さわる管理会計 DAY 12 さわるベトナム のトレーニング教材

11日ぶんを、1枚の紙の上に並べ直す ── セクションAの地図をもう一度描く

全3部 / 前提知識: Day 1〜11(セクションA 全体) / 最終更新 2026-08-23

この回で分かること

  • Day 1〜11の各テーマが、4つの財務諸表のどこに置かれる話だったかを指させる
  • 純利益・期末利益剰余金・期末現金という3つの接続点が、どの表とどの表を留めているかを説明できる
  • 総合問題を「損益計算書→変動計算書→貸借対照表→C/F」の順で解く手順を、自分の言葉で言える
PART 1 / 3

セクションAの地図と、試験が狙う4つの交差点

11日かけて、財務諸表の話をひと通り歩いてきました。ここで手を止めて、歩いた道を上から眺めます。個別の論点は覚えているのに総合問題で手が止まる人は、たいてい「どの論点がどの表の話だったか」の地図を持っていません。

会議室で起きたこと

試験を数日後に控えたケンが、リンの部屋に11日ぶんのノートを抱えて来た場面です。

ケン: リンさん、Day 1から11まで、ノートは埋まったんです。でも過去問の総合問題になると、どこから手をつけていいか分からなくなります。

リン: 何が起きているか、当ててみましょうか。減価償却の計算はできる。貸倒引当金の計算もできる。でも「この会社の期末現金を求めなさい」と言われると固まる。違う?

ケン: ……そのままです。

リン: 論点は覚えているのに、地図がないの。ノートを1日ずつめくるんじゃなくて、11日ぶんを1枚の紙に並べ直してみて。

ケン: 並べ直す、というのは。

リン: セクションAは大きく2階建てなの。1階が Day 1〜4 の「4つの表そのもの」。2階が Day 5〜11 の「表に載せる前に、金額をどう測るか」。棚卸資産も減価償却も社債も税金も、全部2階の話。測り終わった数字が1階に降りてくる。

ケン: Day 5以降は、全部が損益計算書と貸借対照表の入力だった、ということですか。

リン: そう。そしてここが大事。2階の判断を1つ変えると、1階の表は2枚以上が同時に動くの。先入先出法を後入先出法に変えると、損益計算書の売上原価と、貸借対照表の棚卸資産が、同じ瞬間に動く。

ケン: 片方だけ動くことはない、と。

リン: 複式簿記だからね。試験がいちばん狙うのもそこ。「この処理を変えたら、純利益と総資産はそれぞれどうなるか」という聞き方をしてくるわ。

ケン: 総合問題で固まるのは、その連動が見えていないからですね。

リン: 見えるようにする方法は1つ。解く順番を先に決めておくこと。今日はその順番と、11日ぶんの地図を持ち帰って。

この場面で出てくる英語

Key Words & Expressions
English意味
comprehensive review総合演習、総復習
tie out(数字が)突き合わせて一致する
roll-forward期首から期末への残高の推移表
bottom line最終利益(損益計算書のいちばん下の行)
measurement測定。金額をいくらで載せるかの判断
recognition認識。いつ財務諸表に載せるかの判断
trace backさかのぼって追う
walk through順を追って説明する、ひと通りたどる

今日おさえる3つ

  1. セクションAは2階建て ── Day 1〜4が「4つの表」、Day 5〜11が「載せる前の測り方」
  2. 試験が狙うのは4つの交差点 ── 純利益・期末利益剰余金・期末現金・そして測り方の変更
  3. 総合問題は解く順番を固定する ── 損益計算書 → 変動計算書 → 貸借対照表 → C/F

セクションAの地図 ── 11日はどこに置かれていたか

セクションAは2階建て ── 11日はどこに置かれていたか 上の階で金額を測り、下の階の4つの表に載せる 2階 載せる前の「測り方」 Recognition & Measurement ── いくらで、いつ載せるかを決める Day 5 売掛金 棚卸資産 Day 6 固定資産 減価償却・減損 Day 7 投資・無形資産 のれん Day 8 負債・社債 リース Day 9 法人税会計 DTA / DTL Day 10 収益認識 5ステップ Day 11 IFRS 差異 統合報告 測った金額が、下の4つの表に載る 1階 4つの財務諸表そのもの The Four Statements ── 器の形と、器どうしのつながり Day 1 損益計算書 Income Statement収益 − 費用 = 純利益単一ステップと多段階 Day 2 貸借対照表 Balance Sheet資産=負債+株主資本「1年」で流動と非流動へ Day 3 変動計算書 Changes in Equity期首資本 → 期末資本純利益の通り道 Day 4 C/F計算書 Statement of Cash Flows現金の増減を3区分で純利益 → 期末現金問題文を読んだら、まず仕分ける ──「これは器の問題か、測り方の問題か」2階の判断を1つ変えると、1階の表は2枚が同時に動く(複式簿記だから)
図1 セクションAの地図 ── 測り方の階と、4つの表の階

