 2027年度)
項目数値単位出どころ
販売数量Budgeted Unit Sales1,000Day 17 売上予算
販売単価Selling Price4.0千USD/個Day 17 売上予算
必要生産量Units to be Produced1,040Day 17 生産予算
期首製品在庫/期末製品在庫の目標80 / 120Day 17 生産予算
期首材料在庫/期末材料在庫の目標200 / 300kgDay 17 材料購入予算
材料単価Material Price0.5千USD/kgDay 17 材料購入予算
材料購入予算額Cost of Purchases1,090千USDDay 17 材料購入予算
製品1個あたり材料費1.0千USD/個Day 17(2kg × 0.5)
製品1個あたり直接労務費0.8千USD/個Day 18 直接労務費予算
製品1個あたり製造間接費0.6千USD/個Day 18 製造間接費予算
販管費予算SG&A Budget800千USDDay 18 販管費予算
資金予算の期末現金782千USDDay 19 資金予算

営業外の項目と、貸借対照表を組むための与件も先に置きます。

営業外・資本取引・設備の与件(単位: 千USD)
項目数値備考
受取配当金Dividend Income40保有する投資有価証券から
設備売却益Gain on Sale of Equipment80帳簿価額 50 の設備を 130 で売る計画
支払利息Interest Expense60長期借入金にかかる利息
有価証券売却損Loss on Sale of Securities20帳簿価額 60 の有価証券を 40 で売る計画
法人税等の見積額Estimated Income Tax340税引前利益に対しておよそ40%の見込み
設備投資予算Capital Expenditure450来期に取得する設備
減価償却費Depreciation300うち製造分は製造間接費に、販売管理分は販管費に含まれている
長期借入金の返済予定額200約定返済
配当予定額Budgeted Dividends150取締役会で予定している支払額

Step 1 製品1個あたり製造原価を固める

Day 17 と Day 18 の予算は、kg・時間・配賦率と単位がばらばらでした。損益計算書に載せる前に、1個あたりいくらかに揃えます。

製品1個あたり製造原価(Unit Product Cost)単位: 千USD/個
原価要素1個あたり出どころ
直接材料費Direct Materials1.0原単位 2kg × 材料単価 0.5
直接労務費Direct Labor0.8Day 18 の直接労務費予算
製造間接費Manufacturing Overhead0.6Day 18 の予定配賦率から
製品1個あたり製造原価Unit Product Cost2.43つの合計

1.0 + 0.8 + 0.6 = 2.4。販売単価 4.0 に対して 2.4 なので、1個売るごとに 1.6 が粗利として残る計算です。

つまずきポイント この 2.4 に販管費を混ぜないでください。販管費は製品にくっつく原価(製品原価)ではなく、期間で費用にする原価(期間費用)です。混ぜると、売れ残った製品の在庫にまで販管費が乗ってしまいます。

Step 2 作った分の原価と、売った分の原価を分ける

来期に作るのは 1,040個です。この 1,040個ぶんの製造原価が、当期製造原価Cost of Goods Manufacturedになります。

当期製造原価 = 1,040個 × 2.4 = 2,496

内訳でも確かめられます。材料 1,040個 × 1.0 = 1,040、労務費 1,040 × 0.8 = 832、製造間接費 1,040 × 0.6 = 624。合計 2,496 です。材料の 1,040 は、Day 17 で出した材料の使用額と一致します(購入額の 1,090 ではありません)。

売上原価になるのは、このうち売れた 1,000個ぶんだけです。2通りの道で出して、同じ答えになるかを見ます。

道その1 販売数量に単価を掛ける

売上原価予算 = 1,000個 × 2.4 = 2,400

道その2 在庫のブリッジで出す

売上原価予算(在庫ブリッジ)単位: 千USD
項目金額計算
期首製品在庫Beginning Finished Goods19280個 × 2.4
+ 当期製造原価Cost of Goods Manufactured2,4961,040個 × 2.4
販売可能額Goods Available for Sale2,688192 + 2,496
− 期末製品在庫Ending Finished Goods(288)120個 × 2.4
売上原価予算Budgeted COGS2,4002,688 − 288

