さわる管理会計 DAY 10 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

同じ契約で、配分から契約負債の残高まで通す

ASTRA Manufacturing と Horizon Trading の契約1本を、5ステップの順に通します。今日のデータはこの1セットだけです。以降のすべての計算がこの表から出発します。

今日のマスターデータ(ASTRA × Horizon Trading)
項目数値・条件
契約日 / 契約総額2026年7月20日 / 1,000
入金2026年10月に全額 1,000 を受領
加工機 SL-2 本体 独立販売価格900
据付・立上げサービス 独立販売価格150
2年保守サービス(24か月) 独立販売価格200
本体の引渡し・検収2026年9月末に完了
据付・立上げ 見積総原価 / 12月末までの発生原価100 / 60
保守サービスの期間2026年10月1日から24か月
決算日2026年12月31日

単位: 千USD(期間・日付を除く)

Step 1 契約の識別

署名済みの契約書が1本あり、双方の権利と支払条件が定まっていて、経済的な実質もあり、対価の回収可能性にも懸念がありません。会計上の契約として扱います。ここは判断が割れる場面が少ないので、確認だけして先へ進みます。

Step 2 履行義務の識別 ── 3つに分ける

契約書に書かれている約束を数えます。

この契約の履行義務
約束単独でも顧客の役に立つか他と区別できるか結論
加工機 SL-2 本体の引渡し据付を他社に頼んでも使える据付・保守と一体の成果物ではない履行義務①
据付・立上げサービスすでに保有する機械にも同じ作業を提供できる本体と切り離して考えられる履行義務②
2年間の保守サービス本体とは別に保守だけ契約する顧客がいる引渡しとは別の期間にわたる約束履行義務③

履行義務は3つです。ここで「加工機の販売1本」と数えてしまうと、以降の配分もタイミングも組み立てられません。

Step 3 取引価格の決定 ── 1,000

契約は固定額1,000で、出来高ボーナスも遅延ペナルティも返品条項もありません。支払は契約から3か月後の一括前払いで、金融要素として調整するほど長い繰延べでもありません。取引価格は1,000です。

Step 4 取引価格の配分 ── 720 / 120 / 160

取引価格 1,000 を、3つの履行義務に配る 独立販売価格(SSP)の比で比例配分する ── 単位: 千USD 履行義務 充足のしかた 独立販売価格 比率 配分額 配分額の大きさ 加工機 SL-2 本体 一時点で充足 900 72.0% 720 据付・立上げ 経時(インプット法) 150 12.0% 120 2年保守(24か月) 経時(期間で比例) 200 16.0% 160 合計 1,250 100% 1,000 = 契約書の金額に戻る1,000 ÷ 1,250 = 0.80 この1つの率を3行すべてに掛ける。値引き 250 は、どれか1つに押しつけない配分額の合計が取引価格 1,000 に戻るかどうかが、この計算の検算になる
図2 取引価格の配分 ── 独立販売価格の比で3つに配る

独立販売価格を足し、取引価格との比を出し、その比を全部に掛けます。

  1. 独立販売価格の合計 900 + 150 + 200 = 1,250
  2. 配分率 取引価格 1,000 ÷ SSP合計 1,250 = 0.80
  3. 本体 900 × 0.80 = 720
  4. 据付 150 × 0.80 = 120
  5. 保守 200 × 0.80 = 160
  6. 検算 720 + 120 + 160 = 1,000 取引価格に戻る

SSP合計1,250と取引価格1,000の差250が、この契約に含まれている値引きです。配分率0.80を3行すべてに掛けることで、値引き250が 180 / 30 / 40 と比例配分されています。

つまずきポイント ── 値引きをどこかに押しつける

いちばん多い誤りが、値引き250を本体だけに当てて「本体650、据付150、保守200」とするやり方です。合計は1,000になるので、配分額の検算はすり抜けてしまいます。ずれが出るのは当期の収益のほうです。本体は当期に全額が収益になるので720から650へ70減り、据付と保守は当期に一部しか収益にならないので合わせて23しか増えません。当期の収益は812ではなく765になり、差の47はそのまま翌期以降へ回ります。値引きが特定の履行義務だけに関係することを裏づけられる場合を除いて、比例配分が原則です。

Step 5 収益の認識 ── 3つを別々のものさしで測る

履行義務ごとの認識のしかた
履行義務配分額当期の充足度
① 本体Machine720一時点Point in Time9月末に検収完了 = 100%
② 据付Installation120経時・インプット法Input Method発生原価 60 ÷ 見積総原価 100 = 60%
③ 保守Service160経時・期間で比例24か月のうち 3か月 = 3/24
  1. 本体 支配が9月末に移っているので、配分額の全額 720
  2. 据付 120 × 60% = 72
  3. 保守 160 × 3 ÷ 24 = 20
  4. 当期の収益 合計 720 + 72 + 20 = 812

