さわる管理会計 DAY 3 さわるベトナム のトレーニング教材

株主資本が1,100増えた ── その内訳を、1本ずつ指させますか

全3部 / 前提知識: Day 1〜2(財務諸表の全体像と貸借対照表) / 最終更新 2026-08-22

この回で分かること

  • 株主資本の5つの構成要素(資本金・APIC・利益剰余金・自己株式・AOCI)を区別して指させる
  • 株主資本等変動計算書(SOCIE)を読み、期首から期末までの増減を事由ごとに説明できる
  • 現金配当・株式配当・株式分割・自己株式が、株主資本のどこをどう動かすかを判定できる
PART 1 / 3

株主資本の5つの箱と、変動計算書が見せる通り道

貸借対照表の株主資本の欄には、期末の残高が1つ書いてあるだけです。期首6,900が期末8,000になっていたら、増えた1,100はどこから来たのか。純利益の500しか思い浮かばないなら、残りの600の出どころを、今日の1枚の表で説明できるようになります。

会議室で起きたこと

決算のまとめの時期。東京本社の経理部長・中島から「株主資本の変動明細を送ってほしい」と連絡が入り、拠点長のケンがCFOのリンのところへ相談に来た場面です。

ケン: リンさん、本社の中島部長から「株主資本の変動明細がほしい」と連絡が来ました。貸借対照表の資本の部を見ているんですが、合計8,000という数字が載っているだけで……。

リン: 期首はいくらだったか覚えてる?

ケン: 前期末の表では6,900でした。1,100増えていますね。純利益が500だったから……あれ、600足りません。

リン: そこに気づけたら、今日は半分終わりよ。その1,100の中身を事由ごとに分解して見せる表が、株主資本等変動計算書──SOCIEなの。

ケン: Day 1で名前だけ出てきた表ですね。

リン: そう。今期のASTRAは、新株を発行して900調達した。純利益が500。配当を150宣言した。自己株式を100買い戻した。そしてOCIがマイナス50。足し引きしてみて。

ケン: 900+500−150−100−50で……1,100。ぴったり合いました。

リン: 貸借対照表は期末の残高しか見せない。SOCIEは、期首から期末までの通り道を見せる。役割分担なのよ。

ケン: 自己株式というのは、自社の株を買い戻すことですよね。あれは資産に載るんですか?

リン: いい質問。資産ではなくて、資本のマイナス項目。Contra Equity と呼ぶわ。試験でもよく狙われるところ。

ケン: OCIも初めて意識しました。純利益とは別なんですか?

リン: 損益計算書を通らずに資本へ直接入る損益があるの。それがOCI。純利益とOCIを合わせたものが包括利益。今日はここまで含めて、3つ持ち帰って。

この場面で出てくる英語

Key Words & Expressions
English意味
statement of changes in equity (SOCIE)株主資本等変動計算書。期首から期末までの資本の動きを示す
additional paid-in capital (APIC)資本剰余金。払込額のうち額面を超える部分
par value額面。株式に設定される名目上の金額($1 par など)
treasury stock自己株式。会社が買い戻した自社株
contra-equity account資本のマイナス項目。自己株式が典型例
accumulated OCI (AOCI)その他包括利益累計額。純利益を通らない損益の累計
comprehensive income包括利益。純利益+OCI
declare a dividend配当を宣言する。宣言の時点で利益剰余金が減る

今日おさえる3つ

  1. 株主資本の5つの箱(資本金・APIC・利益剰余金・自己株式・AOCI)
  2. SOCIE ── 期首6,900から期末8,000までの通り道
  3. 株式配当・株式分割・自己株式のルールと、Articulationの完成

株主資本は5つの箱でできている

Day 2では、貸借対照表の資本の部を「資本金」と「利益剰余金」の2行で見ました。実際の資本の部は、次の5つの箱でできています。

株主資本の5構成要素 ── ASTRAの期末残高(単位: 千USD)
構成要素中身期末残高
資本金Common Stock払込額のうち額面(par value)に相当する部分1,000
資本剰余金APIC払込額のうち額面を超える部分2,600
利益剰余金Retained Earnings累積純利益から累積配当を差し引いた残高4,600
自己株式Treasury Stock買い戻した自社株。資本のマイナス項目(100)
その他包括利益累計額AOCI純利益を通らない損益の累計(100)
株主資本合計Total Equity8,000
株主資本は5つの箱でできている ASTRA Manufacturing・期末残高・単位: 千USD 払い込まれた資本(Contributed Capital) 資本金 Common Stock額面 × 発行株数の部分期末 1,000 資本剰余金 APIC額面を超えて払い込まれた部分期末 2,600稼いだ資本・純利益を通らない損益 利益剰余金 Retained Earnings累積純利益 − 累積配当期末 4,600 その他包括利益累計額 AOCI純利益を通らない損益の累計期末 (100)マイナスの箱(Contra Equity) 自己株式 Treasury Stock買い戻した自社株を控除表示期末 (100) 期末株主資本合計 Total Equity 8,0001,000 + 2,600 + 4,600 − 100 − 100 = 8,000 ── マイナスの箱まで足して合計になる
図1 株主資本の5つの箱 ── 期末残高8,000の内訳