どちらも 2,400 です。期首在庫と期末在庫を同じ単価 2.4 で評価しているので、2つの道は一致します。ここで出した期末製品在庫 288 は、このあと予算貸借対照表にそのまま載ります。同じ 2.4 が、費用の行と資産の行の両方を作っているわけです。

つまずきポイント 売上原価に生産量の 1,040 を掛けると 2,496 になり、費用が 96 だけ多くなります。この 96 は、期末に積み増す 40個ぶん(40 × 2.4)の原価です。まだ売れていない製品の原価を費用にしてしまった、という誤りです。

Step 3 予算損益計算書を組む

1個あたり 2.4 が、売上原価 2,400 になる ASTRA Manufacturing 2027年度 予算損益計算書 ── 単位: 千USD(左は千USD/個) 製品1個あたり製造原価 2.4 材料 1.0 労務 0.8 間接費 0.6 Day 17 の材料 + Day 18 の労務費・製造間接費 × 販売数量 1,000個 売上原価予算 COGS 2,400掛けるのは、作った 1,040個ではなく売った 1,000個 のほう残り 40個ぶん(96)は、期末の製品在庫として貸借対照表に資産のまま残る 予算損益計算書の段階 売上高 4,000 売上原価 2,400 売上総利益 1,600 営業利益 800 税引前利益 840 当期純利益 500売上総利益率 40% / 営業利益率 20% / 純利益率 12.5%Day 1 で読んだ損益計算書と、1行ずつ同じ数字に着地するDay 1 では読むだけだった 2,400 が、ここでは 2.4 × 1,000個 として作られている
図2 1個あたり製造原価 2.4 から、売上原価 2,400 と純利益 500 まで

ここまでの数字を、Day 1 で見た多段階の形に並べます。

ASTRA Manufacturing — 2027年度 予算損益計算書(単位: 千USD)
科目金額出どころ
売上高Sales4,0001,000個 × 4.0(Day 17)
売上原価Cost of Goods Sold(2,400)1,000個 × 2.4
売上総利益Gross Profit1,6004,000 − 2,400
営業費用Operating Expenses
販売費及び一般管理費Selling and Administrative(800)Day 18 販管費予算
営業利益Operating Income8001,600 − 800
営業外収益Other Income
受取配当金Dividend Income40投資有価証券から
設備売却益Gain on Sale of Equipment80130 − 帳簿価額 50
営業外費用Other Expenses
支払利息Interest Expense(60)長期借入金の利息
有価証券売却損Loss on Sale of Securities(20)40 − 帳簿価額 60
税引前利益Income Before Tax840800 + 120 − 80
法人税等Income Tax(340)見積額
当期純利益Net Income500840 − 340

比率も出しておきます。売上総利益率 1,600 ÷ 4,000 = 40%、営業利益率 800 ÷ 4,000 = 20%、純利益率 500 ÷ 4,000 = 12.5%。法人税等の 340 は税引前利益 840 に対しておよそ 40% です。

Step 4 Day 1 の損益計算書と突き合わせる

ここで手を止めて、Day 1 に戻ってください。第2部で読んだ ASTRA の多段階損益計算書と、いま組み上げた予算損益計算書を並べます。

Day 1 の損益計算書と、Day 20 の予算損益計算書(単位: 千USD)
科目Day 1Day 20(予算)Day 20 での作られ方
売上高4,0004,000販売数量 1,000個 × 販売単価 4.0
売上原価2,4002,400販売数量 1,000個 × 1個あたり製造原価 2.4
売上総利益1,6001,600差額
営業費用800800変動販売費 + 固定販管費(Day 18)
営業利益800800差額
税引前利益840840営業外収益 120 − 営業外費用 80 を加減
当期純利益500500法人税等 340 を控除

Day 1 では、この表は「読むもの」でした。売上高 4,000 も売上原価 2,400 も、最初からそこに書かれている数字で、どこから来たのかは問いませんでした。

