さわる管理会計 DAY 16 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

80%学習曲線で、8台の見積りを組み立てる

Evergreen Energy 向け新型パワーコンディショナー8台の見積りを組み立てます。右の演習パネルと同じ数字です。時間の単位は直接作業時間、金額の単位はUSDです(この回だけは千USDではありません)。

ASTRA Manufacturing ── Evergreen 向け新型機の前提
項目数値出どころ
1台目の直接作業時間First-Unit Labor Hours400試作1台の実績
学習率Learning Rate80%似た構造の機種での実績値をアニカと確認
直接工賃率Direct Labor Rate25 / 時間組立班の平均賃率
直接材料費Direct Materials1,200 / 台部品表からの積算
変動製造間接費Variable Overhead15 / 直接作業時間配賦基準は直接作業時間
目標マークアップMarkup on Cost25%この製品群の社内基準

ステップ1 倍加点で累積平均時間を出す

累積平均時間モデルは、累積生産量が倍になるたびに累積平均時間を学習率倍します。掛け算を並べるだけです。

  1. 2台時点 400 × 80% = 320 時間
  2. 4台時点 320 × 80% = 256 時間
  3. 8台時点 256 × 80% = 204.8 時間

1台目から8台目までで、累積生産量は3回倍になっています(1→2→4→8)。だから80%を3回掛けます。400 × 0.8 × 0.8 × 0.8 = 204.8 でも同じ答えです。

ステップ2 累積総時間に直す

累積平均時間は1台あたりの数字なので、台数を掛けて総時間に戻します。

累積平均時間と累積総時間(単位: 直接作業時間)
累積生産量累積平均時間累積総時間総時間の計算
1台400400400 × 1
2台320640320 × 2
4台2561,024256 × 4
8台204.81,638.4204.8 × 8

8台ぶんの直接作業時間は 1,638.4時間。学習を無視した 400 × 8 = 3,200時間と比べると、51.2%の水準です。

ステップ3 8台の原価を組む

時間が決まれば、あとは単価を掛けるだけです。

Evergreen 向け8台の製造原価(単位: USD)
項目計算金額
直接材料費Direct Materials1,200 × 8台9,600
直接労務費Direct Labor1,638.4時間 × 2540,960
変動製造間接費Variable Overhead1,638.4時間 × 1524,576
製造原価合計Total Cost75,136
1台あたり原価75,136 ÷ 8台9,392

学習曲線が効くのは、直接作業時間で動く2つの費目(労務費と、直接作業時間で配賦する変動製造間接費)です。材料費は台数比例なので、学習の影響を受けません。ここを一緒くたに割り引いてしまうと、材料費まで安く見積もることになります。

ステップ4 提示価格まで持っていく

これがアニカに出す見積書の数字になります。

学習を織り込まなかった場合

同じ前提で、1台目の400時間が8台とも続くと置いたらどうなるかを並べます。

学習を織り込む/織り込まない(8台・単位: USD)
項目80%学習曲線学習なし(400時間 × 8)
直接作業時間1,638.43,200
直接材料費9,6009,600
直接労務費40,96080,000
変動製造間接費24,57648,000
製造原価合計75,136137,600
提示価格(×1.25)93,920172,000

差は 78,080。同じ工場、同じ賃率、同じ部品表なのに、時間の置き方ひとつで提示価格が1.8倍になります。競合が学習を織り込んでいれば、この見積りは価格で見劣りする可能性が高くなります。逆に、実際には定常状態が早く来るのに曲線を延ばし続ければ、受注はできても採算が合わないという反対側の失敗が起きます。学習率をいくつに置くかは、見積書の中でいちばん重い1行です。

追加4台の見積りは、増分で出す

累積平均と増分は、別の数字 同じ80%学習曲線を、区間で切り直す。単位: 直接作業時間 8台の累積総時間 1,638.4 1台あたり 400 240 192 1台あたり 153.6 1台目 2台目 3〜4台目 5〜8台目 400 240 384 614.4 累積平均で追加4台を見積もると Cumulative Average204.8 × 4台 = 819.2 時間1台目の重い時間を、もう一度背負う 増分で追加4台を見積もると Incremental Hours1,638.4 − 1,024 = 614.4 時間5〜8台目だけを取り出せる差は 204.8時間。追加受注の見積りに使うのは、右の増分のほう
図3 累積平均と増分 ── 追加受注に使うのは累積総時間の差

