11日ぶんを、1枚の紙の上に並べ直す ── セクションAの地図をもう一度描く
この回で分かること
- Day 1〜11の各テーマが、4つの財務諸表のどこに置かれる話だったかを指させる
- 純利益・期末利益剰余金・期末現金という3つの接続点が、どの表とどの表を留めているかを説明できる
- 総合問題を「損益計算書→変動計算書→貸借対照表→C/F」の順で解く手順を、自分の言葉で言える
セクションAの地図と、試験が狙う4つの交差点
11日かけて、財務諸表の話をひと通り歩いてきました。ここで手を止めて、歩いた道を上から眺めます。個別の論点は覚えているのに総合問題で手が止まる人は、たいてい「どの論点がどの表の話だったか」の地図を持っていません。
会議室で起きたこと
試験を数日後に控えたケンが、リンの部屋に11日ぶんのノートを抱えて来た場面です。
ケン: リンさん、Day 1から11まで、ノートは埋まったんです。でも過去問の総合問題になると、どこから手をつけていいか分からなくなります。
リン: 何が起きているか、当ててみましょうか。減価償却の計算はできる。貸倒引当金の計算もできる。でも「この会社の期末現金を求めなさい」と言われると固まる。違う?
ケン: ……そのままです。
リン: 論点は覚えているのに、地図がないの。ノートを1日ずつめくるんじゃなくて、11日ぶんを1枚の紙に並べ直してみて。
ケン: 並べ直す、というのは。
リン: セクションAは大きく2階建てなの。1階が Day 1〜4 の「4つの表そのもの」。2階が Day 5〜11 の「表に載せる前に、金額をどう測るか」。棚卸資産も減価償却も社債も税金も、全部2階の話。測り終わった数字が1階に降りてくる。
ケン: Day 5以降は、全部が損益計算書と貸借対照表の入力だった、ということですか。
リン: そう。そしてここが大事。2階の判断を1つ変えると、1階の表は2枚以上が同時に動くの。先入先出法を後入先出法に変えると、損益計算書の売上原価と、貸借対照表の棚卸資産が、同じ瞬間に動く。
ケン: 片方だけ動くことはない、と。
リン: 複式簿記だからね。試験がいちばん狙うのもそこ。「この処理を変えたら、純利益と総資産はそれぞれどうなるか」という聞き方をしてくるわ。
ケン: 総合問題で固まるのは、その連動が見えていないからですね。
リン: 見えるようにする方法は1つ。解く順番を先に決めておくこと。今日はその順番と、11日ぶんの地図を持ち帰って。
この場面で出てくる英語
| English | 意味 |
|---|---|
| comprehensive review | 総合演習、総復習 |
| tie out | (数字が)突き合わせて一致する |
| roll-forward | 期首から期末への残高の推移表 |
| bottom line | 最終利益(損益計算書のいちばん下の行) |
| measurement | 測定。金額をいくらで載せるかの判断 |
| recognition | 認識。いつ財務諸表に載せるかの判断 |
| trace back | さかのぼって追う |
| walk through | 順を追って説明する、ひと通りたどる |
今日おさえる3つ
- セクションAは2階建て ── Day 1〜4が「4つの表」、Day 5〜11が「載せる前の測り方」
- 試験が狙うのは4つの交差点 ── 純利益・期末利益剰余金・期末現金・そして測り方の変更
- 総合問題は解く順番を固定する ── 損益計算書 → 変動計算書 → 貸借対照表 → C/F
セクションAの地図 ── 11日はどこに置かれていたか
11日ぶんを、表との関係で並べ直すとこうなります。ノートの順番ではなく、この順番で思い出せるようにしておくと総合問題で迷いません。
| Day | テーマ | 主にどの表の話か | これだけは言えるように |
|---|---|---|---|
| 1 | 財務諸表の全体像と損益計算書Income Statement | 損益計算書 | 多段階方式なら売上総利益と営業利益が見える。単一ステップでは見えない |
| 2 | 貸借対照表の構造と分類Balance Sheet | 貸借対照表 | 「1年」の線で流動と非流動を切る。繰延税金負債は非流動に固定 |
