さわる管理会計 DAY 4 さわるベトナム のトレーニング教材
PART 2 / 3

純利益500から期末現金800まで、一本の線でつなぐ

Day 1の損益計算書と同じ期の、ASTRA Manufacturing の数字を使います。到達点は決まっています。純利益500から出発して、営業CF・投資CF・財務CFを通り、期末現金800に着地する。途中で1回でも符号を間違えると、着地の数字が合いません。

ASTRA Manufacturing のデータ(Day 1と同じ期)
項目金額項目金額
純利益500設備の購入1,500
減価償却費120設備の売却による収入180
設備売却益80長期借入による収入300
売掛金の増加150配当の支払150
棚卸資産の増加200期首現金1,530
買掛金の増加250

単位: 千USD。設備の売却は、帳簿価額100の古い設備を180で売ったもの(売却益80はDay 1の損益計算書に載っていた、あの80です)。

営業活動 ── 純利益500を3回なおす

第1部の調整3種類を、上から順に当てはめます。

  1. 非現金費用を足し戻す 減価償却費 +120。現金の出ていない費用なので戻す。500 + 120 = 620
  2. 非営業損益を除去する 設備売却益 −80。売却の現金は投資活動に載せるので、営業から追い出す。620 − 80 = 540
  3. 運転資本を調整する 売掛金の増加 −150、棚卸資産の増加 −200、買掛金の増加 +250。純額 −100。540 − 100 = 440
ASTRA — 営業活動によるキャッシュフロー(間接法・単位: 千USD)
科目金額
純利益Net Income500
減価償却費Depreciation120
設備売却益Gain on Sale of Equipment(80)
売掛金の増加Increase in Accounts Receivable(150)
棚卸資産の増加Increase in Inventory(200)
買掛金の増加Increase in Accounts Payable250
営業活動によるキャッシュフローCash Flow from Operating Activities440
間接法 ── 純利益 500 から営業CF 440 への橋 Indirect Method ── ASTRA・単位: 千USD 純利益 500+120 減価償却費 ── 現金の出ていない費用。足し戻す −80 設備売却益 ── 現金は投資活動に載せる。営業からは引く −150 売掛金の増加 ── 売ったのに、回収がまだ −200 棚卸資産の増加 ── 現金が在庫に化けた +250 買掛金の増加 ── 受け取ったのに、支払がまだ 営業CF 440 符号の速記 減価償却費 → 足す売却益 → 引く(売却損 → 足す)流動資産の増加 → 引く流動負債の増加 → 足す足すか引くかの判断はひとつ ── その行で、現金は本当に動いたか
図2 間接法 ── 純利益500から営業CF 440への調整

純利益500と営業CF 440。60しか違わないので「だいたい同じ」に見えますが、中身は+120と−80と−100のぶつかり合いです。実験タブで売掛金の増加を300に変えてみると、利益はそのままで営業CFだけが痩せていくのが分かります。

投資活動 ── 「売却収入180」と「売却益80」を混ぜない

このDayでいちばんつまずきやすい場所です。古い設備(帳簿価額100)が180で売れました。

営業セクションで益80を引いたのは、この180と二重に数えないためでした。80は「利益の話」、180は「現金の話」。別物です。

ASTRA — 投資活動によるキャッシュフロー(単位: 千USD)
科目金額
設備の購入Purchase of Equipment(1,500)
設備の売却による収入Proceeds from Sale of Equipment180
投資活動によるキャッシュフローCash Flow from Investing Activities(1,320)

財務活動 ── 調達と分配

ASTRA — 財務活動によるキャッシュフロー(単位: 千USD)
科目金額
長期借入による収入Proceeds from Long-Term Debt300
配当の支払Dividends Paid(150)
財務活動によるキャッシュフローCash Flow from Financing Activities150

配当の支払は財務活動でした(第1部の分類表)。ここに営業の項目を混ぜなければ、財務セクションは足し引き2行で終わります。

この回は、財務活動を「借入」と「配当」の2本に絞って型を練習しています。本来はDay 3で出てきた新株の発行や自己株式の取得も財務活動の行になり、それらを全部並べた1年分はDay 12(セクションA総合演習)で組み立てます。

期末現金まで下りる ── そしてB/Sへ

3つの区分を合計します。

ASTRA — 現金の増減(単位: 千USD)
科目金額
営業活動によるキャッシュフロー440
投資活動によるキャッシュフロー(1,320)
財務活動によるキャッシュフロー150
現金の純増減Net Change in Cash(730)
期首現金Beginning Cash1,530
期末現金Ending Cash800

440 − 1,320 + 150 = −730。期首の1,530に足すと、期末現金は800。この800が、同じ日付の貸借対照表の現金勘定と一致します。損益計算書の純利益から出発して、貸借対照表の現金に着地する ── Day 1で予告したArticulationが、これで一周つながりました。

そして冒頭の問いに答えが出ます。純利益500の会社から現金が730減った理由は、「本業は440稼いだが、設備投資に純額1,320使い、借入と配当の差引150では埋まらなかったから」。3区分に分けたからこそ、この1文で説明できます。

つまずきポイント3つ

  1. 減価償却費を引いてしまう 費用だから引きたくなりますが、純利益の中ですでに引かれています。間接法では足し戻す方向です。引くと営業CFが260になり、以降が全部ずれます。
  2. 売却益を足してしまう 利益だから足したくなりますが、逆です。現金180は投資活動に載せるので、営業からは80を引いて追い出します。足すと二重計上です。
  3. 買掛金の増加を引いてしまう 負債が増えるのは悪いことに感じますが、現金の目線では「まだ払っていない=現金が残っている」。足す方向です。

この回で出てきた英語表現

Words & Phrases
Expression意味使う場面
add back depreciation減価償却費を足し戻す間接法の調整を説明するとき
proceeds from sale売却による収入(受け取った現金の全額)投資活動の行を読むとき。gain(売却益)との区別に注意
working capital運転資本売掛金・棚卸資産・買掛金の増減調整をまとめて呼ぶとき
net change in cash現金の純増減3区分の合計を報告するとき
reconcile調整して突き合わせる純利益と営業CFの橋渡しを説明するとき

用語集

この回に出てきた用語
日本語English定義
キャッシュフロー計算書Statement of Cash Flows一定期間の現金の増減を3区分で示す財務諸表
営業活動Operating Activities本業による現金の出入り。回収・仕入・給与・利息・税金など
投資活動Investing Activities設備・有価証券など長期資産の売買による現金の出入り
財務活動Financing Activities借入・株式発行・配当など、資金の調達と返済・分配
間接法Indirect Method純利益から出発し、調整を加減して営業CFを出す方法
直接法Direct Method現金の受取と支払を項目別にそのまま表示する方法
減価償却費の足し戻しAdd Back Depreciation現金の出ていない費用を純利益に加算して戻す調整
売却損益の調整Adjustment for Gains and Losses非営業の損益を営業から除去する調整。益は引き、損は足す
運転資本の増減調整Working Capital Adjustments流動資産・流動負債の増減で営業CFを調整すること。流動資産の増加は引く
非現金取引の開示Significant Non-Cash Activities現金が動かない重要取引(社債発行での設備取得など)の注記開示

この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing)と人物(ケン・リン)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)