さわる管理会計 DAY 6 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

同じ数字で、3つの償却スケジュールを作る

ASTRA Manufacturing の設備Aを、取得から売却まで数字で通します。今日のデータはこの1セットだけです。すべての計算がこの表から出発します。

今日のマスターデータ
項目数値
設備A 本体価格1,100
設備A 据付・試運転費100
設備A 残存価額200
設備A 耐用年数5年
設備A 想定総生産量(1年目の実績)100,000個(25,000個)
3年経過時(定額法) 将来の割引前CF合計550
3年経過時(定額法) 公正価値480
設備B 帳簿価額 / 売却額300 / 350

単位: 千USD(年数・個数を除く)

Step 1 取得原価と償却対象額

取得原価は、本体価格に「使える状態にするまで」の支出を足して確定します。

  1. 取得原価 本体 1,100 + 据付・試運転費 100 = 1,200
  2. 償却対象額 取得原価 1,200 − 残存価額 200 = 1,000

この1,000が、方法を問わず5年間で費用にする総額です。以降のすべての方法で、合計がここへ戻ってくることが検算になります。

Step 2 定額法 ── 毎年200

年間償却費 = 償却対象額 ÷ 耐用年数 = 1,000 ÷ 5 = 200

毎年200ずつ、5年で1,000。帳簿価額は 1,200 → 1,000 → 800 → 600 → 400 → 200 と一直線に下がり、最後は残存価額に着地します。

つまずきポイント ── 何から割るか

1,200 ÷ 5 = 240 としてしまうのが典型的なミスです。定額法で割るのは取得原価ではなく償却対象額(残存価額を引いた後)。「残存価額を引いてから割る」を手順として固定してください。

Step 3 定率法(DDB)── 簿価に40%を掛け続ける

  1.  2 ÷ 耐用年数 = 2 ÷ 5 = 40%
  2. 1年目 取得原価 1,200 × 40% = 480
  3. 2年目 (1,200 − 480) × 40% = 720 × 40% = 288
  4. 3年目 (720 − 288) × 40% = 432 × 40% = 172.8
  5. 4年目 432 − 172.8 = 259.2 に40%を掛けると103.68。しかし簿価が残存価額200を下回ってしまうため、259.2 − 200 = 59.2 で打ち止め
  6. 5年目 すでに残存価額に到達しているので 0

つまずきポイント ── 残存価額の扱いが2段構え

DDBは残存価額の扱いが2段構えです。率を掛けるときは無視する(1年目は償却対象額1,000ではなく取得原価1,200に40%を掛ける)。しかし簿価は残存価額を下回らせない(後年、下回りそうになったら手前で止める)。1年目を 1,000 × 40% = 400 とするのは、定額法・SYDの「償却対象額ベース」とDDBの「簿価ベース」を混ぜたミスです。

Step 4 級数法(SYD)と生産高比例法

級数法は、年数の合計を分母に、残り年数を分子にします。

  1. 分母 1+2+3+4+5 = 15
  2. 1年目 償却対象額 1,000 × 5/15 = 333
  3. 2年目 1,000 × 4/15 = 267
  4. 5年目 1,000 × 1/15 = 67(分子が毎年1つずつ減り、なだらかに細る)

生産高比例法は、使った分だけを費用にします。

1年目 = 償却対象額 1,000 × 当期生産 25,000個 ÷ 想定総生産 100,000個 = 250

掛けるのはどちらも償却対象額(1,000)です。取得原価1,200に掛けるのはDDBだけ、と整理しておくと混ざりません。

3つのスケジュールを並べる

同じ設備の「1年目」を4つの方法で並べる 設備A: 取得原価1,200・残存価額200・耐用年数5年 ── 単位: 千USD 定額法 200 生産高比例法(25,000個) 250 級数法 SYD 333 定率法 DDB 480 5年間の合計 どの方法も 1,000合計は同じ。違うのは配り方 ──手前に厚くするか、均等にするか、使った分だけにするか
図2 4つの減価償却法 ── 同じ設備の1年目でこれだけ違う
年別の減価償却費 ── 3法比較(単位: 千USD)
定額法定率法 DDB級数法 SYD
1年目200480333
2年目200288267
3年目200172.8200
4年目20059.2 ※133
5年目200067
合計1,0001,0001,000

