さわる管理会計 DAY 19 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

営業 +612 / 投資 −280 / 財務 −350 ── 期首 800 が期末 782 になるまで

ASTRA Manufacturing の2027年度の資金予算を組みます。金額の単位はすべて千USDです。

与件1 ── 年度予算を、現金が動く項目に組み替える

Day 17 と Day 18 で組んだ年度予算は、そのままでは資金予算に使えません。費用の並びを、現金が動くかどうかで分け直します。

年度予算の組み替え(単位: 千USD)
項目年度出どころ
売上高予算Budgeted Sales4,000Day 17(1,000個 × 4.0)
材料購入額Materials Purchased1,090Day 17。支払の元になるのはこちら
材料使用額Materials Used1,040Day 17。製造原価に乗るのはこちら
人件費Personnel Costs1,402Day 18。直接労務費832 + 工場管理者などの給与70 + 販売・管理部門の給与500
経費(現金支出をともなうもの)Other Cash Expenses744Day 18。変動製造間接費416 + 保険料28 + 変動販売費200 + その他の固定管理費100
減価償却費Depreciation110Day 18の固定製造間接費208の内訳。現金は動かないので資金予算には載せない

Day 18 の営業費用合計 2,256(直接労務費832 + 製造間接費624 + 販管費800)を、現金が動くかどうかで組み替えたのがこの表です。人件費1,402 + 経費744 + 減価償却費110 = 2,256 で、もとの合計に戻ります。並べ替えただけで、増やしても減らしてもいません。

与件2 ── 今回あらたに置く数字

2027年度 資金予算の前提
項目数値根拠・備考
当期売上の当期回収率Collection in Year of Sale80%残りの20%は翌年度に回収
期首の売掛金Beginning A/R648前年度売上 3,240 の20%。当年度に全額回収する
当期購入の当期支払率Payment in Year of Purchase80%残りの20%は翌年度に支払う
期首の買掛金Beginning A/P218前年度の材料購入 1,090 の20%。当年度に全額支払う
設備の購入Purchase of Equipment280代金は取得時に全額支払う
配当の支払Dividends Paid200取締役会で決議済み
長期借入の返済Repayment of Long-term Debt150約定弁済
期首現金Beginning Cash8002026年度末の現金残高
最低所要現金残高Minimum Cash Balance600本社の方針。各四半期末にこれを下回らないこと

Step 1 現金収入 ── いくら入ってくるか

売上と入金は、同じ年度に起きない 回収率 当年度80% / 翌年度20%(単位: 千USD) 前年度(2026年度)当年度(2027年度)翌年度(2028年度) 前年度売上 3,240 Prior-Year Sales 当年度売上 4,000 Current-Year Sales 翌年度へ繰り越す 20% = 800(期末の売掛金) 20% 20% = 648 80% = 3,200 当年度の現金収入 648 + 3,200 = 3,848前年度売上の 80%(2,592)は前年度のうちに回収済み回収されるのは翌年度。当年度の資金予算には載らない資金予算に載るのは、稼いだ売上高ではなく、その期に回収した現金だけ
図2 売上と入金のズレ ── 当年度に入る現金は3,848

売上高 4,000 のうち、当年度中に現金になるのは 8割です。残りは期末に売掛金として残ります。そのかわり、前年度に売った分の残り(期首の売掛金 648)が今年度に入ってきます。

① 現金収入(Cash Receipts)単位: 千USD
項目計算金額
当年度売上からの回収4,000 × 80%3,200
期首売掛金の回収前年度売上 3,240 × 20%648
現金収入合計Total Cash Receipts3,848

売上高 4,000 に対して、入ってくる現金は 3,848。差の 152 は、売掛金が 648 から 800(4,000 × 20%)へ 152 増えた分です。売上が伸びている局面では、この差が毎期プラスで積み上がります。

Step 2 現金支出 ── いくら出ていくか

材料の支払は、購入額のほうから計算します。使用額 1,040 ではありません。

当年度購入 1,090 × 80% = 872

期首買掛金の支払 = 218

材料の支払額 = 872 + 218 = 1,090

今年度は期首と期末の買掛金がどちらも 218 なので、支払額はたまたま購入額と同じ 1,090 になりました。買掛金が増える年度なら支払額は購入額より小さくなり、減る年度なら大きくなります。

② 現金支出(Cash Disbursements)単位: 千USD
項目計算金額
材料の支払Payments for Materials当年度分872 + 期首買掛金2181,090
人件費の支払Personnel Costs労務832 + 工場給与70 + 販管給与5001,402
経費の支払Other Cash Expenses変動間接416 + 保険28 + 変動販売200 + 固定管理100744
設備の購入Purchase of Equipment取得時に全額280
現金支出合計Total Cash Disbursements3,516

