同じ社債を持っているのに、純利益が60ちがう ── 分類が決めているのは「評価差額の行き先」
この回で分かること
- 債券投資の3分類を保有目的で見分け、評価差額が純利益・OCI・どこにも行かないのどれになるかを言える
- 株式投資を持分比率で3手法に振り分け、持分法での投資勘定の動かし方を説明できる
- 無形資産を有限寿命と無限寿命に分け、償却するものと減損テストだけのものを区別できる
投資・無形資産・のれんは、どう測られているか
買った値段も、持っている中身も、入ってくる利息も同じ。それでも決算の直前に「この社債はどの分類にしますか」と聞かれ、その答え方ひとつで今期の純利益が60動きます。動かしたのは経営でも市場でもなく、分類です。
会議室で起きたこと
ASTRA Manufacturing の決算準備。拠点長のケンが、経理チームから受けた質問を持って、CFOのリンのところに来た場面です。
ケン: リンさん、経理チームから「Pacific Logistics の社債は売買目的でいいですか」と聞かれました。分類、ですか? 買ってしまったものは、もう買ったものだと思うのですが。
リン: 買ったあとに決めることがあるの。債券は3つに分ける。売買目的、満期保有、そして中間のAFS(売却可能)。分ける基準は値段でも銘柄でもなくて、その債券をどうするつもりかという保有目的よ。
ケン: つもりで、数字が変わるんですか。
リン: 変わるのは評価差額の行き先。取得原価は1,000、期末の公正価値が1,060。この差の60をどこに置くかが分類ごとに違う。売買目的なら純利益、AFSならOCI、満期保有はそもそも時価に評価し直さない。
ケン: 同じ60が、純利益に入ったり入らなかったりする、と。
リン: そう。利息の40はどの分類でも純利益に入る。動くのは60だけ。ただ、うちの年間の純利益は500の規模でしょう。60は小さくないわ。
ケン: 株はどうなんですか。Carlosさんのところ、Nexus Digital の株を30%持っていますよね。あれも保有目的で決めるんですか。
リン: 株は目的じゃなくて、持分比率で決まる。20%未満なら公正価値法、20〜50%なら持分法、50%超なら連結。30%だから持分法ね。Nexusが今期400稼いだら、その30%の120をこちらの利益に取り込むの。
ケン: 取り込む……。現金でもらっていなくても、ですか。
リン: もらっていなくても。逆に、受け取った配当30のほうは利益にしない。投資勘定を減らすだけ。儲けは相手の損益計算書から、配当は投資の回収 ── この2行だけ覚えておけば、持分法は迷わないわ。
ケン: もうひとつ聞かせてください。資産に特許権と商標権が並んでいるのに、償却されているのは特許権だけでした。入力漏れかと思っていたんですが。
リン: 漏れではないの。無形資産は寿命が有限か無限かで分かれる。特許は10年で切れるから、その10年で償却する。更新し続ける商標は寿命を区切れないから償却しない。代わりに毎期、価値が落ちていないかを確かめる。のれんも同じ扱いよ。
ケン: 償却しないなら、貸借対照表にはずっと同じ金額で残るわけですね。
リン: 残るけれど、減るときは一気に減る。それが減損。今日は3つ持ち帰って。
この場面で出てくる英語
| English | 意味 |
|---|---|
| classification | 分類。ここでは「どの区分で保有するか」の決定 |
| unrealized gain / loss | 未実現の評価損益。まだ売っていない値上がり・値下がり |
| fair value | 公正価値。市場で取引されるであろう価格 |
| amortized cost | 償却原価。満期保有の債券を測る基礎 |
| significant influence | 重要な影響力。持分法を使う根拠になる関係 |
| pick up the earnings | (投資先の)利益を取り込む |
| indefinite life | 無限寿命。使用期間の終わりを見積もれないこと |
| goodwill | のれん。買収価額のうち、個別に識別できない部分 |
今日おさえる3つ
- 債券の3分類 ── 違いは評価差額の行き先だけ(純利益・OCI・認識しない)
- 株式の3手法 ── 持分比率が「誰の利益を、どこまで取り込むか」を決める
- 無形資産とのれん ── 償却するものと、減損テストだけのもの
債券は「どうするつもりか」で3つに分かれる
同じ社債でも、会社がそれをどう扱うつもりかによって、期末の測り方が変わります。分類は3つです。
| 分類 | 保有目的 | 期末の測定 | 評価差額60の行き先 |
|---|---|---|---|
| 売買目的Trading | 短期で売買して値ざやを取る | 公正価値1,060 | 純利益+60 |
| 売却可能AFS: Available-for-Sale | どちらとも決めていない | 公正価値1,060 | OCI+60 |
| 満期保有HTM: Held-to-Maturity | 満期まで持ち切る意思と能力がある | 償却原価1,000 | 認識しない0 |
受取利息40は、どの分類でも純利益に入ります。分類によって動くのは評価差額の60だけです。ここを取り違えると、「満期保有にすると利息まで消える」といった誤解になります。
AFSに置いた60は、消えたわけではない
AFSの評価差額はその他の包括利益(OCI)に入り、貸借対照表の資本の部にその他の包括利益累計額(AOCI)として積み上がります。Day 1 で「純利益 + OCI = 包括利益」と整理した、あのOCIです。
そして債券を実際に売却したときに、それまで資本にたまっていた分が純利益へ振り替えられます。つまりAFSは、利益を消す分類ではなく純利益に載せるタイミングを売却の日まで先送りする分類です。売買目的との違いは、金額ではなく時点にあります。
満期保有は時価を見ない
満期保有に分類すると、期末に公正価値へ評価し直しません。満期まで持ち切るなら、途中の時価は結局実現しないからです。貸借対照表には償却原価が載り続けます。今回のように額面と同じ1,000で買っていれば償却する差がないので、1,000のままです。額面より安く/高く買った場合の償却の計算は、社債を発行する側の論点とあわせて Day 8 で扱います。
