同じ数字で、3つの償却スケジュールを作る
ASTRA Manufacturing の設備Aを、取得から売却まで数字で通します。今日のデータはこの1セットだけです。すべての計算がこの表から出発します。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 設備A 本体価格 | 1,100 |
| 設備A 据付・試運転費 | 100 |
| 設備A 残存価額 | 200 |
| 設備A 耐用年数 | 5年 |
| 設備A 想定総生産量(1年目の実績) | 100,000個(25,000個) |
| 3年経過時(定額法) 将来の割引前CF合計 | 550 |
| 3年経過時(定額法) 公正価値 | 480 |
| 設備B 帳簿価額 / 売却額 | 300 / 350 |
単位: 千USD(年数・個数を除く)
Step 1 取得原価と償却対象額
取得原価は、本体価格に「使える状態にするまで」の支出を足して確定します。
- 取得原価 本体 1,100 + 据付・試運転費 100 = 1,200
- 償却対象額 取得原価 1,200 − 残存価額 200 = 1,000
この1,000が、方法を問わず5年間で費用にする総額です。以降のすべての方法で、合計がここへ戻ってくることが検算になります。
Step 2 定額法 ── 毎年200
年間償却費 = 償却対象額 ÷ 耐用年数 = 1,000 ÷ 5 = 200
毎年200ずつ、5年で1,000。帳簿価額は 1,200 → 1,000 → 800 → 600 → 400 → 200 と一直線に下がり、最後は残存価額に着地します。
つまずきポイント ── 何から割るか
1,200 ÷ 5 = 240 としてしまうのが典型的なミスです。定額法で割るのは取得原価ではなく償却対象額(残存価額を引いた後)。「残存価額を引いてから割る」を手順として固定してください。
Step 3 定率法(DDB)── 簿価に40%を掛け続ける
- 率 2 ÷ 耐用年数 = 2 ÷ 5 = 40%
- 1年目 取得原価 1,200 × 40% = 480
- 2年目 (1,200 − 480) × 40% = 720 × 40% = 288
- 3年目 (720 − 288) × 40% = 432 × 40% = 172.8
- 4年目 432 − 172.8 = 259.2 に40%を掛けると103.68。しかし簿価が残存価額200を下回ってしまうため、259.2 − 200 = 59.2 で打ち止め
- 5年目 すでに残存価額に到達しているので 0
つまずきポイント ── 残存価額の扱いが2段構え
DDBは残存価額の扱いが2段構えです。率を掛けるときは無視する(1年目は償却対象額1,000ではなく取得原価1,200に40%を掛ける)。しかし簿価は残存価額を下回らせない(後年、下回りそうになったら手前で止める)。1年目を 1,000 × 40% = 400 とするのは、定額法・SYDの「償却対象額ベース」とDDBの「簿価ベース」を混ぜたミスです。
Step 4 級数法(SYD)と生産高比例法
級数法は、年数の合計を分母に、残り年数を分子にします。
- 分母 1+2+3+4+5 = 15
- 1年目 償却対象額 1,000 × 5/15 = 333
- 2年目 1,000 × 4/15 = 267
- 5年目 1,000 × 1/15 = 67(分子が毎年1つずつ減り、なだらかに細る)
生産高比例法は、使った分だけを費用にします。
1年目 = 償却対象額 1,000 × 当期生産 25,000個 ÷ 想定総生産 100,000個 = 250
掛けるのはどちらも償却対象額(1,000)です。取得原価1,200に掛けるのはDDBだけ、と整理しておくと混ざりません。
3つのスケジュールを並べる
| 年 | 定額法 | 定率法 DDB | 級数法 SYD |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 200 | 480 | 333 |
| 2年目 | 200 | 288 | 267 |
| 3年目 | 200 | 172.8 | 200 |
| 4年目 | 200 | 59.2 ※ | 133 |
| 5年目 | 200 | 0 | 67 |
| 合計 | 1,000 | 1,000 | 1,000 |
※ DDBの4年目は、簿価が残存価額200を下回らない位置(259.2 − 200 = 59.2)で打ち止めた調整後の金額。SYDは端数を四捨五入して表示しています。
| 時点 | 定額法 | 定率法 DDB | 級数法 SYD |
|---|---|---|---|
| 取得時 | 1,200 | 1,200 | 1,200 |
| 1年目末 | 1,000 | 720 | 867 |
| 2年目末 | 800 | 432 | 600 |
| 3年目末 | 600 | 259.2 | 400 |
| 4年目末 | 400 | 200 | 267 |