資本金とAPIC ── 払い込まれたお金は2つに分かれる

株主が払い込んだお金は、1つの箱には入りません。資本金(Common Stock) に入るのは額面(par value)に相当する部分だけです。額面は法律上の名目金額で、$1 のようにごく小さく設定されるのが一般的です。額面を超えた残りは 資本剰余金(APIC: Additional Paid-In Capital) に入ります。$1 par の株式を $4.50 で発行すれば、1株あたり $1 が資本金、$3.50 がAPICです。投資家が払った金額の大部分は、実はAPIC側に着地します。この配分計算は第2部で実際にやります。

自己株式 ── 資本のマイナス項目(Contra Equity)

自己株式(Treasury Stock) は、会社が市場から買い戻した自社株です。自社の株を持っているのだから資産に見えますが、資産としては計上しません。「株主に払い込んでもらったお金の一部を返した」と考えて、資本から控除します。このように資本の部にありながら残高がマイナスに働く勘定を Contra Equity(資本のマイナス項目) と呼びます。取得した金額(取得原価)がそのままマイナス表示される、というのが基本の形です。

AOCI ── 純利益を通らなかった損益の置き場

純利益を通る道と、通らない道 同じ「損益」でも、株主資本への入り方が2通りある ── 単位: 千USD 損益計算書を通る損益 Through the Income Statement売上・費用・税を経て純利益 500 損益計算書を通らない損益 Other Comprehensive IncomeAFS有価証券の未実現損益・為替換算調整など ── 当期 −50 利益剰余金 Retained Earnings純利益 500 が加算され、配当 150 が減算される その他包括利益累計額 AOCIOCI −50 がそのまま累計に加算 純利益 500 OCI −50純利益 500 + OCI −50 = 包括利益(Comprehensive Income)450どちらも着地は株主資本。損益計算書を通るかどうかが違うだけ
図2 純利益を通る道と通らない道 ── OCIと包括利益

損益の中には、損益計算書を通らずに資本へ直接入るものがあります。売却可能有価証券(AFS)の未実現損益や、外貨換算調整などです。これらを その他の包括利益(OCI) と呼び、その累計額が その他包括利益累計額(AOCI: Accumulated Other Comprehensive Income) として資本の部に置かれます。

そして、純利益とOCIを合わせたものが 包括利益(Comprehensive Income) です。ASTRAの今期なら、純利益 500 + OCI −50 = 包括利益 450。純利益だけを見ていると、AFSの未実現損失50が視界から消えます。企業の経済的な地位が今期どれだけ動いたかを見るなら、包括利益まで見る必要があります。

優先株式 ── もう1つの株式

優先株式(Preferred Stock) は普通株式とは別枠の株式で、配当や残余財産の分配で優先権を持つ代わり、通常は議決権がありません。発行していれば資本金の中で普通株式と区別して表示します。ASTRAは普通株式のみの発行なので今期のSOCIEには出てきませんが、CMA試験では選択肢によく登場します。

SOCIE ── 期首から期末への通り道を見せる表

株主資本等変動計算書(SOCIE: Statement of Changes in Equity) は、5つの箱それぞれについて「期首残高 → 当期の変動 → 期末残高」を示す表です。縦に変動の事由(新株発行・純利益・配当・自己株式・OCI)、横に5つの箱を並べた行列の形をとります。貸借対照表が期末のスナップショットだとすれば、SOCIEはそこへ至る動画です。ASTRAの数字で実際に組み立てるのは第2部でやります。

資本の中で完結する取引 ── 配当・株式配当・株式分割

株主への還元や株式の操作には、似ているのに扱いがまったく違うものが並びます。ここはCMA試験の頻出ポイントです。

株式まわりの取引と株主資本への影響
取引株主資本合計処理
現金配当Cash Dividend減る宣言した時点で利益剰余金を減らす
株式配当・小規模Small Stock Dividend変わらないおおむね発行済株式の20〜25%未満。時価で利益剰余金から資本金・APICへ振り替える
株式配当・大規模Large Stock Dividend変わらないおおむね20〜25%超。額面で利益剰余金から資本金へ振り替える
株式分割Stock Split変わらない額面を比率で下げるだけ。仕訳そのものが不要
自己株式の取得Treasury Stock Purchase減る取得原価で資本から控除。利益剰余金は減らさない

見分けるコツは「会社からお金が出ていくか」です。現金配当と自己株式の取得はお金が出ていくので合計が減ります。株式配当と株式分割は株数の話をしているだけで、お金は動きません。だから株主資本の合計は変わらず、箱の間の振り替え(または額面の書き換え)で終わります。

Articulation ── Day 1 の予告が、ここで完成する

Day 1で「純利益は損益計算書からSOCIEの利益剰余金へ流れる」と予告しました。今日、その通り道が実物で見えます。

Articulation(財務諸表の連結)── SOCIEが真ん中に立つ
接続元項目接続先ASTRAでの例
損益計算書純利益SOCIE純利益 500 が利益剰余金の列に流れ込む
SOCIE各箱の期末残高貸借対照表期末合計 8,000 がBSの資本の部と一致する
損益計算書純利益C/F(間接法)純利益 500 が営業CFの出発点(Day 4で扱う)

SOCIEは、損益計算書と貸借対照表のあいだに立つ「つなぎの表」です。純利益がここを通ってはじめて、貸借対照表の利益剰余金にたどり着きます。1か所でも数字がズレれば、パッケージ全体が合わなくなる──中島部長が変動明細を求めてくるのは、この整合を確かめるためです。

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing)と人物(ケン・リン・中島)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)