直接労務費832・製造間接費624・販管費800 ── そして製造原価 2.4千USD/個へ畳む
ASTRA Manufacturing の2027年度予算を組みます。前回(Day 17)で決まった売る量 1,000個と作る量 1,040個を受け取って、そこにぶら下がる費用を置いていく作業です。金額の単位は千USD、作業時間の単位は千時間、賃率と費率は1時間あたり・1個あたりのUSDで表します。
与件1 ── 前回から引き継ぐ数字
| 項目 | 金額・数量 | メモ |
|---|---|---|
| 販売予定数量Budgeted Unit Sales | 1,000 個 | 売上予算の出発点 |
| 販売単価Selling Price | 4.0 千USD/個 | 来期は据え置き |
| 売上高予算Sales Budget | 4,000 | 1,000個 × 4.0千USD |
| 期首製品在庫 | 80 個 | |
| 期末目標製品在庫 | 120 個 | 納期短縮のため積み増す |
| 必要生産量Units to be Produced | 1,040 個 | 販売1,000 + 期末120 − 期首80 |
| 製品1個あたり材料費Material Cost per Unit | 1.0 千USD/個 | 2kg/個 × 0.5千USD/kg |
単位: 千USD
在庫を 80個から 120個へ積み増す方針にしたので、今年度は作る量(1,040個)と売る量(1,000個)が 40個だけずれています。この 40個のずれが、このあとの計算でどの数字に効いてどの数字に効かないかを、はっきり分けてくれます。
与件2 ── 今回あらたに置く数字
| 項目 | 数値 | 内訳・根拠 |
|---|---|---|
| 製品1個あたり直接作業時間 | 40 時間 | 標準工程表から |
| 直接工の賃率Wage Rate | 20 USD/時間 | 基本給に法定福利費を含めた額 |
| 変動製造間接費率Variable OH Rate | 10 USD/時間 | 電力費・消耗品費・間接材料費 |
| 固定製造間接費Fixed Overhead | 208 | 減価償却費110・工場管理者などの給与70・保険料28 |
| 変動販売費率Variable Selling Rate | 売上高の 5% | Pacific Logistics への出荷運賃(従量課金) |
| 固定販管費Fixed SG&A | 600 | 販売・管理部門の給与500・その他の固定管理費100 |
ステップ1 ── 直接労務費予算
金額をいきなり出さず、時間を経由します。
- 総直接作業時間 1,040個 × 40時間 = 41,600時間(=41.6千時間)
- 直接労務費予算 41.6千時間 × 20 USD = 832
1個あたりに直すと 40時間 × 20 USD = 800 USD、つまり 0.8千USD です。ここで掛けたのは必要生産量の 1,040個であって、販売数量の 1,000個ではありません。もし 1,000個で計算すると 800 になり、32 だけ少なく見積もることになります。棚に積む 40個にも、人は同じだけ手をかけているからです。
そして、この途中で出てきた 41.6千時間 が次のステップの土台になります。
ステップ2 ── 製造間接費予算と予定配賦率
| 区分 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 変動製造間接費Variable Overhead | 41.6千時間 × 10 USD | 416 |
| 固定製造間接費Fixed Overhead | 年間の総額をそのまま | 208 |
| 製造間接費予算 合計 | 624 |
変動分は率に操業度を掛けました。固定分は掛け算をしていません。ここが第1部で見た作り分けの、実際の姿です。
続いて予定配賦率を出します。配賦基準は直接作業時間です。
予定配賦率 = 624 ÷ 41.6千時間 = 15 USD / 直接作業時間
内訳 = 変動 10 USD + 固定(208 ÷ 41.6千時間 = 5 USD)
製品1個あたりの製造間接費配賦額は、15 USD × 40時間 = 600 USD。うち変動が400 USD、固定が200 USDです。
つまずきポイント 配賦率の 15 は「1時間あたり」、600 は「1個あたり」です。どちらも同じ予算から出ていますが、単位が違います。問題文が時間あたりを聞いているのか個あたりを聞いているのかは、毎回確かめてください。
ステップ3 ── 販売費及び一般管理費予算
こちらの出発点は売上高です。作業時間ではありません。
- 変動販売費 4,000 × 5% = 200(出荷運賃)
- 固定販管費 600(給与500・その他の固定管理費100)
- 販管費予算 合計 200 + 600 = 800
変動販売費の基準を生産量にしてしまうと、作ったけれど出荷していない 40個にまで運賃を積むことになります。運ぶのは売れた 1,000個ぶんなので、基準は売上高(または販売数量)です。ステップ1で 1,040個を使い、ここで 1,000個を使う。同じ年度の予算の中で、束ごとに出発点が違うということです。
ステップ4 ── 3つを並べる
| 予算 | 変動費 | 固定費 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 直接労務費Direct Labor | 832 | — | 832 |