| 5年目末 | 200 | 200 | 200 |
縦に見ると各法の個性が、横に見ると同じ年でも簿価がまるで違うことが分かります。それでも最終行はどの方法も残存価額200に揃う ── 減価償却は「配り方」の違いにすぎない、という第1部の話がこの2つの表に凝縮されています。
1年目だけを切り取ると、定額法200に対してDDBは480。税金を考えない前提なら、DDBを選んだ会社の1年目の税引前利益は、定額法の会社より280小さく見えます。
Step 5 減損テスト ── 3年たって受注が減ったら
ここからは定額法を採用していたと仮定します。3年目末の帳簿価額は、上の表のとおり600です。ここで設備Aが作る製品の受注が落ち、見積り直した将来の割引前CF合計が550、公正価値が480になったとします。
- 第1段階 回収可能性 割引前CF合計 550 < 帳簿価額 600 → 不合格。第2段階へ
- 第2段階 測定 減損損失 = 帳簿価額 600 − 公正価値 480 = 120
- 切り下げ後 新しい帳簿価額は 480。以後はこれを基礎に、残りの耐用年数2年で償却をやり直す(残存価額200が変わらないなら、(480 − 200) ÷ 2 = 年140)
つまずきポイント ── どの差を損失にするか
数字が3つ(600・550・480)並ぶので、引き算の相手を取り違えやすい問題です。600 − 550 = 50 は第1段階の「不合格かどうか」を見ただけの差で、損失額ではありません。550 − 480 = 70 は比較する組み合わせ自体が誤りです。損失になるのは簿価と公正価値の差、600 − 480 = 120。第1段階は合否判定だけ、金額の測定は第2段階、と役割を分けて覚えてください。
Step 6 売却損益 ── 設備Bを手放す
売却損益 = 売却額 350 − 帳簿価額 300 = +50(売却益)
プラスなら売却益、マイナスなら売却損です。比較相手は取得原価ではなく帳簿価額。売却益50は損益計算書のその他の収益に区分され、営業利益には入りません。
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| capitalize or expense | 資産計上するか費用処理するか | 支出の会計処理を判断・議論するとき |
| front-load | 前倒しで厚く計上する | 加速償却の効果を説明するとき |
| write down | 簿価を切り下げる | 減損処理を報告するとき |
| proceeds | 売却収入・手取額 | 売却損益(proceeds − book value)を計算するとき |
| remaining useful life | 残存耐用年数 | 減損後の償却のやり直しを説明するとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| 有形固定資産 | PP&E (Property, Plant & Equipment) | 1年を超えて事業のために使う有形の資産 |
| 取得原価 | Historical Cost | 購入価格+使える状態にするまでの付随費用 |
| 減価償却 | Depreciation | 取得原価を耐用年数にわたって費用配分する手続き |
| 定額法 | Straight-Line | 償却対象額を耐用年数で均等に配分する方法 |
| 定率法 | Double-Declining Balance (DDB) | 定額法の2倍の率を毎年の帳簿価額に掛ける加速償却法 |
| 級数法 | Sum-of-Years-Digits (SYD) | 年数の合計を分母、残り年数を分子にして配分する加速償却法 |
| 生産高比例法 | Units of Production | 実際の生産量・使用量に比例して償却する方法 |
| 残存価額 | Salvage Value | 耐用年数が終わった時点で見込まれる処分価値 |
| 耐用年数 | Useful Life | 資産を経済的に使用できると見積もる期間 |
| 償却対象額 | Depreciable Base | 取得原価 − 残存価額。償却で費用にする総額 |
| 減価償却累計額 | Accumulated Depreciation | これまでの償却費の累計。資産から控除する評価勘定(contra asset) |
| 帳簿価額 | Book Value / Carrying Value | 取得原価 − 減価償却累計額 |
| 減損 | Impairment | 回収できない帳簿価額を切り下げる手続き。US GAAPは2段階テスト |
| 売却損益 | Gain/Loss on Disposal | 売却額と帳簿価額の差額。その他の収益・費用に表示 |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Stellar Automotive ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)