営業 +612 / 投資 −280 / 財務 −350 ── 期首 800 が期末 782 になるまで
ASTRA Manufacturing の2027年度の資金予算を組みます。金額の単位はすべて千USDです。
与件1 ── 年度予算を、現金が動く項目に組み替える
Day 17 と Day 18 で組んだ年度予算は、そのままでは資金予算に使えません。費用の並びを、現金が動くかどうかで分け直します。
| 項目 | 年度 | 出どころ |
|---|---|---|
| 売上高予算Budgeted Sales | 4,000 | Day 17(1,000個 × 4.0) |
| 材料購入額Materials Purchased | 1,090 | Day 17。支払の元になるのはこちら |
| 材料使用額Materials Used | 1,040 | Day 17。製造原価に乗るのはこちら |
| 人件費Personnel Costs | 1,402 | Day 18。直接労務費832 + 工場管理者などの給与70 + 販売・管理部門の給与500 |
| 経費(現金支出をともなうもの)Other Cash Expenses | 744 | Day 18。変動製造間接費416 + 保険料28 + 変動販売費200 + その他の固定管理費100 |
| 減価償却費Depreciation | 110 | Day 18の固定製造間接費208の内訳。現金は動かないので資金予算には載せない |
Day 18 の営業費用合計 2,256(直接労務費832 + 製造間接費624 + 販管費800)を、現金が動くかどうかで組み替えたのがこの表です。人件費1,402 + 経費744 + 減価償却費110 = 2,256 で、もとの合計に戻ります。並べ替えただけで、増やしても減らしてもいません。
与件2 ── 今回あらたに置く数字
| 項目 | 数値 | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 当期売上の当期回収率Collection in Year of Sale | 80% | 残りの20%は翌年度に回収 |
| 期首の売掛金Beginning A/R | 648 | 前年度売上 3,240 の20%。当年度に全額回収する |
| 当期購入の当期支払率Payment in Year of Purchase | 80% | 残りの20%は翌年度に支払う |
| 期首の買掛金Beginning A/P | 218 | 前年度の材料購入 1,090 の20%。当年度に全額支払う |
| 設備の購入Purchase of Equipment | 280 | 代金は取得時に全額支払う |
| 配当の支払Dividends Paid | 200 | 取締役会で決議済み |
| 長期借入の返済Repayment of Long-term Debt | 150 | 約定弁済 |
| 期首現金Beginning Cash | 800 | 2026年度末の現金残高 |
| 最低所要現金残高Minimum Cash Balance | 600 | 本社の方針。各四半期末にこれを下回らないこと |
Step 1 現金収入 ── いくら入ってくるか
売上高 4,000 のうち、当年度中に現金になるのは 8割です。残りは期末に売掛金として残ります。そのかわり、前年度に売った分の残り(期首の売掛金 648)が今年度に入ってきます。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 当年度売上からの回収 | 4,000 × 80% | 3,200 |
| 期首売掛金の回収 | 前年度売上 3,240 × 20% | 648 |
| 現金収入合計Total Cash Receipts | 3,848 |
売上高 4,000 に対して、入ってくる現金は 3,848。差の 152 は、売掛金が 648 から 800(4,000 × 20%)へ 152 増えた分です。売上が伸びている局面では、この差が毎期プラスで積み上がります。
Step 2 現金支出 ── いくら出ていくか
材料の支払は、購入額のほうから計算します。使用額 1,040 ではありません。
当年度購入 1,090 × 80% = 872
期首買掛金の支払 = 218
材料の支払額 = 872 + 218 = 1,090
今年度は期首と期末の買掛金がどちらも 218 なので、支払額はたまたま購入額と同じ 1,090 になりました。買掛金が増える年度なら支払額は購入額より小さくなり、減る年度なら大きくなります。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 材料の支払Payments for Materials | 当年度分872 + 期首買掛金218 | 1,090 |
| 人件費の支払Personnel Costs | 労務832 + 工場給与70 + 販管給与500 | 1,402 |
| 経費の支払Other Cash Expenses | 変動間接416 + 保険28 + 変動販売200 + 固定管理100 | 744 |
| 設備の購入Purchase of Equipment | 取得時に全額 | 280 |
| 現金支出合計Total Cash Disbursements | 3,516 |
この表に入っていないものを確認してください。減価償却費 110 です。Day 18 の固定製造間接費 208 の中に入っていましたが、口座から出ていく現金はないので、資金予算には行がありません。ここに 110 を足してしまうと、現金支出合計が 3,626 となり、期末現金残高が 110 だけ少なく出ます。