| 製造間接費Manufacturing Overhead | 416 | 208 | 624 |
| 販売費及び一般管理費SG&A | 200 | 600 | 800 |
| 合計(材料費を除く) | 1,448 | 808 | 2,256 |
ステップ5 ── 1個あたりに畳んで、原価カードにする
ここまでは総額の話でした。総額のままでは在庫の評価ができないので、製造にかかる3つを製品1個あたりに畳みます。この1枚が原価カードStandard Cost Cardです。
| 原価要素 | 計算 | 1個あたり(千USD) |
|---|---|---|
| 直接材料費Direct Materials | 2kg × 0.5千USD/kg | 1.0 |
| 直接労務費Direct Labor | 40時間 × 20 USD | 0.8 |
| 製造間接費Manufacturing Overhead | 40時間 × 15 USD(予定配賦率) | 0.6 |
| 製品1個あたり製造原価Unit Product Cost | 2.4 |
材料だけが「kg × 単価」で、労務と間接費は「時間 × 単価」です。作業時間 40時間が2回出てくるのは、賃率と配賦率という別々の単価を、同じ時間に掛けているからです。
原価カードが1枚あると、個数を掛けるだけで在庫も製造原価も出せます。
| 項目 | 個数 | 金額 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| 期首製品在庫 | 80 個 | 192 | 期首も同じ単位原価で持っているとします |
| 当年度製造原価Cost of Goods Manufactured | 1,040 個 | 2,496 | 材料1,040 + 労務832 + 製造間接費624 |
| 期末製品在庫 | 120 個 | (288) | 棚に残る分は費用にならない |
| 売上原価COGS | 1,000 個 | 2,400 | 192 + 2,496 − 288 |
当年度製造原価 2,496 は、材料の使用額 1,040(Day 17)と今日組んだ 832・624 を足したものです。原価カードから 1,040個 × 2.4 と計算しても同じ 2,496 になります。どちらの道を通っても着く、というのが検算になります。
ステップ6 ── 予算損益計算書へ戻す
| 項目 | 金額 | 内訳 |
|---|---|---|
| 売上高Sales | 4,000 | 1,000個 × 4.0千USD |
| 売上原価COGS | (2,400) | 1,000個 × 2.4千USD |
| 売上総利益Gross Profit | 1,600 | |
| 販売費及び一般管理費 | (800) | 変動200 + 固定600 |
| 営業利益Operating Income | 800 |
Day 1 で読んだASTRAの損益計算書と、売上高 4,000・売上原価 2,400・営業利益 800 がそのまま並びました。あちらは実績、こちらは計画です。予算とは、これから起きることを財務諸表の形で先に書いてみる作業だ、ということです。この形はDay 20の見積財務諸表でもう一度使います。
ここで注意したいのは、今年度に工場が使った 2,496 と、損益計算書に出る 2,400 が一致しないことです。差の 96 は期末在庫の増加分(40個 × 2.4)で、費用ではなく資産として貸借対照表に残ります。作った分がそのまま費用になるわけではない、という当たり前のことが、在庫の増える年度でははっきり数字に出ます。
生産量を動かすと、配賦率はどう動くか
ここまでは生産量 1,040個を前提にしていました。仮に別の生産量で予算を組んだらどうなるかを並べます。変えるのは生産量だけで、賃率も変動費率も固定費の総額もそのままです。
| 生産量 | 総直接作業時間 | 変動 | 固定 | 合計 | 配賦率 (1時間) | 1個あたり |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 650個 | 26千時間 | 260 | 208 | 468 | 18 | 720 USD |
| 1,040個 | 41.6千時間 | 416 | 208 | 624 | 15 | 600 USD |
| 1,300個 | 52千時間 | 520 | 208 | 728 | 14 | 560 USD |
| 2,080個 | 83.2千時間 | 832 | 208 | 1,040 | 12.5 | 500 USD |
固定費の列だけが 208 で止まっています。変動費の列は生産量に比例して伸び、合計も伸びています。それなのに配賦率は下がります。合計が伸びる速さより、割る作業時間が伸びる速さのほうが速いからです。
1個あたりの内訳で見ると、はっきりします。
- 変動費部分 どの生産量でも 10 USD × 40時間 = 400 USD で一定
- 固定費部分 208千USD ÷ 650個 = 320 USD / ÷ 1,040個 = 200 USD / ÷ 2,080個 = 100 USD
動いているのは固定費部分だけです。右の演習パネルの実験タブで、生産量の欄だけを書き換えると、この表と同じ動きが出ます。
この数字の読み方には注意がいる
