同じ数字で、株主資本等変動計算書を作る
ASTRA Manufacturing の当期のデータを使います。Day 1の損益計算書(純利益 500)とDay 2の貸借対照表(総資産 16,500・株主資本合計 8,000)は、どちらもこの同じ期の抜き書きです。Day 2のBSが期末のスナップショット、今日のSOCIEはそこへ至る期中の動き、という関係になります。
| 区分 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 期首残高 | ||
| 資本金Common Stock | 額面 $1 | 800 |
| 資本剰余金APIC | 1,900 | |
| 利益剰余金Retained Earnings | 4,250 | |
| 自己株式Treasury Stock | 保有なし | 0 |
| その他包括利益累計額AOCI | (50) | |
| 当期の取引 | ||
| 新株発行 | 200,000株を1株 $4.50 で発行(額面 $1) | 900 |
| 純利益Net Income | Day 1の損益計算書より | 500 |
| 現金配当の宣言Cash Dividend Declared | 150 | |
| 自己株式の取得 | 20,000株を1株 $5 で買い戻し | 100 |
| OCIOther Comprehensive Income | AFS有価証券の未実現損失 | (50) |
単位: 千USD
Step 1 ── 期首残高を確かめる
800 + 1,900 + 4,250 + 0 − 50 = 6,900。5つの箱の合計が、前期末の貸借対照表の株主資本合計と一致していることを最初に確かめます。出発点がズレていたら、この先の計算は全部ズレます。
Step 2 ── 新株発行を、額面とAPICに配分する
発行総額は 200,000株 × $4.50 = 900。これを2つの箱に分けます。
- 資本金へ: 200,000株 × 額面 $1 = 200
- APICへ: 200,000株 × ($4.50 − $1) = 700
払込額900のうち資本金に入るのは200だけで、残り700はAPICです。「発行総額がぜんぶ資本金」と考えてしまうのが典型的なつまずきです。
Step 3 ── 純利益と配当を、利益剰余金に通す
利益剰余金: 4,250 + 純利益 500 − 現金配当 150 = 4,600
配当は「宣言」した時点で利益剰余金を減らします。純利益がここを通ることで、Day 1の損益計算書と貸借対照表がつながります。
Step 4 ── 自己株式の取得を控除する
自己株式: 0 − (20,000株 × $5) = (100)
取得原価100がそのままマイナス表示になります。自己株式の列に書くのであって、利益剰余金は1ドルも減りません。
Step 5 ── OCIをAOCIに積む
AOCI: (50) + 当期OCI (50) = (100)
AFSの未実現損失50は損益計算書を通らず、AOCIの列に直接入ります。
SOCIE(完成形)
| 変動事由 | 資本金 | APIC | 利益剰余金 | 自己株式 | AOCI | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 期首残高Beginning Balance | 800 | 1,900 | 4,250 | 0 | (50) | 6,900 |
| 新株発行Share Issuance | 200 | 700 | 900 | |||
| 純利益Net Income | 500 | 500 | ||||
| 現金配当Cash Dividends | (150) | (150) | ||||
| 自己株式取得Treasury Stock | (100) | (100) | ||||
| その他の包括利益OCI | (50) | (50) | ||||
| 期末残高Ending Balance | 1,000 | 2,600 | 4,600 | (100) | (100) | 8,000 |
この表は、タテにもヨコにも検算が効きます。ヨコに読めば各事由が「どの箱を通ったか」、タテに読めば各箱の「期首→期末」。合計の列を上から足せば 6,900 + 900 + 500 − 150 − 100 − 50 = 8,000 で、右下の1マスに収束します。
検算 ── Day 2の貸借対照表と突き合わせる
期末合計の 8,000 は、Day 2で見た貸借対照表の株主資本合計と一致します。総資産 16,500 = 負債 8,500 + 株主資本 8,000。SOCIEの右下とBSの資本の部が同じ数字になっていること──これがArticulationの検算です。ここが合わないパッケージは、どこかの表が間違っています。
包括利益 ── 今期、企業の地位はいくら動いたか
- 包括利益 = 純利益 500 + OCI (50) = 450
- 配当性向 = 配当 150 ÷ 純利益 500 = 30%
純利益の500だけを見ていると、AFSの未実現損失50が見えません。「稼いだ利益のうちどれだけを配当に回したか」も、SOCIEの数字からそのまま計算できます。
つまずきポイント3つ
- 自己株式の取得は利益剰余金を減らさない。減るのは株主資本の合計。列を間違えると、期末の利益剰余金が4,500になってしまいます
- 配当は宣言の時点で利益剰余金が減る。実際の支払いを待ちません
- OCIは損益計算書を通らない。純利益に混ぜると、純利益450・AOCI(50)のままという二重の誤りになります
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| roll forward | (残高を)期首から期末へ転がす、更新する | SOCIEのような期首→期末の明細を説明するとき |
| buy back shares | 自社株を買い戻す | 自己株式の取得を説明するとき |
| declare a dividend | 配当を宣言する | 配当が利益剰余金を減らすタイミングの話 |
| premium over par | 額面超過額 | APICに入る部分を説明するとき |
| tie to the balance sheet | 貸借対照表と(数字が)一致する | 期末残高の検算を報告するとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| 資本剰余金 | Additional Paid-In Capital (APIC) | 株式の払込額のうち額面を超える部分 |
| 額面 | Par Value | 株式に設定される名目上の金額。資本金に入るのはこの部分 |
| 自己株式 | Treasury Stock | 会社が買い戻した自社株。資本のマイナス項目として控除表示 |
| 資本のマイナス項目 | Contra Equity | 資本の部にありながら残高を減らす方向に働く勘定。自己株式が典型 |
| その他包括利益累計額 | Accumulated OCI (AOCI) | 純利益に含まれない資本変動(OCI)の累計額 |
| 包括利益 | Comprehensive Income | 純利益+その他の包括利益(OCI) |
| 株式配当 | Stock Dividend | 現金でなく株式で行う配当。小規模(おおむね20〜25%未満)は時価、大規模は額面で処理 |
| 株式分割 | Stock Split | 1株を複数株に分けること。額面を比率で下げるだけで仕訳不要 |
| 優先株式 | Preferred Stock | 配当・残余財産分配で優先権を持ち、通常は議決権のない株式 |
| 株主資本等変動計算書 | Statement of Changes in Equity (SOCIE) | 株主資本の各項目の期首から期末までの変動を示す財務諸表 |
| 連結(財務諸表の) | Articulation | 財務諸表間の数値的なつながり。純利益はSOCIEを通ってBSへ着地する |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing)と人物(ケン・リン・中島)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)