| 3 | 株主資本と変動計算書SOCIE | 株主資本等変動計算書 | 期首の株主資本から期末までの通り道。純利益はここを通って貸借対照表へ |
| 4 | キャッシュフロー計算書Statement of Cash Flows | C/F計算書 | 3区分と間接法。純利益から出発して期末現金に着地する |
| 5 | 売掛金と棚卸資産Receivables & Inventory | 両方(P/L・B/S) | 売掛金は純額で載せる。原価の配り方を変えると利益と在庫が同時に動く |
| 6 | 固定資産・減価償却・減損Long-Term Assets | 両方 | 償却方法を変えても総額は同じ。変わるのは各年への配り方 |
| 7 | 投資・無形資産・のれんInvestments & Intangibles | 両方(一部はOCI) | 持分割合と保有区分で、評価差額が純利益に行くかOCIに行くかが分かれる |
| 8 | 負債の認識・測定・リースLiabilities & Leases | 貸借対照表中心 | 社債は実効金利法で利息費用を出す。リースは借手側で資産と負債の両建て |
| 9 | 法人税会計Income Taxes | 両方 | 永久差異は税費用を動かす。一時差異はDTA/DTLになる |
| 10 | 収益認識Revenue Recognition | 損益計算書の入口 | 5ステップ。いつ・いくらを売上に載せるかの判断 |
| 11 | IFRSとUS GAAPの差異・統合報告IFRS vs US GAAP | 全体にかかる | 同じ取引でも基準が違えば数字が変わる。差異は論点ごとに覚える |
1階と2階を分けると、思い出し方が変わる
Day 1〜4は「器」の話です。器の形と、器どうしのつながり方を扱いました。Day 5〜11は「中身の測り方」です。売掛金をいくらで載せるか、設備の原価を何年に配るか、いつ売上を認識するか。
この2階建てが頭に入っていると、問題文を読んだ瞬間に「これは器の問題か、測り方の問題か」を仕分けられます。仕分けができれば、思い出す引き出しが1つに絞れます。
試験が狙う4つの交差点
| 交差点 | 接続元 | 接続先 | 試験での聞かれ方 |
|---|---|---|---|
| ① | 損益計算書の純利益Net Income | 株主資本等変動計算書の利益剰余金 | 期首利益剰余金と配当を与えて、期末利益剰余金を計算させる |
| ② | 変動計算書の期末株主資本Total Equity | 貸借対照表の資本の部 | 負債合計と組み合わせて総資産を計算させる |
| ③ | 損益計算書の純利益 | C/F計算書(間接法)の1行目 | 調整項目を並べて営業CFを計算させる |
| ④ | C/F計算書の期末現金Ending Cash | 貸借対照表の現金 | 期末現金を求めさせ、貸借対照表の一致で検算させる |
注目してほしいのは、①と③がどちらも純利益から出ていることです。純利益は損益計算書の終点であると同時に、2つの表の始点でもあります。1つの数字が3方向に流れる。ここがセクションA全体の心臓部です。
5つめの交差点 ── 測り方の変更は2枚を同時に動かす
Day 5〜11の論点は、この4つとは別の形で表をつなぎます。測り方を変えると、損益計算書と貸借対照表が同時に動くのです。
| Day | 変えるもの | 損益計算書への影響 | 貸借対照表への影響 |
|---|---|---|---|
| 5 | 棚卸資産の原価算定を先入先出法から後入先出法へ(値上がり局面) | 売上原価が増え、純利益が減る | 期末棚卸資産が減り、総資産が減る |
| 6 | 減価償却を定額法から定率法へ | 初期の減価償却費が増え、純利益が減る | 減価償却累計額が増え、帳簿価額が減る |
| 7 | 債券投資を売買目的から売却可能へ | 評価差額が純利益から抜ける | 資本のAOCIが動く(資産の金額は時価のまま) |
| 9 | 一時差異が生じる | 法人税費用は会計の利益に対応した額 | 差額が繰延税金資産または負債として残る |
