純利益500から期末現金800まで、一本の線でつなぐ
Day 1の損益計算書と同じ期の、ASTRA Manufacturing の数字を使います。到達点は決まっています。純利益500から出発して、営業CF・投資CF・財務CFを通り、期末現金800に着地する。途中で1回でも符号を間違えると、着地の数字が合いません。
| 項目 | 金額 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 純利益 | 500 | 設備の購入 | 1,500 |
| 減価償却費 | 120 | 設備の売却による収入 | 180 |
| 設備売却益 | 80 | 長期借入による収入 | 300 |
| 売掛金の増加 | 150 | 配当の支払 | 150 |
| 棚卸資産の増加 | 200 | 期首現金 | 1,530 |
| 買掛金の増加 | 250 |
単位: 千USD。設備の売却は、帳簿価額100の古い設備を180で売ったもの(売却益80はDay 1の損益計算書に載っていた、あの80です)。
営業活動 ── 純利益500を3回なおす
第1部の調整3種類を、上から順に当てはめます。
- 非現金費用を足し戻す 減価償却費 +120。現金の出ていない費用なので戻す。500 + 120 = 620
- 非営業損益を除去する 設備売却益 −80。売却の現金は投資活動に載せるので、営業から追い出す。620 − 80 = 540
- 運転資本を調整する 売掛金の増加 −150、棚卸資産の増加 −200、買掛金の増加 +250。純額 −100。540 − 100 = 440
| 科目 | 金額 |
|---|---|
| 純利益Net Income | 500 |
| 減価償却費Depreciation | 120 |
| 設備売却益Gain on Sale of Equipment | (80) |
| 売掛金の増加Increase in Accounts Receivable | (150) |
| 棚卸資産の増加Increase in Inventory | (200) |
| 買掛金の増加Increase in Accounts Payable | 250 |
| 営業活動によるキャッシュフローCash Flow from Operating Activities | 440 |
純利益500と営業CF 440。60しか違わないので「だいたい同じ」に見えますが、中身は+120と−80と−100のぶつかり合いです。実験タブで売掛金の増加を300に変えてみると、利益はそのままで営業CFだけが痩せていくのが分かります。
投資活動 ── 「売却収入180」と「売却益80」を混ぜない
このDayでいちばんつまずきやすい場所です。古い設備(帳簿価額100)が180で売れました。
- 損益計算書に載るのは、売却益80(180 − 100)
- 投資活動に載るのは、受け取った現金180の全額
営業セクションで益80を引いたのは、この180と二重に数えないためでした。80は「利益の話」、180は「現金の話」。別物です。
| 科目 | 金額 |
|---|---|
| 設備の購入Purchase of Equipment | (1,500) |
| 設備の売却による収入Proceeds from Sale of Equipment | 180 |
| 投資活動によるキャッシュフローCash Flow from Investing Activities | (1,320) |
財務活動 ── 調達と分配
| 科目 | 金額 |
|---|---|
| 長期借入による収入Proceeds from Long-Term Debt | 300 |
| 配当の支払Dividends Paid | (150) |
| 財務活動によるキャッシュフローCash Flow from Financing Activities | 150 |
配当の支払は財務活動でした(第1部の分類表)。ここに営業の項目を混ぜなければ、財務セクションは足し引き2行で終わります。
この回は、財務活動を「借入」と「配当」の2本に絞って型を練習しています。本来はDay 3で出てきた新株の発行や自己株式の取得も財務活動の行になり、それらを全部並べた1年分はDay 12(セクションA総合演習)で組み立てます。
期末現金まで下りる ── そしてB/Sへ
3つの区分を合計します。
| 科目 | 金額 |
|---|---|
| 営業活動によるキャッシュフロー | 440 |
| 投資活動によるキャッシュフロー | (1,320) |
| 財務活動によるキャッシュフロー | 150 |
| 現金の純増減Net Change in Cash | (730) |
| 期首現金Beginning Cash | 1,530 |
| 期末現金Ending Cash | 800 |
440 − 1,320 + 150 = −730。期首の1,530に足すと、期末現金は800。この800が、同じ日付の貸借対照表の現金勘定と一致します。損益計算書の純利益から出発して、貸借対照表の現金に着地する ── Day 1で予告したArticulationが、これで一周つながりました。
そして冒頭の問いに答えが出ます。純利益500の会社から現金が730減った理由は、「本業は440稼いだが、設備投資に純額1,320使い、借入と配当の差引150では埋まらなかったから」。3区分に分けたからこそ、この1文で説明できます。
つまずきポイント3つ
- 減価償却費を引いてしまう 費用だから引きたくなりますが、純利益の中ですでに引かれています。間接法では足し戻す方向です。引くと営業CFが260になり、以降が全部ずれます。
- 売却益を足してしまう 利益だから足したくなりますが、逆です。現金180は投資活動に載せるので、営業からは80を引いて追い出します。足すと二重計上です。
- 買掛金の増加を引いてしまう 負債が増えるのは悪いことに感じますが、現金の目線では「まだ払っていない=現金が残っている」。足す方向です。
この回で出てきた英語表現
| Expression | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| add back depreciation | 減価償却費を足し戻す | 間接法の調整を説明するとき |
| proceeds from sale | 売却による収入(受け取った現金の全額) | 投資活動の行を読むとき。gain(売却益)との区別に注意 |
| working capital | 運転資本 | 売掛金・棚卸資産・買掛金の増減調整をまとめて呼ぶとき |
| net change in cash | 現金の純増減 | 3区分の合計を報告するとき |
| reconcile | 調整して突き合わせる | 純利益と営業CFの橋渡しを説明するとき |
用語集
| 日本語 | English | 定義 |
|---|---|---|
| キャッシュフロー計算書 | Statement of Cash Flows | 一定期間の現金の増減を3区分で示す財務諸表 |
| 営業活動 | Operating Activities | 本業による現金の出入り。回収・仕入・給与・利息・税金など |
| 投資活動 | Investing Activities | 設備・有価証券など長期資産の売買による現金の出入り |
| 財務活動 | Financing Activities | 借入・株式発行・配当など、資金の調達と返済・分配 |
| 間接法 | Indirect Method | 純利益から出発し、調整を加減して営業CFを出す方法 |
| 直接法 | Direct Method | 現金の受取と支払を項目別にそのまま表示する方法 |
| 減価償却費の足し戻し | Add Back Depreciation | 現金の出ていない費用を純利益に加算して戻す調整 |
| 売却損益の調整 | Adjustment for Gains and Losses | 非営業の損益を営業から除去する調整。益は引き、損は足す |
| 運転資本の増減調整 | Working Capital Adjustments | 流動資産・流動負債の増減で営業CFを調整すること。流動資産の増加は引く |
| 非現金取引の開示 | Significant Non-Cash Activities | 現金が動かない重要取引(社債発行での設備取得など)の注記開示 |
この教材に登場する企業(ASTRA Manufacturing)と人物(ケン・リン)、および金額はすべて架空です。
特定の国の法令には依拠しない、一般的な会計の考え方を扱います(初版 2026年8月)