なお、満期保有に分類するには「満期まで持ち切る意思と能力」が要る、とされるのが一般的な考え方です。資金繰りの都合で売る可能性があるものを、利益を動かしたくないという理由だけでここに置くことはできません。
株式は「どれだけ持っているか」で3つに分かれる
株式は保有目的ではなく、持分比率で処理が決まります。比率の背後にあるのは、投資先に対してどれだけ口を出せるかという関係です。
| 持分比率 | 関係 | 手法 | 純利益に入るもの |
|---|---|---|---|
| 20%未満 | 影響力なし | 公正価値法Fair Value Method | 受取配当金+公正価値の変動 |
| 20〜50% | 重要な影響力Significant Influence | 持分法Equity Method | 投資先の純利益 × 持分比率 |
| 50%超 | 支配Control | 連結法Consolidation | 投資先の収益・費用を全額合算 |
比率はあくまで目安です。40%持っていても契約で経営に関与できない、逆に15%でも役員を派遣して実質的に影響力がある、といった場合は実態で判断します。
持分法 ── 投資勘定が毎期動く
持分法では、投資勘定(Investment in Nexus Digital)を出発点にして、毎期こう動かします。
| 動き | 計算 | 純利益への影響 |
|---|---|---|
| 取得 | 投資勘定 1,200 を計上 | なし |
| 投資先が利益を出した | + 400 × 30% = 120 | 持分法投資利益として +120 |
| 配当を受け取った | − 100 × 30% = 30 | なし(投資の回収) |
配当を収益にしないのは、利益をすでに120として取り込んでいるからです。ここで配当30も収益にすると、同じ儲けを二重に数えることになります。投資先が損を出した期は、逆に投資勘定が減り、持分法投資損失が立ちます。
連結法 ── 100%足してから、他人の分を戻す
50%を超えて支配していれば、投資先の資産・負債・収益・費用を持分比率ではなく全額合算します。70%しか持っていなくても100%足します。そのうえで、自社のものではない30%分を非支配持分(Non-Controlling Interest)として、資本の部と純利益の帰属先に分けて表示します。
同じNexus Digitalの利益400でも、30%を持分法で持てば投資利益は120、70%を連結すれば売上や費用が丸ごと自社の損益計算書に並び、うち非支配持分に帰属する120を差し引いた280が親会社株主に帰属する利益になります。数字の見え方がまったく変わるため、比率が20%や50%の境界をまたぐ取引は、会計上の意味が大きい取引です。
無形資産 ── 償却するものと、しないもの
無形資産(Intangible Assets)は、特許権・商標権・顧客リスト・ライセンスなど、形のない資産です。貸借対照表に載るのは原則として外部から取得したもので、自社で研究開発して生み出したものは、発生した期の費用として処理するのが一般的な扱いです。ASTRAの技術者が社内で作った改良ノウハウが資産に載らないのは、このためです。
載せたあとの扱いは、寿命が見積もれるかどうかで二手に分かれます。
| 区分 | 例 | 期中の処理 | 価値が落ちたとき |
|---|---|---|---|
| 有限寿命Finite Life | 特許権、ライセンス、顧客リスト | 耐用年数にわたって償却Amortization | 有形固定資産と同じ2段階の減損テスト |
| 無限寿命Indefinite Life | 更新し続ける商標権、のれん | 償却しない | 少なくとも年1回、減損テストを行う |
有限寿命の償却は、Day 6 の減価償却と考え方が同じで、多くの場合は定額法で配分します。呼び名だけが減価償却(depreciation)ではなく償却(amortization)に変わります。
無限寿命のほうは、償却しないぶん、放っておくと取得したときの金額が何年も残ります。そこで毎期、帳簿価額と公正価値を比べ、下回っていれば差額を減損損失として落とします。Day 6 の有形固定資産では割引前キャッシュフローを見る第1段階がありましたが、無限寿命の無形資産では公正価値と直接比べるのが一般的な扱いです。
のれん ── 買収価額のうち、名前を付けられなかった部分
企業を買収すると、支払った金額と、受け入れた資産・負債の公正価値の合計が一致しないことがあります。この差が、のれん(Goodwill)です。
のれん = 取得対価 + 非支配持分の公正価値 − 識別可能純資産の公正価値
顧客との関係、従業員の練度、立地、ブランドの評判 ── 個別に切り出して測れないものが、まとめてここに入ります。だからのれんは単独では売れませんし、自社で育てたのれんを資産に載せることもできません。買収という取引があって初めて表に出てきます。
のれんは償却しません。代わりに、少なくとも年1回、買収した事業(報告単位)の公正価値と帳簿価額を比べて減損の有無を確かめます。帳簿価額が公正価値を上回っていれば、その差額をのれんの減損損失として計上します(損失はのれんの残高が上限です)。切り下げたのれんは、あとで事業が持ち直しても戻しません。この点は Day 6 の減損と同じで、IFRSとの違いは Day 11 でまとめて扱います。
「償却しないから、のれんは利益に影響しない」と考えるのは危険です。影響しない年が何年か続いたあと、ある年に一度に来ます。第2部では、社債・株式・無形資産・のれんを1セットの数字で通して計算します。
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Nexus Digital、Pacific Logistics ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)