さわる管理会計 DAY 15 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

Stellar Automotive の製造間接費 ── 高低点法・回帰・時系列予測を1本につなぐ

Priya から届いた Stellar Automotive の12か月分です。生産量(千個)と製造間接費(千USD)だけの、素朴な表です。

Stellar Automotive 直近12か月の実績
生産量 x(千個)製造間接費 y(千USD)その月に起きたこと
132568
236612
328528
440655
534588
625470長い連休。操業日数そのものが短かった(最低点
738632
830552
942668
1035598
1145770特急対応。残業と特別便が集中した(最高点
1234592

単位: 生産量=千個、製造間接費=千USD

手順1 高低点法で式を作る

選ぶのは x(生産量)が最高の月と最低の月です。原価が最高・最低の月ではありません。ここでは第11月(45 千個)と第6月(25 千個)です。

  1. 単位あたり変動費 b (770 − 470) ÷ (45 − 25) = 300 ÷ 20 = 15(千USD/千個)
  2. 固定費 a 高点から: 770 − 15 × 45 = 770 − 675 = 95
  3. 検算 低点から: 470 − 15 × 25 = 470 − 375 = 95 一致します

高低点法の式は y = 95 + 15x です。

つまずきやすいところ

手順3の検算は「この式が合っている」ことの確認にはなりません。同じ2点から出した a を、同じ2点で確かめているだけだからです。一致するのは当然で、一致しなかったときに分かるのは「どこかで計算を間違えた」ことだけです。

手順2 回帰分析で式を作る

12点すべてを使います。手で出すなら、Σ(合計)を4つ作るところから始めます。

最小二乗法のための集計
xyxy
13256818,1761,024
23661222,0321,296
32852814,784784
44065526,2001,600
53458819,9921,156
62547011,750625
73863224,0161,444
83055216,560900
94266828,0561,764
103559820,9301,225
114577034,6502,025
123459220,1281,156
Σ(n = 12)4197,233257,27414,999

傾き b と切片 a は、この4つの合計だけで出ます。

  1. b の分子 n Σxy − Σx Σy = 12 × 257,274 − 419 × 7,233 = 3,087,288 − 3,030,627 = 56,661
  2. b の分母 n Σx² − (Σx)² = 12 × 14,999 − 419² = 179,988 − 175,561 = 4,427
  3. 傾き b 56,661 ÷ 4,427 = 12.80(千USD/千個)
  4. 平均 xの平均 = 419 ÷ 12 = 34.92  yの平均 = 7,233 ÷ 12 = 602.75
  5. 切片 a yの平均 − b × xの平均 = 602.75 − 12.80 × 34.92 = 602.75 − 446.90 = 155.9

回帰の式は y = 155.9 + 12.80x です。Excelなら SLOPE関数・INTERCEPT関数、または分析ツールの回帰分析で同じ数字が出ます。

決定係数R²も出しておく

Σy² = 4,422,941 を追加で作ると、相関係数 r が出ます。

製造間接費のばらつきの 95.5% を、生産量だけで説明できているという意味です。残りの 4.5% は、生産量以外の何か ── 残業の入れ方、特別便、修繕のタイミング ── が動かしている部分です。

手順3 2つの式を並べる

同じ12か月から出てきた、2つの式
高低点法回帰分析
使ったデータ点2点12点
固定費 a95155.960.9
単位あたり変動費 b1512.802.20
第10月(x = 35、実績 598)の当てはめ620603.9
第10月の誤差(実績 − 予測)−22−5.9

高低点法は固定費を 95 と見ています。回帰は 155.9。ラインを止めても消えない費用の見積りが1.6倍ちがうことになります。設備を遊ばせたときに何が残るかを議論するなら、この差はそのまま結論の差になります。

第11月(x = 45)に当てはめると、高低点法は 95 + 15 × 45 = 770 で、実績とぴったり合います。ただしこれは精度の証拠ではありません。その点を通るように線を引いたから合っているだけです。回帰は同じ月を 731.9 と見積もり、38.1 外します。回帰は「第11月は普通ではなかった」という意見を持っている、という読み方をします。