この表に入っていないものを確認してください。減価償却費 110 です。Day 18 の固定製造間接費 208 の中に入っていましたが、口座から出ていく現金はないので、資金予算には行がありません。ここに 110 を足してしまうと、現金支出合計が 3,626 となり、期末現金残高が 110 だけ少なく出ます。

Step 3 資金の過不足 ── 足りるかどうか

③ 資金の過不足(Cash Excess or Deficiency)単位: 千USD
項目金額
現金収入合計3,848
− 現金支出合計(3,516)
収支差引Net Cash Flow332
+ 期首現金Beginning Cash800
財務前の現金残高Cash Before Financing1,132

年度の合計では、事業は現金を 332 生んでいます。財務の前の残高は 1,132 で、最低所要現金残高 600 を上回っています。年度の1枚だけを見るかぎり、資金は足りています。

Step 4 財務 ── 借入・返済・配当

④ 財務(Financing)単位: 千USD
項目金額
財務前の現金残高1,132
− 配当の支払Dividends Paid(200)
− 長期借入の返済Repayment of Long-term Debt(150)
財務活動による現金の純額−350
期末現金残高Ending Cash Balance782

期末現金残高は 782。期首の 800 より 18 少ない着地です。営業利益は 800 出ているのに、手元の現金は減りました。

完成した資金予算

資金予算の4区分 ── 上から順に積むと、期末現金が出てくる ASTRA Manufacturing 2027年度(単位: 千USD) ① 現金収入 Cash Receipts当年度売上 4,000 × 80% = 3,200期首売掛金の回収 = 648合計 3,848 ② 現金支出 Cash Disbursements材料 1,090 / 人件費 1,402 / 経費 744設備の購入 280合計 3,516 ③ 資金の過不足 Cash Excess or Deficiency3,848 − 3,516 = 332期首現金 800 + 332 = 財務前残高 1,132 ④ 財務 Financing配当 200 + 長期借入の返済 150 = 350 期末現金残高 782売上高 4,000 ではない。回収した分だけを載せる減価償却費 110 はこの箱に行がない四半期に割ると、Q1だけ最低所要 600 を割り込む営業 +612 / 投資 −280 / 財務 −350 = 純増減 −18。期首 800 が期末 782 になる
図1 資金予算の4区分 ── 現金収入・現金支出・過不足・財務
ASTRA Manufacturing 2027年度 資金予算(単位: 千USD)
区分項目金額
① 現金収入当年度売上からの回収(4,000 × 80%)3,200
期首売掛金の回収648
現金収入合計3,848
② 現金支出材料の支払1,090
人件費の支払1,402
経費の支払744
設備の購入280
現金支出合計3,516
③ 資金の過不足収支差引332
期首現金800
財務前の現金残高1,132
④ 財務配当の支払(200)
長期借入の返済(150)
期末現金残高782

3区分に組み替えると

同じ行を、Day 20 の見積キャッシュフロー計算書の並びに直すとこうなります。

3区分への組み替え(単位: 千USD)
区分中身金額
営業活動Operating3,848 − 材料1,090 − 人件費1,402 − 経費744612
投資活動Investing設備の購入−280
財務活動Financing配当200 + 長期借入の返済150−350
現金の純増減−18
期末現金残高期首800 +(−18)782

この 782 が、Day 20 の見積貸借対照表の現金の行にそのまま載ります。ここが合わないと、見積貸借対照表の貸借は合いません。

利益 800 と、現金 −18 の差はどこから来たか

同じ年度を、損益の定規と現金の定規で測る 営業利益 800 から、現金の増減 −18 まで(単位: 千USD。横幅は 800 を基準にそろえた) 営業利益(Day 18) 800 + 減価償却費(現金は出ない) +110 − 売掛金の増加 −152 − 棚卸資産の増加 −146 = 営業活動による現金 612 − 設備の購入(投資) −280 − 配当と長期借入の返済(財務) −350 = 現金の増減 −18期首 800 +(−18)= 期末 782。この 782 が見積貸借対照表の現金になる
図3 営業利益800から、現金の増減−18へ

Day 18 で組んだ営業利益は 800 でした。年度の現金は 18 減りました。差は 818 あります。この差は、項目ごとにきれいに分解できます。

営業利益から、現金の増減へのブリッジ(単位: 千USD)
項目金額理由
営業利益800Day 18。損益の定規で測った年度の稼ぎ
+ 減価償却費110費用に引いたが、現金は出ていない
− 売掛金の増加(152)648 → 800。売上のうち未回収で残った分
− 棚卸資産の増加(146)材料 +50(購入1,090 − 使用1,040)と製品 +96
± 買掛金の増減0期首218・期末218で変わらず
= 営業活動による現金612
− 設備の購入(280)費用ではないが、現金は全額出た
− 配当と長期借入の返済(350)利益とは無関係に出ていく現金
= 現金の増減−18期首800 → 期末782