2,080個で組めば1個あたりの製造間接費は 500 USD になりますが、これは「安く作れる会社になった」という意味ではありません。売れる見込みが 1,000個のときに 2,080個分の予算を組めば、売れ残る 1,080個が在庫として棚に積み上がります。1個あたりの原価は軽く見えて、現金は材料と人件費のぶん出ていきます。原価計算の上で薄まった固定費と、会社が実際に得た利益は別のものだ、という区別を持っておいてください。
Pacific Logistics の提案を、同じ枠で読む
第1部でリンが触れた話です。現在ASTRAは出荷運賃を従量で払っており、予算では売上高の5%として 200 を置きました。Pacific Logistics の Raj からは、年間固定 180 の専属契約という提案が来ています。
| 売上高 | 現行(売上の5%) | 提案(年間固定180) | 安いのは |
|---|---|---|---|
| 3,000 | 150 | 180 | 現行 |
| 3,600 | 180 | 180 | 同じ |
| 4,000(予算) | 200 | 180 | 提案 |
| 5,000 | 250 | 180 | 提案 |
分かれ目は 180 ÷ 5% = 売上高 3,600 です。予算の 4,000 は分かれ目より上にあるので、予算どおりに売れれば固定契約のほうが 20 だけ安く済みます。ただし売上が1割落ちて 3,600 になると差は消え、さらに落ちれば固定契約のほうが高くつきます。固定費に変えるということは、上振れしたときの得と、下振れしたときの損を同時に引き受けるということです。
リンの判断は「2027年度の予算は、いま結んでいる契約のとおり従量 5% で組む」でした。契約を変えるかどうかは別に検討する意思決定で、予算はそれとは切り離して現行の条件で組む、という整理です。予算の中で勝手に条件を先取りすると、あとで実績と比べたときに、契約変更の効果と現場の努力が混ざって読めなくなります。
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| on a per-unit basis | 1個あたりで | 総額と1個あたりを区別して話すとき |
| spread the fixed costs | 固定費を(多くの製品に)分散させる | 増産で1個あたりが下がる説明 |
| volume-driven | 数量に連動する | 変動費の性質を説明するとき |
| lock in a fixed rate | 固定料金で契約を固める | 従量契約と固定契約を比べるとき |
| break-even volume | 損得の分かれ目になる数量・金額 | 2案が同額になる水準を示すとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| 直接労務費予算 | Direct Labor Budget | 生産量 × 1個あたり作業時間 × 賃率で組む労務費の予算 |
| 賃率 | Wage Rate | 直接工の1時間あたり労務費。法定福利費を含めて置くことが多い |
| 製造間接費予算 | Manufacturing Overhead Budget | 特定の製品にひもづけられない工場側の費用の予算 |
| 変動製造間接費 | Variable Overhead | 操業度に比例して増減する製造間接費(電力費・消耗品費など) |
| 固定製造間接費 | Fixed Overhead | 操業度が変わっても総額が変わらない製造間接費(減価償却費など) |
| 操業度 | Activity Level | 作業時間や機械稼働時間などで測る、期間中の仕事の量 |
| 配賦基準 | Allocation Base | 間接費を製品に配る際に比例させる尺度 |
| 予定配賦率 | Predetermined Overhead Rate | 製造間接費予算 ÷ 予定操業度。期首に決めて期中に使う率 |
| 原価カード | Standard Cost Card | 製品1個あたりの材料費・労務費・製造間接費をまとめた1枚。個数を掛けて在庫と製造原価を出す |
| 製品1個あたり製造原価 | Unit Product Cost | 材料・労務・製造間接費を1個あたりに畳んだ金額。在庫評価と売上原価の基礎になる |
| 販売費及び一般管理費予算 | SG&A Budget | 売上高を出発点に、変動分と固定分に分けて組む販管費の予算 |
| 変動費 | Variable Cost | 操業度に比例して総額が増減する費用。1個あたりは一定 |
| 固定費 | Fixed Cost | 操業度が変わっても総額が変わらない費用。1個あたりは操業度で動く |
| コミッテッドコスト | Committed Fixed Cost | 設備や契約をすでに持つために生じ、単年度では動かしにくい固定費 |
| 裁量固定費 | Discretionary Fixed Cost | 広告費・研修費など、その期の金額を経営判断で決められる固定費 |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing・Pacific Logistics ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)