| 10 | 収益の認識時点を一時点から経時的へ | 当期の売上高と利益が変わる | 契約資産・前受収益の残高が変わる |
「純利益が減る=悪い会社」ではありません。方法の選択を変えただけで現金は1円も動いていない、というのがDay 5と6で確かめたことでした。総合問題では、この「利益は動くが現金は動かない」という組み合わせが繰り返し問われます。
間違えやすい場所を、Dayごとに1つずつ
11日ぶんのつまずきを、1日1個に絞って並べます。試験の直前に読み返すならこの表です。
| Day | よくある取り違え | 正しい見方 |
|---|---|---|
| 1 | 本業以外の収益をRevenueに入れて売上総利益を出す | Revenueは本業の収益。設備売却で出た利益はGainで、営業利益より下に置く |
| 2 | 長期借入金の総額を非流動に置いたまま、流動部分を別に足す | 流動部分は「移動」であって「追加」ではない。非流動側を同額減らす |
| 3 | 自己株式を資産に計上する | 自己株式は株主資本のマイナス項目(Contra Equity) |
| 4 | 設備の売却について、売却益と売却収入の両方を投資活動に載せる | 投資活動に載るのは受け取った現金の全額。売却益は営業セクションで控除する |
| 5 | 貸倒が確定したときに費用を計上する | 費用は引当計上の時点。確定時は総額と引当金が同額減り、純額は動かない |
| 6 | 定率法の1年目から残存価額を差し引く | 定率法は帳簿価額に率を掛ける。残存価額は下限として最後に効いてくる |
| 7 | 持分法で、被投資会社の純利益だけを加算して配当を引き忘れる | 受取配当は投資勘定の回収。持分相当額を投資勘定から減らす |
| 8 | 割引発行の社債で、額面に実効金利を掛ける | 利息費用は帳簿価額×実効金利。額面×クーポン率は現金で払う利息 |
| 9 | 永久差異を一時差異として繰延処理する | 永久差異は将来解消しないので、DTA/DTLを作らない |
| 10 | 取引価格を履行義務の数で均等に割る | 配分は独立販売価格の比率による |
| 11 | 後入先出法と減損の戻入について、可否の向きを逆に覚える | 後入先出法はIFRSで不可。減損の戻入はIFRSで可能でUS GAAPでは不可(のれんを除く) |
総合問題は、解く順番を先に決めておく
総合問題で手が止まるのは、どこから手をつけるかを毎回その場で考えているからです。順番を固定してしまえば、考えることは各ステップの中身だけになります。
- 損益計算書を作って、純利益を出す 多段階の形で、売上総利益・営業利益・税引前利益を経由する。営業内と営業外の線を先に引く
- 株主資本等変動計算書で、期末利益剰余金を出す 期首利益剰余金 + 純利益 − 配当。資本取引(新株発行・自己株式・OCI)は利益剰余金の外側で処理する
- 貸借対照表を組んで、左右を合わせる 資産=負債+株主資本。合わないときは、ここまでの2ステップのどこかに転記漏れがある
- C/F計算書で、期末現金に着地する 純利益から出発し、3区分を通って期末現金へ。貸借対照表の現金と一致すれば全体が閉じる
なぜこの順番なのか
純利益が決まらないと、②も④も始まりません。そして③の貸借対照表は、②の期末株主資本が確定してはじめて左右が合います。④のC/Fを最後に置くのは、検算になるからです。期末現金が貸借対照表の現金と一致したとき、①から④までのどこにも計算ミスがなかったと分かります。
逆に一致しなかったときは、どこを見ればいいかも決まっています。差額の金額そのものが手がかりです。差が配当の金額と同じなら②か④の配当の扱い、差が設備売却益の金額と同じなら④の営業セクションの符号、というふうに当たりをつけられます。
第2部では、ASTRA Manufacturing の1年分の取引を材料に、この4ステップを実際に通します。純利益500から出発して、期末株主資本8,000・総資産16,500・期末現金800まで、一本の線でつながることを手で確かめてください。
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)