いま同じ表を、下から順にではなく、上流の予算から積み上げて作りました。2,400 は誰かが決めた数字ではなく、材料 1.0 + 労務費 0.8 + 製造間接費 0.6 に、売れる数 1,000 を掛けた結果です。800 は、Day 18 で変動販売費と固定販管費に分けて置いたものの合計です。Day 1 で読んだあの損益計算書は、こうやって組み上げられていた、ということになります。

Step 5 予算貸借対照表を組む

損益計算書が1年間の動きを見せるのに対して、貸借対照表は期末の一時点を見せます。期首の残高に、予算年度の増減を足していきます。まず期首(2026年度末の実績)を確認します。

期首の貸借対照表(2026年度末・実績)単位: 千USD
資産金額負債・株主資本金額
現金800買掛金200
売掛金400未払費用100
製品在庫(80個 × 2.4)192長期借入金1,200
材料在庫(200kg × 0.5)100負債合計1,500
流動資産合計1,492資本金1,000
有形固定資産(純額)3,600利益剰余金2,892
投資有価証券300株主資本合計3,892
資産合計5,392負債・株主資本合計5,392

次に、行ごとに来期の増減を置きます。増減の根拠は、すべてここまでの予算です。

各行をどう動かすか
置き方期末の値
現金Day 19 の資金予算の期末残高782
売掛金売上高予算 4,000 の10%が期末未回収。回収条件は据え置き400
製品在庫期末製品在庫 120個 × 1個あたり製造原価 2.4288
材料在庫期末材料在庫 300kg × 材料単価 0.5150
有形固定資産(純額)3,600 + 設備投資 450 − 減価償却 300 − 売却設備の帳簿価額 503,700
投資有価証券300 − 売却する有価証券の帳簿価額 60240
買掛金材料購入予算 1,090 の20%が期末未払218
未払費用水準を据え置き100
長期借入金1,200 − 約定返済 2001,000
資本金増資の予定なし1,000
利益剰余金期首 2,892 + 予算純利益 500 − 配当予定額 1503,242
ASTRA Manufacturing — 2027年度末 予算貸借対照表(単位: 千USD)
資産金額負債・株主資本金額
現金Cash782買掛金Accounts Payable218
売掛金Accounts Receivable400未払費用Accrued Expenses100
製品在庫Finished Goods288流動負債合計318
材料在庫Raw Materials150長期借入金Long-term Debt1,000
流動資産合計1,620負債合計1,318
有形固定資産(純額)PP&E, net3,700資本金Common Stock1,000
投資有価証券Investments240利益剰余金Retained Earnings3,242
非流動資産合計3,940株主資本合計4,242
資産合計Total Assets5,560負債・株主資本合計5,560

借方 5,560、貸方 5,560。一致しました。

Step 6 なぜ一致したのかを確かめる

一致は偶然ではありません。予算損益計算書の純利益 500 が利益剰余金へ流れ、資金予算の期末現金 782 が現金の行に入る。この2本が正しくつながっていれば、貸借は合います。逆側からも確かめられます。

期首現金 800 から期末現金 782 までの説明(単位: 千USD)
区分内訳金額
営業純利益 500 + 減価償却 300 − 設備売却益 80 + 有価証券売却損 20 − 棚卸資産の増加 146 + 買掛金の増加 18612
投資設備投資 (450) + 設備売却代金 130 + 有価証券売却代金 40(280)
財務借入金の返済 (200) + 配当の支払 (150)(350)
現金の増減612 − 280 − 350(18)
期末現金800 − 18782

棚卸資産の増加 146 は、製品在庫が 192 から 288 へ 96 増え、材料在庫が 100 から 150 へ 50 増えた合計です。在庫を積むという Day 17 の方針が、ここで現金を 146 だけ食べています。売上高予算 4,000 はその判断のあいだ 1 も動いていません。

つまずきポイント 貸借が合わないとき、差額を「その他資産」などに押し込んで一致させたくなります。それをやると、この表は検算の道具ではなくなります。差額が出たら、まず在庫の単価、次に売上原価に掛けた数量、最後に現金と純利益の二重計上を見てください。