つまずきポイント ── 進捗率の分母を取り違える

インプット法の進捗率は「発生原価 ÷ 見積総原価」です。分母は据付の見積総原価100であって、契約総額1,000でも据付の配分額120でもありません。60 ÷ 1,000 = 6% としてしまうと、据付の当期収益は7.2になります。測っているのは契約全体の進み具合ではなく、その履行義務ひとつの進み具合です。

つまずきポイント ── 保守を「年」で割る

2年契約だからと 160 ÷ 2 = 80 とするのも典型的な誤りです。保守が始まったのは10月1日で、当期に提供したのは3か月ぶんです。年で割ると当期の収益が60大きく出ます。分母と分子は同じ単位(月なら月)にそろえてください。

契約負債の期末残高 ── 188

入金済みの1,000のうち、当期に収益にできたのは812。残りは負債として貸借対照表に残ります。

契約負債 = 受領額 1,000 − 当期の収益 812 = 188

引き算で出したこの188を、未充足分の積み上げで検算します。

契約負債 188 の内訳(検算)
履行義務配分額当期の収益未充足の残り
① 本体7207200
② 据付1207248
③ 保守16020140
合計1,000812188

2つの経路で188に着きました。引き算でも積み上げでも同じ数字になることが、配分と充足度の計算が通っている証拠になります。

なお188のうち、翌期(2027年)に充足する見込みの部分は流動負債、2028年に食い込む保守の残りは非流動負債に並びます。Day 2 で見た流動・非流動の区分は、こういう場面で効いてきます。

つまずきポイント ── 契約負債を「本体以外の全部」と考える

1,000 − 720 = 280 として、本体以外をまるごと契約負債にしてしまう誤りです。据付と保守も、当期に果たした分(72と20)はすでに収益になっています。契約負債に残るのはまだ果たしていない分だけで、履行義務の単位ではなく充足度の単位で切ります。

帳簿の動き(イメージ)

金額の流れを仕訳の形で確認します。

2026年12月期の記録(単位: 千USD)
時点借方金額貸方金額
10月 入金時現金Cash1,000契約負債Contract Liability1,000
期末 充足分の振替契約負債812売上高Revenue812
期末 据付原価の対応据付原価Cost of Installation60現金・未払費用60

入金の瞬間には収益が1つも立たず、いったん全額が負債になる ── ここがこの回のいちばんの見どころです。損益計算書に812が現れるのは決算整理の側であって、現金が動いた側ではありません。

マッチング原則 ── 据付の粗利で確かめる

据付の収益72に対して、当期の据付原価は60です。この2つが同じ期に並ぶことで、据付の当期の粗利12が見えます。

据付・立上げサービスの採算(単位: 千USD)
項目当期契約全体(完了時)
収益72120
原価60100
粗利1220

進捗60%で収益も原価も6割ずつ計上されるため、粗利率は当期も全体も 16.7% で一致します。もし収益だけを工事完了時に一括計上して原価を当期に落としてしまうと、当期は60の赤、翌期は120の黒 ── 実態と関係のない山ができます。収益の認識時期を決めることが、そのまま費用の認識時期を決めているという第1部の話が、この表に出ています。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
bundled contract複数の要素をまとめた契約1本の契約に機械とサービスが入っていることを説明するとき
unbundle要素ごとに分解する履行義務を識別する手順を説明するとき
allocate on a relative SSP basis独立販売価格の比で配分するステップ4の処理を説明するとき
percentage of completion進捗率、工事進行の度合い経時的認識の進み具合を報告するとき
defer revenue収益を繰り延べる入金分を契約負債に載せる理由を説明するとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
収益認識Revenue Recognition収益をいつ・いくら計上するかを決める会計処理
5ステップモデルFive-Step Model契約の識別・履行義務の識別・取引価格の決定・取引価格の配分・収益の認識という判断の順番
履行義務Performance Obligation顧客に対する別個の財・サービスの約束1つぶん
取引価格Transaction Price約束を果たす見返りに受け取ると見込む対価
独立販売価格Standalone Selling Price (SSP)その財・サービスを単独で販売する場合の価格。配分の基準
一時点での認識Recognition at a Point in Time支配が移った時点で収益の全額を認識する型
経時的認識Recognition over Time履行が進むにつれて収益を按分して認識する型
インプット法Input Method投入した資源(発生原価・労働時間など)で進捗を測る方法。コスト比例法が代表
アウトプット法Output Method引き渡した成果(単位数・マイルストーン・経過期間)で進捗を測る方法
契約負債Contract Liability対価を受け取ったが、まだ充足していない履行義務に対応する負債
前受収益Deferred / Unearned Revenue契約負債の別の呼び方。受け取り済みで未稼得の収益
契約資産Contract Asset履行は済んだが、対価の請求権がまだ無条件になっていない場合の資産
マッチング原則Matching Principle収益に対応する費用を、その収益と同じ期に計上する考え方

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Horizon Trading ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)