※ DDBの4年目は、簿価が残存価額200を下回らない位置(259.2 − 200 = 59.2)で打ち止めた調整後の金額。SYDは端数を四捨五入して表示しています。

年末の帳簿価額(単位: 千USD)
時点定額法定率法 DDB級数法 SYD
取得時1,2001,2001,200
1年目末1,000720867
2年目末800432600
3年目末600259.2400
4年目末400200267
5年目末200200200

縦に見ると各法の個性が、横に見ると同じ年でも簿価がまるで違うことが分かります。それでも最終行はどの方法も残存価額200に揃う ── 減価償却は「配り方」の違いにすぎない、という第1部の話がこの2つの表に凝縮されています。

1年目だけを切り取ると、定額法200に対してDDBは480。税金を考えない前提なら、DDBを選んだ会社の1年目の税引前利益は、定額法の会社より280小さく見えます。

Step 5 減損テスト ── 3年たって受注が減ったら

ここからは定額法を採用していたと仮定します。3年目末の帳簿価額は、上の表のとおり600です。ここで設備Aが作る製品の受注が落ち、見積り直した将来の割引前CF合計が550、公正価値が480になったとします。

  1. 第1段階 回収可能性 割引前CF合計 550 < 帳簿価額 600 → 不合格。第2段階へ
  2. 第2段階 測定 減損損失 = 帳簿価額 600 − 公正価値 480 = 120
  3. 切り下げ後 新しい帳簿価額は 480。以後はこれを基礎に、残りの耐用年数2年で償却をやり直す(残存価額200が変わらないなら、(480 − 200) ÷ 2 = 年140)

つまずきポイント ── どの差を損失にするか

数字が3つ(600・550・480)並ぶので、引き算の相手を取り違えやすい問題です。600 − 550 = 50 は第1段階の「不合格かどうか」を見ただけの差で、損失額ではありません。550 − 480 = 70 は比較する組み合わせ自体が誤りです。損失になるのは簿価と公正価値の差、600 − 480 = 120。第1段階は合否判定だけ、金額の測定は第2段階、と役割を分けて覚えてください。

Step 6 売却損益 ── 設備Bを手放す

売却損益 = 売却額 350 − 帳簿価額 300 = +50(売却益)

プラスなら売却益、マイナスなら売却損です。比較相手は取得原価ではなく帳簿価額。売却益50は損益計算書のその他の収益に区分され、営業利益には入りません。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
capitalize or expense資産計上するか費用処理するか支出の会計処理を判断・議論するとき
front-load前倒しで厚く計上する加速償却の効果を説明するとき
write down簿価を切り下げる減損処理を報告するとき
proceeds売却収入・手取額売却損益(proceeds − book value)を計算するとき
remaining useful life残存耐用年数減損後の償却のやり直しを説明するとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
有形固定資産PP&E (Property, Plant & Equipment)1年を超えて事業のために使う有形の資産
取得原価Historical Cost購入価格+使える状態にするまでの付随費用
減価償却Depreciation取得原価を耐用年数にわたって費用配分する手続き
定額法Straight-Line償却対象額を耐用年数で均等に配分する方法
定率法Double-Declining Balance (DDB)定額法の2倍の率を毎年の帳簿価額に掛ける加速償却法
級数法Sum-of-Years-Digits (SYD)年数の合計を分母、残り年数を分子にして配分する加速償却法
生産高比例法Units of Production実際の生産量・使用量に比例して償却する方法
残存価額Salvage Value耐用年数が終わった時点で見込まれる処分価値
耐用年数Useful Life資産を経済的に使用できると見積もる期間
償却対象額Depreciable Base取得原価 − 残存価額。償却で費用にする総額
減価償却累計額Accumulated Depreciationこれまでの償却費の累計。資産から控除する評価勘定(contra asset)
帳簿価額Book Value / Carrying Value取得原価 − 減価償却累計額
減損Impairment回収できない帳簿価額を切り下げる手続き。US GAAPは2段階テスト
売却損益Gain/Loss on Disposal売却額と帳簿価額の差額。その他の収益・費用に表示

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Stellar Automotive ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)