Step 3 資金の過不足 ── 足りるかどうか
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 現金収入合計 | 3,848 |
| − 現金支出合計 | (3,516) |
| 収支差引Net Cash Flow | 332 |
| + 期首現金Beginning Cash | 800 |
| 財務前の現金残高Cash Before Financing | 1,132 |
年度の合計では、事業は現金を 332 生んでいます。財務の前の残高は 1,132 で、最低所要現金残高 600 を上回っています。年度の1枚だけを見るかぎり、資金は足りています。
Step 4 財務 ── 借入・返済・配当
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 財務前の現金残高 | 1,132 |
| − 配当の支払Dividends Paid | (200) |
| − 長期借入の返済Repayment of Long-term Debt | (150) |
| 財務活動による現金の純額 | −350 |
| 期末現金残高Ending Cash Balance | 782 |
期末現金残高は 782。期首の 800 より 18 少ない着地です。営業利益は 800 出ているのに、手元の現金は減りました。
完成した資金予算
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| ① 現金収入 | 当年度売上からの回収(4,000 × 80%) | 3,200 |
| 期首売掛金の回収 | 648 | |
| 現金収入合計 | 3,848 | |
| ② 現金支出 | 材料の支払 | 1,090 |
| 人件費の支払 | 1,402 | |
| 経費の支払 | 744 | |
| 設備の購入 | 280 | |
| 現金支出合計 | 3,516 | |
| ③ 資金の過不足 | 収支差引 | 332 |
| 期首現金 | 800 | |
| 財務前の現金残高 | 1,132 | |
| ④ 財務 | 配当の支払 | (200) |
| 長期借入の返済 | (150) | |
| 期末現金残高 | 782 |
3区分に組み替えると
同じ行を、Day 20 の見積キャッシュフロー計算書の並びに直すとこうなります。
| 区分 | 中身 | 金額 |
|---|---|---|
| 営業活動Operating | 3,848 − 材料1,090 − 人件費1,402 − 経費744 | 612 |
| 投資活動Investing | 設備の購入 | −280 |
| 財務活動Financing | 配当200 + 長期借入の返済150 | −350 |
| 現金の純増減 | −18 | |
| 期末現金残高 | 期首800 +(−18) | 782 |
この 782 が、Day 20 の見積貸借対照表の現金の行にそのまま載ります。ここが合わないと、見積貸借対照表の貸借は合いません。
利益 800 と、現金 −18 の差はどこから来たか
Day 18 で組んだ営業利益は 800 でした。年度の現金は 18 減りました。差は 818 あります。この差は、項目ごとにきれいに分解できます。
| 項目 | 金額 | 理由 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 800 | Day 18。損益の定規で測った年度の稼ぎ |
| + 減価償却費 | 110 | 費用に引いたが、現金は出ていない |
| − 売掛金の増加 | (152) | 648 → 800。売上のうち未回収で残った分 |
| − 棚卸資産の増加 | (146) | 材料 +50(購入1,090 − 使用1,040)と製品 +96 |
| ± 買掛金の増減 | 0 | 期首218・期末218で変わらず |
| = 営業活動による現金 | 612 | |
| − 設備の購入 | (280) | 費用ではないが、現金は全額出た |
| − 配当と長期借入の返済 | (350) | 利益とは無関係に出ていく現金 |
| = 現金の増減 | −18 | 期首800 → 期末782 |
800 + 110 − 152 − 146 = 612。ここまでが営業活動です。そこから設備 280 と、配当・返済 350 を引いて −18。Day 4 の間接法のキャッシュフロー計算書と同じ形の調整です。資金予算は現金の動きを直接積み上げ、間接法は利益から出発して調整する。出発点が違うだけで、着地は同じ1つの数字です。
棚卸資産の増加 146 は、Day 17 で決めた在庫方針の代金です。材料在庫を 200kg から 300kg へ、製品在庫を 80個から 120個へ積み増しました。損益計算書の上ではおとなしく見えたこの判断が、現金では 146 として出ていきます。
年度では足りている。四半期に割ると足りない
年度の1枚では、財務前の残高 1,132 が最低所要現金残高 600 を大きく上回っていました。同じ年度を四半期に割ると、景色が変わります。設備の代金 280 と材料の先行手配が第1四半期に集中しているためです。
| 項目 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | 年度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 現金収入 | 848 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 3,848 |