800 + 110 − 152 − 146 = 612。ここまでが営業活動です。そこから設備 280 と、配当・返済 350 を引いて −18。Day 4 の間接法のキャッシュフロー計算書と同じ形の調整です。資金予算は現金の動きを直接積み上げ、間接法は利益から出発して調整する。出発点が違うだけで、着地は同じ1つの数字です。

棚卸資産の増加 146 は、Day 17 で決めた在庫方針の代金です。材料在庫を 200kg から 300kg へ、製品在庫を 80個から 120個へ積み増しました。損益計算書の上ではおとなしく見えたこの判断が、現金では 146 として出ていきます。

年度では足りている。四半期に割ると足りない

年度の1枚では、財務前の残高 1,132 が最低所要現金残高 600 を大きく上回っていました。同じ年度を四半期に割ると、景色が変わります。設備の代金 280 と材料の先行手配が第1四半期に集中しているためです。

四半期別の資金予算(単位: 千USD)
項目Q1Q2Q3Q4年度
現金収入8481,0001,0001,0003,848
現金支出1,1667907807803,516
収支差引−318210220220332
期首現金800600692912800
財務前の現金残高4828109121,1321,132
短期借入118118
短期借入の返済(118)(118)
配当・長期借入の返済(350)(350)
期末現金残高600692912782782

第1四半期の財務前残高は 482。口座に現金は残っていますが、方針の 600 に届きません。

必要借入額 = 最低所要現金残高 600 − 財務前の現金残高 482 = 118

118 を借りて期末残高を 600 に戻し、資金に余裕が出た第2四半期に同額を返します。年度で見れば借入と返済が相殺されて 0 になるので、年度の1枚にはこの動きが出てきません。年度でならすと、期中の谷は消えます。 これが、資金予算を四半期や月にも割って作る理由です。

与件を1つ動かすと、どこが変わるか

感度分析(単位: 千USD)
変えるもの現金収入収支差引財務前残高期末現金
もとの計画3,8483321,132782
当期回収率を80% → 75%に3,648132932582
当期回収率を80% → 85%に4,0485321,332982
設備の購入を280 → 0に3,8486121,4121,062
配当を200 → 0に3,8483321,132982

当期回収率を 5ポイント動かすと、期末現金は 200 動きます。売上高予算は 1 も動いていません。動いたのは「いつ現金になるか」だけです。回収条件の交渉や督促の体制が資金の話として効いてくるのは、このためです。

配当を止めれば期末現金は 982 まで戻りますが、それは株主への支払いを先送りしただけで、事業が現金を生んだわけではありません。資金予算を読むときは、④の財務で埋めた分と、①②で事業が生んだ分を、区別して見てください。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
cash receipts / disbursements現金収入/現金支出資金予算の①と②の見出し
collected in the year of sale売り上げた年度のうちに回収される回収率の条件文
run short of cash現金が足りなくなる資金不足を口頭で言うとき
draw on the line of credit借入枠から引き出す短期借入を実行するとき
non-cash item非現金項目減価償却費を除く理由を言うとき
capital expenditure設備投資(資本的支出)設備の購入を資金予算に載せるとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
資金予算Cash Budget期間中の現金の出入りを予定し、過不足と財務までを示す表
現金収入Cash Receipts当期に実際に回収して手元に入る現金。売上高とは一致しない
現金支出Cash Disbursements当期に実際に払い出す現金。費用の発生額とは一致しない
回収パターンCollection Pattern売上をどの期に何%回収するかの割合。過去の実績から置く
支払条件Payment Terms仕入代金をどの期に何%支払うかの取り決め。買掛金のサイト
資金の過不足Cash Excess or Deficiency期首現金 + 収支差引 で出す、財務の前の現金残高
最低所要現金残高Minimum Cash Balance手元に置いておく現金の下限として、方針で決めておく水準
必要借入額Required Borrowing最低所要現金残高 − 財務前の現金残高(不足しているとき)
期末現金残高Ending Cash Balance財務前の現金残高 + 借入 − 返済 − 配当。見積貸借対照表の現金になる
非現金費用Non-Cash Expense費用に計上されるが現金の支出をともなわないもの。減価償却費が代表
設備投資Capital Expenditure固定資産の取得のための支出。費用ではないが資金予算には載る
当座借越枠Line of Creditあらかじめ銀行と約定しておく短期の借入枠
収支差引Net Cash Flow現金収入合計 − 現金支出合計
見積キャッシュフロー計算書Pro Forma Statement of Cash Flows資金予算の結果を営業・投資・財務の3区分に組み替えた見積財務諸表。Day 20 で扱う

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)