さわる管理会計 DAY 5 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

同じ仕入データで、売上原価を3通り作る

今日の題材は2つ。前半はASTRAの売掛金 1,350、後半はミンの会社 Horizon Trading の部品在庫です。どちらも小さな表から始めて、貸借対照表に載る数字まで手で運びます。

エイジング分析で貸倒引当金を出す

ASTRAの売掛金 1,350 を、請求からの経過日数で3つに分けたものが次の表です。

ASTRA — 売掛金のエイジング(単位: 千USD)
経過日数残高貸倒率引当額
0〜30日9001%9
31〜60日3005%15
61日以上15020%30
合計1,35054
  1. グループごとに掛ける 900 × 1% = 9、300 × 5% = 15、150 × 20% = 30
  2. 足す 9 + 15 + 30 = 貸倒引当金 54
  3. 売掛金から引く 純売掛金 = 1,350 − 54 = 1,296。これが貸借対照表で意味を持つ帳簿価額です

つまずきやすいのは、1,350全体に1つの率を掛けてしまうことです。エイジング分析の狙いは「古いものほど高い率」なので、グループ別に掛けてから足します。率を1本にしてよいなら、そもそも経過日数で分ける必要がありません。

同じ仕入データで、売上原価を3通り作る

ここからは Horizon Trading の部品在庫です。同じ型番の部品を、値上がり局面で3回に分けて仕入れています。

Horizon Trading — 部品の仕入データ(単価・金額: 千USD)
区分数量単価金額
期首在庫100個101,000
仕入①250個123,000
仕入②150個152,250
販売可能総額500個6,250
当期販売数量300個→ 期末在庫は 200個

売れたのは300個。この300個に「どの単価を配るか」で、売上原価(COGS)と期末在庫が変わります。

同じ仕入、2つの配り方 Horizon Trading ── 販売可能 500個・6,250(単価・金額: 千USD)。300個売って200個残る FIFO ── 古い層から売る 仕入② 150個 × 15 2,250 仕入① 250個 × 12 3,000 期首 100個 × 10 1,000 期末在庫 2,850 150×15 + 50×12 COGS 3,400 100×10 + 200×12 下(古い層)から順に売上原価へ 加重平均 ── ぜんぶ混ぜてから配る 500個・総額 6,250 をぜんぶ混ぜる 平均単価 12.5 期末在庫 2,500 200 × 12.5 COGS 3,750 300 × 12.5 破線の下が売上原価、上が期末在庫どちらも合計は 6,250(販売可能総額)。違うのは、COGSと期末在庫への「配り方」だけ値上がり局面では、FIFOは安い古層からCOGSへ配る → COGSが小さく、利益が大きく見える
図2 FIFOと加重平均 ── 同じ仕入データの2つの配り方

FIFO ── 古い層から順に配る

  1. 売れた300個を古い順に 期首 100個 × 10 = 1,000、続けて仕入①から 200個 × 12 = 2,400。COGS = 3,400
  2. 期末の200個は新しい順に残る 仕入② 150個 × 15 = 2,250、仕入①の残り 50個 × 12 = 600。期末在庫 = 2,850
  3. 検算 3,400 + 2,850 = 6,250 ✓

LIFO ── 新しい層から順に配る

  1. 売れた300個を新しい順に 仕入② 150個 × 15 = 2,250、続けて仕入①から 150個 × 12 = 1,800。COGS = 4,050
  2. 期末の200個は古い順に残る 期首 100個 × 10 = 1,000、仕入①の残り 100個 × 12 = 1,200。期末在庫 = 2,200
  3. 検算 4,050 + 2,200 = 6,250 ✓

加重平均 ── ぜんぶ混ぜてから配る

  1. 平均単価を出す 総原価 6,250 ÷ 総数量 500個 = 12.5。単価の単純平均(10+12+15)÷3 = 約12.3 ではない点に注意。数量の重みが要ります
  2. COGS 300個 × 12.5 = 3,750
  3. 期末在庫 200個 × 12.5 = 2,500。検算: 3,750 + 2,500 = 6,250 ✓

3つを並べて分かること

3手法の比較(単位: 千USD)
手法COGS期末在庫合計
FIFO3,4002,8506,250
加重平均3,7502,5006,250
LIFO4,0502,2006,250

合計はどの手法でも 6,250 のまま動きません。動くのは切り分け方だけです。売上高が同じなら、COGSの差はそのまま税引前利益の差になります。この値上がり局面では、FIFOと加重平均の差が 350、FIFOとLIFOの差は 650。同じ仕入・同じ販売なのに、選んだ手法だけで利益がこれだけ変わって見える ── ミンの会社がIFRS移行でLIFOをやめたとき、比較可能性が論点になるのはこのためです。

低価法を当てはめる

FIFOで計算した期末在庫 2,850 に、低価法を当てはめてみます。この部品の販売価格が下がってきたとします。

  1. NRVを出す 予想販売価格 2,900 − 販売までの追加コスト 200 = NRV 2,700
  2. 低いほうを採る 原価 2,850 > NRV 2,700 → 評価損 = 2,850 − 2,700 = 150。在庫は 2,700 で計上します
  3. 逆のケース NRVが 3,000 なら原価 2,850 のまま。帳簿を上げる処理はしません

数え間違いの影響を確かめる

期末在庫を 100 過大に数えた場合を、方向だけ追います。

期末在庫を100過大計上したとき(単位: 千USD)
当期翌期2年合計
在庫期末在庫 +100期首在庫 +100
COGS−100(過少)+100(過大)±0
純利益+100(過大)−100(過少)±0

過少計上なら全部の符号が逆になります。「期末在庫と当期利益は同じ向き、翌期は逆向き」とセットで覚えると、演習で迷いません。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
aging analysisエイジング分析売掛金の滞留状況を報告するとき
write off帳簿から落とす、償却する回収不能が確定した債権を処理するとき
without recourse遡求権なしファクタリングの条件を確認するとき
cost flow assumption原価配分の仮定在庫の評価方法を説明するとき
write-down評価減低価法で在庫の帳簿価額を下げるとき
self-correcting自己修正的棚卸資産誤謬の2期間の影響を説明するとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
売掛金Accounts Receivable掛け売りで生じる顧客への請求権
貸倒引当金Allowance for Credit Losses回収不能の見積額。売掛金から控除して表示する
引当金法Allowance Method貸倒を事前に見積もって費用計上する方法。BS法とIS法がある
直接償却法Direct Write-off Method回収不能の確定時に費用計上する方法。US GAAPでは原則不可
エイジング分析Aging Analysis売掛金を経過日数別に分類し、率を掛けて引当額を出す手法
ファクタリングFactoring売掛金を第三者に売却して早期に資金化する手法。遡求権あり/なしで扱いが変わる
棚卸資産Inventory販売目的で保有する商品・製品・仕掛品・原材料
個別法Specific Identification1個ずつ実際の仕入単価を追跡する原価算定法
先入先出法FIFO古い仕入から順に売上原価へ配る方法
後入先出法LIFO新しい仕入から順に売上原価へ配る方法。IFRSでは不可
加重平均法Weighted Average総原価÷総数量の平均単価で配る方法
低価法Lower of Cost or NRV原価とNRVの低いほうで棚卸資産を計上するルール
正味実現可能価額NRV: Net Realizable Value予想販売価格から完成・販売の追加コストを引いた額
棚卸資産誤謬Inventory Errors期末在庫の誤計上。当期と翌期の利益に逆向きに影響し、2年で相殺される

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing・Horizon Trading)と人物(ケン・リン・ミン)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)