11日ぶんを、表との関係で並べ直すとこうなります。ノートの順番ではなく、この順番で思い出せるようにしておくと総合問題で迷いません。

セクションA 11日の地図
Dayテーマ主にどの表の話かこれだけは言えるように
1財務諸表の全体像と損益計算書Income Statement損益計算書多段階方式なら売上総利益と営業利益が見える。単一ステップでは見えない
2貸借対照表の構造と分類Balance Sheet貸借対照表「1年」の線で流動と非流動を切る。繰延税金負債は非流動に固定
3株主資本と変動計算書SOCIE株主資本等変動計算書期首の株主資本から期末までの通り道。純利益はここを通って貸借対照表へ
4キャッシュフロー計算書Statement of Cash FlowsC/F計算書3区分と間接法。純利益から出発して期末現金に着地する
5売掛金と棚卸資産Receivables & Inventory両方(P/L・B/S)売掛金は純額で載せる。原価の配り方を変えると利益と在庫が同時に動く
6固定資産・減価償却・減損Long-Term Assets両方償却方法を変えても総額は同じ。変わるのは各年への配り方
7投資・無形資産・のれんInvestments & Intangibles両方(一部はOCI)持分割合と保有区分で、評価差額が純利益に行くかOCIに行くかが分かれる
8負債の認識・測定・リースLiabilities & Leases貸借対照表中心社債は実効金利法で利息費用を出す。リースは借手側で資産と負債の両建て
9法人税会計Income Taxes両方永久差異は税費用を動かす。一時差異はDTA/DTLになる
10収益認識Revenue Recognition損益計算書の入口5ステップ。いつ・いくらを売上に載せるかの判断
11IFRSとUS GAAPの差異・統合報告IFRS vs US GAAP全体にかかる同じ取引でも基準が違えば数字が変わる。差異は論点ごとに覚える

1階と2階を分けると、思い出し方が変わる

Day 1〜4は「器」の話です。器の形と、器どうしのつながり方を扱いました。Day 5〜11は「中身の測り方」です。売掛金をいくらで載せるか、設備の原価を何年に配るか、いつ売上を認識するか。

この2階建てが頭に入っていると、問題文を読んだ瞬間に「これは器の問題か、測り方の問題か」を仕分けられます。仕分けができれば、思い出す引き出しが1つに絞れます。

試験が狙う4つの交差点

Articulation ── 表と表が留められている場所
交差点接続元接続先試験での聞かれ方
損益計算書の純利益Net Income株主資本等変動計算書の利益剰余金期首利益剰余金と配当を与えて、期末利益剰余金を計算させる
変動計算書の期末株主資本Total Equity貸借対照表の資本の部負債合計と組み合わせて総資産を計算させる
損益計算書の純利益C/F計算書(間接法)の1行目調整項目を並べて営業CFを計算させる
C/F計算書の期末現金Ending Cash貸借対照表の現金期末現金を求めさせ、貸借対照表の一致で検算させる

注目してほしいのは、①と③がどちらも純利益から出ていることです。純利益は損益計算書の終点であると同時に、2つの表の始点でもあります。1つの数字が3方向に流れる。ここがセクションA全体の心臓部です。

5つめの交差点 ── 測り方の変更は2枚を同時に動かす

Day 5〜11の論点は、この4つとは別の形で表をつなぎます。測り方を変えると、損益計算書と貸借対照表が同時に動くのです。

測り方の変更が、どの2枚を同時に動かすか
Day変えるもの損益計算書への影響貸借対照表への影響
5棚卸資産の原価算定を先入先出法から後入先出法へ(値上がり局面)売上原価が増え、純利益が減る期末棚卸資産が減り、総資産が減る
6減価償却を定額法から定率法へ初期の減価償却費が増え、純利益が減る減価償却累計額が増え、帳簿価額が減る
7債券投資を売買目的から売却可能へ評価差額が純利益から抜ける資本のAOCIが動く(資産の金額は時価のまま)
9一時差異が生じる法人税費用は会計の利益に対応した額差額が繰延税金資産または負債として残る
10収益の認識時点を一時点から経時的へ当期の売上高と利益が変わる契約資産・前受収益の残高が変わる

