設備に1,200払ったのに、費用は年200だけ ── 減価償却は「利益の見え方」を決めている
この回で分かること
- 設備に関する支出を、「使える状態にするまで」を境に資産計上と費用処理に振り分けられる
- 4つの減価償却法の計算のしくみを説明し、方法の選択が1年目の利益をいくら変えるかを数字で言える
- 減損の2段階テストを順番どおりにたどり、売却損益を帳簿価額との差で計算できる
固定資産はどう費用になり、いつ切り下げられるか
設備を買った期に、利益はほとんど減りません。減るのはその後の5年間、使っていない月も含めて毎期少しずつです。しかも「毎期いくら減るか」は、会社が選ぶ計算方法で変わります。同じ機械を同じように使っても、です。
会議室で起きたこと
ASTRA Manufacturing の会議室。来年度の利益計画を前に、拠点長のケンが製造設備の費用について、CFOのリンに聞いている場面です。
ケン: リンさん、設備Aの支払いは1,200千USDでしたよね。なのに利益計画の表では、設備の費用が年に200しか入っていません。残りの1,000は、どこに行ったんですか?
リン: どこにも行っていないわ。貸借対照表に、資産として載っている。設備は買った期の費用にはしないで、まず資産計上する。これを capitalize と言うの。
ケン: 費用にならない、ということですか?
リン: 「まだ」ならない、が正確ね。5年使う設備なら、5年かけて少しずつ損益計算書へ流していく。それが減価償却(depreciation)。年200というのは、その1年分よ。
ケン: その200なんですが、経理チームから「償却方法はどうしますか」と聞かれて、答えられませんでした。方法によって数字が変わるんですか?
リン: 変わるわ。代表的な方法だけで4つある。定額法、定率法(DDB)、級数法(SYD)、生産高比例法。どれを選んでも5年間の合計は同じ。違うのは、各年への配り方。
ケン: 合計が同じなら、正直どれでもいい気がしますが……。
リン: 設備Aで比べると、1年目の償却費は定額法で200、DDBだと480。差は280。同じ機械を同じように使っても、方法の選択だけで1年目の利益が280違って見えるの。
ケン: 280……。うちの月次レビューなら大騒ぎになる差ですね。
リン: そう。だから償却方法は計算のテクニックではなくて、利益の見え方を決める選択なの。それと、もうひとつ知っておいてほしいことがある。私の元同僚のPriyaがいる Stellar Automotive という自動車部品の会社は、主力ラインの受注が急に細って、去年、設備の帳簿価額を切り下げたわ。減損(impairment)という手続き。
ケン: 帳簿の値段を、下げるんですか。
リン: 使い続けても投資額を回収できないと分かった資産を、元の金額のまま貸借対照表に置いてはおけないから。今日は取得から、償却、減損、売却まで、設備の一生を通しでやりましょう。持ち帰るのは3つ。
この場面で出てくる英語
| English | 意味 |
|---|---|
| capitalize | 資産計上する。費用にせず、いったん貸借対照表に載せる |
| depreciation | 減価償却。取得原価を耐用年数にわたって費用配分すること |
| straight-line | 定額法。毎年同額ずつ償却する |
| double-declining balance (DDB) | 定率法。定額法の2倍の率を帳簿価額に掛ける |
| book value / carrying value | 帳簿価額。取得原価から減価償却累計額を引いた残り |
| impairment | 減損。回収できない帳簿価額を切り下げること |
| write down | (簿価を)切り下げる |
| disposal | (固定資産の)処分・売却 |
今日おさえる3つ
- 取得原価に何を含めるか ── 資産計上と費用処理の線引き
- 4つの減価償却法 ── 合計は同じでも、方法の選択が各年の利益を変える
- 減損の2段階テストと売却損益 ── 設備の「終わり方」の会計
買った瞬間は、費用ではなく資産 ── 取得原価
有形固定資産(PP&E: Property, Plant & Equipment)は、土地・建物・機械装置・備品など、1年を超えて事業のために使う有形の資産です。Day 2 の貸借対照表では非流動資産に並んでいました。金額が大きく、長い年数をかけて費用になっていくため、「最初にいくらで載せるか」のルールがその後ずっと利益に効いてきます。
最初に載せる金額が取得原価(Historical Cost)です。購入価格だけではありません。資産を「意図した使用に供する状態」にするまでにかかった支出を全部含めます。設備Aなら、本体価格1,100に据付・試運転費100を足した1,200が取得原価です。
一方、使い始めたあとの通常修繕費・年次保険料・定期点検料は、発生した期の費用として処理します。「設備に関する支出はぜんぶ資産」ではなく、線引きは使える状態にするまでか、使い続けるためかです。ここを誤って費用を資産に積むと、その期の利益は良く見えますが、積んだ分は減価償却を通じて後年の利益を圧迫します。