| 現金支出 | 1,166 | 790 | 780 | 780 | 3,516 |
| 収支差引 | −318 | 210 | 220 | 220 | 332 |
| 期首現金 | 800 | 600 | 692 | 912 | 800 |
| 財務前の現金残高 | 482 | 810 | 912 | 1,132 | 1,132 |
| 短期借入 | 118 | — | — | — | 118 |
| 短期借入の返済 | — | (118) | — | — | (118) |
| 配当・長期借入の返済 | — | — | — | (350) | (350) |
| 期末現金残高 | 600 | 692 | 912 | 782 | 782 |
第1四半期の財務前残高は 482。口座に現金は残っていますが、方針の 600 に届きません。
必要借入額 = 最低所要現金残高 600 − 財務前の現金残高 482 = 118
118 を借りて期末残高を 600 に戻し、資金に余裕が出た第2四半期に同額を返します。年度で見れば借入と返済が相殺されて 0 になるので、年度の1枚にはこの動きが出てきません。年度でならすと、期中の谷は消えます。 これが、資金予算を四半期や月にも割って作る理由です。
与件を1つ動かすと、どこが変わるか
| 変えるもの | 現金収入 | 収支差引 | 財務前残高 | 期末現金 |
|---|---|---|---|---|
| もとの計画 | 3,848 | 332 | 1,132 | 782 |
| 当期回収率を80% → 75%に | 3,648 | 132 | 932 | 582 |
| 当期回収率を80% → 85%に | 4,048 | 532 | 1,332 | 982 |
| 設備の購入を280 → 0に | 3,848 | 612 | 1,412 | 1,062 |
| 配当を200 → 0に | 3,848 | 332 | 1,132 | 982 |
当期回収率を 5ポイント動かすと、期末現金は 200 動きます。売上高予算は 1 も動いていません。動いたのは「いつ現金になるか」だけです。回収条件の交渉や督促の体制が資金の話として効いてくるのは、このためです。
配当を止めれば期末現金は 982 まで戻りますが、それは株主への支払いを先送りしただけで、事業が現金を生んだわけではありません。資金予算を読むときは、④の財務で埋めた分と、①②で事業が生んだ分を、区別して見てください。
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| cash receipts / disbursements | 現金収入/現金支出 | 資金予算の①と②の見出し |
| collected in the year of sale | 売り上げた年度のうちに回収される | 回収率の条件文 |
| run short of cash | 現金が足りなくなる | 資金不足を口頭で言うとき |
| draw on the line of credit | 借入枠から引き出す | 短期借入を実行するとき |
| non-cash item | 非現金項目 | 減価償却費を除く理由を言うとき |
| capital expenditure | 設備投資(資本的支出) | 設備の購入を資金予算に載せるとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| 資金予算 | Cash Budget | 期間中の現金の出入りを予定し、過不足と財務までを示す表 |
| 現金収入 | Cash Receipts | 当期に実際に回収して手元に入る現金。売上高とは一致しない |
| 現金支出 | Cash Disbursements | 当期に実際に払い出す現金。費用の発生額とは一致しない |
| 回収パターン | Collection Pattern | 売上をどの期に何%回収するかの割合。過去の実績から置く |
| 支払条件 | Payment Terms | 仕入代金をどの期に何%支払うかの取り決め。買掛金のサイト |
| 資金の過不足 | Cash Excess or Deficiency | 期首現金 + 収支差引 で出す、財務の前の現金残高 |
| 最低所要現金残高 | Minimum Cash Balance | 手元に置いておく現金の下限として、方針で決めておく水準 |
| 必要借入額 | Required Borrowing | 最低所要現金残高 − 財務前の現金残高(不足しているとき) |
| 期末現金残高 | Ending Cash Balance | 財務前の現金残高 + 借入 − 返済 − 配当。見積貸借対照表の現金になる |
| 非現金費用 | Non-Cash Expense | 費用に計上されるが現金の支出をともなわないもの。減価償却費が代表 |
| 設備投資 | Capital Expenditure | 固定資産の取得のための支出。費用ではないが資金予算には載る |
| 当座借越枠 | Line of Credit | あらかじめ銀行と約定しておく短期の借入枠 |
| 収支差引 | Net Cash Flow | 現金収入合計 − 現金支出合計 |
| 見積キャッシュフロー計算書 | Pro Forma Statement of Cash Flows | 資金予算の結果を営業・投資・財務の3区分に組み替えた見積財務諸表。Day 20 で扱う |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)