「純利益が減る=悪い会社」ではありません。方法の選択を変えただけで現金は1円も動いていない、というのがDay 5と6で確かめたことでした。総合問題では、この「利益は動くが現金は動かない」という組み合わせが繰り返し問われます。

間違えやすい場所を、Dayごとに1つずつ

11日ぶんのつまずきを、1日1個に絞って並べます。試験の直前に読み返すならこの表です。

Day別・ひっかかりやすい1点
Dayよくある取り違え正しい見方
1本業以外の収益をRevenueに入れて売上総利益を出すRevenueは本業の収益。設備売却で出た利益はGainで、営業利益より下に置く
2長期借入金の総額を非流動に置いたまま、流動部分を別に足す流動部分は「移動」であって「追加」ではない。非流動側を同額減らす
3自己株式を資産に計上する自己株式は株主資本のマイナス項目(Contra Equity)
4設備の売却について、売却益と売却収入の両方を投資活動に載せる投資活動に載るのは受け取った現金の全額。売却益は営業セクションで控除する
5貸倒が確定したときに費用を計上する費用は引当計上の時点。確定時は総額と引当金が同額減り、純額は動かない
6定率法の1年目から残存価額を差し引く定率法は帳簿価額に率を掛ける。残存価額は下限として最後に効いてくる
7持分法で、被投資会社の純利益だけを加算して配当を引き忘れる受取配当は投資勘定の回収。持分相当額を投資勘定から減らす
8割引発行の社債で、額面に実効金利を掛ける利息費用は帳簿価額×実効金利。額面×クーポン率は現金で払う利息
9永久差異を一時差異として繰延処理する永久差異は将来解消しないので、DTA/DTLを作らない
10取引価格を履行義務の数で均等に割る配分は独立販売価格の比率による
11後入先出法と減損の戻入について、可否の向きを逆に覚える後入先出法はIFRSで不可。減損の戻入はIFRSで可能でUS GAAPでは不可(のれんを除く)

総合問題は、解く順番を先に決めておく

総合問題は、解く順番を先に決めておく ASTRA Manufacturing の総合ケース ── 単位: 千USD ① 損益計算書 Income Statement営業内と営業外を分ける→ 純利益 500 ② 変動計算書 Changes in Equity純利益を利益剰余金へ→ 期末株主資本 8,000 ③ 貸借対照表 Balance Sheet左右を合わせる→ 総資産 16,500 ④ C/F計算書 Statement of Cash Flows純利益から現金へ→ 期末現金 800 ここで出た純利益を持ち歩く 検算 ── ④の期末現金 800 が ③の現金と一致すれば、①〜④に計算ミスなし合わないときは、差額そのものが手がかり。150なら配当、80なら設備売却益、120なら減価償却費を疑う差額を2で割った数に見覚えがあれば、その項目の符号が逆になっている
図2 総合問題を解く4ステップと、最後の検算

総合問題で手が止まるのは、どこから手をつけるかを毎回その場で考えているからです。順番を固定してしまえば、考えることは各ステップの中身だけになります。

  1. 損益計算書を作って、純利益を出す 多段階の形で、売上総利益・営業利益・税引前利益を経由する。営業内と営業外の線を先に引く
  2. 株主資本等変動計算書で、期末利益剰余金を出す 期首利益剰余金 + 純利益 − 配当。資本取引(新株発行・自己株式・OCI)は利益剰余金の外側で処理する
  3. 貸借対照表を組んで、左右を合わせる 資産=負債+株主資本。合わないときは、ここまでの2ステップのどこかに転記漏れがある
  4. C/F計算書で、期末現金に着地する 純利益から出発し、3区分を通って期末現金へ。貸借対照表の現金と一致すれば全体が閉じる

なぜこの順番なのか

純利益が決まらないと、②も④も始まりません。そして③の貸借対照表は、②の期末株主資本が確定してはじめて左右が合います。④のC/Fを最後に置くのは、検算になるからです。期末現金が貸借対照表の現金と一致したとき、①から④までのどこにも計算ミスがなかったと分かります。

逆に一致しなかったときは、どこを見ればいいかも決まっています。差額の金額そのものが手がかりです。差が配当の金額と同じなら②か④の配当の扱い、差が設備売却益の金額と同じなら④の営業セクションの符号、というふうに当たりをつけられます。

第2部では、ASTRA Manufacturing の1年分の取引を材料に、この4ステップを実際に通します。純利益500から出発して、期末株主資本8,000・総資産16,500・期末現金800まで、一本の線でつながることを手で確かめてください。

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturingほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)