償却の計算には、あと2つの見積りが要ります。残存価額(Salvage Value)は耐用年数が終わった時点で見込まれる処分価値、耐用年数(Useful Life)は経済的に使えると見積もる期間です。設備Aは残存価額200、耐用年数5年。取得原価から残存価額を引いた1,000が、5年間で費用にしていく総額 ── 償却対象額(Depreciable Base)になります。どちらも見積りなので、あとから見直しが入ることがあります。
4つの減価償却法 ── 合計は同じ、配り方が違う
減価償却(Depreciation)は、取得原価を耐用年数にわたって各年に配分する手続きです。配分した費用の累計が減価償却累計額(Accumulated Depreciation)で、これは資産のマイナスを表す評価勘定(contra asset)として、貸借対照表でPP&Eから控除されます。控除したあとの残りが帳簿価額(Book Value / Carrying Value)です。
配り方には代表的な方法が4つあります。
| 方法 | 計算のしくみ | 設備Aの1年目 |
|---|---|---|
| 定額法Straight-Line | 償却対象額 ÷ 耐用年数。毎年同額 | 200 |
| 定率法DDB: Double-Declining Balance | 定額法の2倍の率(2 ÷ 耐用年数)を、毎年の帳簿価額に掛ける。率の計算に残存価額は使わない | 480 |
| 級数法SYD: Sum-of-Years-Digits | 償却対象額 × 残り年数 ÷ 年数の合計(5年なら 1+2+3+4+5 = 15) | 333 |
| 生産高比例法Units of Production | 償却対象額 × 当期生産量 ÷ 想定総生産量 | 250 |
定率法と級数法は、初期に厚く・後期に薄く費用を配る加速償却です。生産高比例法は使った分だけ費用にするので、加速とは限りません。
方法の選択が、利益の見え方を変える
どの方法でも、5年間の償却費の合計は償却対象額の1,000で一致します。違うのはタイミングだけです。ところが1年目だけを切り取ると、定額法の200に対してDDBは480。税金を考えない前提なら、この差280がそのまま1年目の税引前利益の差になります。
つまり加速償却を選ぶと、初期の利益は小さく、後期の利益は大きく見えます。定額法はその逆です。前年比較やトレンド分析で他社と数字を並べるとき、償却方法が違えば同じ土俵に乗っていない ── これが管理会計側から見た、このテーマの一番の実務的な意味です。なお、税額の計算は各国の税法で別に定められていることが多く、加速償却が税金の繰り延べにつながる制度もあります。
使っても回収できないとき ── 減損の2段階テスト
減価償却は「予定どおり使えたら」の費用配分です。予定が崩れることがあります。受注の減少、技術の陳腐化、市場価格の下落 ── リンが話した Stellar Automotive のように、設備が生み出すキャッシュが投資額に届かないと分かる場合です。このとき帳簿価額を切り下げるのが減損(Impairment)です。
US GAAPでは2段階のテストを順番に行います。順番が入れ替えられないのがポイントです。
| 段階 | 比べるもの | 結果 |
|---|---|---|
| 第1段階 回収可能性Recoverability Test | 帳簿価額 vs 将来の割引前キャッシュフロー合計 | CFが簿価以上なら減損なしで終了。下回れば第2段階へ |
| 第2段階 測定Measurement | 帳簿価額 vs 公正価値 | 差額を減損損失として計上し、簿価を公正価値まで切り下げる |
第1段階で使うのは公正価値ではなく、割引前のキャッシュフローです。だから「時価が下がった=即減損」ではありません。使い続けてキャッシュで回収できる見込みが立つなら、時価が簿価を下回っていても減損はしないのです。逆に第1段階で不合格になったら、第2段階で初めて公正価値が登場し、簿価との差額が損失になります。
切り下げたあとの簿価が、その資産の新しい出発点です。US GAAPでは、後から状況が良くなっても切り下げを戻すこと(減損の戻入)はできません。IFRSとの扱いの違いは Day 11 でまとめて扱います。
手放す日 ── 売却損益
設備の一生の最後は売却か廃棄です。売却損益(Gain/Loss on Disposal)は、売却額と帳簿価額の差で決まります。簿価より高く売れれば売却益、低ければ売却損です。取得原価と比べるのではない、という点に注意してください。比較相手はあくまで「まだ費用になっていない残り」=帳簿価額です。
売却損益は本業の成果ではないので、損益計算書ではその他の収益・費用に区分され、営業利益には入りません。Day 1 の多段階損益計算書で、設備売却益が営業外収益の欄に並んでいたのはこのルールです。具体的な計算は第2部で、償却スケジュールから減損・売却まで一本の数字で通します。
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing、Stellar Automotive ほか)と人物、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)