4台を納めたあと、アニカから「同じ仕様で4台追加したい」と連絡が来たとします。ここで8台時点の累積平均 204.8時間を使うと、見積りを誤ります。

5〜8台目の増分(単位: 直接作業時間・USD)
項目計算金額・時間
8台の累積総時間204.8 × 81,638.4
4台の累積総時間256 × 41,024
増分時間(5〜8台目)1,638.4 − 1,024614.4
増分1台あたり時間614.4 ÷ 4台153.6
直接労務費614.4 × 2515,360
変動製造間接費614.4 × 159,216
直接材料費1,200 × 4台4,800
追加4台の製造原価29,376

累積平均で計算していたら、204.8 × 4 = 819.2時間 となり、労務費と間接費で 819.2 × 40 = 32,768、材料費と合わせて 37,568。増分で出した 29,376 より 8,192 も大きくなります。累積平均は「1台目の重い時間をならした後の平均」なので、すでに終わった重い部分を、追加分にもう一度背負わせてしまうからです。

つまずきやすいところ

この計算で起きやすい誤り
誤り出てくる数字直し方
学習率を「減る割合」と読む400 × 20% = 80 など80%は「残る割合」。倍加点で元の80%の水準になる
累積平均を総時間として使う8台の見積りを204.8時間で出す累積平均 × 累積台数 で総時間に戻す
倍加の回数を数え違える1→8を2回と数え 256時間1→2、2→4、4→8 で3回。学習率を3回掛ける
材料費まで学習で割り引く材料費 9,600 が 4,915 などになる学習が効くのは時間で動く費目だけ
追加分に累積平均を使う追加4台が 819.2時間累積総時間の差(増分)を使う

学習率が変わるとどれだけ動くか

学習率の置き方の重さを、90%の場合と並べて確認します。1台目400時間は同じです。

学習率80%と90%(1台目400時間・単位: 直接作業時間)
累積生産量80%の累積平均80%の累積総時間90%の累積平均90%の累積総時間
2台320640360720
4台2561,0243241,296
8台204.81,638.4291.62,332.8

学習率が10ポイント上がる(=学習の効きが弱い)と、8台の総時間は 694.4時間、労務費と間接費で 27,776 増えます。学習率は工程の担当者や過去の類似機種から拾う数字なので、根拠をどこから取ったかを見積書の裏に残しておくと、後で振り返れます。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
learning rate学習率曲線の前提を相手に確認するとき
doubling of output生産量の倍加累積平均が下がる区切りを説明するとき
incremental hours増分時間追加受注の見積り根拠を示すとき
bid price入札価格、提示価格見積書を出すとき
ramp-up立ち上げ、生産の垂直立ち上がり新機種の初期段階を指すとき
labor-intensive労働集約的な学習曲線が効く工程かを判断するとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
定性的予測Qualitative Forecasting実績データではなく、人の判断や意見を材料にする予測
デルファイ法Delphi Technique匿名の質問票と集計のフィードバックを複数ラウンド繰り返し、専門家の意見を収束させる手法
専門家パネルPanel Consensus専門家や経営幹部が対面で議論して合意を作る手法
重役の意見法Jury of Executive Opinion経営幹部の判断を集めて予測とする手法。速いが権威に引きずられやすい
販売部門積み上げ法Sales Force Composite営業担当者ごとの見積りを合計して全社予測とする手法
市場調査Market Research見込み客への調査から需要を推定する手法
類推法Historical Analogy似た製品の過去の推移を新製品に当てはめる手法
学習曲線Learning Curve累積生産量が増えるほど1単位あたりの投入時間が減る関係を表した曲線
学習率Learning Rate累積生産量が倍になったときに、累積平均時間が元の何%になるかを示す率
累積平均時間モデルCumulative Average-Time Model倍加点ごとに累積平均時間が学習率倍になるとするモデル
増分単位時間モデルIncremental Unit-Time Model倍加点ごとに、その単位1個あたりの時間が学習率倍になるとするモデル
累積総時間Cumulative Total Time累積平均時間 × 累積生産量。その台数までに要する合計時間
増分時間Incremental Time2つの累積総時間の差。追加生産分に要する時間
定常状態Steady State学習の効果が頭打ちになり、1単位あたりの時間がほぼ一定になった状態
経験曲線Experience Curve製造時間だけでなく、販売や管理まで含めた総コストの逓減を表す考え方

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing・Evergreen Energy)と人物(ケン・リン・アニカ)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)