Step 7 目標に届かなかったら、どの行を動かすか

積み上げた結果は純利益 500 でした。ここで本社の目標が 600 だったとします。足りないのは 100 です。予算が積み上げでできていれば、100 を作れる行を名指しできます。

純利益をあと 100 増やすには(税金は据え置いた場合の税引前ベースの試算)
動かす行どれだけ動かすか効き方
販売単価4.0 → 4.1売上高が 100 増える。値上げが通るかは営業の判断
販売数量1,000個 → 1,063個1個あたりの粗利 1.6 × 63個 ≒ 100。生産量と変動販売費も増えるので、実際はもう少し要る
1個あたり製造原価2.4 → 2.3売上原価が 100 減る。材料・労務・間接費のどれで下げるかを言う必要がある
販管費予算800 → 700営業利益が 100 増える。どの費目を落とすかを決める話になる

どの案にも、実行する部門と、副作用があります。販売数量を増やせば生産量と材料の発注が動き、資金予算も組み直しになります。販管費を削れば、削った活動が来期に効かなくなります。

一方、目標の 600 を先に置いて逆算した表では、この議論そのものが起きません。600 に合うように売上原価か販管費のどこかが書き換えられて終わり、来期に誰が何をするのかは決まらないままです。「予算は積み上げた結果であって、目標を先に置いたものではない」というのは、この差のことを指しています。

実績が並んだあとの話

1年後、同じ形で実績が出てきます。売上高 4,050、売上原価 2,530、販管費 790、純利益 460 といった具合です。このとき見るのは、純利益が 40 足りなかったという1行ではありません。売上高は 50 上回ったのに売上総利益は 80 下回っている、つまり原因は 1個あたり製造原価の側にある、という読み方をします。

行ごとに差を分解し、それが数量の差なのか単価の差なのかまで割る作業が差異分析Variance Analysisです。Day 25 以降で扱います。今日組み上げた1枚が、そのときの比較の基準になります。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
pro forma見積りの、予定の予算ベースの財務諸表を指すとき
unit product cost製品1個あたりの製造原価売上原価と在庫評価の両方に使う単価を言うとき
goods available for sale販売可能額(期首在庫+当期製造原価)在庫ブリッジで売上原価を出すとき
the balance sheet balances貸借対照表の借方と貸方が一致する検算が通ったことを報告するとき
plug the difference差額を辻褄合わせで押し込むやってはいけない操作を指摘するとき
bridge2つの数字の間をつなぐ内訳期首から期末への増減を説明するとき
flow through to(数字が)〜へ流れ込む純利益が利益剰余金へ入ることを言うとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
見積財務諸表Pro Forma Financial Statements予算をもとに、決算書と同じ形で先に作る財務諸表
予算損益計算書Budgeted Income Statement各部門の予算を積み上げて作る、予算年度の損益計算書
予算貸借対照表Budgeted Balance Sheet期首残高に予算年度の増減を加えて作る期末の貸借対照表
製品1個あたり製造原価Unit Product Cost材料費・直接労務費・製造間接費を1個あたりに揃えた単価
当期製造原価Cost of Goods Manufacturedその期に完成させた製品の製造原価の合計
売上原価予算Budgeted Cost of Goods Sold1個あたり製造原価 × 販売数量。生産量ではない
販売可能額Goods Available for Sale期首製品在庫 + 当期製造原価
期末製品在庫Ending Finished Goods Inventory期末に残る製品。1個あたり製造原価で評価して資産に載せる
製品原価Product Cost製品にくっつき、売れるまで在庫として資産に残る原価
期間費用Period Cost製品にくっつかず、発生した期に費用になる原価。販管費など
販管費予算Selling and Administrative Expense Budget販売費と一般管理費を変動・固定に分けて組む予算
利益剰余金Retained Earnings期首残高 + 純利益 − 配当。予算でも同じ式で動く
配当予定額Budgeted Dividends予算年度に支払う予定の配当。利益剰余金と現金の両方を減らす
プラグPlug差額を辻褄合わせで押し込んだ数字。検算の機能を壊す
差異分析Variance Analysis予算と実績の差を行ごと・要因ごとに分解する作業。Day 25 以降

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)