さわる管理会計 DAY 3 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

同じ数字で、株主資本等変動計算書を作る

ASTRA Manufacturing の当期のデータを使います。Day 1の損益計算書(純利益 500)とDay 2の貸借対照表(総資産 16,500・株主資本合計 8,000)は、どちらもこの同じ期の抜き書きです。Day 2のBSが期末のスナップショット、今日のSOCIEはそこへ至る期中の動き、という関係になります。

ASTRA Manufacturing — 期首残高と当期の取引
区分内容金額
期首残高
資本金Common Stock額面 $1800
資本剰余金APIC1,900
利益剰余金Retained Earnings4,250
自己株式Treasury Stock保有なし0
その他包括利益累計額AOCI(50)
当期の取引
新株発行200,000株を1株 $4.50 で発行(額面 $1)900
純利益Net IncomeDay 1の損益計算書より500
現金配当の宣言Cash Dividend Declared150
自己株式の取得20,000株を1株 $5 で買い戻し100
OCIOther Comprehensive IncomeAFS有価証券の未実現損失(50)

単位: 千USD

Step 1 ── 期首残高を確かめる

800 + 1,900 + 4,250 + 0 − 50 = 6,900。5つの箱の合計が、前期末の貸借対照表の株主資本合計と一致していることを最初に確かめます。出発点がズレていたら、この先の計算は全部ズレます。

Step 2 ── 新株発行を、額面とAPICに配分する

発行総額は 200,000株 × $4.50 = 900。これを2つの箱に分けます。

払込額900のうち資本金に入るのは200だけで、残り700はAPICです。「発行総額がぜんぶ資本金」と考えてしまうのが典型的なつまずきです。

Step 3 ── 純利益と配当を、利益剰余金に通す

利益剰余金: 4,250 + 純利益 500 − 現金配当 150 = 4,600

配当は「宣言」した時点で利益剰余金を減らします。純利益がここを通ることで、Day 1の損益計算書と貸借対照表がつながります。

Step 4 ── 自己株式の取得を控除する

自己株式: 0 − (20,000株 × $5) = (100)

取得原価100がそのままマイナス表示になります。自己株式の列に書くのであって、利益剰余金は1ドルも減りません

Step 5 ── OCIをAOCIに積む

AOCI: (50) + 当期OCI (50) = (100)

AFSの未実現損失50は損益計算書を通らず、AOCIの列に直接入ります。

SOCIE(完成形)

ASTRA Manufacturing — 株主資本等変動計算書(単位: 千USD)
変動事由資本金APIC利益剰余金自己株式AOCI合計
期首残高Beginning Balance8001,9004,2500(50)6,900
新株発行Share Issuance200700900
純利益Net Income500500
現金配当Cash Dividends(150)(150)
自己株式取得Treasury Stock(100)(100)
その他の包括利益OCI(50)(50)
期末残高Ending Balance1,0002,6004,600(100)(100)8,000
期首6,900から期末8,000への通り道 ASTRA — 株主資本等変動計算書(SOCIE)の要約・単位: 千USD 期首株主資本 6,900 新株発行 +900 純利益 +500 現金配当 −150 自己株式の取得 −100 OCI(未実現損失) −50 期末株主資本 8,0006,900 + 900 + 500 − 150 − 100 − 50 = 8,000赤は資本を減らす行。SOCIEの合計列は、この1本をタテに足すだけで検算できる
図3 期首6,900から期末8,000へ ── SOCIEの合計列

この表は、タテにもヨコにも検算が効きます。ヨコに読めば各事由が「どの箱を通ったか」、タテに読めば各箱の「期首→期末」。合計の列を上から足せば 6,900 + 900 + 500 − 150 − 100 − 50 = 8,000 で、右下の1マスに収束します。

検算 ── Day 2の貸借対照表と突き合わせる

期末合計の 8,000 は、Day 2で見た貸借対照表の株主資本合計と一致します。総資産 16,500 = 負債 8,500 + 株主資本 8,000。SOCIEの右下とBSの資本の部が同じ数字になっていること──これがArticulationの検算です。ここが合わないパッケージは、どこかの表が間違っています。

包括利益 ── 今期、企業の地位はいくら動いたか

純利益の500だけを見ていると、AFSの未実現損失50が見えません。「稼いだ利益のうちどれだけを配当に回したか」も、SOCIEの数字からそのまま計算できます。

つまずきポイント3つ

  1. 自己株式の取得は利益剰余金を減らさない。減るのは株主資本の合計。列を間違えると、期末の利益剰余金が4,500になってしまいます
  2. 配当は宣言の時点で利益剰余金が減る。実際の支払いを待ちません
  3. OCIは損益計算書を通らない。純利益に混ぜると、純利益450・AOCI(50)のままという二重の誤りになります

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
roll forward(残高を)期首から期末へ転がす、更新するSOCIEのような期首→期末の明細を説明するとき
buy back shares自社株を買い戻す自己株式の取得を説明するとき
declare a dividend配当を宣言する配当が利益剰余金を減らすタイミングの話
premium over par額面超過額APICに入る部分を説明するとき
tie to the balance sheet貸借対照表と(数字が)一致する期末残高の検算を報告するとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
資本剰余金Additional Paid-In Capital (APIC)株式の払込額のうち額面を超える部分
額面Par Value株式に設定される名目上の金額。資本金に入るのはこの部分
自己株式Treasury Stock会社が買い戻した自社株。資本のマイナス項目として控除表示
資本のマイナス項目Contra Equity資本の部にありながら残高を減らす方向に働く勘定。自己株式が典型
その他包括利益累計額Accumulated OCI (AOCI)純利益に含まれない資本変動(OCI)の累計額
包括利益Comprehensive Income純利益+その他の包括利益(OCI)
株式配当Stock Dividend現金でなく株式で行う配当。小規模(おおむね20〜25%未満)は時価、大規模は額面で処理
株式分割Stock Split1株を複数株に分けること。額面を比率で下げるだけで仕訳不要
優先株式Preferred Stock配当・残余財産分配で優先権を持ち、通常は議決権のない株式
株主資本等変動計算書Statement of Changes in Equity (SOCIE)株主資本の各項目の期首から期末までの変動を示す財務諸表
連結(財務諸表の)Articulation財務諸表間の数値的なつながり。純利益はSOCIEを通ってBSへ着地する

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing)と人物(ケン・リン・中島)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)