手順4 来月の生産量を予測する

同じ「過去の実績」に、どれだけの重みをかけているか 3か月移動平均法と指数平滑法(α = 0.5)── 次の1期を予測するときの重み配分 3か月移動平均 直近3期に等しく 1/3 33.3% 33.3% 33.3%00000指数平滑 α=0.5 半分ずつ減っていく 50.0% 25.0% 12.5% 6.3% 3.1% 1.6% 0.8% 0.4%1期前2期前3期前4期前5期前6期前7期前8期前 移動平均はここを完全に捨てる。 指数平滑は薄く残し続ける
図3 移動平均法と指数平滑法 ── 過去の実績にかかる重みの違い

原価の式に入れる x が要ります。生産量の12か月の推移から、2つの方法で第13月を読みます。

3か月移動平均法

直前3か月の単純平均です。第7月の予測なら、第4・5・6月の実績を平均します。

3か月移動平均による予測(単位: 千個)
実績 x計算その月の予測
738(40 + 34 + 25) ÷ 333.0
830(34 + 25 + 38) ÷ 332.3
942(25 + 38 + 30) ÷ 331.0
1035(38 + 30 + 42) ÷ 336.7
1145(30 + 42 + 35) ÷ 335.7
1234(42 + 35 + 45) ÷ 340.7
13これから(35 + 45 + 34) ÷ 338.0

指数平滑法(α = 0.5)

次期予測 = α × 当期実績 + (1 − α) × 当期予測。α = 0.5 なので「実績と予測のまん中を取る」だけです。出発点として、第1月の予測を 32.0 としています(前年12月から引き継いだ予測値という設定です)。

指数平滑法による予測(α = 0.5、単位: 千個)
実績 xその月の予測 F次の月の予測 = 0.5 × 実績 + 0.5 × 予測
13232.00.5 × 32 + 0.5 × 32.0 = 32.0
23632.00.5 × 36 + 0.5 × 32.0 = 34.0
32834.00.5 × 28 + 0.5 × 34.0 = 31.0
44031.00.5 × 40 + 0.5 × 31.0 = 35.5
53435.50.5 × 34 + 0.5 × 35.5 = 34.8
62534.80.5 × 25 + 0.5 × 34.8 = 29.9
73829.90.5 × 38 + 0.5 × 29.9 = 33.9
83033.90.5 × 30 + 0.5 × 33.9 = 32.0
94232.00.5 × 42 + 0.5 × 32.0 = 37.0
103537.00.5 × 35 + 0.5 × 37.0 = 36.0
114536.00.5 × 45 + 0.5 × 36.0 = 40.5
123440.50.5 × 34 + 0.5 × 40.5 = 37.2
13これから37.2(表示は小数第1位まで。途中は丸めずに計算しています)

移動平均は 38.0、指数平滑は 37.2。近い数字ですが、どちらを採るかは好みでは決めません。

手順5 どちらの予測手法を採るかを、誤差で決める

第7月から第12月までの6か月について、それぞれの手法が出していた予測と実績を突き合わせます。誤差は 実績 − 予測 です。

直近6か月の予測誤差くらべ(単位: 千個)
実績移動平均の予測誤差指数平滑の予測誤差
73833.0+5.029.9+8.1
83032.3−2.333.9−3.9
94231.0+11.032.0+10.0
103536.7−1.737.0−2.0
114535.7+9.336.0+9.0
123440.7−6.740.5−6.5
絶対値の合計36.039.5
誤差指標の比較(6か月・単位: 千個、MAPEのみ%)
指標3か月移動平均指数平滑 α=0.5読み方
MAD6.06.636.0 ÷ 6 = 6.0 / 39.5 ÷ 6 = 6.6
MSE47.651.6誤差を二乗して平均。単位は「千個の二乗」
RMSE6.97.2MSEの平方根。単位が千個に戻る
MAPE15.4%17.2%誤差の絶対値 ÷ 実績 の平均

4つの指標がそろって移動平均のほうが小さく出ました。指標によって結論が割れなかったので、この6か月に関しては 3か月移動平均を採る、と言えます。Priya が第13月に置く生産量は 38.0 千個です。

つまずきやすいところ

MADが 6.0 ということは、平均して 6 千個ぶんずれるという意味です。生産量が 34 前後の会社にとって、6 のずれは小さくありません。「移動平均のほうがまし」と「移動平均なら当たる」は別の話です。誤差指標は手法を選ぶための物差しであって、選んだ手法の精度を保証するものではありません。

手順6 予算額に着地させる

x = 38.0 を、2つの原価式にそれぞれ入れます。

第13月の製造間接費・予算額(単位: 千USD)
固定費変動費合計
高低点法95 + 15 × 38.095570665.0
回帰分析155.9 + 12.80 × 38.0155.9486.4642.3
差(高低点法 − 回帰)−60.9+83.6+22.7

合計の差は 22.7、回帰の予算額に対して 3.5% です。「思ったより小さい」と感じたなら、それが正解です。x = 38 は12か月の実績のほぼ真ん中(平均 34.9)で、2本の線がいちばん接近している場所だからです。

差が開くのは端です。x = 60 まで伸ばすと 高低点法 995.0 に対して回帰 923.9 で、差は 71.1 に広がります。逆に x = 25 まで下げると 高低点法 470.0、回帰 475.9 となり、差の符号が入れ替わります。2本の線は x = 27.7 あたりで交差しているためです。右の演習パネルで B7(予測したい生産量)を動かすと、この交差がそのまま見えます。

なお、x = 60 は実績データの範囲(25〜45)の外です。第1部で触れた関連範囲の外なので、この 995.0 と 923.9 の比較は「線が開いていく様子」を見るためのもので、予算の根拠にはしません。

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
原価予測Cost Estimation過去の実績から、将来の原価を活動量の関数として見積もること
混合費Mixed Cost固定的な部分と変動的な部分が混ざった原価
原価作用因Cost Driver原価を動かす活動量。回帰式の独立変数 x に置くもの
従属変数Dependent Variable予測される側の変数(y)。ここでは総原価
独立変数Independent Variable予測する側の変数(x)。ここでは生産量
高低点法High-Low Method活動量が最高の点と最低の点の2点だけで固変分解する方法
回帰分析Regression Analysisすべての観測点から、残差の二乗和が最小になる線を求める方法
単回帰/重回帰Simple / Multiple Regression独立変数が1つのものが単回帰、2つ以上が重回帰
最小二乗法Least Squares Method縦方向のずれ(残差)の二乗和を最小にする線の引き方
切片Intercept (a)x が 0 のときの y。固定費の推定値
傾きSlope (b)x が1単位増えたときの y の増分。単位あたり変動費の推定値
決定係数Coefficient of Determination (R²)y のばらつきのうち x で説明できた割合。0〜1
相関係数Correlation Coefficient (r)2変数の直線的な関係の強さと向き。−1〜+1。単回帰では r² = R²
外れ値Outlier他の観測点から大きく離れた値。高低点法では端の点として選ばれやすい
関連範囲Relevant Rangeその原価構造が成り立つと考えてよい活動量の幅
外挿Extrapolation実績データの範囲の外へ式を伸ばして予測すること
多重共線性Multicollinearity重回帰で独立変数どうしが強く相関し、係数が不安定になる状態
時系列Time Series時間の順に並んだ観測値の列
移動平均法Moving Average直近 n 期の単純平均を次期の予測とする方法
指数平滑法Exponential Smoothing次期予測 = α × 当期実績 + (1 − α) × 当期予測
平滑化定数Smoothing Constant (α)指数平滑法で直近実績にかける重み。0〜1
予測誤差Forecast Error実績 − 予測
平均絶対偏差MAD (Mean Absolute Deviation)誤差の絶対値の平均
平均二乗誤差MSE (Mean Squared Error)誤差の二乗の平均。大きな外れを強く罰する
二乗平均平方根誤差RMSE (Root Mean Squared Error)MSEの平方根。単位が元に戻る
平均絶対百分率誤差MAPE (Mean Absolute Percentage Error)誤差の絶対値 ÷ 実績 の平均。%で表示する

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing・Stellar Automotive)と人物(ケン・リン・Priya)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な管理会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)